2024年2月5日

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地元の「ひと」の思いと共に、魅力あるまちづくりに貢献~会津若松市地域活性化の歩み

「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現に向け、社会課題に向き合い、新たな価値の創造に取り組むパナソニックグループ。パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室(以下、モビリティ事業戦略室)では、人口減少、少子高齢化という課題を抱える福島県会津若松市で、地域住民の声に応えながら、子どもたちの笑顔が絶えないまちづくりをサポートしている。地元を愛する人たちの輪に加わり、溶け込み、さらにその輪を広げていく――そんな活動に打ち込む2人の社員を追った。

「人の生活圏=Last 10-mile」を軸に、会津若松市のまちづくりに貢献

モビリティ事業戦略室では、2019年の設立以来、「人の生活圏=Last 10-mile」において、くらしを起点に「移動」の在り方から人・コミュニティを活性化する視点で、さまざまなまちづくりを手掛けてきた。既存製品やサービスの応用ではなく、社会課題からバックキャストし、人々が抱える悩みやくらしのお困りごとに寄り添いながら解決の糸口を探るアプローチで、さまざまな地域・街の活性化に貢献し続けている。

日本の総人口は、2008年をピークに2011年以降一貫して減少が続いている。少子高齢化が加速する中で、生活者同士が助け合う共助の社会や、生活圏ごとに自立した分散型社会を目指す動きが強まってきた
歴史や自然などの魅力的な観光資源を有する会津地方の中心都市である会津若松市も例外ではなかった。人口減という社会課題に向き合う会津若松市では、2011年に復興事業のシンボルとして「スマートシティプロジェクト」を発足。産官学の連携で地域DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めて約10年が経過、これまでに90を超える企業や自治体・大学などの共創活動、ICTなどの活用により、地方行政が抱える課題を地方発で解決するロールモデルとなるべく進化を続けている。本活動の運用法人として2021年に設立されたのが、AiCTコンソーシアム(※1)だ。モビリティ事業戦略室は「地域活性化ワーキンググループ担当理事」として同プロジェクトに関わっている。

歩いて話して「共創」が生まれる、にぎわいの空間をつくる

同ワーキンググループで地元に根差した取り組みを展開しているのは、モビリティ事業戦略室の田辺 匠(たなべ たくみ)と森 俊彦(もり としひこ)だ。

田辺:実際に会津若松市を訪ねて街の方たちの声に接していくうちに、「大町通りの中心市街地にどんな価値をつくれるか」というテーマが挙がりました。大町通りは、JR会津若松駅から約1キロにわたり伸びる、最も古い歴史を持つ商店街。商店街の店舗減少や担い手不足というお悩みを抱える中、どんな手段で人を集めるかという前に、まずはそこに行きたくなるような目的地、人が集える・憩える場所を作らなければと考えたんです

森:企業としてやりたいことやお届けしたいサービスありき、ではなく、商店街など地元の皆さんとお話ししながら、バックキャストでやるべきことを決めていきましたね。

田辺:同じタイミングで、道路の使い方を変えようという「2040年道路政策ビジョン」が国土交通省から発信されました。道路を「通行」以外の目的で柔軟に利用できるようにする「歩行者利便増進道路制度(通称「ほこみち」制度)」なども生まれつつあり、その「ほこみち」の認定に向けた実証実験(「グリーンスローモビリティの普及下における歩行者利便増進道路制度に関する社会実験」)にも取り組むことにしました。(詳細は第4章に記載

写真:田辺 匠(写真左)、森 俊彦(写真右)

パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室 田辺 匠(たなべ たくみ、写真左)、森 俊彦(もり としひこ、写真右)

田辺と森がタッグを組むことになったのが、会津若松市役所と、大町通りの活性化に向けて奮闘中のまちづくり組織「大町通り活性化協議会(ORP)」だ。今回、会津若松市役所 建設部の高野氏と、ORPの事務局であり、地元で子育て環境の支援や改善などにも取り組んでいる、大町通り商店街の起業家 山口氏の話を聞いた。

写真:高野 康弘氏(写真左)、 山口 巴氏(写真右)

会津若松市役所 建設部 まちづくり整備課 主幹 高野 康弘(たかの やすひろ)氏(写真左)と、地元の起業家 山口 巴(やまぐち ともえ)氏(NPO法人Lotus(ロータス)/子ども子育て支援NPO/アネッサクラブ代表/女性まちづくり団体)

