【要旨】
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、独自のストレッチャブル樹脂技術を採用し、柔らかく、しなやかで、伸縮自在な、「ストレッチャブル[1] 樹脂フィルム」を開発しました。絶縁材料である本フィルムとあわせて、透明電極材料[2]、配線用導電ペースト[3] も提供していきます。
【効果】
本開発品はフィルム状で、現在のフレキシブル材料では難しい伸張と元の形状に復元が可能な絶縁材料です。自在な折り曲げや、さまざまな自由曲面へ適応でき、従来設計の制約を大きく改善します。例えば、衣服や体に付けるなど、あらゆる形に追従できる柔らかく、しなやかなエレクトロニクスデバイスが実現でき、ウエアラブル、センサ、ディスプレイ、ロボットなど幅広い分野での展開が見込まれます。
【特長】
独自のストレッチャブル樹脂技術をベースに以下の特長を有しています
- 柔らかく、しなやかなフィルム状の絶縁材料で、優れた伸張性を実現
■引張り伸び:2.5倍以上 - 伸張時に発生した内部応力を緩和できるうえ、元の形状に戻り、繰り返し使用が可能なフィルム状の絶縁材料 ■応力緩和[4]率:60%※1 ■復元率:98%以上※2
- 絶縁材料に加え、伸縮自在な透明電極材料と配線用導電ペーストも開発
- ※1 当社の応力緩和試験において(条件:50%伸張/30分保持)
- ※2 当社の伸張・復元試験において(条件:伸張速度25mm/分,復元速度0.1mm/分)
【内容】
本開発品は以下の技術により実現しました。
- 熱硬化性樹脂[5]でありながら伸縮する絶縁材料を実現する独自の樹脂設計技術
- 伸縮自在な透明電極を実現するストレッチャブルなベース基材設計技術
- 伸縮自在な配線用導電ペーストを実現するストレッチャブル樹脂/導電フィラー複合化技術
【従来例】
これまでのフレキシブル材料では折り曲げができるものの、折り畳みや伸縮が難しいという課題があります。またウレタン樹脂やゴム系のストレッチャブル材料では密着性、耐熱性、脆化などの課題があります。市場からは衣服や体に装着するデバイスの実現には、伸縮自在な実装基板、配線などが必要で繰返しの伸縮性が要求されています。
【備考】
本開発品は、2016年1月13日(水)から15日(金)まで東京ビッグサイトで開催される第17回 プリント配線板EXPO(PWB EXPO)に出展します
【商品のお問合せ先】
- オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 電子材料事業部
- ホームページURL:https://industrial.panasonic.com/jp/contact-us
【特長の説明】
1. 柔らかく、しなやかなフィルム状の絶縁材料で、優れた伸張性を実現
様々なウエアラブルデバイスが開発される中、小型・薄型化に加えて装着時の違和感軽減やデザイン性向上の要求が高まっています。ウレタン樹脂やゴム系の材料では密着性、耐熱性、脆化などの課題があり、耐熱性、耐久性、加工性に優れた変形可能な材料が求められています。当社では、従来から使用され実績のある熱硬化性樹脂に着目し、優れた伸張性を付与できる独自の樹脂設計技術の採用で、熱硬化性樹脂でありながら伸縮自在な絶縁材料を開発。柔らかく、しなやかなフィルム状の絶縁材料で、どこにでも装着・設置できるエレクトロニクス機器の実現に貢献します。
2. 伸張時に発生した内部応力を緩和できるうえ、元の形状に戻り、繰り返し使用が可能なフィルム状の絶縁材料
衣服や体に付けるデバイスを実現するには、繰返し使用でき繰返しの変形(伸縮)によっても、機械特性が変わらない材料が求められています。一般に材料を繰返し伸縮させると機械強度の劣化や復元性の低下が起こる傾向があります。当社では、ただ柔らかくするだけではなく、熱硬化性樹脂の特徴である3次元架橋構造[6]を活かした独自の樹脂設計技術を採用。伸ばした際の内部応力を緩和することで元の形状に戻り、繰返し使用が可能な絶縁材料を開発。長期に渡り装着可能なエレクトロニクス機器の実現に貢献します。
3. 絶縁材料に加え、伸縮自在な透明電極材料と配線用導電ペーストも開発
衣服や体に装着するデバイスの実現には、伸縮自在な絶縁材料だけでなく、導電材料にも柔らかく、しなやかな特性が必要です。当社では、伸縮自在なストレッチャブル樹脂をベースに、繰返しの伸縮によっても導電性が維持できる透明電極材料や配線用導電ペーストも開発。ストレッチャブル樹脂をベース基材として、この基材上にカーボンナノチューブ[7]による薄い導電層を形成し、伸縮を繰り返しても導電性を維持できる透明電極材料を開発。また、ストレッチャブル樹脂をバインダとして銀フィラーと複合化することで、伸縮を繰り返しても導電性を維持できる配線用導電ペーストを開発。伸縮自在な表示デバイス、センサなどの実現に貢献します。
