パナソニックグループは、2030年までに事業活動からのCO2排出量を実質ゼロにすること、および2050年に向けて、現時点の世界CO2総排出量の「約1%」にあたる3億トン以上の削減インパクトを目標とした「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、現在様々な取り組みを進めている。パナソニック エナジー株式会社(以下、パナソニック エナジー)は、中でも重要な役割を期待されている事業会社の一つだ。CO2排出量削減への貢献や、限りある資源の有効活用――電池技術のさらなる進化だけに留まらず、環境配慮の取り組みでも業界をリードし続けている同社の戦略に迫る。
地球環境問題の解決は、全世界で喫緊の課題だ。国連が4月に発表した気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書によると、2030年までに温室効果ガス排出量を現水準から43%削減すれば、地球温暖化の影響を抑えることは可能だとの指摘もある。既に、多くの国が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言し、再生可能やカーボンニュートラルなエネルギー源の利用に取り組む中、こうしたエネルギー移行の取り組みにおいてキーとなる事業こそが、パナソニック エナジーの手がける「電池」だ。
実際、産業界や消費者(産業・民生)がCO2排出量の削減手段を模索する中、電池の潜在的な用途は飛躍的に拡大している。2020年から2025年までに、車載の市場規模は5兆円拡大し9.4兆円へ、産業・民生の市場規模は6,000億円拡大し2.9兆円に達する見通しだ。これら需要の増加に対応するため、パナソニック エナジーは、近年需要が加速している自動車産業のみならず、様々な産業・民生向けの電池製品の拡充に取り組んでいる。
電池のイノベーションをリードする
パナソニックの電池事業には、長い歴史がある。創業者・松下幸之助の時代、1923年に砲弾型電池式ランプ用「エキセル」乾電池を発表して以来、1964年の、ニカド(Ni-Cd)電池の生産開始、1989年ニッケル水素電池、1994年にリチウムイオン電池を開発、さらには2008年に⾞載⽤リチウムイオン電池を市場導入するなど100年近くにわたり、絶え間ない革新とともに、電池分野において最先端の技術を導入してきた。電池関連の材料開発・モノづくりの特許保有件数は7,500件以上に上る。まさに、過去より培ってきた高い技術力と、市場創出力、そして⾼信頼の実績で業界をリードしてきたと言える。
例えば車載事業では、これまでにEV用の円筒形リチウムイオン電池を累計100億セル以上、EV換算で170万台分相当を供給。北米シェア 1位を維持している。また、高い安全性によって、これまでに電池起因のリコールは起こしていない。今後、環境負荷低減の観点から進むEVの普及の中においてもパナソニックはその技術力、安全性を武器に、EVの進化・普及を支え、CO2排出量削減に貢献していくことが期待されている。
また、電池や関連ソリューションは社会インフラ関連分野でも極めて重要だ。ここにパナソニックは高い安全性・信頼性を実現する電池セルの技術、それをコアにした応用システムを通じて、大きな貢献を果たしている。例えば、データセンターをはじめとする情報通信インフラでは、24時間/365日の稼働、データ保全というニーズが高まっている。ここに高信頼かつ安全・長寿命バックアップ電源システムを提供、高いシェアを確保しているのだ。また、幅広い使用環境・条件への対応や、長期信頼性が求められるスマートメータや医療機器などのIoT機器などに対しても、長年の知見が活きる高品質の一次電池を提供。産業・民生領域においても、幅広い貢献を果たしている。
電池の製造におけるCO2排出量と、貴重な資源の使用量を削減
中期戦略の説明の冒頭で、パナソニック エナジー CEOの只信 一生(ただのぶ かずお)は次のように語っている。「パナソニック エナジーが何をしていくか。それは『幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会を実現』することです。No.1の環境性能と安全性能、そして環境負荷低減で、未来を変えるエナジー、原動力になりたい」。
この中期計画で目指すのは、持続的な成長実現に向け、車載向けの"成長性"、産業・民生向けの"収益性"の両輪経営の実践、そして、環境貢献の活動を通じて、持続可能な社会環境の構築をリードしていくことだ。その中で、自社のカーボンニュートラルはもとより、環境への負荷を抑えたエナジーソリューションと電池を提供し、安心安全な社会インフラの構築とモビリティの電動化を実現することでカーボンニュートラルな社会の実現に貢献することは極めて重要と言える。
