2024年10月10日
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パナソニック株式会社 インダストリアルソリューションズ社(以下、パナソニック)は、立命館大学 理工学部 福井研究室(教授:福井 正博)と共同で、機器搭載中のリチウムイオン電池の残存価値評価に有効な交流インピーダンス[1]測定を実行する新しいバッテリーマネジメント技術を開発しました。本技術は、多数の電池を直列に積み重ねたリチウムイオンバッテリーモジュールを使用するさまざまな機器や将来の車両への応用が期待されます。パナソニックは、新しいバッテリーマネジメントIC(以下、BMIC)のテストチップと測定アルゴリズムおよびソフトウェアの開発を担当し、立命館大学は、実際の電池を使った性能評価などを担当しました。
昨今のリチウムイオン電池に対する需要は、産業機器やモビリティなどを中心に拡大しており、リユース・リサイクルの重要性も高まっています。
今回開発したバッテリーマネジメント技術は、多数の電池を直列接続したリチウムイオンバッテリーモジュールを機器に搭載した状態で、交流重畳法[2]による交流インピーダンス測定を行うことを可能にします。さらに、測定データの蓄積・分析により劣化診断や故障推定などの残存価値評価の実現を目指すことで、将来のリチウムイオン電池がリユース・リサイクルされる持続可能な社会の実現に貢献します。
交流インピーダンス法は、リチウムイオン電池の非破壊評価方法として広く用いられています。この測定法は、専用の測定器と電池の温度を一定に保つ大きな恒温槽を必要とし、電池を一つずつ実験室で計測する必要がありました。
多セル直列のリチウムイオン電池を搭載する機器。e-バイク、LSV(Low-Speed Vehicle)、建設・物流機器、将来的には電気自動車、大容量蓄電池など
パナソニック セミコンダクターソリューションズ株式会社
https://www.panasonic.com/jp/company/pscs/contact.html?ad=press20191114
現在の多セル直列リチウムイオン電池を使ったバッテリーマネジメントシステム(以下、BMS)は、6~14直列接続した電池の個々の電圧を測定するICを使い、直列接続された数個~200個の電池電圧を収集して、バッテリーモジュールを安全に使用できるよう監視します。また、BMSは、充電率(SOC[3])や容量維持率(SOH[4])を計算することで、残りの航続距離や使用可能時間を算出します。
新開発のBMICテストチップは、これらの従来機能に加えて、電池を稼働させた状態で交流重畳法による交流インピーダンスを測定する機能を搭載しています。BMICに内蔵した15個の完全並列アナログ/デジタル変換器と0.1 Hz~5 KHzまでのパルス変調による交流重畳回路、複素電圧・複素電流変換回路によって、交流インピーダンス測定ができます。このBMICチップは、バッテリーに搭載されている現行BMSの構成を大きく変更することなく、稼働中の電池の交流インピーダンス測定を可能にします。
交流インピーダンス法による状態推定では、インピーダンスを複素表現して平面上に描画した、Cole-Coleプロット[5]を測定します。立命館大学は、パナソニックが開発したBMICと測定用ソフトウェアを用いて、円筒形リチウムイオン電池を測定しました。その結果、1 Hz~5 KHzの周波数範囲において、業界で一般的に使用されている測定器と同等精度でCole-Coleプロットを測定できることを確認しました。
リチウムイオン電池の交流インピーダンスは、温度変化に非常に敏感です。そのため、実験室での専用測定器による測定は、温度を一定に保つ恒温槽に入れて行います。稼働中の電池は、環境温度が変化するため安定的に交流インピーダンスを測定することができませんでした。
今回、交流インピーダンス測定時のリチウムイオン電池の温度を測定し、インピーダンスの温度変化を標準温度に補正してCole-Coleプロットに描画する温度補正技術を開発しました。これにより、季節や時間帯などによる環境温度が異なる場合でも、同じ標準温度に正規化したCole-Coleプロットをデータベースとして蓄積していくことが可能となります。
国立京都国際会館(京都市左京区宝ヶ池)で開催の公益社団法人 電気化学会 電池技術委員会主催の第60回 電池討論会(2019年11月13日~15日)にて、11月14日に共同研究先の立命館大学より発表を行いました。
交流電圧を交流電流で割り算した交流抵抗。単位は直流抵抗と同じオーム。
ネットワークアナライザーと同様に、周波数を徐々に変化させながら(周波数掃引)交流電流を印加し、交流インピーダンスの周波数特性を測定する方法。
充電率。満充電容量に対する残容量をパーセンテージで表したもの。
容量維持率。初期の充電量と経時劣化した充電量の比をパーセンテージで表したもの。充電量は、BMSにより電流積算法(クーロンカウント)などで測定する。現時点のSOHは使用開始時の充電量を記憶し、現在の充電量と比較することで計算できる。しかし、SOHには、金属リチウムの析出(デンドライト)による電極劣化や電解液の劣化など、さまざまなリチウムイオン電池の劣化現象と直接的な相関がない。従って、SOH測定は現時点の充電量を知るものであり、将来のSOHが推定できるものではなく、劣化診断とは異なる。
交流インピーダンスを複素表現し、周波数変化による軌跡を複素平面上にプロットしたもの。ナイキストプロットとも呼ぶ。電池の内部インピーダンスの変化を分析する、電気化学インピーダンス分析(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)でよく使用される。発案者のKENNETH S. COLEとROBERT H. COLEの名前から命名された。
以上
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