2024年11月19日
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乾電池製造・販売で国内トップシェアを誇るパナソニック エナジー株式会社が、イオンリテール、東京製鐵と共同で乾電池回収・リサイクルの実証実験をスタートさせた。将来的には回収した乾電池を再び乾電池の部材として再生させる計画を立てている。理想のサーキュラーモデル実現に向けた各社の思いに迫る。
人々の生活に密着している乾電池。パナソニック エナジーの推計によれば、2022年度における日本国内の乾電池の使用量は17億7,000万個。1人当たり14.2個にも及ぶ。
家庭から出た使用済み乾電池のほとんどは自治体によって回収され、最終処理へと進む。乾電池をきちんとリサイクルすれば、鉄、亜鉛、マンガンなどを抽出し、再び材料として循環することが可能だ。持続可能性の面からも、使用済み乾電池は有用な資源と位置付けられている。
乾電池リサイクルを加速させるべく、国内の乾電池製造・販売トップメーカーであるパナソニック エナジーは、イオンリテール、東京製鐵と組んで2023年6月から回収・再生の実証実験を開始した。最終ゴールは「乾電池to乾電池」、すなわち資源が完全に循環するサーキュラーモデルである。メーカーが主導した点が画期的だが、何が同社をそこまで突き動かしたのか。その原点について、パナソニック エナジーで環境担当を務める道津 哲男(どうつ てつお)氏は次のように話す。
「パナソニックグループでは長期環境ビジョン『Panasonic GREEN IMPACT』(PGI)を掲げ、2050年に世界のCO2総排出量の約1%にあたる3億トンの削減インパクトを目指しています。当社は事業活動そのものでPGIを牽引し、これまでにCO2ゼロ工場を世界各地で実現してきました。こうした脱炭素の動きと並行し、資源循環に対しても注力していこうと方針を定めたのです」(道津氏)
ところが予想以上に乾電池リサイクルの芳しくない実態が見えてきた。同社が実証開始に先駆けて各方面から調査したところ、日本国内で消費される乾電池のうち、50%程度は分別回収・リサイクルされていないことが見えてきたという。
「この課題に対して、メーカーが直接回収することでリサイクルの推進に貢献できると考えました。そのためにはリサイクルに対する思いを同じとするパートナーと一緒になって理想的な資源循環モデルを構築する必要があります。そこでイオンリテール、東京製鐵に協力を仰ぎました」(道津氏)
プロジェクトリーダーを担当するパナソニック エナジーの末弘 祐基(すえひろ ゆうき)氏は「乾電池は使い捨てのイメージが強いが、その価値観を変えていきたい」とした上で、こう続ける。
「日本のトップメーカーとして、リサイクルから再生までの流れを確立したいとの思いがあります。乾電池に代表される市販電池事業はパナソニック エナジーの中で唯一のBtoC接点ですから、われわれのミッションである『幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会の実現』を消費者に向けて広く訴求できる絶好の機会だと捉えています」(末弘氏)
具体的な流れはこうだ。まずはイオンリテールの関東・関西22店舗に回収ボックスを設置。回収した乾電池は東京製鐵岡山工場で鉄鋼材料としてリサイクルするとともに、パナソニック エナジーでは乾電池部材への再利用を目指して研究開発に着手する。実証実験の結果を踏まえ、導入店舗の順次拡大を検討していく予定だ。
パナソニック エナジー 国内マーケティング部の田中 宏明(たなか ひろあき)氏は「イオンリテールは関東・北陸信越・東海・近畿・中四国エリアで店舗を展開されているので、さまざまなお客様が日常的に訪れる場所であることが魅力でした」と語る。さらに植樹活動や使い捨てプラスチックの削減など、以前から環境への取り組みを推進しており、お互いにシナジーが生み出せるとの期待もあった。
狙いはずばり的中した。イオンリテールの小河 豊(おがわ ゆたか)氏は「われわれは小売業の立場で、環境に対してどのようにアプローチすべきかを常に考えてきました。これまでもペットボトルや牛乳パックの回収は進めてきましたが、お客様が『捨てるのが当たり前』と思っていた乾電池をメーカー主導で回収するのは初めての試みです。今回のお声掛けで、社内が一気に盛り上がって環境への取り組みを一層強化しようとなりました」と話す。
SDGs時代を生き抜く企業のマナーとしても、回収実証はカギを握る。「環境に配慮し、貢献する姿勢を示さなければ、お客様からの支持は頂けない。その姿勢があるかないかが、店舗を選ぶ基準になるかもしれないとの危機感を持っています」と小河氏は話す。そうした意味でも、取り組みに懸ける熱量は大きい。
