【更新】2023年3月6日 タイトル及び一部本文の表現を修正
ECサービスの拡大等による物流量の増加により都市部における車両の移動量、稼働率は今後ますます上昇することが予想されている。それに対し、脱炭素社会を実現するための一つの手段として、CO2削減に貢献するクリーンエネルギーを利用した電動車(EV)導入に注目が集まっている。特に個人所有の車両より圧倒的に稼働率の高い商用車(フリート)のEV化――eフリート化は、CO2削減量に大きなインパクトを与えるファクターだ。日本国内でも今後本格的な検討加速が予測されるものの、なかなか進んでいない現状がある。そんな中、パナソニックグループは環境への貢献とともに、安心してeモビリティを利用できる世界の実現を目指し、商用車のEV導入を支援するソリューション開発に取り組んでいる。
天池 正治(あまいけ まさはる)
パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室
eフリート向けソリューション事業を担当。電池制御の技術開発に取り組み、環境貢献と移動からの制約解放を目指し、今回のEV導入支援ソリューション開発のほか、複数のモビリティ関連プロジェクトを推進。
大石 諭(おおいし さとし)
パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室 事業開発部 EVシフトPJ
日本国内でEV導入に向けたマーケティング活動、顧客起点でEVを普及させるための課題抽出を行い、その先の新規ビジネス創出の企画提案・推進等を担当。
飯田 崇(いいだ たかし)
パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室 eフリート電池DX事業推進PJ
電池の劣化や異常検知など、電池の状態の分析技術とソリューションの開発・提案を担当。他事業会社も含めたグループ全体の技術を組み合わせて、商用車のEV化が先行している海外での事業開拓・ソリューション提案等を中心に活動推進してきた。
「Last 10-mile」で取り組む領域のひとつ、eフリート
パナソニックグループでは、人の生活圏に焦点をあて、人を起点に移動のあり方を見つめなおす「Last 10-mile」の取り組みを推進。エリアモビリティ・eフリート・社会インフラという3つの領域でソリューションを提案している。その中でeフリートの領域では、日々の生活に関わるモノや人の移動を支える商用車のEV化・運用のサポートに取り組む。一般的な乗用車に比べ、平日・日中の稼働率が非常に高い商用車のEV化を促進することで、車両の移動にかかる環境負荷を効果的に低減させるのが狙いだ。
EVにおいては、電池がキーコンポーネントの一つ。パナソニックグループでは、その状態を分析・管理し、安心・安全な利用を支援することがEV普及の鍵となると考え、ソリューション提供の準備を推進している。
「日本国内では、主に配送業などEVの導入を検討されている企業様に向けて、eフリート導入支援と運用サポートを提案中です」と語るのは、モビリティ事業戦略室の天池だ。
「パナソニックグループにはEV向けの車載電池などを製造・販売するパナソニック エナジーや、オートモーティブシステムの領域等、広義でのモビリティに関するソリューションを提案できる技術と知見の蓄積があります。今回のEV導入支援に関しても、車両そのもののご手配だけでなく、その走行データをクラウドに集め、エネルギー源である電池の状態分析や寿命の推定、異常予兆検知などを通じて、EVならではの特性や個々の使用状況に最適な運行管理をサポートするサービスの提供を目指しています」。
EV化が進まない日本市場の事情
日本国内ではEV普及に弾みが付かないのが実情だ。その理由について大石は次のように語る。
「まずはイニシャルコスト。EVはガソリン車に比べると車両本体の価格が割高で、充電設備などにも初期投資が必要です。ランニングコストはガソリン代と比べて電気代のほうが安いので、累積走行距離が増えればコストギャップは徐々に小さくしていけますが、トータルコストを見るとまだEVのほうが高いのが現実です。
次に、必要な道具の調達。車両のバリエーションで言うと、日本で調達できるEVはミドルからハイクラスの乗用車が中心で、小型のトラックやバンなど、商用車としての用途に合うEVの選択肢はまだ少ないのが現状です。
3つめは、航続距離や充電時間に対する不安。業務を支える商用車で、もし走行途中に電気の残量がなくなってしまったら?こうした『電欠』に対する心配や、どのぐらい充電時間がかかるのかよくわからない、といった不安です。企業のオペレーターやドライバーの方が抱えるこうした不安を解消することが、今回のミッション推進には欠かせないと考えています」。
こうした障壁に対して、モビリティ事業戦略室では車両・設備や先のような不安を解消するEVのデータ分析サービス提供まで、「必要とされる道具を」「リーズナブルなコストで」「安心な利用体験とともに」ワンストップで提供・サポートできる体制の構築に向けて取り組みを続けている。同時に、日本では、EVをビジネスで使っている人はまだ少数派で、実際のところ使ったらどうなるのか分からない、明確な姿が見えていないというのが現実だろう。まずは実際に利用することで課題とその解決の試行錯誤のプロセスを共有し、顧客に寄り添い導入を支援していくことから取り組みを始めている。
電池の状態をクラウド上で高精度に推定
