この問題を解決するために開発チームが着目したのが、磁気共鳴映像法(MRI)検査や深宇宙のブラックホール観測に用いられている、圧縮センシングという信号処理技術だ。同技術を用いることで、アンダーサンプリング(多数派のデータを少数派のデータ数に合わせて削除する手法)した信号から画像を再構成することが可能になる。これによって、暗い室内でも使える高感度を備え、標準的なカメラのフレームレートと分解能で動画にも対応できるハイパースペクトル画像システムの開発に成功した。
パナソニック ホールディングス テクノロジー本部 マテリアル応用技術センターの八子 基樹(やこ もとき)は次のように語る。「従来のシステムより、感度を10倍以上高めることができました。この『明るいハイパースペクトルカメラ』は、世界初の開発技術であり、高い有用性を秘めています。今回のイノベーションのカギは、色を混ぜ合わせ、また分離できるフィルタの設計です」。
この研究成果は、ベルギーの研究機関であるimecの研究員との共著により、科学雑誌『Nature Photonics』(※3)に掲載された。その論文中で、著者らは「このカメラによって、スマートフォンやドローンといった一般消費者向け用途を含む日常的な文脈においても、ハイパースペクトル技術の利活用が広がることが期待できる」と記している。
このカメラによる実用的な動画撮影用途の例として、開発チームは、標準的なオフィス照明の下でメトロノームの振り子が時を刻む様子をハイパースペクトルビデオ(クリックで参照)で撮影し、その有効性を示している。従来のハイパースペクトルカメラを用いて同じ照度で動画撮影しても、画像は暗くなってしまう。動画の左半分は標準的なRGB(一般的なディスプレイ表現で用いられる、R=Red(赤)、G=Green(緑)、B=Blue(青)からなる色表現)カメラ、右半分はハイパースペクトルカメラによって撮影された映像で、解像度と感度が同程度であることが分かる。