本当に欲しいものを、諦めずカタチに――「押し歩き」機能付き電動アシスト自転車

2022年9月5日

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【Aim Higher】本当に欲しいものを、諦めずカタチに――「押し歩き」機能付き電動アシスト自転車

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元バレーボール日本代表の福澤 達哉が、パナソニックグループで挑戦する社員をインタビューするシリーズ「Aim Higher(エイム・ハイヤー)」。今回はパナソニック サイクルテック株式会社の柏谷 登喜子、山澤 貴史の2人に話を聞いた。
移動・運動・環境に対する意識の変化と共に、人々のくらしや健康を支えてきた電動アシスト自転車。コロナ禍で密を避ける移動手段や、運転免許返納の動きが加速する高齢者の自動車からの乗り換えとしても存在価値が高まっている。業界初の押し歩き機能付き電動アシスト自転車「ビビ・L・押し歩き」は、くらしの中での「使いやすさ」を追求し、お客様の声に耳を傾けながら開発を行う中で誕生した。その開発の裏側に迫る。

Profile

写真:パナソニック サイクルテック株式会社 技術管理部 部長 柏谷 登喜子(かしたに ときこ)(写真左)、パナソニック サイクルテック株式会社 開発部 ソフト開発課 主務 山澤 貴史(やまざわ たかし)

柏谷 登喜子(かしたに ときこ)※写真左
パナソニック サイクルテック株式会社
技術管理部 部長
2009年キャリア入社。商品開発部で海外モータユニットセット構成と開発業務、治具や要素部品の設計業務に携わる。2015年原価管理係に異動、2020年まで原価構築推進。現在技術管理部 部長。2012年「子乗せプロジェクト」に参加し、電動アシスト自転車では国内初の前後20インチ小径モデルを市場に導入。2014年から押し歩きプロジェクトを牽引、国内初の押し歩き機能付き電動アシスト自転車を市場に導入。 

山澤 貴史(やまざわ たかし)※写真右
パナソニック サイクルテック株式会社
開発部 ソフト開発課 主務
2011年入社。2013年から国内電動アシスト自転車ソフトウェア開発の専任担当者となり、電動アシスト自転車のアシスト感作り込みや、機能追加に携わる。2018年から同開発リーダーを担当し、新型カルパワーユニットや押し歩きモデルのソフトウェア開発を主導。

【Aim Higher】本当に欲しいものを、諦めずカタチに――「押し歩き」機能付き電動アシスト自転車(スピンオフ動画)

自転車の利便性を高めるのはサイクルテックの社会的責任

福澤:歩道橋や駐輪場の出入り口など、自転車から降りて押し歩く時の負担を軽減する「押し歩き機能」を搭載した「ビビ・L・押し歩き」。この商品を開発しようと思ったきっかけや背景を教えてください。

柏谷:2014年に、サイクルテックの事業や自転車の将来を考え、商品展開していくための事業化プロジェクトが立ち上がりました。私もメンバーとして参画し、お客様のお困りごとを解決するために、いろいろとアイデア出しを行い、その中で発案されたのが、この「押し歩き機能」です。電動アシスト自転車は、「乗っている時は快適だが、降りてからの取り回しが重くて不便」というお客様からの声が多く、この点に着目しました。そこで、元々当社が欧州で展開していた、ボタンを押すとモーターが動く「スタートアップアシストモード」という機能を国内に転用できないかと考えたのがきっかけです。当時サイクルテックの担当役員だった現・グループCEOの楠見さんにも簡単な試作機に試乗してもらいました。

写真:国内初「押し歩きモード」搭載「ビビ・L・押し歩き」

国内初「押し歩きモード」搭載「ビビ・L・押し歩き」

写真:押し歩き手元スイッチ。「押歩き」ボタンを押している間だけモーターが駆動し、押し歩きの状況に合わせてアシスト機能が自動で調整される。

押し歩き手元スイッチ。「押歩き」ボタンを押している間だけモーターが駆動し、押し歩きの状況に合わせてアシスト機能が自動で調整される。

福澤:実際に試乗してみていかがでしたか。

柏谷:欧州向けの機能を転載しただけの試作機でしたので、クオリティーは低かったのですが、楠見さんからは、「目の付け所とアイデアはすごく良い」という意見をもらいました。ただ、商品化に向けて検討する中で、一つ大きな問題があることが判明しました。欧州ではモーターの駆動によりペダルをこがなくても自転車が動く「自走」が、時速6kmまでは合法ですが、日本の法律では認められていません。自転車を押し歩いた時点で歩行者とみなされますが、そこでモーターが補助をすると自走となる懸念があったため、社内でも商品化は難しいとの意見がありました。

