Panasonicの底力~成長への布石~

楠見新社長に聞く パナソニックが新たに「事業会社制」で挑むこと

2021年8月 4日

特集

楠見新社長に聞く パナソニックが新たに「事業会社制」で挑むこと

2021年6月の株主総会を経て、CEOの楠見は代表取締役 社長執行役員に就任した。2022年度から持株会社制へ移行することを発表しているパナソニック。各事業を担う事業会社・事業部自身が主役となり競争力を磨く姿を目指すことから、楠見はこの新たな組織の形を「事業会社制」と位置付けている。新体制において、パナソニックはいかに成長する姿を示していくのか。その展望を楠見新社長に聞いた。


過去20年以上にわたって、パナソニックは成長できていない。これが私の率直な課題認識です。もちろん、三洋電機やパナソニック電工をはじめとした企業買収や、様々な投資を通じて、事業の拡大に取り組んできたのも事実です。しかしその多くは、当初の目論見を達成できていません。その要因は、私たちが徹底して競争力を磨くということを十分にやれていなかったことにあるのではないかと考えています。
昨年11月の社長就任発表以来、社会環境の変化や競合の状況を見つめると同時に、社史を紐解き、松下幸之助をはじめとする諸先輩の著書を読んだり、直接お話を聞くなどしながら、現在パナソニックが置かれている状況について考えを深めてきました。グループの幅広い事業の半分以上は私自身未経験の領域ではありますが、各事業場の現場に触れる機会を積極的に設け、鋭意勉強しているところです。その中で私が感じているのは、今の私たちは「松下らしい経営」ができていないということです。

かつて当社で会長を務められた高橋荒太郎氏は「誰にも負けない立派な仕事をする」という言葉を残していますが、その結果としてお客様にお選びいただき、事業の成長につながるということが、当社の経営の根幹であることを再び全員で認識する必要があると思っています。ただそのためには、上意下達で「管理」をするという仕事の進め方ではなく、一人ひとりが全力でより良い方法や手段を生み出し、果敢に実行することが不可欠です。
当社には創業者 松下幸之助が残した「社員稼業」という言葉があります。これは社員自身が独立した経営体の主人公であるという意味です。社員一人ひとりが「社員稼業」の考え方に立ち戻り、より大きな成果を上げることを使命とする責任感のもと、任務を遂行するという風土を作り出すことが極めて重要だと思っています。再びパナソニックが成長していくため、この「松下らしい経営」を取り戻す。これが、今私たちが最優先で取り組むべきことです。
来る10月には、半年の試行期間としてバーチャルで新しい会社の体制をスタートさせます。今は、4月からしっかりした形でスタートを切れるよう、それぞれ事業会社での組織の形や方向性を整えつつ、どのような戦略で何にフォーカスし競争力を磨き上げるか検討を進めています。

事業会社・事業部が主役となり競争力を徹底的に磨く

私は、この新しい体制は「持株会社制」というより「事業会社制」と表現する方が正しいと考えています。個々の事業において徹底して競争力を磨き上げるにあたり、その主役となるのは事業会社やその傘下である事業部自身であるとの思いからです。
社長就任に先立ち、5月に開催した記者会見の場では、「2年間は競争力強化に集中する」と申し上げました。試行錯誤もあるため1年では短すぎるかもしれませんが、3年もかけてはいけません。これまでに事業の現場を見せてもらった限りにおいても、事業の改善の余地はまだまだ多くあると感じており、成長に転じるチャンスも大きいと考えています。したがって、それぞれの事業において、改めて現場の一人ひとりが改善を積み重ねる風土を醸成し、たゆみなく競争力を磨き上げていく組織になる期間として「2年間」と申し上げたのです。

事業会社がそれぞれ向き合う領域において競争力を高める一方、持株会社が果たす役割は大きく5つあると私は考えています。

1つ目は、創業の時代から受け継いだ経営理念、経営の基本方針の徹底です。今回の事業会社制への転換の最大の目的は、自主責任経営の徹底です。そのためには、先ほども申し上げましたが、私たちは今一度「松下らしい経営」を取り戻し、成長ができる姿を目指していかねばなりません。当社には、「綱領」・「信条」・「私たちの遵奉すべき精神」だけではなく、様々な経営理念に関する考え方が残されています。特に、それぞれの事業が、自主責任で「誰にも負けない立派な仕事をする」ということは徹底してやっていかねばなりません。品質・コスト・サービスで誰にも負けない。お客様が求めるものではなく、お客様にお役立ちできるものをお届けする、そのために改革を速やかに行うということが実際にできなければなりません。これを一人ひとりの「社員稼業」のもと、衆知を集めた全員経営で実行していくことが競争力強化の第一歩になると私は考えます。

2つ目は、各事業会社の競争力強化への見届けと支援です。喫緊の社会課題として対応せねばならない環境課題解決に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)や、グループ全体としての早急にさらなる改善や底上げが必要なデジタルトランスフォーメーション(DX)、現場革新など、個々の事業会社でだけでは加速しにくい変革を持株会社が見届け、支援をしていきます。
例えば、現場革新については、グループのオペレーション力の強化に向け、コネクティッドソリューションズ社のセンシングやAIの技術を使って現場のムダ・滞留を検出し、さらに自律的な改善を加速する現場プロセスの取り組みと、先般買収を発表したBlue Yonder社の力を組み合わせ、サプライチェーンが自律的に改善していくソリューションを構築、パナソニック社内に先行導入していきます。今まさに、こうした取り組みも含めて、従来「人」の力に依存していた改善の取り組みを、デジタルの力を使って高めていくことに挑戦しています。

