2024年12月20日
- 企業・経営
- プレスリリース
2021年の事業会社制の開始以降、変革を続けるパナソニックグループ。取締役会も、「企業は社会の公器」という基本理念に基づき、経営戦略等の大きな方向性を示すとともに、独立した客観的立場から経営に対する実効性の高いガバナンスを行うべく進化を続けている。取締役会のこれまでの変化や現在、そしてこれからのあるべき姿について、パナソニック ホールディングス株式会社 取締役会長の津賀 一宏と社外取締役 冨山 和彦氏が語り合う。
オリジナル記事: パナソニックグループ統合報告書 2023より一部編集して掲載しています。全文はパナソニックグループ統合報告書 2023よりご覧ください。
――2021年10月に事業会社制に移行し、2022年4月に持株会社を発足したことによる取締役会の変化を教えてください。
津賀:従来のパナソニックの取締役会は上程される案件が大きいものから小さいものまで混在し、やや脈絡に欠ける状況になっていました。私のような社内取締役であれば案件の内容を理解できますが、社外取締役にそれらを理解していただくのは、過酷と言わざるを得ないものでした。社会や事業環境が大きく変化する中、取締役会としてパナソニックグループのあるべき姿を描き、取締役会メンバー全員で十分な議論を可能にする必要がありました。その当時の取締役会の状況も考慮し、事業会社制に移行することが決まりました。社会からのわれわれへの期待が変化する中、当社においても事業領域を変えていく必要があり、それに伴い事業会社を変えることが求められます。そのための事業会社制ですので、取締役会の変化というよりも、事業会社がどのように変わったのかの方が重要です。その変化によって、今後、取締役会をどのように進化させていくべきか、私はこのような考え方をしています。
冨山:現在、社外取締役に就任して8年目であり、就任した当初は、「これは大変だな」という感想を持ちました。パナソニックグループには売上高2,000億円規模の事業が40個程度あると言え、それら一つひとつの売上規模は立派な上場企業クラスです。それも製造業のため、機能は多元的で少なくとも開発・生産・販売のユニットが必要です。さらに各事業はグローバルに展開しているため、掛け算をすると経営単位は数百にも達し、競合とも激しい競争を繰り広げています。これはいわば聖徳太子でなければ、経営できないレベルです。また、津賀さんのご指摘の通り、以前の取締役会では小粒な案件も多く混じっていました。取締役会メンバーは、視点を上から下まで行ったり来たりさせ、解像度を都度変えていく必要がありました。私が産業再生機構にいた際も40社程度を見ていたので、あの当時も限界を超えるレベルに達していました。ただ、再生支援が完了すれば負荷は軽減するので、当社の状況とは異なります。正直に申し上げると、以前の取締役会は案件ごとの解像度の変化が大きいため、議論に手触り感がなく、中途半端な議論となるケースも多かったです。鳥瞰的な視点で大きなテーマに解像度が合ってきても、テーマが変わることでミクロな視点になり、苦労しました。それが現在の事業会社制への移行、持株会社の発足により、取締役会の状況は大きく変化しています。現在は鳥瞰的な視点で各事業会社が機能しているのかを監督できるようになり、グループ全体に対する手触り感も出てきました。
――持株会社としての取締役会のあるべき姿、果たすべき役割は何でしょうか?
津賀:事業会社はお客様第一であり、お客様に何をしていくのかを常に考えています。しかし、社会が大きく変わる際、既存のお客様に寄り添い過ぎると社会の変化に追随できなくなるケースもあります。そのためホールディングスの役割として、社会の変化を冷静に見極めることが重要です。ホールディングスは将来の変化を捉え、事業会社はお客様にしっかりと寄り添う、このような役割分担が最適であると考えています。
冨山:ホールディングスはメタ視点で時間と空間を広げて考える必要があります。10年後、20年後を見据えたバックキャスティングはホールディングスが担う領域であり、このような観点の議論は取締役会でも増えてきています。また、事業会社への監督も、収益性等を確認する会計的な面とメタ視点を基にした中長期的な面の両面が必要であり、それらを備えた取締役会が理想の姿であります。
津賀:取締役会の監督機能の発揮は、社外取締役の過去の経験、スキルに依存していると感じています。例えば、長期の産業構造の変化を捉えている社外取締役と現場に強い社外取締役では、監督方法は変わってきます。われわれは製造業であるので、取締役会はメタ視点に加えて、ホールディングスと事業会社をつなぐ現場視点も必要と考えています。
冨山:その点で現在の取締役会は、さまざまな経歴の社外取締役がいるので、良い構成と感じています。
――当社取締役会が他社との比較で優れている点、ユニークな点はありますか?
