2024年10月15日
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2024年5月28日
技術・研究開発 / プレスリリース
~成層圏からの5G通信サービスの早期実現に大きく前進~
スカパーJSAT株式会社(以下、スカパーJSAT)、株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT(エヌアイシーティー))、パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニックHD)は、HAPS(※1)(High Altitude Platform Station:高高度プラットフォーム局)を模擬した小型飛行機(今回の実験では共立航空撮影株式会社の運航するセスナ機を使用)(以下、セスナ機)を活用し、高度約4 kmからの38 GHz帯(※2)での5G通信の実証実験(以下、本実験)に成功しました。
本実験では、HAPSを用いた5G通信ネットワークのフィーダリンク(※3)/バックホール(※4)回線の実用化に向け、HAPSへの搭載を想定して新たに開発した通信装置(以下、セスナ機搭載局)をセスナ機へ搭載し、自動追尾機能をもつレンズタイプのアンテナをHAPS地上局(以下、地上局)として利用しました。これにより、高度約4 km上空のセスナ機と地上局3局との間で、38 GHz帯電波を利用した5G NR方式(※5)の上空中継による地上5G網のバックホール回線を確立しました。38 GHz帯電波による5G NR方式を使用した、上空中継の複数リンクからなるバックホール回線の実証は世界初の試み(※6)となります。
HAPSを利用した非地上系ネットワーク(※7)(Non-Terrestrial Network)(以下、NTN)は、5Gや6Gにおいて通信エリアを拡大するカバレッジ拡張実現に有効な技術であるため、今後、本実験で得られた結果を活用し、HAPSの早期実用化とNTNの実現に向けて取り組んでまいります。
※本実験は総務省による電波資源拡大のための研究開発「HAPSを利用した無線通信システムに係る周波数有効利用技術に関する研究開発」(以下、本研究開発)※8における固定通信システムの研究開発の一環として実施しました。
※1 HAPS(High Altitude Platform Station):地上約20 km上空の成層圏を数日~数か月の長期間に渡って無着陸で飛行できる無人飛行体を指します。機体には中継器等を搭載し、直径100~200 km程度のエリア化が可能となり(機体設計により変動)、従来エリア化が困難であった空、海上をはじめ、採算性の観点からエリア化されていなかった過疎・中山間地域等も対象とすることが検討されています。
※2 38 GHz帯:国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)の無線通信部門(ITU-R: ITU Radiocommunication Sector)が周波数の国際的な分配等の無線通信規則(RR: Radio Regulations)の改定を行うために開催する、世界無線通信会議(WRC: World Radiocommunication Conference)の2019年会合において、新たにHAPSの固定通信用途として国際的に特定された38.0-39.5 GHzの周波数帯域。
※3 フィーダリンク:HAPSと地上GW(Gate Way)局(HAPSと地上の通信ネットワークを中継する地上局)間の通信。
※4 バックホール:移動通信ネットワークにおける多数の無線基地局とコアネットワーク※9との間の高速大容量な情報伝送をサポートする固定回線。
※5 5G NR方式:第5世代(5G)移動通信システム用に3GPP※10によって仕様策定された新しい無線アクセス技術。
※6 2024年4月3日現在、パナソニックHD調べ。
※7 非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network):衛星、HAPS、ドローンなどの多様な通信プラットフォームを介して、地上に限定せず、海、空、宇宙等の異なる空間を多層的につなぐシステム。
※8 https://www.soumu.go.jp/main_content/000692246.pdf
※9 コアネットワーク:複数の基地局と端末を結びつけ、認証および認可や通信セッションを制御する司令塔としての役割(制御プレーン)と、コアネットワーク外部のアプリケーションサーバと端末の間の通信データを適切に転送する役割(ユーザプレーン)を担当。
※10 3GPP:第3世代(3G)以降の移動体通信システムの標準規格の仕様の検討や調整を行う各国標準化機関によるプロジェクト。
本実験では、以下の構成で測定を行いました。
(1)HAPSへの搭載を想定して新たに開発した、38 GHz帯5G NTN通信基地局およびコアネットワーク装置をセスナ機へ搭載
(2)高利得かつ先鋭なビームにより38 GHz帯電波を送受信するために開発した、自動追尾機能をもつレンズタイプのアンテナをHAPS地上局として利用
(3)地上局3局とセスナ機搭載局との間で、5G NR方式を用いて複数のデータ回線を確立
上記構成にて、バックホール回線を構成する任意の2つの地上局を、セスナ機搭載局にて同時に接続・中継することで、地上5G網に接続された地上局(下図、地上局#1、2)と、端末と通信を行う地上基地局(以下、基地局)に接続された地上局(下図、地上局#3)の2局間のデータ回線を構成し、上空中継による地上5G網のバックホール回線(下図、点線部分)を実証しました。さらに、端末と通信を行う基地局と、エンドツーエンド(※11)通信用コアネットワーク間のバックホール回線に上記技術を適用し、端末へのエンドツーエンド通信(下図、全体部分)を実証いたしました。加えて、上空中継バックホール基地局(下図、基地局#1)と、地上バックホール基地局(下図、基地局#2)の間でのハンドオーバ(※12)を実証いたしました。
本実験においては、
(1)38 GHz帯5G NR方式を用いた上空中継バックホール回線が確立できていること
(2)地上回線バックホール基地局と、上空中継バックホール基地局間でのハンドオーバが可能であること