画像:押し歩き機能のベースとなった欧州のスタートアップアシストボタン。

押し歩き機能のベースとなった欧州のスタートアップアシストボタン。

福澤:法制度は、いつ変わるかも分からない上に、自分たちでは操作できない部分。商品化のハードルは非常に高かったと思いますが、それでも諦めなかったのはなぜですか。

柏谷:すぐに商品化できるものではなかったので、反対意見もありました。しかし、先を見据えた投資は、たとえ会社のお金をたくさん使わずとも、私たち社員が信念を持って活動を続けるべき。もし、法改正されることがあれば、サイクルテックが国内自転車業界で一番に商品化できるようにと、社内で有志メンバーを集めて開発と検証をスタートし、その時その時にできることを考え、準備だけはしっかりと行いました。起案から商品化まで約6年かかりましたが、押し歩き機能をお客様に届けたい一心で、歴代の社長にも直談判し、なんとかプロジェクトを継続してきました。ここがサイクルテックの良さで、お客様のために頑張る人を応援する風土があります。多くの社員が「押し歩き機能」に賛同し、後押ししてくれました。自転車開発については、常に部門を横断し、開製販一体となって取り組んでいます。

長い歴史の中で積み上げた技術資産を活用

福澤:商品化する上で苦労された点はありますか。

山澤:実は、単に転用すればいいと思っていた欧州のスタートアップアシストモードは、自転車に乗った状態でこぎ出しのスタートに使ったり、障害物を乗り越えたりするために使われている機能で、そもそも人が横について歩くという使い方は想定されていませんでした。私たちがイメージしていたものと全然違ったので、そこから技術的な部分を解決するのに相当な時間がかかりましたね。ありもので作れると思っていたのに、完全にゼロからの開発になりました(笑)。

写真:パナソニック サイクルテック株式会社 開発部 ソフト開発課 主務 山澤 貴史(やまざわ たかし)

福澤:具体的にはどういうところが難しかったのでしょうか。

山澤:自転車に乗っている時のアシストは、個人差はあるものの、正弦波(せいげんは)というペダリングの波形は大体決まっているので制御はしやすいです。でも、押し歩きの場合は人によって加わる負荷が全然違うため、人の押す力、引く力がそのまま制御に対するノイズになってしまう。

柏谷:やはり一番良いのはその人に応じた押し心地。山澤さんには「押す人の歩く速度に合わせてモーターの制御をしてください」とお願いしました。

福澤:押す人と言っても、年齢や性別がさまざまですよね。

山澤:そうですね。まずは、いろいろな人のデータを集めるところから始めました。開発はもちろん、営業や企画など多くの社員に自転車を押してもらいました。

福澤:そうなると当然、高齢者のデータも必要になってくると思うのですが。

山澤:そこは、社員のご家族にも協力してもらい、総出で協力体制を作って検証を重ねました。ご年配でも健康な方もいれば、足腰が弱い方もいる。若い人でも個人差は大きい。押す人の速度は千差万別なため、万人に合わせるような制御はできないかという結論になり、そこの調整が難しかったです。

写真:サイクルテック構内にある「陽のあたる坂道」(電動アシスト自転車試乗用)で、高齢者試乗会を実施するなど検証を重ねた。

サイクルテック構内にある「陽のあたる坂道」(電動アシスト自転車試乗用)で、高齢者試乗会を実施するなど検証を重ねた。

写真:押し歩きモードを実際に体験。アシストがあることで自転車の重さを感じず、急な坂道でも予想以上にスムーズに登ることができることを実感。

押し歩きモードを実際に体験。アシストがあることで自転車の重さを感じず、急な坂道でも予想以上にスムーズに登ることができることを実感。

福澤:押し歩き機能を使う時は、安全確保のために自転車に乗れないようにすることも条件の一つでしたが、サドルの機構も新たに開発されたのでしょうか。

柏谷:過去に当社が販売していた「ガチャリンコ」という商品の盗難防止技術(※)を応用しました。ただ、ガチャリンコは機構自体がかなり大きく、サドルが高くなってしまう問題があり、そのまま使用することはできませんでした。

