写真:パナソニックグループ グループ・チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(グループCHRO)、DEI推進担当執行役員 三島 茂樹

2022年11月14日

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競争力を支える「社員のウェルビーイング」実現に向けて~グループCHRO 三島執行役員に聞く

パナソニック ホールディングスは、2022年10月、人的資本経営の考え方のもと多様な社員の安定したウェルビーイングを実現するための施策の一環として、社外副業・通勤圏外からのフルリモートなど「働く時間」「働く場所」の選択肢を拡大すると発表した。これまでも真摯に「働く環境」づくりに向き合い、国内におけるいち早い週休2日制導入や、育児・介護等の支援、リモートワークの推進などを実施してきたパナソニックグループ。しかし、グループCHROでDEI(Diversity, Equity & Inclusion)推進担当執行役員の三島は、「一人ひとりの挑戦を後押しする新たな働き方の選択肢拡大が不可欠だ」と語る。その構想と、「社員のウェルビーイング」へ本気で向き合う決意を聞いた。

変化に応じて「人的資本経営」のための施策もアップデート

三島:パナソニックグループは創業以来、創業者 松下幸之助の経営理念に沿って、人材を重要な資本として捉える「人的資本経営」の考え方を大切にしてきました。しかし社会環境が急速に変化し、価値観の多様化が進む中、その変化に応じて「人的資本経営」のための施策も、継続的にアップデートしていくことが求められていると、今、切に感じています。
多様な個性をもつ社員がいきいきと挑戦し、活躍していくためにも、一人ひとりが心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて幸せと働きがいを感じている「ウェルビーイングな状態」を常に維持できているようにしたい――。そのためにできることとは何か、私なりの考えと、具体的施策をお話したいと思います。

パナソニックグループは、2022年4月1日、新しいグループ体制をスタートさせました。個々の事業競争力強化と長期的なグループの成長性確保に向けて、組織をより適した形に変え、各事業で出来ることを増やしていくための大きな決断でした。事業会社は、それぞれが向き合う業界で戦略を実行し競争力強化を目指しています。その実現を支えるため、人的資本の観点から人事戦略を立案・遂行していきます。

図版:新しいグループ体制における役割

新しいグループ体制における役割

競争力強化の主役となるのは事業会社ですが、それを支えるのが、パナソニック ホールディングスパナソニック オペレーショナルエクセレンスです。パナソニック ホールディングスは、グループ人事戦略の構築やガバナンスの発揮を通じて、グループ企業価値の最大化に取り組んでいます。パナソニック オペレーショナルエクセレンスは、グループ人事戦略の先行導入や事業会社への導入支援をはじめとするサービスの提供を通じて、事業競争力強化への貢献に取り組んでいます。

私たちパナソニックグループが目指すのは「物と心が共に豊かな理想の社会」です。その実現のためには、企業としての競争力強化が不可欠。そのための手段が、一人ひとりの「社員稼業」と「衆知経営」の実践に支えられた自主責任経営です。グループの社員一人ひとりが、言うべきことが言える風土の中で、卓越した自主責任感にもとづき積極果敢に挑戦する、そして知恵を出しあう姿を常態化していかねばなりません。この前提となるものこそが、「社員のウェルビーイング」なのです。グループに属する社員の「一人ひとりが心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて幸せと働きがいを感じている状態」であること、それが、私たちの考える「社員のウェルビーイング」です。

図版:「一人ひとりが活きる経営」を実践するために

「くらし」の場面でも「しごと」の場面でも、お客様一人ひとりが快適・安心で、心身ともに健康で幸せな状態、すなわちウェルビーイングな状態にある――そんな社会の実現を目指している私たちにとって、まずはグローバルで約24万人の多様な個性と能力をもつ当グループの社員一人ひとりがウェルビーイングな状態であること、それが企業としての責務であり、私たちの目指す「物と心が共に豊かな理想の社会」に向けたスタートラインだと考えています。

安全・安心・健康に/やりがいを持って/個性を活かしあって「はたらく」

「社員のウェルビーイング」を支える基本的な考え方は、「安全・安心・健康に、はたらく」、「やりがいを持って、はたらく」、「個性を活かしあって、はたらく」の3つを柱としています。

1つ目「安全・安心・健康に、はたらく」に関しては、安全・安心・健康な職場づくりを推進することで、安全・安心の職場環境整備、人権とコンプライアンスの尊重、健康イニシアティブの推進を軸に取り組んでいきます。特に健康イニシアティブについては、これまで労使、健康保険組合との連携で推進してはいたものの、産業保健スタッフ中心の活動になりがちでした。健康に関心が高い一部の人は積極的に参加するも、職場全体の活動として定着させきれていなかった面があります。全体として「守り」の健康取り組みだったとの思いもあり、今後はトップメッセージのもと、グループとしての発信を強化。グローバルでより多くの社員が主体的に参加できるよう、各事業会社で職場の実態に即した取り組みを展開していく予定です。

2つ目は「やりがいを持って、はたらく」ということ。まずは基本となる、仕事を通じた一人ひとりの挑戦を後押しするため、公募によるグループ内人材交流を推進していきます。そして個人の自己実現の機会創出として、副業や能力開発の機会創出、「働く時間/場所」の選択肢拡大も実施します。こうした取り組みを通じて自発的な挑戦意欲と自律的なキャリア形成を支援していくことは、一人ひとりが活きる経営、経営基本方針の実践そのものだと思うのです。組織を越えた全体最適でありつつ、事業競争力の強化につながるような取り組みとして進めていきます。