高野氏:パナソニックさんとは2019年、ワーキンググループ発足の頃からタッグを組んでいます。地域活性化に向けたチームとして、当初は駅と街をつなぐ「ウォーカブルなまちづくり」施策についてアイデアを出し合ったりしていました。2021年後半から「ほこみち」認定に向けた実証実験に着手し、にぎわいづくりのベースとなる道路の安全性確保について優先的に検証を進めました。

山口氏:私の役割は、街の人たちの声やイベントを通して見えてきた課題を、パナソニックさんにハブとして関わっていただきながら、行政へ伝えていくことです。
AiCTコンソーシアムで地域活性化の取り組みが始まった当初、私たち住民は、それが何なのか、誰のことなのか、何をしているのか、あまり分かっていない状態でした。そんな中、お会いしたのが森さんです。なぜパナソニックの人がこの街に関わろうとするのか、最初は全く分かりませんでした。数年かけてお付き合いさせていただいたことで、今ではパナソニックさんがいてくれたからこそ、今日ここまで進むことができた、と実感しています。

「地元が主語」「住む人が主役」で進めるまちづくり

人通りが少なくなった商店街が再びにぎわいを取り戻すにはどうしたらよいか――田辺と森は、高野氏、山口氏のほか地元商店街の関係者や有識者と共に、現地で実際に街を歩くなど、さまざまなワークショップを実施した。

市内には学校も多くあり、若者が少ないわけではない。周りには子育て世代もいる。「こうした若い世代も、商店街での楽しい思い出が増えれば愛着もわいてくるはず」との仮説の下、田辺と森は、まずは、きっかけづくりとして「大町通りにおける定期的なマルシェの開催」を提案。イベントをただ実施するのではなく、地元商店や学生、市役所を巻き込んで、街の皆で持続的に自走できる仕組みづくりも同時に進めている。SNS発信などの広報活動、スタンプラリーや射的などのイベント企画・運営は地元商店街の関係者ではなく、学生主導で推進。若者がまちづくりに直接参画することで、地域の方々との交流が生まれる。相互に感謝し合う関係性を構築することが、着実に次の活動につながっていく。

施策実行の鍵は「地元が主語」「住む人が主役」のまちづくりを目指すことだ。

森:人が集い、にぎわいが生まれる循環を生み出すのは、私たち企業側ではなく、あくまでも地域住民の方たちでなくてはなりません。地元の皆さんが自分ごととして認識しながらアイデアを交換し合い、イベントを継続的に活性化していく流れを定着させるのが、私たちの役目です。

田辺:それは今回の会津若松市に限ったことではなく、モビリティ事業戦略室としてのポリシーのようなものでもあります。まちづくり・まちおこしにおいては、自治体や地元の皆さんが持続的に自分ごととして物事を推進してくださることが、何より大切だと考えています。

マルシェを計画する際も、外部の有名店を招致するのではなく、あえて地元の商店・企業・学生による出店にこだわり、一緒に汗をかきながら準備や運営のサポートを進めていった。

そして2022年7月。大町通りで初めてのマルシェが実施された。以降、マルシェは3カ月に1度の頻度で開催されており、今では1回につき1,000人~3,000人が訪れる地元の祭りとして定着しつつある。

写真:2023年10月に開催された大町通りマルシェの様子

2023年10月に開催された大町通りマルシェの様子

山口氏:パナソニックさんは私たち地元住民に、あと一歩を踏み出す勇気を下さった。私は子育てを応援するという立ち位置で活動してきましたが、森さんや田辺さんとの出会いによって、子どもをイベントの中心に据えることで街の活性化が実現できるということを、身をもって経験できました

森:山口さんのご人脈や口コミの力も相まって、マルシェにはお子さん連れのご家族がたくさん集ってくださるようになり、多くの笑顔が生まれました。

山口氏:子どもやお年寄りはもちろん、若者も気軽に集まれる居場所になりつつあります。この街の小さなイベントが子どもたちの思い出に残り、郷土愛や戻る場所としてのイメージ醸成につながればいいなと思っています。

森:いろんなコンテンツを考えてきましたが、最終的には地域の子どもたちが集まって楽しんでくれたら、それがその街にとっての最強のコンテンツになるんだと分かりました。

写真:ワークショップの様子

マルシェの一角では、理想のまちづくりについてのワークショップも開催

森:国士館大学の学生さんにも協力いただき、マルシェを訪れた地元の方たちに「理想のまち」について気軽に意見を言っていただくワークショップも行いました。たき火のできるまち、本屋さんや図書館のあるまちなど、さまざまなアイデアを頂戴しました。

