介護、メンタルケア…現代社会の悩みに光を。 社内起業で生み出す未来の「カデン」

2023年3月8日

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介護、メンタルケア…現代社会の悩みに光を。 社内起業で生み出す未来の「カデン」

パナソニックグループには、社員一人ひとりの生活者視点による気付きや課題意識を、グループで保有する技術やノウハウと掛け合わせて事業化へとつなげていける体制、風土がある。社会課題を見つめ、お客様のくらしに寄り添い、悩みや不調を抱える人たちを取り残すことなくお役立ちを果たすために――。今回は、パナソニック株式会社で2016年から展開している新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト、以下GCC)」のビジネスコンテストにエントリーし、人々のより良いくらしを支える未来の「カデン」(※)づくりに取り組む社内起業家たちを紹介する。

※未来のカデン:電化製品に限らず、モノからコトへのシフトなど、くらしにまつわるサービスやコンテンツによる価値提供を含めた幅広い概念

Profile

写真:ギフモ株式会社 水野 時枝(みずの ときえ)

水野 時枝(みずの ときえ)
ギフモ株式会社
(パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 在籍)
パナソニック株式会社に入社後、品質管理担当として長年にわたり調理家電の開発に関わる。
2016年、GCCの第1期生としてエントリー。調理された食事を、見た目と味はほぼそのままに、やわらかく軟化加工する専門調理機器「DeliSofter(デリソフター)」の開発リーダーとしてモノづくりを進める。
2017年3月、米国の「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」でプロトタイプを披露。
2019年4月、ギフモ株式会社を設立。GCCから初の事業化を果たす。

DeliSofter 公式サイト - ギフモ株式会社
https://gifmo.co.jp/delisofter/

写真:パナソニック株式会社 事業開発センター FLOWUSチームリーダー 大庭 めぐみ(おおば めぐみ)

大庭 めぐみ(おおば めぐみ)
パナソニック株式会社 事業開発センター FLOWUSチームリーダー
(パナソニック株式会社 空質空調社 企画本部 経営企画センター 在籍)
2019年にパナソニック株式会社にキャリア入社。異業種からメーカーへのチャレンジで、モノづくりの面白さに目覚める。
2021年度のGCC第6期メンバーとなり、「ココロとカラダの両方にアプローチするセルフケアの選択肢=心の温浴」のための新カデン「FLOWUS(フローアス)」の開発をスタート。
2023年2月現在、「FLOWUS」のプロトタイプが完成。事業化に向けて検証継続中。

FLOWUS - Ideas - Game Changer Catapult - Panasonic
https://gccatapult.panasonic.com/ideas/flowus.php

介護を担う家庭へ、家族全員が楽しめる食事の時間をお届けしたい

水野が手掛ける「DeliSofter(以下、デリソフター)」は、出来上がった料理(市販のお惣菜やご家庭の手料理)を、電気圧力鍋の原理を生かして見た目や味はほぼそのままにやわらかくする、新しい調理家電だ。

写真:デリソフター

高齢化や病気などのさまざまな理由で、摂食、嚥下(せっしょく、えんげ。噛むこと、飲み込むこと)に困難を抱える人がいる――水野がデリソフターの開発を思い立ったのは、職場の同僚から「介護している家族の食事の用意が毎日大変」という話を聞いたのがきっかけだった。

水野「同僚の高齢のお父さんは噛む力が弱くなってしまい、やわらかいものしか食べられなくなっていました。そこで、個別に調理したやわらかい食事を出したところ『こんなものは食べたくない』と言われてしまった。こちらは栄養を摂ってもらうために手間と時間を費やして準備しているのに、なかなか受け入れてもらえない……。楽しいはずの食事の時間が、いつしか憂鬱な時間になってしまったそうです」。

写真:インタビューに応じるギフモ株式会社 水野

水野「その体験談を聞きながら、これは、現代社会に生きる私たちにとって、ごく身近な問題だと実感したんです。
咀嚼(そしゃく)する力や飲み込む力が弱くなる摂食障害や嚥下障害――つまり『もぐもぐ、ごっくん』することが難しくなるというのは、実は誰もがいつかは経験するかもしれないこと。もし自分がうまく噛めない、飲み込めないとなったとしたら、日々の食事はどうなるか? 食べることは毎日の楽しみのひとつであることに変わりはない。でも、多くの場合、安全性を重視してとろみをつけたり、細かく刻んだり、ペースト状にしたりと、通常の食事とは違う状態に加工されます。そうなると料理としての見た目・食感が変わってしまい『私だけ皆と違う』となってしまう。その人のために食事を準備する側にとっても、毎日の調理がストレスの要因となります。

食事は本来、生きるために欠かせない、心もおなかも満たす楽しいもの。こんなふうに困る人たちが生まれないよう、パナソニックの技術を駆使して家族皆が同じ食事を笑顔で楽しめる機会を提供できないか――そう考えていたところ、GCCの存在を知り、迷わずエントリーしました」。