の2点を検証するため、エンドツーエンド通信用コアネットワークと通信端末の間のエンドツーエンドのスループットを測定しました。その際、エンドツーエンド通信用コアネットワークから通信端末への通信(ダウンストリーム)および端末からエンドツーエンド通信用コアネットワークへの通信(アップストリーム)の2方向において測定を行いました。
以下に示すグラフでは、ダウンストリームにおけるスループットの時間変化が描画されています。区間1においては、上空中継によるバックホール回線が確立され、エンドツーエンド通信用コアネットワークから端末にデータが送信されています。続いて、区間2では地上バックホール回線を介してデータ送信が行われています。区間1から区間2に移行する際、データ通信が途切れずにハンドオーバができています。更に、再び上空中継バックホールへ接続を行う区間3への移行時にも、データ通信が途切れずにハンドオーバができています。以上の結果から、当初の検証目標を達成いたしました。なお、本実験ではアップストリームにおいても上記の検証に成功しております。
本実験では、HAPSの高度約20 kmの成層圏での飛行条件を想定して、主に以下の技術開発項目の実証を行いました。
<HAPS搭載用アンテナ・通信機器の追尾性能の実証>
HAPSとして固定翼型を用いた場合には、成層圏に機体を旋回しながら滞留するため、特にミリ波帯の高い周波数で通信を行うために正確なビーム指向制御とドップラー効果による周波数の揺らぎを最小限に抑えることが求められます。本研究開発では、HAPS搭載用アンテナ・通信機器が上空での飛行環境で正しく動作し、機体旋回時の飛行姿勢、速度、方向、位置、高度等に適応しながら3つの地上局方向に正しく38 GHz帯のビームを向けることで、5G NR方式で通信を可能とする技術の開発とその実証を行いました。
<地上局アンテナ・通信機器の追尾性能の実証>
成層圏の風等の気象の影響を受け、不規則に軌道を変化させながら飛行するHAPSに向け、地上設置のアンテナ・通信機器が極めて細く鋭い38 GHz帯のアンテナビームを正確に指向させて、連続的に追いかける高精度な追尾技術の開発が求められます。今回開発した地上局アンテナでの最も鋭いビーム幅は0.8度であり、この角度範囲に常に上空のセスナ機が捉えられるような追尾方式の開発とその実証を行いました。
<HAPSネットワークへの回線切り替え・制御技術の実証>
HAPSを5Gや6G等携帯電話通信ネットワークの一部として利用する場合、5G網を含む既存の地上ネットワークとHAPSによる成層圏からのネットワーク間における柔軟な回線切り替え・制御が求められます。本研究開発では地上回線バックホール基地局と、38 GHz帯5G NR方式を用いた上空中継バックホール基地局間でのハンドオーバの検証を行いました。通信中の端末が両基地局のエリアを跨って移動した際に、データ通信を途切れさせることなくハンドオーバを行うことに成功し、地上網とHAPSを利用したネットワーク間が連携した柔軟な回線制御技術が実現可能であることを実証しました。
<電波伝搬路における降雨減衰補償アルゴリズムの検証>
38 GHz帯の電波は、降雨による減衰の影響を受けやすいため、実用化に向けての対策としてサイトダイバーシチ(※13)等の降雨減衰補償が求められています。本研究開発では、降雨に伴う回線品質の変化に応じて、サイトダイバーシチ等の降雨減衰補償を5G網と連携して自動で行うアルゴリズムの開発と実証を行いました。
上記検証の結果、全ての項目において、当初想定されていた開発目標が達成されていることを確認しました。また、HAPSの実運用を見据え、HAPS実用化や制度化等に資する測定データも取得することができ、加えて技術開発、性能向上に向けた課題等を整理することもできました。これらの結果を活用し、HAPSによる成層圏からの5G通信サービス早期提供とNTNの実現に取り組んでまいります。
※11 エンドツーエンド(end-to-end):英語で「端から端まで」を意味し、E2E(イーツーイー)とも呼ばれます。一般的に通信・ネットワーク分野では、通信を行う二者を結ぶ経路全体、もしくはその両端を指します。
※12 ハンドオーバ:通信中端末が移動に伴いセルを跨る際、通信を継続させながら基地局を切り替える技術。
※13 サイトダイバーシチ:無線信号を2つ以上の複数のアンテナで受信することによって複数の地上局を切り替える技術。
HAPSを用いたミリ波帯(Q/V帯)の広帯域な周波数(38.0-39.5 GHzを中心とした36.0-42.5 GHz帯)を利用して、5G Evolution & 6Gの時代に期待される多様なユースケースや災害対策における基地局へのバックホール回線の需要に対して、タイムリーかつ高速・大容量な通信回線を提供できるHAPSシステムの開発をめざします。また、ミリ波帯を用いるHAPS通信の周波数利用効率(※14)を改善し、HAPSシステムの実用化に向けた要素技術を確立します。
本研究開発では、HAPSに搭載するミリ波帯の通信装置、および対向する地上局を開発し、HAPSの位置や飛行姿勢が変化した場合においても、他の地上システムからの電波による干渉を軽減させつつ電波の送信方向を制御し、無線通信を成立させることをめざします。また、複数の地上局を切り替える技術(サイトダイバーシチ)等を用いて、降雨減衰の影響が大きいミリ波帯においても、従来の国内における静止衛星システムを利用した携帯電話のバックホール回線と同等の接続性を確保します。
周波数利用効率については、静止衛星システムでは、3 bit/symbol前後であったスループットを1.1倍以上の3 bit/symbol後半から4 bit/symbol台に改善することを目標とします。
本研究開発は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」の一環として実施しています。
※14 周波数利用効率:単位となる周波数や時間の無線リソースで送信可能な情報ビット数を表す。周波数利用効率を向上させることで、より高速大容量な通信が実現できる。
記事の内容は発表時のものです。
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