2024年12月6日
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日本で排出される産業廃棄物のうち、減量・再生利用されず最終処分されるものは、約900万トンにも上ります(※1)。長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」のもと、自社、そしてくらしやビジネスにおけるCO2削減に取り組むパナソニックグループは、製造工程で排出される工場端材の再利用に向けたプロジェクトを推進。キッチンカウンターの天板の素材(※2)として使用している「人造大理石」の端材をアップサイクルするエコシステムの構築に取り組んでいます。社内外で垣根を越えながら、新しい資源ライフサイクルの創出を進めるプロジェクト――その中で生まれている端材の新たな進化のカタチ、試行を重ね実ビジネス化を推進するメンバーの想いをご紹介します。
※1 参考:「リサイクルデータブック2022」
※2 パナソニック住宅設備株式会社が製造
パナソニックグループでは、生産プロセスで生じる資源のムダを減らすべく、工場端材をできるだけ「そのまま」使い、魅力的なプロダクトとしてアップサイクルするノウハウ・仕組みの構築を推進しています。プロジェクトの主体となっているのは、パナソニック ホールディングス株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部(以下、パナソニック ホールディングス)。担当する和田 享(わだ とおる)は、そのアップサイクルの仕組みそのものを、社会全体で持続的に活用できるエコシステムとして磨き上げていくことを目指しています。
「今回着目したのは、キッチンカウンターの素材となる人造大理石です。もともと人造大理石は、機能性、意匠性、堅牢性など、素材として非常に優れた特性を持っています。ですが例えばシステムキッチンのシンクを組み込む部分だと、製造工程でくり抜かれた後の端材がどうしても発生します。でもこの端材の素材自体は、製品になる部分と何ら変わりはなく高品質なんです。
こうした端材の再活用を事業化することはできないものか……具体的には、それぞれの端材の形をデータベースに落とし込んで広く世に公開し、多くのクリエイターさんに再生利用してもらえる仕組みを作れないかと考えました。有識者の方からも意見を伺いながら、構想を練り始めたのが2021年のことです」。
パナソニックのシステムキッチンとカウンター
パナソニック ホールディングス株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部 企画部 モノづくり企画課 和田 享
「工場端材にもいろいろな素材がありますが、金属でできたものは、すでにリサイクルの道筋が確立しています。一方、人造大理石については、安定した次の行き先が見えておらず、ここに事業機会創出の可能性があると思いました」。
和田が声をかけたのが、キッチンカウンターの開発を担当するパナソニック ハウジングソリューションズ株式会社 イノベーション本部の笠原 朋樹(かさはら ともき)。人造大理石という素材のプロフェッショナルとしてプロジェクトへの参加を打診しました。
笠原:「長年、水廻り関連やキッチンカウンターの設計開発を担当しています。キッチンカウンターの素材である人造大理石は、自信を持って品質の良いものを作っていますし、それを二次活用するノウハウの確立にもぜひ携わりたいと考えました」。
パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社 イノベーション本部 ものづくり綜合技術センター 先行材料・成形加工技術開発部 先行材料技術開発課 笠原 朋樹
キッチンカウンターの素材である人造大理石の再利用に当たっては、その優れた堅牢性ゆえの悩みどころがありました。
笠原:「キッチンカウンターは家庭内の他の什器や家具より過酷な使われ方をされるのが常。熱いフライパンが当たったり、逆にドライアイスなど冷たいものを置かれたりするケースもあり得ます。こうした熱や汚れなどに強く、高い硬度で安定してお使いいただける素材として私たちは人造大理石を採用しているんですね。そのため、いざ再利用となると、細かく砕いたり溶かしたりといった二次加工がしづらいという側面もあるんです」。
こうした側面も踏まえ、どのようなアップサイクルが可能か――グループ内の垣根を越えた協力体制を固める一方で、和田と笠原は以下の3つにチャレンジしました。
1. データ活用
端材の形状を図面化し、多くのクリエイターがデータベース上で活用しやすい環境を提供。
2. 二次利用エコシステム
データ化された端材を「限りなく無駄なく使う」ことを促す設計支援プラットフォームを開発。
3. クリエイターとの協業
一点物(カスタム、パーソナライゼーション)から量産品(マスカスタマイゼーション)まで、サステナビリティに貢献するモノづくりに熱意のあるクリエイター・有識者との協業。
笠原:「まず『データ活用』ですが、端材のサイズや質感については、製品用の設計図である程度のバリエーションが見えていましたので、一つひとつを3DCADのデータとして落とし込みを進めました。
次の『二次利用エコシステム』は、デザイナーや設計担当の方に使っていただくためのプラットフォーム開発です。この2つはパナソニックグループ内で推進しました」。
そして、欠かせないのが「クリエイターとの協業」。プロジェクトに共感いただけるパートナーやクリエイターとの連携を目指し、まずは、パナソニックグループの長年の共創相手である株式会社ロフトワーク(以下、ロフトワーク)に声を掛けました。
和田:「日ごろからサステナビリティを強く推進されているロフトワークさんに協力いただき、社外のクリエイターの方たち約80人ほどを招いて、人造大理石を知ってもらうための展示会を開催しました」。
笠原:「展示会で人造大理石に初めて触れる方が多く、『これは良いものを教えてくれた』と喜んでいただけて。すでに知っていた方も、『イチから材料を入手しようとするとコスト的にしんどいが、端材が使えるならばコスト面だけでなくサステナビリティにも貢献でき一石二鳥』と評価いただきました」。
