2024年1月17日

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技術・研究開発

「ひと」や「社会」の可能性を引き出すロボットテクノロジー

2023年11月29日から12月2日まで東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「2023国際ロボット展」(主催:一般社団法人 日本ロボット工業会、日刊工業新聞社)。パナソニックグループはこの世界最大級のロボット専門展にブースを構えた。キャッチフレーズは「Augment Possibility with Robotics(制約を超え、くらしを広げる)」。ロボットやロボット技術があるからこそ実現できる、より便利で豊かな世界を目指した取り組みを紹介した。

ロボットが「ひと」の制約を解き放ち、くらしの可能性を広げる

国際ロボット展は2年に1度の開催で、国内外のロボットメーカーや関連企業が参加する「世界最大級のロボットトレードショー」だ。25回目となる今回は、過去最多となる654社・団体が出展し、3,508のブースで産業・サービス・消費者に関わるロボット技術が紹介された。

同展は、「ロボティクスがもたらす持続可能な社会」をテーマに、人とロボットが共存・協働する社会の実現を目指して開催。産業を環境面から持続可能にするだけでなく、国内の労働人口減少に伴うロボット需要の増加を見据えたものだ。パナソニックグループもこのビジョンに共鳴し、出展した。

写真:2023国際ロボット展 パナソニックグループブースの様子

ブースでは、コミュニケーション・ロボット「NICOBO(ニコボ)」から、家電リサイクル工場でエアコンの室外機をロボットで分解する「エアコン室外機外装自動分解システム」に至るまで、ヘルスケア・物流・コミュニケーションといった幅広い分野に及ぶ、約10点のロボットとロボット技術を紹介した。

「今回の出展をきっかけに、パナソニックグループのロボティクス分野での取り組みをより多くの人に知ってもらいたいです。『Augment Possibility with Robotics』というキャッチフレーズの下、ロボット技術を有効活用することで、人間と社会の可能性を引き出し、いかに拡張できるかを伝えたいのです」と語るのは、パナソニック ホールディングス株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部(以下、MI本部) ロボティクス推進室 室長の安藤 健(あんどう たけし)だ。

ロボット技術をグループの各事業で活用し、さまざまな分野の課題に対するソリューションを提供することで、ロボットの種類も拡大していく。「私たちパナソニックグループの目標は、人々のくらしを豊かにすることです。そのために、製造や物流、小売、家庭など、各事業会社の幅広い事業領域でも利用できるロボットやロボット技術の提供を目指しています」と安藤は語る。

繊細な対象物も巧みにつかむ革新的なロボットハンド

その一例が、さまざまな対象物を把持(はじ)する「ロボットハンド」の開発だ。ブースでは、ハンドが繊細な物体や柔軟な物体、軟弱な物体をつぶさずにつまみ上げ、操り、箱の中に入れる動作を実演した。いずれも、吸盤を用いた従来のロボットアームではつかめなかった物だ。ハンドが力加減を絶妙にコントロールして対象物に接触するため、イチゴのようなつぶれやすい果物でも傷つけずにつまみ上げ、回転させ、優しく置くこともできる

写真:ロボットハンドが物体をつかむ様子

ハンドを多関節ロボットアームに取り付けることで、指先のベルトで対象物を器用につかんだ後、移動方向を変えて箱の中に置くという操作が可能になる。果物以外にも、ゼリーの入った袋、柔らかいボトル、ソースやクリームの入ったチューブ、シャンプーの詰め替え用パックといった製品でも同じような操作が可能だ。

パナソニックグループのロボットハンドには、主に二つの特長がある。一つは、グループが家電事業で開発した制御技術を活用し、高度な力制御を安価に実現した点だ。マニピュレーター(ロボットのアーム部分)内のセンサーで、ハンドから対象物に加わる力をわずか0.2ニュートンに抑えている。もう一つは、ハンド部分の設計だ。グリッパと二つのベルトを組み合わせた独自の機構で、対象物をつかんだり動かしたりする。ベルトがそれぞれ逆方向に動くと、対象物が回転する。

