「次の社長、やってもらうことになったんや。」

2021年9月10日

企業・経営 / Stories

「次の社長、やってもらうことになったんや。」

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2020年の秋、私はオートモーティブ社の本社である横浜のオフィスにいました。

突然、(当時のパナソニック社長の)津賀さんから1on1でのオンライン会議を設定され、「何か、また怒られることしたんかな?」と思いながらその会議に臨みました。

「私の後任をやってもらうことになったんや。
これは指名・報酬諮問委員会(注) の皆さんの総意や。」

(注)当社では2015年以来、社外取締役が委員の過半数を占める任意の「指名・報酬諮問委員会」において、重要な人事や報酬制度の審議を行っています

(ご参考:パナソニックのコーポレートガバナンスについて

「え???? 何それ????」

指名・報酬諮問委員会の面談に幾度か呼ばれたものの、まさか自分が次の社長になるなんて、あるわけがない、とある意味気楽に思っていただけに、津賀さんからの一言はまさに「えっ、何それ?」であったわけです。「断ることはできないんですか?」、「津賀さんでも苦労された、グループ全体の経営など私にできるとは思えません」、というような反論をしたように記憶しています。

津賀さんからは、「今やっていることや、今やっているスタイルでやってくれたらええんや、これは俺の決定ではない、指名・報酬諮問委員会の委員の皆さんの審議の結果や」と言われ、今やっている通りでええわけないやろ・・・ということも含めて、いろいろなことが頭を駆け巡りました。

私はいままで、いろんな部署で、いろんな上司から、そして様々なお客様から、いろんな事を教えてもらい、言葉では言い尽くせないほど、多様な経験・多くのことを学ばせてもらった。

その恩返しはせなあかん。でもそれは、私ひとりでできるわけもない。

創業者・松下幸之助が目指してきたこと、やってきたこと、あるいは幸之助の理念・方針を忠実に守られた諸先輩の経営を勉強し直し、社員の皆さんに忌憚なく、忖度なく、いろいろなことを言ってもらえるような風土にせなあかん。社員の皆さんの力を最大限に発揮いただきながら、パナソニックが本来あるべき姿を取り戻し、大きく発展させていくことが私に課せられた役割なんやな・・・

小一時間の問答の末、腹をくくりました。

その2週間後、2020年11月13日、私は次期社長として記者会見の場にいました。

創業者・松下幸之助への思い

私は、創業者にお会いしたことがありません。

だから、創業者が各事業の責任者とどう向き合ったのか、創業者と一緒に仕事をされた大先輩から話を聞いたり、「松下幸之助歴史館」に改めて通ったり、また創業者が残した文章や関連本を読み、経営観、人生観に触れ、創業者の考えに思いを馳せることしかできません。

松下幸之助がいまのパナソニックの社長だったら、何をどう考え、どう行動するか。

今回の事業体制の変更は、ある意味、「原点回帰」だと思っています。

1935年、創業者は分社制を敷きました。このときの組織の形が、今回の事業会社によく似ているのです。

当時、創業者は、分社化したすべての会社の社長に就いていましたが、諸先輩によると、細かいことは言わず、事業の課題を見通して、改善すべき点について示唆を与えたり、議論したり、激励することに集中していたそうです。

創業者のたくさんの指針が膨大な量の資料や記録として残っている・・・迷ったときに立ち戻る “原点” が文章や資料で残っている会社なんて、そうはありません。

創業者の経営理念を実践し、誰にも負けない立派な仕事をして、お客様にお選びいただくことで、理想的なくらしやより良い社会の実現に貢献する。その結果として、パナソニックが大きく成長する。

このことを私自身、そしてパナソニックの社員の活動の基本におきたい。そう考えています。

2021年6月24日、大阪城ホールにて行われた株主総会で壇上に立ち、その後の臨時取締役会を経て、パナソニック株式会社 代表取締役 社長執行役員に就任しました。

株主総会では、株主の皆さんから厳しいご意見をいただきました。

パナソニックは過去30年間、成長できていない状況にある。

いま私たちは、お客様や株主様から、かつてのような信頼をいただけていない。

パナソニックがもう一度大きく成長をしていくために、まず私たちは、お客様、そして社会からの信頼を取り戻さなければならない。自分が歩み始めるスタート地点を改めて痛感した日となりました。

皆さんに伝えたいこと

いま、皆さんが経験していらっしゃることは、どんな小さな経験も、ひとつの例外もなく、未来の自分につながる。視野を拡げ、ものの見方や考え方の幅や深さを拡げてくれる。

ひとつの専門分野を磨くもよし、多様な事業を経験して俯瞰の目を磨くもよし、新しいことを始めてみるもよし。道はひとつではないけれど、目の前にある仕事に全力投球することも大切だと感じます。

そのような様々な経験、それによって培われた多様な能力をもった人々が、集まり、お互いに知恵・思い・パワーを出しあっていくことがチームの、組織の大きな力となり、企業の強みとなると私は考えます。

そんな多様な皆さんと一緒に、私も全力で自らの職務をまっとうしていきます。

※本記事は「楠見 雄規@パナソニック|note」からの転載です。

記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更などにより、最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。

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