パナソニックは、2020年9月、米国を中心にスタートアップ企業への投資を行うファンドを立ち上げた。その名は「Conductive VenturesⅡ」。「Ⅱ」が示す通り、これはパナソニックが北米で進めているコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)での2号目のファンドだ。成長するテクノロジー企業への投資を強化する姿勢を明らかにしたパナソニックが、このCVCの取り組みで狙うものは何か。
2017年4月、パナソニックは、シリコンバレーの拠点にベンチャー企業投資を専門とする組織を設立。
1号ファンドでは約110億円規模の投資枠を設け、超低消費電力の半導体を手掛けるアンビック・マイクロをはじめ、モビリティやファイナンステクノロジーなど、成長する分野のテクノロジー企業へ出資してきた。
事業会社が組成するファンド、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)では一般的に自社の既存事業に関連した事業を行うスタートアップへの投資を行うことが多い。一方でパナソニックでは意外なことに、あえて自社の既存事業に縛られずに投資先を選んでいる。
パナソニックも以前は事業に紐付いた企業に集中して投資してきた。1990年代後半、パナソニックが北米で展開していたテレビを中心としたAV事業の強化のため、シリコンバレーに拠点を構え、先端技術を持つスタートアップ企業への投資をスタートした。
当時、垂直統合型ビジネスモデルでグローバル展開していたことを考えれば、至極当然のことだ。しかし、2012年に現社長の津賀が「自前主義からの脱却」を表明。また、事業ポートフォリオ改革を推進する中で、ベンチャー投資の目的も大きく変わった。
現地でベンチャー投資の責任者を務める西川の言葉を借りれば、「パナソニックの既存事業に捉われずに真に成長性の高いポートフォリオ形成をめざす」ということだ。そして2017年、パナソニックはスタートアップ投資の専門組織として「パナソニック ベンチャーズ」を設立。これまでの20年近くにわたる技術シーズを中心とした投資実績や、スタートアップ企業の成長を支援する経験・ノウハウを活用しながら、徹底した現地化を図っている。
徹底した現地化で成功した1号ファンド
現地化のポイントは大きく2つだ。1つは意思決定。パナソニックでは、従来、海外でのスタートアップ投資でも、日本の本社で最終の意思決定を行っていた。これでは、現地で意思決定する他社とは勝負にならない。そこで立ち上げにあたって、投資の意思決定を現地完結でスピーディに行えるよう、決定権限の現地委譲にこだわった。その結果、立ち上げ前にシリコンバレーでパナソニックが投資したスタートアップ企業は年平均2社だったが、パナソニック ベンチャーズでは、立ち上げ半年で4社への投資をスピード感持って決定することができた。
2つ目は、投資先の選定。米国でキャリアを積んだ優秀なベンチャーキャピタリストを登用することで、「スピードはもとより、優良な投資先を選定する確度が確実に向上した」と西川は胸を張る。現地化と並んで西川が重要視するのはファイナンシャルリターンだ。日系企業のCVCではストラテジックリターンを強調することも多いが、このファンドではファイナンシャルリターンを第一優先に追求する。結果としてストラテジックリターンが得られるとの考え方である。
パナソニックの既存領域を超えて
先述の通り、パナソニックは投資先を既存事業領域にこだわっていない。このファンド以前のスタートアップ投資では既存の事業領域へ投資する場合がほとんどで、探索する領域が限定的になってしまっていた。「成長性がある事業立地を探索していく必要があるのにパナソニックの既存事業の範囲に収まっていては意味がない。このファンドでは真に成長性の高い事業領域に投資しながらポートフォリオを形成していく。その中でイネーブラーとなるテクノロジーやビジネスモデルも特定しながら新規事業の種をつかみ未来のグループ経営に生かしていく狙いがある」と西川は力を込めた。それを象徴するかのようにファンド名からは「パナソニック」の名を外した。
2020年9月、2号ファンドの運営を開始した。1号ファンドの実績を踏まえてファンド規模を1.5倍に拡大した。現在、合計した投資先は20社に上る。今後も継続して高い投資収益を目指すと同時に、将来の成長を牽引する新規事業の創出に繋げていく。
パナソニックは、高収益体質への変革を目指し、現在事業ポートフォリオ改革を進める中で、着実に成長の種を撒いている。