展示会をきっかけに新たな連携が具体化する中、実際にプロトタイプを作ってみよう、ということになりました。
笠原:「クリエイターさんからいくつか斬新なアイデアを出していただき、モノづくりを進めていきました。私は皆さんの設計図を拝見し、構造が安心安全となり得るか、の視点で確認しました。例えば、それなりに重量のある端材をテーブルの天板として使う場合、支える脚が本当にその形状や細さで十分か、といった点です」。
プロトタイプづくりは順調に進行し、4点が完成。2022年7月、東京・渋谷のロフトワークが運営するFabCafe Tokyoで、材料サンプルと共に披露しました。
左上「re-think table」「re-think stool」/株式会社船場 re product チーム
左下「Generative Scaffolding」/岩沢兄弟×堀川淳一郎
右上「counter“a”part」/岩沢兄弟×堀川淳一郎
右下「connec-table」/株式会社船場 re product チーム
笠原:「実際にプロトタイプをご覧になったお客様から、『この色いいね』『素材がカッコいい』などと声をかけていただいたのはキッチンカウンターの開発者として新鮮な体験でした」。
和田:「私たちがこれまで『端材』として見ていたものがさまざまな形に生まれ変わり、新たな場所で再びお役に立てる――この流れを創出できたことで、社内にも良い風が吹いたように思います」。
プロジェクトは、プロトタイプ完成・お披露目で終わりません。社内外での反響を踏まえ、今も実ビジネス化への歩みを進めています。プロトタイプ「Generative Scaffolding」「counter“a”part」を手掛けた、岩沢兄弟のいわさわ ひとし氏は、2022年12月、人造大理石を用いた新作を発表。FabCafe Tokyoで実際に使用されるカウンターテーブルとして納品されました。
FabCafe Tokyoに設置されたカウンターテーブル。天板に、白色の人造大理石端材と木材を組み合わせ、タイルのように目地材で固定しています。
今回プロジェクトマネジメントの役割を担ったロフトワークの長島 絵未(ながしま えみ)氏は、いわさわ氏をはじめとするクリエイターへ参画を呼び掛け、クリエイティブの支援を行ってきた一人です。
株式会社ロフトワーク ディレクター 長島 絵未氏
長島氏:「今回は、完成品を扱うプロジェクトではなく、これから形づくるフェーズでした。なおかつ扱うマテリアルそのものが、未だ市場にない工場端材。この点で、熱意をもって取り組んでくださる方へオファーしました」。
岩沢兄弟(有限会社バッタネイション 代表取締役) いわさわ ひとし氏
いわさわ氏:「今回扱う人造大理石は、キッチンカウンター専用の素材というところに興味を引かれました。一般に資材として見かける人造大理石は、もう少し柔らかい。過酷な環境での使用に特化した堅牢性、あえて凸凹をつけ本物の石に近づけた意匠性……端材なので大きさや形が一律でなく、切り口など一つひとつ微妙に違うのも新鮮でした。硬いため二次加工しづらいという課題もありましたが、どのように特性を新たな形に生かし、使いやすいものにするか、そこにやりがいを感じました」。
ドリンクのコースターの役割を想定し、お客様が座る側に多く木材を配置。デザインのポイントとしつつ、使いやすさにも配慮。
先行して手掛けたプロトタイプ「Generative Scaffolding」は、端材そのままに金属の脚を取り付ける構造。デジタルシミュレーションで、端材の形に合わせて脚をデザインできます。
いわさわ氏:「端材自身に、製造工程で生まれたというストーリーがある。この端材を加工すると、そこでまた端材が生まれる可能性もある。ではそのまま使えばよいのでは、との発想に至りました。新作のカウンターテーブルでは、端材の形を生かしつつ、クリエイターに『使いやすい素材』と感じてもらうことを意識し、切断した端材を組み合わせる構造にしました」。
長島氏:「今回のカウンターテーブルは、プロトタイプから一歩進んだ『プロダクト』です。実際に端材一つひとつを材料として購入し、完成品として制作・納品しました。お客様がカフェ利用で過ごすほか、イベント時はシェフがその場で調理・提供するオープンキッチンとして活躍することも。人々が憩う場となり、多くの人の目や手に触れてもらっています。
プロジェクトの活動を知ってもらい、新たに環境問題を考え、アクションを起こすきっかけになればうれしいです。子ども向けのワークショップや、環境への意識が高い海外地域での展開もできたらと考えています」。
当初の構想どおり、プロジェクトは着実に前進し、新たなつながりが生まれ続けています。
和田:「これからは社内・社外関係なく、社会の中で日々生まれている端材をいかに減らしていくか、皆で考えていかねばならない時代。今回の取り組みをモデルケースとして広めていければと思います。さらに言うと、製品として世に出たものも、いずれは役目を終える日が来ます。そうした使い終わった製品も見逃すことなくアップサイクルの対象として組み込んでいけるエコシステムを創り上げたいですね」。
パナソニックグループは、グローバルで喫緊課題である環境問題の解決に貢献することを目指しています。それは、決して企業として標榜しているに留まりません。今回のプロジェクトのように、社員一人ひとりの課題意識を起点に、各々が向き合う業務や共創パートナーとの連携の中で、実際のアクションと成果につながっていく――そうした事例が、グループ内で多く芽吹き始めています。始まりは個人の気づき・小さなアクションでも、アジャイル式に進化を重ね、環境問題の解決に大きな貢献を果たす活動へ――。その実現を目指し、パナソニックグループは引き続き、取り組みを未来へとつないでいきます。
記事の内容は発表時のものです。
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