ロボットハンドは人間の手に似ていませんが、手作業に適するタスクを手と同じようにこなせます」と語るのは、開発チームのリーダーを務めるMI本部 ロボティクス推進室の池内 宏樹(いけうち ひろき)だ。「ピースピッキング、つまり個々の対象物を一つずつ箱に入れるようなタスクには最適です。eコマースが拡大する中、物流業界では人員不足で自動化ニーズが高まっています」

自律搬送ロボットが病院の人手不足を解決

ブースでは、人間の潜在的な能力を拡張するロボットのもう一つの例として、自律搬送ロボットシステム「HOSPI Trail(ホスピートレイル)」も紹介された。
HOSPI Trailは2013年に販売が開始された病院内自律搬送ロボット「HOSPI(ホスピー)」シリーズの最新モデルだ。発売以来、国内で10カ所、シンガポールで2カ所の病院で薬剤などの搬送を担ってきた。タッチパネル画面に表示されたかわいらしい顔が特徴的なHOSPIシリーズは、高性能センサーを搭載し、あらかじめ記憶した病院の地図情報を基に、人やさまざまな障害物を安全に避けながら病棟内を自律的に移動する。ロボティックモビリティ「PiiMo(ピーモ)」やリハビリ用途の歩行トレーニングロボットと同様、グループが開発した数々のヘルスケアロボットの一つだ。

写真:ロボティックモビリティPiiMo(写真左)、歩行トレーニングロボット(写真右)

ロボティックモビリティPiiMo(写真左)、歩行トレーニングロボット(写真右)

従来のHOSPIシリーズユーザーの要望に応えて、HOSPI Trailは本体の後ろに脱着可能なカート(収納庫)を備え、搬送効率のさらなる向上を実現。これまでは搬送物を受け取るためにスタッフが待機する必要があったが、HOSPI Trailは目的地に到着すると自動でカートを切り離すことができ、「置き配」型の運用が可能になった。ブースでは、HOSPI Trailがブース内の狭いエリアを動いてカートを切り離す様子が披露された。

パナソニックグループは、労働人口減少などの社会課題を解決しながら安全で快適なくらしを実現するという目標の下、人々と近い距離で共存できるロボットの開発に取り組んでいます」と語るのは、開発者であり、パナソニック プロダクションエンジニアリング株式会社 新規事業センター ロボティクス事業推進部 部長の只野 祐次(ただの ゆうじ)だ。

写真:「置き配」を実演するHOSPI Trail

HOSPI Trailのカートは、薬剤トレーが2列で18段入るタイプ、50Lコンテナが3個入るタイプの2種類があり、それぞれ60kgまで搬送できる。最大移動速度は0.75m/秒で、2時間半のフル充電後、5時間の運転が可能だ。2023年9月から販売を開始しており、病院の人手不足の解決が期待されている

「病院の人手不足は非常に深刻になってきています」と只野は語る。「われわれはHOSPIシリーズの開発以来、長期にわたってノウハウを大量に蓄積してきました。HOSPIは病院の抱える課題に良い形で貢献できると考えています」

今後のロボット開発の展望について、安藤はこう語る。
パナソニックグループが目指すのは、ロボットを日常生活のインフラの一部として取り入れることです。ロボットを珍しくないものにしていきたいのです。個々のニーズにバラバラに応えるような場当たり的な開発ではなく、各々の要素技術を丁寧に開発し、ブロックのように組み合わせることで、ご要望に応じたロボットをお求めやすく、かつ素早く開発することができるようになります。今回のブースのうち半分は、そうした未来の仕組みづくりにもつながる技術モジュールを紹介するものです」

「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現を目指すパナソニックグループ。ロボットがあるからこそ実現できる、より便利で豊かな世界を目指し、今後もさらなるロボット技術の開発・進化に挑み続けていく。

本記事で言及しているロボットハンドプロジェクトの成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP20016)の結果、得られたものです。

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