【内容の説明】
1. 熱硬化性樹脂でありながら伸縮する絶縁材料を実現する独自の樹脂設計技術
熱硬化性樹脂は一般に幅広く使用されている材料ですが、柔軟性を持たせようとすると耐熱性が損なわれるため、耐熱性を維持しながら、柔軟性を付与する必要があります。当社では、エラストマー[8]添加のような従来手法とは異なる方法で、柔軟成分と剛直成分を併せもつ独自の樹脂設計技術を開発。伸縮時の応力を緩和できる熱硬化性樹脂の3次元架橋構造により、伸縮性と応力緩和を両立させ熱硬化性樹脂でありながら、伸縮自在で元の形状に戻り、繰り返し使用できる絶縁材料を実現しました。
2. 伸縮自在な透明電極を実現するストレッチャブルなベース基材設計技術
透明電極として広く使用されているITO[9] はある程度の曲げには耐えられますが、折り畳みや伸縮させた場合には、クラックや割れが容易に発生し導電性を維持できないという課題があります。そのため、クラックや割れが発生しない柔軟性と、伸縮や変形の際にも導電性を維持できる導電パスを確保することが求められます。当社では、伸縮に最適な材料設計を用いたストレッチャブル樹脂フィルムをベース基材とし、その上にアスペクト比が非常に大きい導電材料のカーボンナノチューブを、薄い透明導電層として形成する技術を開発。導電パスとしてカーボンナノチューブを採用することで、柔軟性と導電性を両立し、変形させても導電性を維持する伸縮自在な透明電極材料を実現しました。
3. 伸縮自在な配線用導電ペーストを実現するストレッチャブル樹脂/導電フィラー複合化技術
一般に、銅などの金属配線では基材の伸縮時に断線してしまう課題があり、複雑な回路形成が難しいだけでなく変形による金属疲労があるため、繰返し伸縮可能な配線に仕上げることは困難です。当社では、ストレッチャブル樹脂をバインダとして銀フィラーと複合化する技術を開発。伸縮時に導電性パスを維持できるため、伸縮させても導電性を有する配線用導電ペーストを実現しました。
【用語説明】
- [1]ストレッチャブル
- ストレッチャブルは引き伸ばせるという意味。ストレッチャブル・エレクトロニクスで伸縮自在な電子回路を指す。
- [2]透明電極材料
- 透明電極(透明導電膜)とは、ITO(酸化インジウムスズ)に代表される、透明度が高く電気を流すことができる材料のこと。
- [3]配線用導電ペースト
- 電子回路を形成するために塗布して導電性をもたせるペーストで、一般的には樹脂中に銀粒子やカーボン等をフィラーとして分散したもの。
- [4]応力緩和
- 物体を変形させて保持する時、時間の経過とともに応力(物体に外力が加わる時、その物体内部に生じる抵抗力)が減少する現象。
- [5]熱硬化性樹脂
- 熱硬化性プラスチックとも言う。成形前の材料は液状または固状であり、室温あるいは加熱することで流動性を示し、成形のために硬化剤や触媒の添加あるいは加熱を続けることで硬化する。一度硬化した熱硬化性プラスチックは、再び加熱しても溶融しない。材種としては、フェノール樹脂・ユリア樹脂・メラミン樹脂・エポキシ樹脂・ポリウレタンが代表的である。
- [6]3次元架橋構造
- 2個あるいはそれ以上の分子が互いに、あるいは硬化剤などを介して結合することを「架橋(かきょう)」という。この分子間の架橋が進んだ網状の構造を3次元架橋構造という。
- [7]カーボンナノチューブ
- カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube)とは、「カーボン=炭素」「ナノ=ナノメートル(nm)」「チューブ=円筒」と3つの言葉を合わせたもの。炭素原子が網目のように結びついて筒状になったモノで、直径はナノメートル単位ととても細く、人の髪の毛の5万分の1の太さ。
- [8]エストラマー
- ゴム弾性を有する工業用材料の総称。 elastic(弾力のある) と polymer(重合体) を組み合わせた造語。
- [9]ITO
- 酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)のこと。可視光の透過率が高く導電性を持つため、透明電極として使われる。液晶パネルやPDP、有機ELパネルなどを用いるフラットパネル・ディスプレイ(FPD)に多く用いられる。
以上