※サドルを押し上げるとスタンドが立ち、ロックされる機能

山澤:押し歩きのターゲットとしては高齢者へのお役立ちが一番。サドル自体が大きくなりすぎると、背の低い方が自転車に乗りにくくなります。高さを抑えて、できるだけコンパクトにするために、結局サドルも新たな機構を作ることになりましたが、アイデアのベースとなった欧州のアシストボタンやガチャリンコなど、元々自社で保有する技術資産がなければ、開発はもっと難航していたかもしれません。

写真:サドルを上げて自転車に乗れない状態にすることで、押し歩き機能が使えるようになる。これにより「自走」の問題をクリア。

サドルを上げて自転車に乗れない状態にすることで、押し歩き機能が使えるようになる。これにより「自走」の問題をクリア。

何事も強弱、押して引くが肝心。ここだというタイミングは絶対に逃さない

福澤:今回の押し歩き機能だけでなく、過去には20インチの小径タイヤを採用した子乗せモデルなど、常にお客様に寄り添った開発をされてきました。商品開発をする上で大切にされていることはありますか。

柏谷:まずは、自分自身が一消費者として乗りたいなと思うものを作るのが一番だと思っています。自分が乗って便利で楽しい、かっこいいと満足できるものをイメージすることが大事かなと。

山澤:私もこれを作ってみたいというところから開発が始まることが多いですね。その方がモチベーションも上がります。

柏谷:自分が「これは違うな」と直感で思う商品は、お客様も同じように感じるのではないかと考えます。社内で発案された自転車のアイデアを検討する時は、まず自分がその商品を欲しいかどうか、その次に、ターゲットや使い方などの意見を聞いた上で、お客様の立場ならどうか、という2つの目線で見極めるようにしています。

福澤:商品開発の入り口としては、主観的な意見よりも、お客様のニーズにどう応えるかを先に考えることが多いと思っていました。

柏谷:商品開発部門からは、お客様のニーズを想定した商品のアイデアを提示されます。それに対する意見を求められた場合は、私自身が自転車に対する考えをしっかり持たないと意見もできません。特にプロジェクトを引っ張る立場にある場合は、自分自身が消費者の目線を持ち続けることも大切だと思います。

写真:パナソニック サイクルテック株式会社 技術管理部 部長 柏谷 登喜子(かしたに ときこ)

福澤:「ビビ・L・押し歩き」は、法改正の壁や、社内での反対意見がある中、約6年間諦めることなく、あらゆる逆境をはねのけて商品化を実現させました。モチベーションを維持するための秘訣や原動力は何でしょうか。
 
山澤:私の場合、参画当初は気楽にやっていいよと言われたので、メインの仕事の合間に、息抜きのような感じで検討していました。6年間コツコツと続けてこられたのは、趣味の延長で取り組めていたのが良かったのかもしれません。最初から結果を求められると、ストレスになって、続けられなかったかもしれないです。

福澤:だからこそ視野広く、柔軟なアイデアが出てきたのかもしれないですね。

山澤:2019年12月の法改正(※)で、商品化に向けて本格的に動き出してからは、業界で一番に出すために、スピードが求められるようになり、かなり大変でした。でも、しんどいなと思ったときは、街中でお客様が当社の製品を使用する姿を見て、気合を入れていました。これが大きなモチベーションになっていましたね。

※原動機の駆動により歩行をアシストする機器が、歩行補助車(歩行者の一部)として位置づけられるようになった。

柏谷:私は、「何事も『時』が解決してくれる」という考え方をベースに仕事をしています。もちろん、ただ何もせずに待つのではなく、最終目標は定めます。でも、それは絶対じゃない。取り組む中で、できることできないことは必ず出てきます。目標に向かって、戦略を立てながら努力をしますが、タイミングや、周りの人・状況など、いろんなものがかみ合って合致した時にやっと達成できるものだと思っています。そこの見極めをしながら、物事を進めていくためにも、一歩引いて考えるようにしています。

