2024年11月5日
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パナソニックグループ(以下、パナソニック)は、モノづくりやサービスなどの事業とは異なる方法で社会課題と向き合う「企業市民活動」を50年以上にわたり実践している。重点テーマの一つである「貧困の解消」に貢献するべく展開しているのが、公募型の助成プログラム「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」だ。国内外で活動するNPO/NGOの「組織基盤強化」を支援するという、先駆的で地道な活動が評価され、2022年12月には「第20回 企業フィランソロピー大賞」の大賞を受賞した。本プログラムを通じて実際に組織の成長を体感した認定NPO法人「フードバンク山梨」の代表者が、その有効性について語った。
パナソニックでは、創業以来、「企業は社会の公器である」との考えに基づき、さまざまな企業市民活動に取り組んでいる。世界的な社会課題である「貧困の解消」「環境活動」と、それらの課題解決のベースとなる「人材の育成(学び支援)」を重点テーマとして掲げ、「人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する」というグループの経営理念に沿いながら、多種多様な社会課題の解決と新たな社会価値の創造を目指してきた。
社会において重要な役割を果たすNPO/NGOが持続発展的に社会変革に取り組めるよう2001年に設立された助成プログラムが、「Panasonic NPOサポート ファンド」だ。2018年からは「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs(以下、サポートファンド)」と名を改め、「貧困の解消」に貢献するNPO/NGOの組織基盤強化を支援してきた。
本サポートファンドでは、2001年から2022年までの累計で、461件、5億9,251万円の助成を行っている。NPO/NGOの成長に寄り添い続け、時代の変化に合わせてプログラムの在り方を改善・進化させてきた。
この長年にわたる地道な取り組みが評価され、2022年12月には、公益社団法人 日本フィランソロピー協会主催の「第20回 企業フィランソロピー大賞」において大賞を受賞。同賞は、社会課題の解決のために自社の経営資源(人材・ノウハウ・技術・情報など)を有機的・持続的に活用した社会貢献活動を顕彰するものだ。本サポートファンドは、設立から20年以上の月日を経て広く社会に認められ、進化を遂げつつある。
設立当時、世の中の多くの助成プログラムがNPO/NGOの活動そのものを支援していたのに対し、パナソニックが提供したのは、組織の基盤強化に着目するという独自のものであった。しっかりとした組織基盤があってこそ、課題解決に向けたプロジェクトが発展していくとの考えの下、目指したのは、財務基盤・マネジメント力・人材育成など、長期にわたって団体を運営・成長させるために欠かせない取り組みの強化だ。
このサポートファンドに応募し、2014年から組織基盤強化に取り組んだのが、山梨県南アルプス市の「認定特定非営利活動法人 フードバンク山梨」だ。理事長の米山 けい子(よねやま けいこ)氏は「当時は9人(常勤5人、非常勤4人)という少数精鋭で活動していましたが、そんな小さな組織であっても基盤強化が必要、かつ重要であると教えてくれたのがこのプログラムでした」と語る。
フードバンク山梨は、山梨県における食のセーフティネット(安全網)を支えるフードバンクシステムを構築し、市民・企業・行政・福祉施設と協働して、食べ物が無駄なく消費され、誰もが食を分かち合える心豊かな社会づくりを目指している。
米山氏「元々、仲間たちと共に16年にわたりアフリカの子どもたちに食料を送る活動をしていました。生活協同組合の理事長を経験した後、食品ロス問題の解決に貢献したいと思い、フードバンク山梨を立ち上げたのが2008年のことです。初めは、企業から商品の包装に印字ミスがあるもの、規格外、余剰在庫などで販売できない食品や家庭にある余剰の食品を寄付してもらい、児童養護施設や障がい者施設、支援団体などに提供していました。ですが活動を続けるにつれ、一般のご家庭から『赤ちゃんのミルクを買うお金がなく、薄めて飲ませている』『子どもに満足に食べさせてやれない』などのお困りの声が届くようになりました。実は身近な所にも子どもの貧困問題が潜んでいることに気付かされたんです」。
そこで米山氏は困窮している世帯に向けても食品の支援を始めることにした。最初は9世帯に向けて食品を送った。そこから徐々に活動が広がっていく。
米山氏「食品と一緒にお便りも同封させてもらい、返信はがきを送っていただくなどして皆様のお声を集め、行政にフィードバックしていきました。全県下を対象に多くの自治体にも声を掛け、関係を構築していきました。その結果、現在では900~1,000世帯に届くような規模で、およそ2,000人の子どもの支援につなげられるようになりました」。
