【要旨】
パナソニック株式会社は、新構造の光触媒粒子を考案・合成し、この光触媒粒子を水中に分散して高速処理が可能な水浄化技術を開発しました。本技術は、従来の固定型光触媒[1]に比べ最大100倍の反応速度で、地下水などに含まれるヒ素や六価クロムなどの有害金属[2]や難分解性有機物[3]を無毒化[4]することが出来ます。さらに、従来の光触媒粒子では困難であった処理水中から使用済み光触媒の回収と再利用が容易になります。これにより、太陽光を利用した小規模の独立型水浄化装置が実現され、安全で低コストの飲料水が求められる新興国等への展開が期待されます。
【効果】
世界規模での人口増加、工業化の進展により、利用可能な水の不足が顕在化しています。本技術によって、地下水などに含まれ除去が難しかった有害金属などを最大99.99%無毒化できるため、従来困難であった地下水源を、新たな飲料水源として活用できます。また本技術では、光触媒と太陽光に含まれる紫外線のみで水を浄化するため、塩素や薬剤などを利用する方法と比較し環境負荷もありません。
【特長】
本開発は以下の特長を有しています。
- 新構造の光触媒粒子はミクロンオーダーの大きさの粒子のため、沈降分離が容易で、水中に分散した光触媒を短時間で回収し再利用が可能です。
- 上記光触媒粒子は、光と反応して有害物質を無毒化する光触媒の表面積を格段に大きくできるため、固定型光触媒による水浄化と比べ、処理速度を難分解性有機物なら100倍、ヒ素なら50倍に高めることが出来ます。
- 本触媒による水浄化は、光触媒と太陽光に含まれる紫外線のみですので、低コストで環境負荷のないシステムとなります。
【内容】
本開発は以下の新規要素技術により実現しました。
(1)粒子間に生じる静電引力を利用する、新構造の光触媒粒子設計・合成技術
(2)光触媒粒子の表面設計による、水中における分散・凝集状態の制御技術
【従来例】
従来の塩素処理や逆浸透膜を利用した水浄化装置では、ヒ素などの有害金属は十分に除去できませんでした。固定型光触媒での水浄化方法は有害物質と反応する接触面が限られるため反応速度が遅くなり、光触媒粉末を水中に分散させる水浄化方法は処理後に光触媒を水中から分離回収するため、どちらも大規模な処理漕の設備が必要でした。
【備考】
本開発内容の一部は、インドのジャダプール大学との産学連携プロジェクトにて水浄化システムの効果を10月より実証していく予定です。
【特許】
国内 10件、海外 6件(出願中含む)
【お問い合わせ先】
- R&D本部 広報担当
- E-mail:crdpress@ml.jp.panasonic.com
【内容の詳細説明】
(1)粒子間に生じる静電引力を利用し、新構造の光触媒粒子設計・合成技術
沈降分離で回収しやすい大きさの粒子の表面に、ゾルゲル法で光触媒の薄膜を形成する方法は古くから提案されていましたが、微粉末の二酸化チタン光触媒[5]の活性には遠く及びませんでした。 今回、ゼオライトという回収しやすい大きさの粒子の表面に、微粉末の二酸化チタン光触媒を結合させた新構造の光触媒粒子を開発しました。特定の粒子間に作用する静電的な引力を結合力として利用しているため、結合剤などの化学物質は不要です。この結果、ゼオライトの表面に結合された微粉末の二酸化チタン光触媒は、本来有する光触媒活性を失うことがありません。3価ヒ素や難分解性有機物の光触媒酸化反応において、本開発の光触媒は、微粉末の二酸化チタン光触媒と同等の光触媒活性を示します。
(2)光触媒粒子の表面設計による、水中における分散・凝集状態の制御技術
微粉末の二酸化チタン光触媒はゼオライトの表面に弱く結合しています。この新構造の光触媒粒子を含む水溶液をかくはんすると、微粉末の二酸化チタン光触媒は水溶液の中に分散していきます。かくはんを止めると、微粉末の二酸化チタン光触媒はゼオライトの表面に再結合し新構造の光触媒粒子を形成します。この粒子形成の結果、新構造の光触媒粒子は容器の底に沈殿し、容易に水から分離することができます。
【用語の説明】
- [1] 固定型光触媒
- タイルやガラス繊維の表面に二酸化チタンの薄膜を形成した、従来型の光触媒材料。
- [2] 有害金属
- 光触媒と反応させることが出来る3価ヒ素や6価クロムなどの人体に有害な半金属又は重金属。
- [3] 難分解性有機物
- 従来の活性汚泥法などでは分解が困難な、医薬品、環境ホルモン、農薬、色素などの難分解性有機物。
- [4] 無毒化
- ヒ素や六価クロムなどの有害物質は、光触媒に特有の化学反応により、より毒性の低い物質に化学変換されます。
- [5] 微粉末の二酸化チタン光触媒
- 例えば、デグッサ社P25 TiO2は微粉末の二酸化チタン光触媒のベンチマークとして世界的に広く知られています。その粒子の直径は平均25ナノメートル程度です。
水中に分散させた新構造の合成光触媒(左図)と
ヒ素の場合の反応速度比較(右図)
本技術を用いた水浄化システムを新興国に適用するイメージ図