3つ目は、人を活かす経営の実現と、それを支える制度整備。競争力を高めるためには、現場の社員一人ひとりが自らの発意で提案し、現状に甘んじることなく改善を積み重ねる風土を構築することが不可欠です。そのために人事制度や働く環境もそれに即したものにしていかなければなりません。かつて当社は、週休二日制の導入をはじめ、人事制度の整備面でも、業界に先駆けた取り組みを進めていました。しかし今は残念ながら後手に回ってしまっている部分もあります。
私が危機感を感じているのは、上意下達の風土で「言われた仕事」だけを一生懸命しているうちに、リーダーや経営者が育成できなくなっているということ。年齢や立場に関係なく、任せる。そして徹底的に考えさせる。それによって成長していく形を作っていかねばなりません。さらには、グループ経営に携わる経営力を身につけてもらうためには、一つの事業会社にとどまらず様々な事業経営の経験を積んでもらう機会も積極的に提供する必要があると思っています。
一方、ダイバーシティ&インクルージョンの観点では、他社では女性のメンバーが、ライフイベントを超えて活躍できるような制度が進んでいます。当社の社員に意見を聞いても、やはりいろいろ課題がある。こうしたことにはグループ全体として手を打っていかなければならないと考えています。

4つ目は、これらを前提としつつ、業界全体の縮退や私たちの事業が構造的に劣後していないかを冷静に見極め、必要に応じて非連続かつ迅速に打ち手を打つこと。そして5つ目、全ての基盤としてグループ従業員はもちろん、パートナーも含め、パナソニックに関わるあらゆる人を守るという観点での安全・コンプライアンス。加えてグループ全体の財務面で、財務規律を通じたガバナンスによってリスクマネジメントを進めることも重要な役割です。

地球環境問題に正面から向き合う

先ほど申し上げたGXについては、5月の会見でも、当社として「理想の社会」の実現に向けて社会課題に正面から向き合い、人々の現在と未来の不安の払しょくに貢献していく、その中でも、地球環境問題には最優先で取り組むと申し上げました。

今回掲げた、2030年までにすべての事業会社でCO2排出量のゼロ化を実現する、という目標はチャレンジングなものかもしれませんが、今後約10年、取り組みを加速すれば実現可能だと考えています。すでに当社は、「環境ビジョン2050」という高い目標を掲げていますが、その一方で、現在も地球温暖化は進行しています。一刻を争うこの問題に、背を向けることはできません。そこで、マイルストーンとして2030年を設定したのです。事業会社ごとにその特性にあわせ、2030年までにどんなステップで実現していくか、検討を進めています。

当社には、二次電池や燃料電池のような収益に直結するような事業もありますし、そうでない事業もあります。直結する事業は、環境問題解決にお役立ちを広げていくために投資が必要になりますし、たとえ直結しなくても、当社が「社会の公器」として、上げた収益を社会に還元していくべき存在であると考えれば、自らのカーボンニュートラルに向けた環境投資もしていかなければなりません。いずれにしても、こうした取り組みを進める前提として、しっかりと競争力を磨くということが最重要だと考えています。

「社員稼業」の考えのもと、一人ひとりが改善し続ける組織へ

写真:楠見新社長

一人ひとりに「社員稼業」の考えで仕事に打ち込んでもらうには、自らの発意で仕事をやるということに加えて、そこにやりがいを感じられることが大切です。そのためには、提起した課題に対して、お互いに手を差し伸べ、上司も支援する。そして発意したことが成果に繋がり、周りからも認められる。これが「安心して言うべきことが言える風土」だと思うのです。それが徹底できれば、課題が組織で迅速に共有され解決に進み、手戻りや滞留も少なくなります。

私たちには創業者の残した経営理念がありますが、それを実践できているかは別の話です。社員一人ひとりが、今までできていなかった部分も含めて、改めて経営理念を実践し、経営理念を生きたものにしていく必要があると考えています。元々私たちの経営方針は、単純にお役立ちをすることのみを志すものではありません。誰にも負けない立派な仕事の結果、お客様に選んでいただき、報酬をいただくことができる。それができて初めて従業員や社会に還元し、自らの成長にも投資できる。逆にそれができないようならば誰にも負けない立派な仕事ができていない、ということです。経営数値目標の達成のみを追いかけるのではなく本来の経営の考え方に立ち戻ることが重要であるということを、各事業の責任者とことあるごとに話しています。

当社には様々な事業があり、一つの言葉で語るのは難しい。ただ、経営の基本に立ち返ればやるべきことははっきりします。自主責任経営においてそれらをやるのが、事業会社化の狙いです。事業の主役がそういう考えで経営をすれば、必ず成長に転じられます。5年・10年後に事業を通じて、どんな世界を描きたいか、世の中をどう変えてどうお役立ちしたいかという視点で、どこに絞り込み、攻めるか、どこで強みを発揮するかは、それぞれの事業でしっかり考え、決めてもらわなければなりません。大事なのは、事業に携わる社員一人ひとりが考え方を変えるところまで及ぶこと。今、まさに「社員稼業」を実践し、全事業会社においてパナソニックの風土を変えていかねばらないと考えています。

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