設立からちょうど5年が経とうとしていた2013年、フードバンク山梨に存続の危機が訪れる。
米山氏「この年に『生活困窮者自立支援法』が成立し、施行の2015年からは、それまで受けていた数千万円規模の助成金が受けられなくなることが決まりました。年間350万円の寄付金だけでは団体を存続させることができないため、何らかの対策が必要でした」。
常日頃から企業の助成プログラムについても情報を集めていた米山氏は、本サポートファンドの公募に名乗りを上げる。助成事務局による訪問ヒアリングなどを踏まえ、フードバンク山梨は2014年から2年間助成を受けて組織の基盤強化に取り組むこととなる。
フードバンク山梨では、最初に組織の現状を知るために組織診断を受けた。その結果、倉庫を確保する資金の不足、不安定な職員の雇用、フードバンクを推進する法整備の遅れといった課題が見えてきた。
米山氏「組織診断で第三者視点の意見も頂きながら、私たちに足りていない部分を把握することから始めました。結果、ファンドレイジング(資金調達)活動が後回しになりがちだということで、そこを重点的に強化していくことになりました」。
助成1年目はクレジットカードで寄付ができる体制を整え、クラウドファンディングにも初挑戦。2年目の2015年は、外部講師を招いたファンドレイジングとマネジメントの研修に職員全員が参加した。
米山氏「週1回の学習会では、『定期的に続けること』の大切さを知りました。また、限られたメンバーだけで学ぶのではなく、スタッフ全員で参加して、思いやノウハウを共有していけたのが良かった。ピンチを成長のチャンスと捉え、できることを一つひとつ、やっていきました」。
広報活動や緊急寄付活動、寄付者へのフォローなど、細かい取り組みの積み重ねが功を奏し、350万円だった寄付・会費収入は2014年度には3倍近い1,017万円、2015年度には9倍の3,161万円まで増加。2019年度には5,300万円を超えた。ボランティアの新規登録者数も当初の2倍へと増えた。
米山氏「助成事務局であるパナソニックさんと、中間支援組織の皆さんから定期的にアドバイスを頂いたことで、私たちにもPDCA(計画・実施・評価・改善)サイクルを回していく体制が定着しました。
実はNPO/NGO団体を持続発展的に続けていくためには、財務基盤の強化だけでなく、ミッション・ビジョンの組織内での再浸透、広報基盤の強化、スタッフの人材育成など、本来の活動とは別にやるべきことがたくさんあるんです。でも私たちは困っている方にどうしても気持ちが向いてしまい、自分たちの組織のことは後回しになりがちです。パナソニックさんが伴走してくれたことで、私たちは変わることができた。ぜひ同じ気付きを他の団体さんにも体験してもらいたいと思いました」。
米山氏は、自ら得たノウハウを県内の他のNPO/NGO団体にもシェアし、ボランティア活動の底上げを図っていく。その動きは全国のフードバンクをネットワークで結ぶ取り組みへと発展していき、「全国フードバンク推進協議会」(加盟54団体)の発足につながった。
米山氏「コロナ禍の2020年には、全国フードバンク推進協議会を通じた大手企業からの大口寄付や、フードドライブ(※)による市民からの寄付を合わせると、年間150トンの食料を提供いただきました。臨時休校措置で給食がなくなった2020年3月から、緊急食料支援を開始。就学援助受給世帯や乳幼児がいる児童扶養手当受給世帯、奨学金をもらっている大学生などに計2,277件、27.3トンの食品を提供するなど、活動を拡大することができました」。
※フードドライブ:家庭で余っている食べ物を持ち寄り、地域の福祉団体などに寄付する活動
米山氏「さまざまな事情で、お一人で子育てをされているご家庭、日々の食費にも困っているご家庭があります。でも日本には『恥の文化』があり、援助を受けることは恥ずかしい、という考えもあるため、『子どもの貧困』が表面化してこない世の中になっている。学校帰りに友達とハンバーガーを食べたくても、お小遣いがないから自分だけ一緒に行けない。それが辛くて学校にも行けなくなってしまう……そんなお子さんもいらっしゃいます。
私が残したいのは、形ではなく『温かい社会、温かい気持ち』です。地域の格差などなく、行政に頼れないところは民間のフードバンクを頼れる、困っている人が手を挙げやすい世の中にしていきたい。大変な思いをしている人にフードバンクを頼っていただくことで、子どもたちをより良い循環の中で育てていくことができるようになれば。そして成長した子どもたちが次の世代をまた助けていけるような社会になれば……と考えています。そのためにも、常に成長していける、フレッシュな団体でありたいですね」。
ミルクやおむつを配布する「乳幼児応援プロジェクト」の様子(2023年4月)
本サポートファンドの活動を担うパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社の東郷 琴子(とうごう ことこ)は次のように語る。