山口氏:一般の方たちが街の活性化について意識を高められる良い機会になったと思います。

マルシェの告知チラシの画像

マルシェの告知チラシも、地元の方たちで作成。パナソニックはあくまでも後方から下支えをしている

山口氏:マルシェや道路の実証実験に限らず、森さんがさまざまな会合に良い潤滑油として参加してくれたのが大きいと思っています。特に同世代や年配の男性陣の気持ちをほぐしていってくれた。「この人なら大丈夫だろう」って思わせてくれるお人柄。心のこもったお付き合いをしていく中で、人と人を出会わせてくれ、点と点を線に、さらには面にして広げていくような、そんなコミュニケーションが得意でおられるなと。

写真:山口氏

高野氏:地域おこしの鍵となるのは「ひと」だと思います。どれだけの人が同じ方向を向いて取り組んでいるかが大切。今後は、いかに地元の方たちに、道路の使い方やマルシェの在り方について、自分ごととして取り組んでいただけるかが課題です。パナソニックさんが伴走して一緒に積み上げたものを、地元の皆で力を合わせて未来へとつなげていくことが目標です。

写真:高野氏

道路インフラの整備や大きなショッピングモールの建設といった、従来的なまちおこしのアプローチではなく、価値検証を通じて街に住まう人たち自身が主体的にプロジェクトに取り組む土壌を醸成していく。そうすることで「地元に住まう人々が主語」となり、発展へのステップを着実に進んでいくことが可能となる。

田辺、森は、こうした地道な取り組みを通じて、地域活性化のため主体的に街を変えていくという強い思いを持つ自治体や、地元のキーパーソンとの信頼関係を構築していった。そして「地元民が自ら課題に向き合い、地域を活性化させる」というビジョンを共有しながら、そこに住まう人々の意識を少しずつ喚起していった。

生活圏の道路での「ほこみち」制度認定を目指す

マルシェの開催場所としては、公園やイベント会場ではなく、人々にとって生活圏となる身近な道路を活用している。これは、海外の都市の取り組みを参考にすると同時に、国土交通省が前述の「2040年道路政策ビジョン」で掲げる「人中心の道路」を意識したものだ。

また、今回のプロジェクトでは、城下町として歴史のある会津若松駅から大町通り商店街までの狭い歩道で、「ほこみち」制度の認定を目指すことが決まった。歩道幅が2m以下の道路においては認定実績がない中で、新たな規定の構築を試みることとなる。

具体的には、空き地や軒先歩道空間を利用した地域のにぎわい創出に向け、歩道上にベンチなどを設置し、歩きたくなる道路空間を生み出す。これにより歩行者や自転車の交通量を変化させ、その上での利便性や安全性を数字で見える化して検証する。また、電動車いすなどの歩行補助モビリティの導入についても併せて調査を行った。

田辺:今回の実証実験については、国士舘大学 理工学部 まちづくり学系 西村研究室(都市デザイン研究室)の道路設計に関する専門的な知見も頂きながら進めました。
ポイントは、スモール・スタートでアジャイル式に進化させながら、スピード重視で取り組んだことですね。例えば、通行車両に向けての減速措置として、いざ道路に白線を引く工事をしようとすれば、コストも時間もかかってしまいます。そこで、西村研究室のノウハウを参考にし、後から貼り替え自在なカラーテープを採用しました。カラーテープを貼ることで、車道に視覚的な変化を持たせて実験を進めました。

写真:実証実験の様子

マルシェと併せて実施された実証実験の様子。車道にカラーテープを貼ることで、自動車の減速を促す。カラーテープの採用により、コストをかけずにスピーディーに実験を進めることができた

写真:歩道空間の様子

直線だった道路の白線を曲げ、歩道空間を広げた

写真:カラーテープを活用した路面装飾のパターン

カラーテープを活用し路面装飾のパターンも変えることで、徐行や減速などの運転に変化が現れるかを検証した

写真:電動車いすによる検証の様子

実証実験では、にぎわい空間における電動車いす(グリーンスローモビリティ※2)での移動のしやすさや安全性についても検証が行われた

田辺:実証実験は2023年に3回に分けて実施しました。街のにぎわいや歩道の安全性を数値として見える化することで、その数字を基に事業計画などを立てることが可能になります。結果については街の皆さんにも共有しながら、「歩いて楽しめる」「人中心の道づくり」に向けて生かしていきます

高野氏:国士館大学の西村先生や国土交通省、会津若松市以外でのまちおこしの経験を持つ有識者の方たちを巻き込んでパナソニックさんが推進してくださったのが、ありがたかったですね。県外の多くの方たちから刺激を受けながら進められたのがよかったです。