GCCは2016年にパナソニック株式会社に新設された、新規事業の創出を目指す組織だ。商品軸ではなく住空間・家事・育児・教育など多岐にわたる領域軸でテーマを設定し、自分のアイディアで社会の課題を解決しよう、新しい価値を生み出そう、という情熱を持った社員にとっての「発射台」となるべくスタートした。水野の企画は無事審査をパスし、彼女はGCCの第1期生として事業創出に取り組むこととなる。

当初は「調理前の食材をやわらかくする」ため長時間煮こむことを想定した調理家電を目指していた。しかし、市場調査を重ねていく中で、介護に追われながら通常食とは別に食事を作るしんどさ、高齢者は一人分の食事を作るよりスーパーでお惣菜を買って済ませるケースも多いという実態も見えてきた。
そこで、作るべきは「調理後の食材を、見た目そのままで、やわらかくできる」家電なのだという方向性が定まっていった。

2017年3月には、米国で開催された世界最大級の複合フェスティバル「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)」でプロトタイプを披露した。

水野「私はもともと品質管理の部署に所属していたので、エントリー当初は事業創出についての知識が豊富にあったわけでもなく、本当に大変でしたね。でも、試作品に触れた方たちの反響から、『商品化の先に必ず救える人たちがいる』という確信は一層強くなりました。負けん気を発揮して、お客様の声を少しでも多く聞くために施設などへ足しげく通いましたね。少しずつ仲間も増やして、モノづくりを進めていきました」。

その後も改良を続け、2019年、ギフモ株式会社を設立。GCCにエントリーした事業アイディアの中から、初の事業化を果たすこととなった。

写真:ギフモ株式会社 外観

京都市下京区にあるギフモ株式会社。玄関先には社名つきの暖簾も。
水野「デリソフターはご家庭で使うもの。気軽にお越しいただいて、商品を実際に手に取りおうちでの使用のイメージを持ってもらえたらと思っています」

デリソフターで調理した食材は、舌や歯茎でつぶせるやわらかさに。見た目と味は調理前の状態とほぼ変わらない。

写真:デリソフターで調理した食材をフォークでつぶす様子(つぶす前)
写真:デリソフターで調理した食材をフォークでつぶす様子(つぶした後)

水野「デリソフターは、舌癌、口腔がん、入れ歯の方にも喜んでいただけています。
『それまでは最初から食べることを諦めていた食材も、試してみようか、と会話が生まれるようになった。そんな時間が増えたことがありがたい』というお声もいただきます」。

写真:左から、ナショナルブランドの電気圧力鍋、デリソフターのプロトタイプ、デリソフターの現行商品

開発当初、水野は自身が長年愛用しているナショナルブランドの電気圧力鍋(写真左)で試作を繰り返し、デリソフターのプロトタイプ(写真中央)開発に生かした。その後、デザインを大幅にリニューアルし、2022年10月に現行商品(写真右)へと進化、好評販売中だ。

写真:デリソフターと、デリソフターで炊いた玄米ご飯

デリソフターは従来の調理家電としても使える。写真は玄米ご飯が炊きあがったところ。「お米は一升まで炊けます。普段のお料理にも活用いただけます」

写真:カードタイプのワンポイントアドバイス

デリソフターには、カードタイプのワンポイントアドバイスも同梱されている。例えば「とりもも肉の唐揚げ」では「鶏肉の皮は喉に張り付きやすいので皮を外すほうが安全」といった一言を記載。「後からレシピを増やしていただけるように、あえてリングで綴じる形式にしてあります」

不調を知り、自分で対処する。自分を愛おしむ。そんな毎日をサポートしたい

2020年。コロナ禍の折、GCCの取り組み内容をパナソニック社内に向けてオンライン発信する機会があり、水野も自らの思いと共にデリソフターの紹介を行った。その様子を画面越しに見ていた社員の一人が大庭だった。

大庭「当時はGCCのこともよく知らず、たまたま配信を見ていたんです。この時に水野さんの存在を知り、ものすごい衝撃を受けました。イベント後、思わずファンレターを書いてしまったぐらいです」。

水野「大庭さんにお手紙を頂戴してからしばらくして、GCCの広報メンバーから『水野さんに会わせたい人がいる。GCCにエントリーしたばかりの人で、どこか水野さんに重なるところがある』と紹介されたのが、まさに彼女でした」。

写真:デリソフターで調理した食材を試食する、水野と大庭

この出会いがきっかけとなり、大庭は「私自身にもある課題解決への思いをカタチにして、悩んでいる人の助けになれたら」とGCCにエントリー。その企画は2021年度のコンテストを通過し、大庭はGCC第6期生として社内起業家の一歩を踏み出すこととなった。

大庭が打ち出したのは、「FLOWUS(以下、フローアス)」という、自宅の浴室で手軽に蒸気浴を楽しむことができるデバイスだ。
家庭の浴室のシャワーにフローアスを接続することで、浴室を高温の蒸気で満たし、リラックス空間を作り出す――現代人の疲れたココロとカラダをほぐす、日々の新習慣の提唱も含めて、開発を進めている。