東京製鐵は、1934年(昭和9年)に創業した日本最大級の電炉製鋼メーカー。電炉製鋼とは、鉄鉱石から製鋼する高炉メーカーとは異なり、電気炉を使用して鉄スクラップを溶解して製鋼する技術を指す。鉄は100%近くリサイクル可能な素材でもあり、一貫して資源循環を突き詰めてきたことになる。これに加え、昨今はCO2排出削減の製鋼手法としても脚光を浴びている。大量の石炭を利用する高炉製鋼に比べ、直近のCO2排出量は約5分の1であり、さらには、その75%ほどが電力由来のため、電力会社のエネルギー構成次第でCO2排出量は高炉製鋼の20分の1程度まで削減可能だからだ。
東京製鐵とパナソニックグループとの結び付きは、2013年までさかのぼる。家電リサイクル工場のパナソニック エコテクノロジーセンターで回収・処理された家電製品由来の鉄スクラップを岡山工場で加工し、パナホーム(現、パナソニック ホームズ)に建築用鋼板として納入する「電炉鋼板の資源循環取引スキーム」を開始したのが最初だ。
このプロジェクトを担当した東京製鐵の伊藤 岳(いとう がく)氏は「既存メーカーとの取引がある中で、パナソニックグループは環境にプライオリティを置き、資源循環を世の中にアピールしました。このことは、われわれにとっても非常に大きな転換点になりました」と振り返る。他のメーカーは、産業向けに加工する過程で生じる、成分が特定できる上級スクラップを使用することが多いが、同社は、消費財が製品寿命を終え、老廃物として回収されたスクラップを主原料として高級品を製造する、いわゆるアップサイクルに向けた研究開発を進めるなど、持続可能なビジネスをより拡大している。
近年は「カーボンマイナス(電炉鋼材の普及による社会全体のCO2排出量の大幅削減)」と「アップサイクル(鉄スクラップの高度利用による高付加価値製品への再生)」を通じて「脱炭素社会」「循環型社会」の実現に貢献しようという「Tokyo Steel EcoVision 2050」を発表し、他業種との協業を積極的に働き掛けている。
その一環として2016年からは乾電池リサイクル事業をスタートさせ、現在は年間1,000~1,500トンの乾電池リサイクルを行う。東京製鐵の浅井氏は「電気炉プラントを活用して社会貢献ができるのではないかと考えたのが出発点。各自治体、各事業所の廃乾電池を回収して電気炉で溶かし、BtoBのH形鋼、異形棒鋼(鉄筋)など、主に建設分野での資材にリサイクルしています」と説明する。
これらの確かな技術力が新たなパートナーシップにつながった。末弘氏は「環境貢献に対する明確なビジョンに加え、乾電池リサイクルの十分な実績もお持ちなので安心して協業できます。また、乾電池から乾電池に戻すことを想定すると、建材用途のみならず薄板も製造できるなど、しっかりした技術基盤を持っていることが強みと考えました」と高く評価する。
この乾電池リサイクルの取り組みはまだ始まったばかりだが、あるイオンの店舗ではすでに20〜30キロの乾電池を回収するなど、早くも成果が出てきた。小河氏は「リサイクルや環境に対する意識をお持ちのお客様がどんどん増えていることを実感しています。『イオンに行くなら使用済み乾電池を持っていこう』といったところまで浸透してほしい」と語る。
「うちの店舗でも回収できないかとの相談が頻繁に届いています。ただし、これをボランティアではなくビジネスにしていくことが次なる課題です。リサイクルに反対するお客様はいませんが、現状ではリサイクルした商品の価格が高くなってしまうジレンマがあります。だからこそ、使用済みの乾電池が新しい乾電池に生まれ変わるというストーリー性は極めて大事だと思っています。自分の行為が社会の役に立っていることが可視化されると納得感が生まれ、手に取っていただきやすくなるからです」(小河氏)
一方の再生側では、乾電池用の部材を開発することが急務となる。浅井氏は「当面は従来の鉄鋼材料へのリサイクルがメイン。乾電池向けの鋼材はこれからなので一刻も早く確立したい」と意欲を見せる。末弘氏も「使用済み乾電池から再生した材料をいかにして使いこなすかは、われわれにとっても新しいチャレンジ。まさにいま、サプライヤーを含めて研究開発を進めています」と展望を述べた。
環境意識の高まりを受け、製品ライフサイクル全般の環境負荷や影響を定量的に評価するLCA(Life Cycle Assessment)が不可欠となりつつある昨今、道津氏は「今回の実証はLCAの観点でも重要であり、原材料の調達から廃棄、リサイクルまでを含めた視点で事業活動を考えるきっかけになります」と手応えを感じている。
乾電池という身近なアイテムの資源循環は、消費者にもリサイクルを考えてもらう「自分ごと化」につながるはずだ。そしてここで完成したサーキュラーモデルは、他の領域にも波及するに違いない。循環型社会の今後を占う試金石となるだけに、三位一体となった本プロジェクトの成功を望む。
(ライター:小口 正貴)
社会課題解決のアイデアバンク「未来コトハジメ」にて、2023年8月7日(月)公開
記事の内容は発表時のものです。
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