まず、パナソニック エナジーでは、2030年までに車載電池のカーボンフットプリント(※)を半分まで削減すると共に、2028年度までにグローバル全ての生産工場での実質的なカーボンニュートラル化を目指すという目標を掲げた。同社の事業において、発生するCO2は、工場そのものよりも、資源採掘や原料加工などによって排出される割合が高く、この部分への対策は必須だ。こうした考え方に基づき、
- 環境負荷の低い資源の調達
- リサイクル材料の使用
- レアメタルの使用削減
- 現地での材料調達
といった具体的な施策を進めている。
※原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2換算
また、それぞれの生産拠点においても、製造工程の改善や、再生可能エネルギーの活用、エネルギー効率の向上などの取り組みも進めていく。
特に、パナソニック エナジーでは、レアメタル使用の削減に向けた取り組みも進めている。レアメタルは鉱物中に含まれる量が少ないため、精製の際により多くのCO2を排出する。このため、レアメタル使用の削減は、レアメタルそのものの省資源化に加え、CO2削減にもダイレクトに効いてくる。特にリチウムイオン電池におけるレアメタル使用の削減については、パナソニックは長年にわたって取り組んできており、すでに、レアメタルであるコバルトを使用しないコバルトフリー電池の開発も完了した。さらに正極材におけるニッケル比率を大幅に削減した電池の開発にも取り組んでいる。
環境負荷を低減しながら、性能向上と供給拡大を実現
車載電池のカーボンフットプリント(※)削減に加え、電池そのものの性能向上による環境貢献も進めていく。パナソニック エナジーは高エネルギー密度の電池製造における先駆者だ。車載用電池の現行モデルである「1865」と「2170」は、世界最高のエネルギー密度を誇る。高エネルギー密度の電池の製造ノウハウを活かし、2030年までにエネルギー密度をさらに20%向上させることを目標としており、あわせて電池の長寿命化にも取り組んでいる。特に「2170」については、生産性の改善に加え、新技術の導入により継続的に性能を向上させている。また、ここで培った技術は、新たに事業化を進めている「4680」にも導入の予定だ。次世代大容量の規格として期待されている「4680」については、2023年度より和歌山で量産の開始を見込んでいる。
さらに、生産体制の増強も拡大する。クリーンエネルギー需要への対応、カーボンニュートラル社会の実現に貢献を果たすためには重要な要素だ。パナソニック エナジーは、車載事業と産業・民生事業の双方において、工場の生産能力を増強し、電池の供給を拡大していく。特に、車載分野では、2028年度までにグローバル生産量を2022年度の3~4倍に拡大、日本では今後3年間で従業員を約1,000人増員し開発に関わる人材を強化する。北米では2017年よりネバダ州スパークスにある世界最大級のリチウムイオン電池工場Panasonic Energy of North America(PENA)で生産を行ってきたが、これまでの車載電池セルの出荷数は60億個を超える。加えて、今年7月には、カンザス州の投資誘致補助金制度Attracting Powerful Economic Expansion(APEX)の承認を得て、北米での新たなリチウムイオン電池工場建設の検討も進めている。
「人類として、やるしかない」
「人類として、やるしかないという強い意思で進めていきます」――只信は、説明の中で改めてこの言葉を強調した。これは只信がパナソニック エナジーのCEOに就任以来、同社の「Will」として社員に繰り返し言い続けてきたことだ。
「幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会の実現」。これはすなわち電池の継続的な革新により、電気エネルギーをより効率的に使いながらさらなる幸福に繋がる商品、サービスに貢献することを意味する。同時に、地球環境保護、また資源循環を実現しながらより調和のとれたくらし空間を実現していくということでもある。パナソニック エナジーの掲げるこのミッションは、今まさに全世界から求められていることだといっても過言ではないだろう。
持続可能な社会の実現に向けて、パナソニックグループの掲げる「Panasonic GREEN IMPACT」のけん引役として、そして今後の成長の柱として、パナソニック エナジーの今後の挑戦に注目したい。
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