冨山:取締役会のメンバーは真面目で裏表がないという印象があります。ただ、これを裏返すと、皆さん調和型であり、取締役会に上程される前に議論の方向性がある程度調整されているとも言えます。そのため取締役会で弁証法的に激しくぶつかり合いながら物事が決まることは、多くはないです。私が社外取締役に就任した当初は特に調和型の取締役会という色が強かったですが、現在はだいぶ深い議論が増えてきています。
津賀:特にBlue Yonder(ブルーヨンダー)買収の際に、社内会議でも取締役会でも激しい議論をしました。
冨山:私はそのような議論が好きです。アドレナリンが出るのを感じます。最近のパナソニックグループは、良い意味で経営の舵(かじ)を大きく、かつ素早く切れるようになってきました。その点で当社の取締役会は面白いです。現在は本当に社外取締役として充実感を得ています。
津賀:実は、昔の取締役会は活発な議論が少なく、執行側の決定事項を取締役会が容認するような雰囲気でした。社外取締役の力を借りながら、取締役会が進化することができ、感謝しています。
――取締役会としてパナソニックグループの課題をどのように認識されていますか。
津賀:成長するには売上が必要でありますが、売上を伸ばすと収益が低下することに以前から苦しめられてきました。どのようにすれば成長性と収益性を両立し、企業価値の向上を実現できるのか、その思いは元社長の私としては強いものがあります。現在のパナソニックグループは、テレビなどのAV機器の売上が全盛期と比べると大幅に減少し、半導体事業を外部に売却する等、大きな事業の塊がなくなり、どこか穴が空いたような状態にあると言えます。それではこの穴をどのようにして埋めるのか。私はパナソニックグループに新しい柱が必要で、それを1つでも多く増やしていくことが重要であると考えています。もちろん、当社の企業規模からして数百億円の事業規模では柱にはなれません。これまでさまざまな投資をしてうまくいかないこともありました。それがやっと、楠見さんの時代になり、柱のようなものが出てきました。それが車載電池です。取締役会の思いというよりも、私自身に「パナソニックグループに柱が何本かあるようにしたい」という強い思いがあります。
冨山:今の話を異なる見方で捉えると、当社特有の問題ではなく、日本のエレクトロニクス業界が直面してきた課題と言えます。デジタル化の進展に伴い、付加価値の源泉が移り変わり、例えば、テレビを製造しても収益を上げられず、儲かるのは動画配信企業や半導体企業です。以前のように柱が作れない現在の状況は、経営の難易度が高いです。パナソニックグループはいわば日本の象徴のような企業体であり、これまで日本企業が直面してきた多くの課題と対峙してきました。パナソニックグループが良くなることは日本にとっての希望であるとも言え、私はパナソニックが新しいソリューションを創出することを期待し、社外取締役に就任した面もあります。また、デジタル、環境をはじめとし、さまざまな分野でトランスフォーメーションが発生する中では、企業として変容力を持つ必要があると考えています。企業経営論的には、「どのようにしてパナソニックグループが変容するのか、その変容力があれば自然と柱は生まれる」と言えます。事業会社制に移行することで外形的な会社の形は変わりましたが、今後は会社の経営面を変えていく必要があります。この点は当社の取締役会が認識し、皆が同じ思いであると感じています。また、財務的な観点では、今後は技術的なイノベーションとセットになった設備投資が必要です。まさに車載電池はその典型です。新たなイノベーションを実現しながら、矢継ぎ早に設備投資する必要があり、このような投資は当然リスクも高いです。例えば、高度成長期にテレビの工場を建設するのに比べ、明らかにリスクが高い。そのため成熟した事業の中に投資原資となるキャッシュを創出する力が求められ、それは当社が営業CF(キャシュ・フロー)を重視している理由の1つでもあります。リスクが高い中で柱を作るには、競争優位性がある事業でキャッシュを創出し、その資金をグループ全体で回していくことが求められます。この点は取締役会で今後議論していく必要があると認識しています。
