「これは何ですかと聞いたら、加賀に伝わる伝統工芸の『加賀象嵌』だと言われました。そんなものがあるんですねと感想を述べると、その先生(後の中川の師匠・高橋介州)が鏨(たがね)という彫る道具と金鎚(かなづち)を貸してくれて自分でもやってみたのがきっかけで、今に至ります」
「象嵌(ぞうがん)」とは、金属の表面を彫り、できた溝に異なる金属をはめ込んで模様を作り出す技法だ。象嵌部分の深さはわずか1㎜以下と非常に薄く、精緻な仕事が求められる。その中でも中川は、複数の異なる金属の層を組み合わせて意匠を構成する、難易度が高いとされる「重ね象嵌」を極めていった。
中川氏「象嵌とは、金属を彫り、そこに別の金属をはめ込んで入れること。『重ね象嵌』ですから、何回も同じことをして上へ上へと重ねていくんです。金属はシャープな光が出るので、そこがきれいだなと思っています」
師匠の高橋氏の手伝いをしながら、デザイン画を何枚も持っていき、認められたデザインの制作を行う日々。人より1㎜でも前に進みたいという気持ちで寝る間も惜しみ、試行錯誤を繰り返しながら技術を磨いていった。
中川氏「先生からはいつも『ハイカラなものを作れ』と言われました。昨日あったものはもう古いものだから、次は新しいものを考えていけと。それは今でも守ってやっています」
ハイカラで新しいものを作り続けるという精神は、中川の代表作「チェックと市松」にも色濃く表れている。