2024年5月27日

環境・サステナビリティ | 特集

サステナビリティ

米国・カンザス パナソニックの車載用リチウムイオン電池工場が拓く未来 ~ パナソニック エナジー ノースアメリカ 社長 アラン・スワンに聞く

100余年の歴史を持つパナソニックグループの電池事業。車載用リチウムイオン電池でも電気自動車(EV)台数換算で累計300万台分(※1)を供給しており、今や北米市場において、大きな存在感を発揮している。
昨今の気候変動問題の要因として、特に影響が最も大きいと言われているCO2(二酸化炭素)だが、世界における排出量のうち、実におよそ4分の1が「移動」によるものとされており、EVが社会に普及すれば多くの排出されるCO2を「回避」することが可能となる。これはまさに社会のCO2排出における「削減貢献」そのものであり、車載用リチウムイオン電池事業はパナソニックグループが気候変動問題と対峙する上で旗頭となる事業なのだ。
米国・ネバダ州に続き、カンザス州に建設中の車載用リチウムイオン電池工場で、陣頭指揮を執るパナソニック エナジー ノースアメリカ 社長、アラン・スワンに、パナソニックグループの電池事業が果たす役割について聞いた──。

※1 2023年12月時点

気候変動問題の解決に大きな貢献を果たす車載用リチウムイオン電池事業

――現在建設中のカンザス工場が果たしていく役割はどのようなものでしょうか。

私たちパナソニックグループがカンザス州デソトに建設している車載用リチウムイオン電池工場は最先端・最新鋭の工場です。2022年11月に着工、2024年度中の生産開始を目指しており、ここでお客様から需要の高い車載用リチウムイオン電池「2170」の生産体制の増強を進めていきます。

パナソニックグループの電池事業には100年という非常に長い歴史があります。その中で培ってきた技術力が実現する高い安全性、高容量、高エネルギー密度を誇るパナソニックの車載用リチウムイオン電池は、社会へのEV普及に大きく貢献するものです。ネバダ州に加え、カンザス州に拠点を持てることを私はとてもうれしく感じています。この二つの工場で、EV普及を加速させ、CO2削減に大きな貢献を果たしていきたいと考えています。

写真:車載用リチウムイオン電池 左から1865、2170、4680

車載用リチウムイオン電池 左から1865、2170、4680

――なぜ、いま北米にこれほど大規模な車載用リチウムイオン電池工場を建設するのでしょうか。

今、北米では、環境規制強化を背景にEV化の加速が見込まれています。また、アメリカでは長距離移動のニーズが高いことから、当社の強みである高容量化技術を最も生かせる市場だと言えます。さらにトラック、電車、バスなども含めると、車載用リチウムイオン電池としては非常に大きな市場です。

当社の技術を求めてくださるお客様の多くは北米を拠点にされています。その意味でもこの地で車載用リチウムイオン電池を製造することは理にかなっています。今、EV市場は進化し始めており、その中で私たちが生産する車載用リチウムイオン電池の技術は、ますます重要視されてきています。私たちの持つ技術と市場のニーズがマッチするという素晴らしい状況になってきており、ゆえに私たちはカンザスの地で新たに工場を建設することができるのです。

また、北米では再生可能エネルギー等を活用して採掘・加工された原材料の「現地調達」が可能です。この市場をいち早く開拓したわれわれは、今後もEVの普及を後押しするリーディングカンパニーとして、大胆な投資を実行しているのです。

写真:建設中のカンザス工場

建設中のカンザス工場

多くのお客様がおられる北米で、材料の調達から生産まで一貫して行うことで、サプライチェーンにおけるカーボンフットプリント(CFP)(※2)を徹底的に下げることも可能になります。車載用リチウムイオン電池を安定的に供給することは、社会におけるEV普及を加速することにつながります。化石燃料を動力とする車両がEVに置き換わっていけば、走行中の車両からのCO2排出を「回避」することができます。

※2 カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products):原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2換算で表した数字。またそれを商品などに表示すること。

車載用リチウムイオン電池事業は、気候変動問題の解決に貢献するという重要な役割を担っています。今の私たちのためだけのものではなく、子どもや孫の世代はもちろん、その後の世代、未来に向けて取り組むべきものであると考えています。

気候変動問題と戦う先駆者として、生産活動におけるCO2を削減する

――電池の生産活動に伴う環境負荷も指摘されていますが、どのような対策を講じていますか。

車載用リチウムイオン電池の生産も、CO2排出を伴うことを認識しています。特に、電池の生産により排出されるCO2のうち、実に9割近くが製造工程以前の資源採掘、原料加工、材料の物流のプロセスで排出されているという事実もあります。

だからこそ、私たちは電池の生産はもちろんのこと、材料の調達からリサイクルに至るまで、全てのプロセスにおいて、環境負荷の軽減に徹底して取り組むことに全力を注いでいるのです。

カンザス工場においても、パナソニックグループが推進している「CO2ゼロ工場」としての稼働を目指しています。生産に必要な電力を最小限に抑え、さらに配線から機械・設備に至るまで工場全体がCO2排出量を減らすことに重点を置いており、今後10年以内に100%現地での再生可能エネルギー調達に移行する予定です。カンザス工場は、その設計から全てが、これまでと全く異なる工場なのです。

