パナソニックは、車載電池のリーディングカンパニーだ。2006年に初めて電気自動車(EV)向け電池を市場投入して以降、特に車載用リチウムイオン電池では世界をリードし続けてきた。大きく成長するEV市場で革命の原動力となってきたパナソニックは、今も絶え間ない技術革新を続けている。圧倒的進化を続ける北米車載電池事業に、パナソニック成長のヒントを探る。
世界最高水準のエネルギー密度
パナソニックは、2017年、北米に車載電池工場を立ち上げた。世界最大級のEV向け円筒形リチウムイオン電池の生産拠点だ。生産開始時から、車載電池において世界最高水準のエネルギー密度と、コバルトフリーの実現の両立に向けてプロアクティブに取り組んできた。現時点でも、すでに両方において、業界をリードする電池を生産しているが、パナソニックはさらなる技術革新を続けている。
2020年、パナソニックは、1つの電池の中にどれだけの電気を詰められるかを表す「エネルギー密度」を、飛躍的に向上させる新技術を導入する。この新技術により体積当たりのエネルギー密度は、従来比で5%向上、さらに今後5年以内には、従来比20%まで向上できる見込みだ。
エネルギー密度が向上することで、何が変わるのか。まず単純に航続距離が伸びる。1回の充電で走れる距離が伸びれば、充電を気にせず、より快適にEVを乗り回すことができるようになるだろう。あるいは、従来と同じ容量を少ない電池で実現することもできる。車1台当たりに必要な電池の総量を減らすことで、コスト削減や軽量化にも貢献するだろう。
一般的には、電池の密度が上がるほど、安全性の確保は難しいと言われているが、パナソニックは、この二律背反する「高密度」と「安全性」という2つの要素を、独自の制御技術によって両立している。この技術力は、EVの普及に今後も大きく貢献していくだろう。
コバルトフリーへの挑戦
一方、EV用リチウムイオン電池の製造にあたり、課題の一つとなっているのは希少金属の確保だ。特にコバルトは、結晶構造の安定化に現時点では必須とされている材料だが、急増する需要に対し、安定的な確保が難しい。パナソニックは北米工場の立ち上げ当初から、積極的に使用率削減に取り組んでおり、2017年の生産開始時には、既に電池セル一つ当たり通常の半分の使用量に抑えた製品を生産している。2019年には、さらに10%削減することに成功。今回の新技術では、そのレベルを維持したまま、エネルギー密度を上げることに成功したのだ。さらに、パナソニックは、コバルトフリー電池を実現する技術をすでに確立しており、2、3年以内には、商品化(市場投入)できる見込みだ。
「最高」ではなく「最適」を求めて
それではパナソニックは、電池のさらなる大容量化に向かっていくのか。「それだけではない」と、パナソニックの北米電池事業の責任者、事業部長の高本は語る。「我々が重視しているのは、市場の需要と性能のバランスだ」。高本が話したように、市場が求めているのは単純な容量の増加だけではない。例えば、航続距離を重視する市場もあれば、街乗りが中心の地域、あるいは業務用車両など、電池に求められる要求は様々だ。パナソニックは、長年の知見を活かして、常に実使用のニーズを探り、当社の技術を最大限生かせる市場に向け「最適な電池」を提供してきた。高本は、「EV用電池を市場投入して以来、充電の頻度、充電の深さ、急速充電がどのくらいの頻度で使われるかなどの知見を得られていることこそがパナソニックの最大の強みだ」と自信を示す。「我々が長年培ってきた知見をフルに生かし、地道かつ連続性を持って技術革新を図ることで、常に他社に先駆け、時代をリードする電池を提供していくが、あくまで目指すのは、『最高』ではなく『最適』。スペックの高さを追い求めるのではなく、お客様のニーズをコミュニケーションの中でしっかりと吸い上げて、ベターな提案をすることが大事だ」。
北米車載電池事業が示した、「お客様起点の発想」で、「最高の技術」に裏打ちされた「最適な価値」。ここに、パナソニックの成長のヒントがある。