フローアス コンセプトビジュアル

フローアスのコンセプトビジュアル。「ココロとカラダを蒸気でつつみこむ」

写真:フローアス 使用イメージ

フローアス 使用イメージ

大庭「現代社会を生きる私たちは、気付かないうちに心身に負担を重ねて、パフォーマンスが落ち、そのことでまた自分自身を責めてしまう……そんな場面が多いのではないでしょうか。実は私自身、以前の職場で『ある日突然、机に向かえない』状態になった経験があります。本当に突然の出来事で、まさか自分がそんなことになるとは思ってもいませんでしたし、回復までの道のりは想像以上に苦しいものでした。そんな時期を手探りでなんとか乗り越えてきた経験から、たとえ今日は元気でも、明日、不調が訪れるかもしれない。それは、現代社会を生きる誰にでも起こり得ることなのではないかと思うようになりました。

私自身の経験からも、その日受けたストレスをその日中に解消することは、心身の健康に大切なことだと実感しています。最近は、心も体も『ととのう』からと、サウナが人気ですよね。浴室というのは日常生活の中で強制的にシチュエーションを変えられる場所。そこで日々のストレスをできるだけ『いなして』『回避して』パワーをチャージできる……そんなカデンを創ろうとしています」。

写真:フローアスのプロトタイプを手にする大庭(写真右)と、水野

大庭が手にするのはフローアスのプロトタイプ。「ここからどんどん改良を重ねていきます」

大庭「病気の診断が伴うケースは、間違いなく医療に頼るべき領域です。不調の予兆に気が付いた時点で、自分自身をいたわる=セルフケアの習慣を持つことが大事だと確信しています。少しでも不調を感じたときに、手軽に日常に組み込んで使えるソリューションとして、開発を進めています。お風呂を洗ったり、お湯を入れたりすることさえ、しんどい状況もある。心と体の両方に作用する心地よい蒸気浴の環境を、自宅のお風呂の中で作り出せる――ありそうでなかった、フローアスならではの特長だと思っています」。

パナソニックだからこそ創れる、届けられる

水野「私たちの共通点は、少しでも悩む人の課題解決のチカラになりたいということ。そのために、モノづくりを通してできることがあると信じていることですね。パナソニックの技術というものは、視点を変えることで世の中のさまざまなお困りごとにもっとお役立ちできるのでは、と思うんです。でも私個人は、実際に製品としてカタチにしていくための知識や技術に長けているわけではない。だから、仲間たちに力を貸してもらいます。大切にしているのは、創業者・松下幸之助の『素直な心』という言葉。一人でいくらがんばっても、できることは限られている。素直な心で周囲に声を掛け、一緒に進めていくことで、必ず道は開けていきます。得意分野で力を出し合って、その製品を待っている方たちに価値をお届けする――時代は変わっていっても、そんなモノづくりができるのがパナソニックのいいところです」。

写真:水野(写真左)、大庭

水野「私が常に意識するようにしているのは、『会社の枠を一歩出たら、社員も一人のユーザー、一人の生活者』だということ。自分もお客様と同じ視点で、くらしについて考える。そこから、世の中がパナソニックに何を求めているのか、どんなソリューションをお届けするべきなのかが見えてくると思います」。

大庭「初めは『こんな世界をお客様にお届けしたい』という気持ちだけでもいいと思います。その熱量に賛同してくれる人、サポートしてくれる人がたくさん集まっているのがパナソニックだと思います。同じワクワクを感じて、一緒に走ってくれる人が必ず見つかります。
モノづくりも含めて、『衆知を集める』。たくさんの方の力をお借りしながら、ここまで推進しています」。

写真:インタビューに応じる大庭

水野「GCCにチャレンジしたことで、大切なお客様や専門家の方たちとのご縁を頂くことができました。大変なこともたくさんありましたが、事業創出における苦労・苦しみは、決して失敗ではないんです。今後も、熱い思いを持つ人たちに挑戦してもらいたいですね」。

大庭「私もゼロからのスタートで、開発リーダーになってからリーンスタートアップ、マーケティング、モノづくり、顧客理解などを学び始めました。GCCや水野さんを知ることがなければ、何も知らないままだったかも。想定外を楽しめて、テーマを進められる人ならば、得るものがたくさんあると思います」。

写真:GCCの旗を持つ大庭(写真左)、水野

「GCCによって良き出会いに恵まれ、多くを学ぶことができました」

水野と大庭がそれぞれの事業化の先に描いているビジョンは、いわゆる「ビジネスの成功」だけではない。水野の場合は、主には介護・介助の現場での「食」をサポートすること。そして大庭は「疲れたココロとカラダを癒して明日をより健やかに」――現代社会が抱える課題に対し、自らの気付きを出発点として、実際に悩んでいる「すぐ隣の人たち」をより多く支えるためのソリューションとして磨き上げ、ウェルビーイングをサポートする姿勢を貫いていく。

パナソニックグループでは、今回の二人のように、新規事業の立ち上げに向けて多くの社員が日々奮闘している。情熱を胸に、組織の垣根を越え、お客様にとっての「あるべき姿」を追求していく社員一人ひとりの挑戦する姿に、今後も注目してほしい。

記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

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