福澤:もっと前のめりになって、がむしゃらに活動されていたのかと思っていました。

柏谷:アグレッシブに活動することは大事ですが、それだけだとうまくいかないこともある。ずっと走り続けると必ず息切れします。大事なのは、ここだというタイミングが来たときに絶対に逃さず、力強く周りを引っ張りながら、つかみ取ること。何事も押して引くが肝心で、強弱をつけてやっていかないといけないと考えています。

福澤:業界初の新しい機能は、需要がどれだけあるのか分からない中で売らないといけないというプレッシャーもあったと思いますが、そのあたりはどうでしたか。

柏谷:残ったら自分で担いででも手売りする覚悟でいました。便利な機能だと信じ続けてきたので、お客様に知ってさえもらえれば購入いただけるはずだと。広報と連携して、マスコミ含めていろいろなところでPRし、まずは広く知ってもらう活動をしました。

福澤:押し歩き機能の使い方やシーンを説明した動画(文末参考動画「ビビ・L・押し歩き 使い方」参照)は非常に分かりやすかったです。

柏谷:資料だけでは分かりにくい商品。どれだけ便利かを可視化するために、急遽「押し歩き機能」の良さが分かるプロモーションビデオを作ることになり、私の母親に出演してもらいました(笑)。

写真:福澤(写真左)、柏谷(写真中央)、山澤(写真右)

世界中の人々が青空の下へ走りだせる未来を創造する

福澤:今後サイクルテックとして提供していきたい「幸せ」は何でしょうか。

山澤:電動アシスト自転車の一番の良いところは、楽で便利で取り回しが良いところ。私もその辺に出かけるときによく使用します。今後は、メインのアシストはもちろん、IoTを活用してスマートフォンと連携するなど、周辺の快適さも追求し、利便性をさらに高めるようなものを提案していきたいです。

写真:1965年 自転車生産100万台の達成を記念して贈られた、松下電器産業(当時)製の自転車「ニューグランディ」と一緒に写る創業者 松下幸之助。

1965年 自転車生産100万台の達成を記念して贈られた、松下電器産業(当時)製の自転車「ニューグランディ」と一緒に写る創業者 松下幸之助。

柏谷:技術の発展を起点に考えると、利便性のみを求めがちになりますが、全ての乗り物が自動になると、人はどうしても楽な方に流れてしまい体力的にも弱ってしまいます。電動アシスト自転車は、単に楽なだけではなく、実は、お客様の健康促進の側面も担っています。自分で自転車をこぐ楽しさや、体力的に弱ってきても、電動アシスト自転車なら遠くまで行けるようになったという精神的な充実感も与えてくれる。自転車に乗ることで得られる健康や幸福感はウェルビーイングにもつながると思っています。便利になって失われるものもある。自動化が進む時代だからこそ、この視点は大切にし、自分が乗って楽しいと思える商品を今後もお客様に提供していきたいです。

 

最も多感な少年時代に、五代自転車店に丁稚奉公し、商いの基本を学んだ創業者 松下幸之助にとっても、深い思い入れのある自転車事業。サイクルテックはそのDNAを受け継ぎ、歴史の中で蓄積された自転車に対する考え方や技術を基に、革新的なテクノロジーとお客様につながるサービス、そして独創的なアイデアによって新しい移動体験を提供し続け、サイクルモビリティ(※)のリーディングカンパニーを目指していく。

※自転車の技術を活用した乗り物、およびその進化した乗り物

写真:パナソニック サイクルテック株式会社 技術管理部 部長 柏谷 登喜子(かしたに ときこ)(写真左)、パナソニック サイクルテック株式会社 開発部 ソフト開発課 主務 山澤 貴史(やまざわ たかし)

Interviewer & Writer

福澤 達哉(ふくざわ たつや)
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コーポレート広報センター
元バレーボール日本代表。2008年には北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団し、国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。2015-2016年にブラジル、2019-2021年にフランスリーグでプレーするなど海外でも活躍した。2021年8月、現役引退。

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