原材料においても、現地調達やCFPのより低い材料の利用、リサイクル材の利用率向上に取り組み、CFPの低減に寄与するサプライヤーとの新規アライアンス確立も積極的に進めています。
私たちの今日の取り組みが、皆さんの明日にインパクトを与えると私は考えています。それだけに、今の私たちの行動全てにCO2排出量削減と気候変動問題の解決策が伴わなければなりません。
私たちパナソニックには、まず私たち自身が車載用リチウムイオン電池の生産者として、気候変動問題と戦う先駆者となり、私たちの工場はもちろん、さらにはサプライヤーと協力してサプライチェーン全体でCO2排出量を削減する責任があると考えています。

――サプライチェーン全体での環境負荷軽減について具体的にどのような取り組みをしていますか。

米国の電池リサイクル企業であるレッドウッド・マテリアルズ社とは2019年よりパートナーシップ関係にあり、すでにネバダ工場から出る廃材は同社でリサイクルしています。さらに2022年には車載用リチウムイオン電池のリサイクル正極材および銅箔について売買契約を締結しました。
これは本当にエキサイティングな協業だと考えています。サプライヤーがCO2排出を考慮して工場を稼働する、まさにその素晴らしい事例だと思います。レッドウッドでは、使い終わった電池をリサイクルし、その素材から全く新しい材料を作る。そしてわれわれはそれを使って電池を生産することができます。正極材と銅箔にこのリサイクル材料を用いることで資源採掘時のCO2削減はもちろんのこと、材料の現地調達率向上による物流過程でのCO2排出量も削減し、循環型のモノづくりを推進していきます。

また、2023年に、電池性能向上の鍵となるシリコン負極材料調達について、米国シラ・ナノテクノロジーズ社と売買契約を締結しました。車載用リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させるとともに、材料の現地調達比率の向上を推進し、物流観点でのCFP低減に取り組みます。2024年には、ノボニックス社との黒鉛供給契約を締結し、同社の米国・テネシー州の工場から、車載用リチウムイオン電池の主要負極材料である人造黒鉛が供給される予定です。ノボニックス社が開発した人造黒鉛生産時のCO2排出量を削減する新技術により、材料生産時におけるCFP削減が加速されます。

さらに、カナダの黒鉛製造企業であるヌーボー・モンド・グラファイト社とは黒鉛供給契約を締結しています。水力発電など再生可能エネルギー由来の電力比率が高いカナダにおいて“資源採掘から負極材料まで”一貫して生産することで、CO2排出量が大幅に削減された負極材料を調達します。加えて、米国での電池生産に使用する材料をカナダから調達することでサプライチェーンが短縮でき、物流過程のCO2排出量の大幅な削減にもつながります。 

高い技術が求められる中で、何とか技術的にも緊密に連携してサポートしてくれるサプライヤーとパートナーになれたことは非常に幸運なことです。さらに彼らもまた、CO2排出量を減らすという課題に真摯に向き合っている、いわば同志です。技術的にわれわれの望むものを作ることができ、二酸化炭素排出量の削減をサポートしてくれるサプライヤーがいるというのは、とても素晴らしいことです。

このようにパナソニックグループは、電池業界の成長をリードするとともに、多様なパートナーシップでゼロエミッション(※3)への取り組みを加速していきます。

※3 ゼロエミッション:人間の活動によって発生する廃棄物や、CO2などの温室効果ガスの排出をできる限りゼロにすること。

将来にわたり、美しい地球での幸せなくらしを

――カンザス工場、そしてパナソニックグループの車載用リチウムイオン電池事業が拓く未来とはどのようなものでしょうか。

私たちの決意は、車載用リチウムイオン電池を製造するこのカンザス工場そのものにあります。車載用リチウムイオン電池の生産に関する私たちの活動全てが、CO2排出量を削減し、気候変動問題の解決に貢献する。これは確固たる決意です。

パナソニックグループは今、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の目標として、2030年度に9,300万トンのCO2排出量削減貢献に取り組むことを掲げています。このカンザス工場の活動、そしてここから社会にお届けする車載用リチウムイオン電池の普及によっても、目標の達成に貢献していきたいと考えています。大きなチャレンジではありますが、私たちにはこの目標に向かって努力する責任があるのです。

写真:パナソニック エナジー ノースアメリカ 社長 アラン・スワン

パナソニック エナジー ノースアメリカ 社長 アラン・スワン

パナソニックグループで仕事をしていて非常にエキサイティングだと感じるのは、CO2排出量削減などの取り組みを通じて気候変動、さらには資源枯渇などの地球環境問題との戦いにチャレンジしている実感があることです。それは私だけでなく、他の事業に携わる全ての社員にとっても同様と思います。私たちは皆、その戦いに役立つ製品を製造するために懸命に働いています。

地球環境問題、それは私たちや、私たちの次の世代だけの問題ではありません。私たちの子どもたちの子どもたち、そして後々の子どもたちにまでも、ずっと豊かなくらしが続くよう、安全な地球環境を残さなければならないのです。将来にわたり、人々が美しい地球での幸せなくらしを楽しめるようにしなければならない。気候変動問題解決に向けた今の私たちの戦いは、それを保証することにつながると思います。

私たちの今日の取り組みが、地球温暖化抑止の大きなインパクトとなると信じています。

“What we do here today, will impact your tomorrow.”
— Allan Swan, President of Panasonic Energy of North America

記事の内容は発表時のものです。
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