持続可能なロールモデルとして全国展開へ

モビリティ事業戦略室では、今回の会津若松市での取り組みやFujisawa SSTなどのスマートシティ活動において、一方的にモノやサービスを提供するのではなく、それぞれのコミュニティの課題に寄り添い、そこに住まう人々を主役とした共創を展開。さまざまな地域での活動を通して、既存の街を持続可能な街へと進化させるノウハウや、自治体、住民などのさまざまなステークホルダーとの関係を築いてきた

一つのロールモデルができれば、国内での横展開も見えてくる。培ってきた知見を生かして、パナソニックグループ内外で共創しながら、同じように急速な人口減少などの社会課題に直面する全国の街への展開、日本の持続可能な社会の実現への貢献を目指していく

田辺:これまでの取り組みでも「わがまち意識」というキーワードを大事にしてきました。やはりポイントは地元の人が課題認識を自ら持ち、イベントなどの準備を自分ごととして進めていく、ということではないでしょうか。パナソニックは、その土壌づくりといいますか、仕掛けづくりやファシリテーションをさせていただく、あくまでもサポーターだということです。

大切なのは「持続性」。会津若松市については、パナソニックとして支援を続けていきたいですし、ここ会津若松市で得たノウハウを横展開することで、今後、他の自治体でも、歩車共存道路・ウォーカブルな空間の創出にチャレンジし、来訪者の滞留を促す環境構築の実績を増やしていきたいと思います。

写真:田辺

森:これからは企業も、個人一人ひとりに向けて、というよりは、地域全体で実現できる省エネや、働き方、暮らし方についてご提案していかねばならない時代。まだまだ地域活性化という意味では大したことはできていませんが、今回私たちが会津若松の皆さんから学ばせていただいたノウハウやアプローチの仕方を社内外に共有していき、少しでも他の地域での参考になればと思います。

まちおこしを上手く進めるためによく言われるのが、「わか者、ばか者、よそ者に任せましょう」ということ。「わか者」は文字通り、次代を担う若者たち。次の主体者となる若い人たちに、まずやる気になってもらう。「ばか者」というのは、発想が違う、着眼点が違う人たちのこと。ここにわれわれパナソニックも当てはまっていればよいなと思いながら取り組んでいます。「よそ者」、これもまた私たち企業人が含まれると思いますが、実際にその土地の人間ではないからこそ、「まあ、やってみましょうよ」とアドバイスもできる。当事者にはなり切れないからこそ、つなぎ役として役立てるのではないかと思っています。

非常にありがたいことに、パナソニックというブランドは、昔から、街のでんきやさんを含め、地元で信頼いただけているということを、活動を通して実感することが多いです。地域コミュニティに根付いて活性化のお手伝いをさせていただくのに適した会社なのではないかと感じています。
これからも、街の皆さんのお声をしっかりとお預かりしながら、地域に根差した取り組みを進め、にぎわいのある街へと変わっていくお手伝いができればと思います。

写真:森

※1 一般社団法人AiCTコンソーシアムについて
AiCTコンソーシアムは、オプトインによるデータ活用とパーソナライズによる市民中心のスマートシティ実現に向け、国内外の有力企業、会津地域の企業や団体など、約90の会員企業・団体で構成されているコンソーシアムです。2011年に会津若松市・会津大学・アクセンチュアの産学官連携で始まった、東日本大震災からの復興に向けた取り組みを端緒として、先進的なスマートシティの取り組みが進み、多数の企業が会津若松市に集積したことを受けて、2021年に設立されました。会員企業・団体は、スマートシティのデータ連携基盤となる都市OSを軸に、ヘルスケア、防災、データ利活用、ものづくり、エネルギー、教育、食・農、地域活性化、観光、行政、決済、モビリティインフラ、IoT/ネットワーク、サーキュラーエコノミー、API、コミュニケーション領域など、幅広い分野のスマートシティサービスを、組織の枠を超えて開発、運用しています。本コンソーシアムでは、会津地域で10年以上をかけて培われた知見、プラットフォーム、ネットワークをもとに、会津における地域DX(デジタル変革)を目指すとともに、日本のあるべきスマートシティのモデルとして全国に発信しています。会員企業の詳細は、AiCTコンソーシアムのWEBサイトをご覧ください。https://www.aict.or.jp/company-list

※2 グリーンスローモビリティは、時速20km未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービスで、その車両も含めた総称です。

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