2020年11月13日、パナソニックは持株会社制への移行、および社長交代を発表した。2021年2月25日には事業体制の概要と役員人事を公表しているが、今回着目するのは、事業体制ではなく役員人事だ。人事を読み解けば、パナソニックが重視するポイントが見えてくる。持株会社制となる新体制を目前に控えたパナソニックの狙いとは――。
人事からパナソニックが重視していることが分かるのはなぜか。ポイントは、パナソニックの人事は"論功行賞人事ではない"ということだ。課長や部長だけでなく、常務や専務に至るまで、「役割」の大小によってポジションが決まる。つまり、パナソニックにとって、ポジションが上がるということは、その人が大きな成果を上げたということではなく、ポジションに紐づく「役割」の重要性が増したということを意味しているのだ。
進めてきた「経営体質強化」を定着・恒常化 本格的な事業成長のフェーズへ
この2021年4月1日から新CEOに楠見常務が就任する。6月24日の株主総会を経て、代表取締役社長に就任する予定だ。これまでパナソニックが進めてきた、高収益体質の実現を託された形だ。
目を引くのは、昇任人事だろう。中国・北東アジアを担当する本間専務が副社長に昇任する。本間は、2019年から中国事業の責任者として現地で陣頭指揮を執ってきた。徹底した現地への権限移譲により、中国市場で現地企業と伍して戦う体制へと変革してきた。経済成長の著しい中国市場をさらに重視していくパナソニックの姿勢が読み取れる。それは併せて発表された関連人事にも表れている。中国・北東アジア社の常務、呉亮の同社副社長への昇任だ。経営の現地化を進め、チャイナスピードを体現してきた呉の昇任は、中国事業のさらなる強化を意味している。
また、CFOの梅田常務が、専務に昇任する。現在、2019年度からの中期戦略で取り組む、固定費削減と構造的赤字事業への対策を柱とした「経営体質強化」は、着実に成果を上げ1年前倒しでの達成見込みだ。事業成長を支える「経営体質強化」の取り組みを一時的なものとせず、恒常化させていくが、高収益体質への転換のためには、さらなる対策が不可欠であり、CFOに期待される役割は大きいということだ。
次代のパナソニックグループを繋ぐ「ブランド」「デザイン」「情報システム」
特筆すべきは、ブランド、デザイン、情報システムを担当する各役員を新たに置いたことだろう。パナソニックでは、2019年10月に、経営の役割と責任を明確化するため事業執行体制を見直し、執行役員は当社のグループ経営を担い、全社最適視点でグループの事業構造改革を担う役割と定義した。これにより、結果として執行役員の人数も絞り込まれることになったにもかかわらず、今回それぞれ新たに役員を任命したのは、昨今、企業競争力の源泉とされるブランド、デザイン、デジタル技術をいかに重要視しているかの表れであり、これまでにない新たな経営戦略が期待される。
ブランドを担当する森井は、昨年10月にブランドコミュニケーション本部をブランド戦略本部と改称し、ブランドを経営資源と位置付けた。デザインを担当するのは、グループのデザイン部門を集結し、2019年にデザイン本部を立ち上げた臼井だ。デザインをパナソニックグループ全体の経営へ活かしていく。また、情報システムの担当として、他社でCIO等を歴任してきた玉置氏を招聘(5/1付)した。
11月の発表では柱となる事業が示されたが、今回の役員人事では、さらに強化するポイント、新たに重視するポイントが見えてきた。新体制を1年後に控え、成長に向けた準備は、現在急ピッチで進められている。