津賀:事業会社制に移行したことで、今回のような車載電池の大型投資案件が上がってきたと考えています。事業会社の財務能力を超える投資は、ホールディングスであれば意思決定が可能です。冨山さんのご認識の通り、今後はいかにしてグループ内で資金を回していくかが重要です。
――2023年5月のグループ戦略説明会において、「地球環境問題の解決」、「一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」にフォーカスしていくとの方針を打ち出しています。グループが目指す姿の実現に向けて、執行側をどのように監督していくのか教えてください。
津賀:楠見さんはグループの執行責任者ですが、事業会社の社長ではありません。事業会社側の執行責任は分かりやすいですが、ホールディングス側の執行責任は何であるのか、この点は楠見さんをはじめ、皆で頭を悩ませている問題です。「執行とは何か」というプリミティブな論点もありますし、「現在の執行に実効性があり、結果が出ているのか」という論点でも、この問いは深いと考えています。事業会社制の中、ホールディングスとしてどのように執行していくのかは、今後のチャレンジです。また、ホールディングスのみが変わっても、グループ全体は変わらないと認識しています。やはり、事業会社が変わらなければ、グループは変わりません。今後、ホールディングスと事業会社の双方で時間をかけて議論し、執行の質を高めていくことが重要ですが、これは楽しみ以外の何物でもありません。事業会社ごとに特性が出てきており、期待できる形になっています。
冨山:パナソニックグループは、ホールディングスにおける監督・執行、事業会社における監督・執行の2層構造にあります。事業会社に対して、楠見さんは監督する側です。現在の状況は、創業者・松下幸之助の言葉に「任せて任さず」というものがありますが、その立ち位置でどのように機能させるかが重要であると考えています。まさに、創業者の経営や企業統治への原点回帰とも言えます。
――取締役会の実効性をより一層向上していくには、何が必要でしょうか?
津賀:パナソニックグループは過去から分かりにくい会社であると言われています。当社のような会社を外部から分かるように捉えると、一面的な捉え方や抽象的な捉え方になりがちです。そのため当社に必要なことは、外部からも分かりやすい会社にし、適切に評価してもらえるようにすることです。その状況になれば、資本市場をはじめとした外部から適切なフィードバックが入るようになり、当社の取締役会の実効性向上につながると考えています。
冨山:「取締役会の実効性向上」という言葉を置き換えると、「取締役会での議論が回りまわることで、長期的な企業の繁栄・成長が実現すること」とも言えます。当然ながら、取締役会は今日、明日の議論をする場ではなく、議論の時間軸は格段に長いです。特に、事業会社制に移行し、ホールディングスになったことでその傾向はより強いものになっています。事業会社がお客様へのお役立ちを高め、その付加価値に見合った適切な対価を頂いているか、短期・中期・長期の観点で付加価値の源泉を創造しているかなど、取締役会がしっかりと監督していく必要があります。また、パナソニックグループが社会からどのように見られているのか、メタ視点でしっかりと認識し、取締役会で議論することが実効性に大きく影響すると考えています。そのため取締役会メンバーの人選は相当に重要なことです。繰り返しになりますが、社外取締役は株主の代理人ではなく、未来永劫(えいごう)に続いていく株主の代表者です。われわれ社外取締役も株主から包括委任を受けています。このことを理解している取締役会メンバーが必要です。
津賀:常に会社に接しているわけではない社外取締役の方々に、一般的に分かりにくいと言われるパナソニックグループのことをポジティブ、ネガティブを含めて十分に語っていただけるようにしていきたいです。それが実現すれば、取締役会の実効性が向上したと言えると考えます。
記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。