電池の状態を示す指標のうち、劣化度を表すものとして「State of Health(SOH)」が用いられる。SOHはeフリートの走行可能距離に直結し、eフリートの効率的な運用のために欠かせない重要な指標だ。
「EVの電池も、我々が普段使っている他の充電電池同様に、繰り返し使うことで満充電量が徐々に減っていきます。その状態をSOHとして常に把握し、劣化状態と残り寿命を判断・お知らせしていくサービスを開発しました」。こう語るのはモビリティ事業戦略室の飯田。クラウド上に送信された車両の充放電データを分析することにより、電池の残容量、劣化度、異常予兆などを高精度に推定することが可能となった。
「電池というのは化学の世界。化学材料を開発して実際にモノづくりをするわけです。当然、電池の種類によっても性能、ふるまい方が違ってくる。化学変化の世界ですから、AIがあれば何もかも解決します、シミュレーションで全部割り出せます、というわけにはいかない。デジタルデータのみの分析では、電池の全貌は見えてこないんですよね。
その点、パナソニックグループには、約90年にわたって電池メーカーとして実践してきた知見、ノウハウの蓄積があります。それらをデジタル技術と融合させることで、今回のソリューションが実現しました。
特別な充放電や事前の電池測定といった手間なしで、車両使用中の充放電データから電池の劣化推定・寿命予測が可能です。そのため、車両を最大限に運用し続けながら、次の充電タイミングや電池交換の時期を前もって計画することができます」。
「先行して、すでに長期間EVを使われているお客様の中には、『車両ごとの充電状態がわからず、電欠が不安なため、常に満充電から業務を開始していたり、走行中に電池の残量表示が50%を切ると必ず充電ステーションで追加充電をするなどして運行中断が発生し、結果として非効率になる』という方もおられました。我々のソリューションなら、こうしたお困りごとを解決できます」。
「EV導入支援サービス」の普及を目指して
「自動車大国の日本ですがEV化においては後進国と言わざるをえません。もちろんそれには理由があるはずですから、まずは商用車をお使いの様々な業種のお客様から、現状でのお困りごとをじっくりお伺いするところから始めています。EV車両や充電設備のことから、導入後のコスト面なども含めてご提案し、具体的なイメージを持っていただくことで、安心して前向きにご検討いただける関係づくりを構築中です」と大石は語る。
本プロジェクトに共感し、環境負荷を低減する物流実現に向けた実験を共に推進していくことに賛同したのが、パナソニックグループの草津拠点と、その広い構内で配送業務を担っているパソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社だ。
草津拠点は地元の小中学生を対象にした次世代環境教育活動のほか、事業活動で消費するエネルギーを再生可能エネルギーで賄う取り組みなど、脱炭素社会の実現に向けて積極的に取り組みを推進している。2022年4月からは新たにEVと充電設備を調達し、まずは構内の配送業務においてEV利用と運行分析を開始した。今後は、草津拠点から別の拠点への配送という比較的長距離の走行なども含め、様々な利用ケースにおける課題検証を行っていく。
地球環境問題の解決に貢献しつつ全ての関係者がWin-Winとなる未来へ
遅かれ早かれ、国内でもEV化に向けた動きが本格化していくことは間違いない。パナソニックグループは、EVのより良い運用を支援するソリューションを広く提供していくことを目指し、地球環境への貢献はもちろん、都市における経済的で便利な電動モビリティの利用実現と普及に貢献していく。
また、利用する電力もカーボンニュートラル由来でなければ、EVに置き換えるそもそもの目的を達成できない。そのため、パナソニックグループではEVに使う電気を太陽光発電で賄う取り組みも推進中。駐車スペースを有効に使いながら太陽光による発電が可能なソーラーガレージもその一例だ。
最後に、それぞれから、安心・安全なeモビリティ社会の実現、地球環境問題の解決への貢献に向けた今後の目標、そして決意を聞いた。
「EVと電池や充電設備の購入、運用、そして最終的にはそれらのライフエンディングまでをパナソニックグループがサポートし、お客様のトータルコストを最小化することで、関わる人たち全てがWin-Winになれる関係を目指したいと思います」(飯田)
「新規事業ですから計画も簡単には立てられません。そこが難しい部分でもあり、やりがいでもあります。自分の中でたくさんの問いを立て、仮説を用意して、小さなアイデアを積み重ねていくことで、答えを探っていっています。大切なのはEVユーザーと現場でコミュニケーションを取り続けることです。脱炭素社会の実現に向けて、EVの利用普及からその一端に貢献できればと思っています」(大石)
「これまでパナソニックグループがものづくりの中で、蓄積してきた知見・ノウハウはまさに宝で、今回の取り組みで我々が打ち出す仮説や数字に関しても、お客様には信頼感を持って聞いていただけていると感じます。今取り組んでいることだけでは、EV普及と環境負荷の低減がすぐにできるわけではありませんが、数十年後、世界がクリーンになるための取り組みだと認識し、推進しています」(天池)
パナソニックグループの目指す「Panasonic GREEN IMPACT」、そして「くらし」「しごと」のウェルビーイングの実現に向けて、モビリティ事業の重要性は今後一層高まっていく。持続可能な社会の実現を支えるべく、今後も引き続き新たなビジネスモデルの提案に取り組み、EVの導入促進に寄与するべく挑戦を続けていく。