東郷「米山さんとは10年近くのお付き合いになりますが、当時から行動力があり、支援者を巻き込んで輪を広げる力をお持ちの方でした。フードバンク山梨さんの活動やノウハウが全国に伝わる中で、別のフードバンクさんから本サポートファンドへの応募を頂く、そんな新たなご縁も生まれました」。
東郷「米山さんに限らず、NPO/NGOの方たちは、お一人おひとりが熱い思いをお持ちです。私たちパナソニックは、その方たちのいわゆる『得意分野』である活動自体ではなく、組織マネジメントや人材育成などの、どうしても後回しになりがちな組織運営の部分にフォーカスし、強化に向けた支援をします。関わり方としては、団体の皆さんが主体となって推進される組織基盤強化の取り組みを、NPO/NGO中間支援組織の皆さんが第三者として支援し、さらに助成事務局であるわれわれも伴走させていただくイメージです。
パナソニックは、1990年代からNPO/NGOと協働でプログラムを実施するなどの関係性を構築してきました。そんな中で、皆さんが毎年の活動資金調達や人材育成などに困り、本来の力を十分に発揮できていない状況に触れ、『団体の根幹である組織基盤を強化しなければ、活動の持続・発展が危うくなるのでは』という課題認識の下、2001年に本サポートファンドを設立しました。
組織基盤強化への助成を行うサポートファンドは世界でも珍しく、おそらくパナソニックが独自に切り開いてきた領域と言えるのではないでしょうか。その分、ご提供するプログラムが本当に効果を生んでいるのか、有効性についての評価や分析を重ね、時代の動きに合わせて毎年改善しながら5年を目安に仕組みを見直し、少しずつ進化させてきました。
組織の基盤強化についても、すぐにその成果が見えてくるものではないため、長いスパンで組織や活動の状況を確認することが必要です。そのため助成期間が終了してからも、1年半後、5年後、10年後……の節目にフォローアップ調査をさせていただくようにしています」。
パナソニックでは、サポートファンドそのものを進化させるに留まらず、このファンドを核としながら、組織基盤強化に資するプログラムを複数の協働先と順次開発・展開している。
東郷「毎年、組織基盤強化のためのセミナーやワークショップ、フォーラムを開催し、助成先の取り組みや成果を共有しながら、組織基盤強化の重要性を理解いただく活動にも力を入れてきました。プログラムを設立した2001年ごろは、『組織基盤強化』と言ってもなじみがなく理解されにくかったのですが、20年を経て、ようやく市民権を得ることができたように思っています」。
さらにパナソニックの従業員がNPO/NGOの支援に参画できるスキームとして、2011年に「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」を設立。これまでに延べ364人がプロボノ活動に参加し、自身の仕事のスキルや経験を生かして、60を超える団体のマーケティング調査や中期計画策定、ウェブサイトの再構築、営業資料作成などの支援をしてきた。こうしたつながりから、支援したNPO/NGOの会員となったり、個人で支援を続けたりする新たな関係性も生まれている。
東郷「本サポートファンドは、これまで多くのNPO/NGOとのご縁に恵まれ、皆さんのご協力を得ながらここまで歩みを進めることができました。そして、私自身、一つひとつの取り組みが社会を変えるチカラの一つになり得るのだと実感し、感銘を受けながら応援してきました。今回も、米山さんのお話を伺うことで、本サポートファンドの意義を再認識することができました。『幸せの、チカラに。』をブランドスローガンに掲げるパナソニックの一員として、今後も皆さんのお役に立てるように取り組んでいきます」。
パナソニックが実現を目指す、人々のくらしと社会の「幸せ」。その範囲はモノづくりやサービスなどの事業活動はもちろん、こうした歴史ある企業市民活動にも及ぶ。社会課題の解決に向けて重要な役割を果たすNPO/NGOへの支援は、新しい社会価値の創造、社会変革への貢献にほかならない。パナソニックは「誰もが自分らしく活き活きとくらす『サステナブルな共生社会』の実現」を目指し、より多くの人々の「幸せの、チカラに。」なるために、これからも前進し続けていく。
パナソニックは、今回ご紹介した「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」の募集を2023年7月18日(火)から開始します。
Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 2023年募集概要
https://holdings.panasonic/jp/pnsf/npo_summary/2023_recruit.html
記事の内容は発表時のものです。
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