2020年11月13日に発表されたパナソニックの「持株会社化」。2022年4月に新体制への移行を目指している。パナソニックが持株会社化で目指すのは、個々の事業を専門的に担う事業会社が、業界他社に負けない競争力を徹底的に磨き、グループ全体での収益性を高めることだ。その狙いや、実際の運用、デメリットは無いのかーー。
これまで開示されてきた情報から一歩踏み込み、佐藤副社長に聞いた。
「専鋭化」とシナジーで領域を定め、事業を強くする
パナソニックが持株会社化する最大の目的は、事業ごとの競争力を磨きあげる「専鋭化」(※)の実現です。現在もパナソニックは、社内カンパニー制を採用しており、擬似的に事業体を構成しています。しかし、人事制度に代表されるような各種制度は全社共通です。パナソニックは広い領域で事業活動をしていますが、業界ごとに賃金水準や求められる技能が異なる中で、パナソニックだけが共通の物差しで戦っている。業界ごとに対峙する競合会社とは大きく条件が異なり、結果、専門性を弱めることになります。持株会社制となり権限を大幅に事業会社へ移行できれば、独立会社として業界で競争力を持てるよう、仕組みを事業ごと・業界ごとに最適化することに踏み込める。領域にふさわしい組織や制度に変えることで、事業それぞれでスピーディかつ最適な意思決定が行いやすい体制をつくることができます。
※絞り込んだ領域で競争力を徹底して磨き上げる姿を示す造語
個々の事業では、「専鋭化」を第一に追求していきます。ですから、「パナソニック コネクト(株)」「パナソニック インダストリー(株)」「パナソニック エナジー(株)」など、個別事業を専門的に担う事業会社については、それぞれの業界競合に向き合い「専鋭化」を進めることが最優先です。
一方、複数の事業を社内カンパニーとして抱える新「パナソニック(株)」では、「専鋭化」に加え、シナジー創出も重要となります。パナソニックは、津賀が社長となり初めて中期戦略を発表した2012年からこれまで、社内でのシナジーや社外とのコラボを推進する「クロスバリューイノベーション」を掲げてきました。新「パナソニック(株)」では、コールドチェーン、空質空調、電気設備など相互に関係することで、事業シナジーが発揮しやすい事業体を一つに束ねています。ここでは、組織の枠組みを超えたさらなるシナジー創出も継続しながら、傘下事業それぞれの収益性向上を図っていきます。さらに言えば、手持ちのリソース・アセットを活かすだけでは、十分に競合と伍することができないケースもあると考えています。事業ごとで重要度は変わりますが、オーガニックな領域だけでなく、協業なども含めフレキシブルな対応ができることも、持株会社化のメリットです。最終的には売り上げ規模を追うのではなく、事業領域ごとにEBITDA(※)をいかに改善するか。それぞれの事業ごとに高い領域へ引き上げることが重要になってきます。
※EBITDA(償却前営業利益):Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization
階層が増えることによるデメリットは回避
一般的に想定されるHD会社のデメリットは極小化することも大切です。社内では、「薄皮にする」と表現していますが、階層が増えたために決定スピードやコストが重くなるようなことは避けなければなりません。「パナソニック ホールディングス(株)」の役割は、グループ戦略機能と、ガバナンスおよびコミュニケーション機能の大きく二つです。事業の戦略性を議論する形で事業会社との距離は縮めますが、事業の邪魔をせず、コスト的にミニマムでやり切るのが大事なポイント。同じ考え方で、間接部門を別会社化しています。機能最適視点で、筋肉質な組織へと変革することを追求した結果です。
固定費削減、赤字事業の立て直しなど「経営体質強化」の取り組みについては着実に進めてきました。新型コロナ影響で売上も利益も大きく落ち込みましたが、第3四半期が終わった現時点、足元の利益は高い水準で回復しています。成長を担う基幹事業の一つである円筒形車載電池事業も黒字体質が定着し、さらなる増販増益の実現を目指すフェーズとなるなど、事業ごとの競争力強化も結果が出ています。今後の成長を牽引する事業と定めた空質空調などのビジネスは、事業領域として収益に貢献する塊にまでは至っていないと感じていますが、事業強化に存分に集中できる新体制の中で、コア事業領域を「専鋭化」し、収益の太い柱をつくっていきます。