3つ目は「個性を活かしあって、はたらく」です。現在グループをあげてDiversity, Equity & Inclusion(DEI)を推進していることも、この観点でのアクションと言えます。トップコミットメントとしても、事業会社各社のCEOが互いに議論しながら、それぞれがDEIを前提としつつ経営を進化させていきます。インクルーシブ(包容力のある)な職場環境づくりも注力するポイントです。誰もが持つアンコンシャス・バイアス、つまり無意識の思い込みに気付くための研修を推進し、同時に職場内の対話促進や、職場の壁を越えたコミュニティ活動を奨励するような活動を進めます。さまざまな事情やニーズを持つ一人ひとりに対するサポートも、育児や介護などに携わる社員のワーク・ライフ・バランス支援をはじめ、障がい、LGBTQ、高年齢者、ジェンダーなど、多角的な視野から取り組んでいきます

写真:パナソニックグループ グループ・チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(グループCHRO)、DEI推進担当執行役員 三島 茂樹

パナソニックグループ グループ・チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(グループCHRO)、DEI推進担当執行役員 三島 茂樹

働き方の選択肢:キャリア継続のハードルを取り払い、成長をバックアップ

「やりがいを持って、はたらく」と「個性を活かしあって、はたらく」の2つの柱に関わるのが、「働き方の選択肢」拡大です。そのねらいは、個人と組織の2つの視点から成果を最大化すること。組織の視点においては、対面かリモートのどちらかではなく、各事業の状況や各人の携わるフィールドに応じて、対面/リモートの働き方のバランスを最適化することで、生産性の向上につなげます。一方で、働く時間と場所の選択肢の拡大、これはまさに個人の視点でウェルビーイングを実現することにほかなりません。社内には、さまざまな事情を抱えながらも挑戦を続けようとしている社員が多くいます。「今は事情があってフルに働くことが難しいけれども、担当中の仕事に挑戦し続けたい」、あるいは「もっとスキルを高めて、さらなる挑戦がしたい」「社外でも挑戦して視野を広げ、それを今の仕事にも活かしたい」――そのような一人ひとりの挑戦と成長を後押しし、誰もがあきらめることなく、キャリアを繋いでもらえるようにしたいと思います。

図版:多様なニーズにきめ細かく対応し、選択肢を拡大する

例えば、副業・ボランティア・自己学習など、自律したキャリア形成に向けて挑戦したい個人の場合、週3日勤務で空いた日を使って他社副業に挑戦する、労働時間を減らさずに通勤圏外の実家から副業に挑戦する、といった働き方も可能になります。また、育児や介護、もしくはパートナーの転勤に帯同するといったライフイベントと、キャリアを両立したい個人の場合、通勤圏外の自宅から、残業なしのフレックス&フルリモート勤務、通勤圏外の実家で介護しながら、週4日フルリモート勤務などの働き方も可能となります。

フルリモート勤務の推進は、働く「場所」の選択肢を拡大することにつながります。各社員の本来の勤務地であるオフィスからは通勤圏外となる自宅・実家であっても、「働く場所」の選択肢として選ぶことが可能となり、一人ひとりのニーズに合わせた、よりフレキシブルな働き方が可能になります。パートナーの転勤などで通勤圏外に引っ越す場合であっても、リモートで働き続けることができるため、希望しないキャリアの転換や断絶も避けられます。個人の人生においても、仕事の上でもさまざまな経験を積み、スキルを伸ばし続けることで大きな成長につながる。それが「一人ひとりが活きる経営」においても、大きな資産となるはずです。

社外副業に関しては、当グループ内あるいは現時点の担当業務では得にくい経験でも、組織外で副業することによってチャレンジの機会を持てるということもあるでしょう。変化の激しい社会環境の中、自分の価値を知る、会社のいいところ悪いところを知ることに繋がれば、個人のスキルアップはもちろん、グループ全体にとってもプラスとなるはず。今までのルールによって、新たな学びや経験を諦めざるを得なかったケースも多々あったのではと感じています。いろんなニーズ、バックグラウンドを持つ一人ひとりが挑戦し続けるにあたって、さまざまなハードルを取り除くために、今のパナソニックグループにできる支援は可能な限り行っていきます。

「言うべきことが言える風土」の中で、社員一人ひとりの思いに寄り添った仕組みへ

実は、今回の発表についてグループCEOの楠見は個人的にも社内外へ思いを発信しています。

その発信内容を一部要約すると、次の通りです。
――外部からは「そんな甘いことをやって大丈夫か」「ますますぬるま湯になって熾烈な競争に勝てるのか」といった意見もいただきますが、「働きたくなければ、そこそこの時間だけ働いてくれればいいですよ」という意図では断じてありません。何としても、当グループで働きながら「今は事情があってフルに働くことが難しいけれども、今の仕事を続けて挑戦し続けたい」「もっと果敢に挑戦したい、だからもっとスキルを高めたい」「もっと視野を広げた上で仕事にも活かしたい」という方々に活用して欲しいとの思いです。何かを犠牲にしないと仕事での挑戦を続けられない……そんな状況を少しでも改善したいのです。――

楠見は社内のSNSでも同じ思いを伝えているのですが、それは今、社員同士の活発なコミュニケーションへと発展しています。かつて介護との両立が難しく休業を経験した人。いろんな事情でキャリアを諦めた仲間を見てきた人。一方で、最近、男性で育児休業を実際に取得した人。定年後再雇用で当グループに勤務しながらベンチャー企業でも活動している人。プロボノ(※)や社外団体での活動で新しい経験を得ている人。これらさまざまな立場・経験をバックグラウンドに持つ社員からの率直でリアルな声が、すべて実名で、グループ内全体に見える形で発せられつつあります。そしてこうした声がマネジメント層も含めて社員一人ひとりに届き、新たな気づきや発意につながっています。

まだまだ発展途上かもしれませんが、心理的安全性が担保されていることを大前提として、言うべきことはしっかりと言える風土が着実に実現しつつあると感じています。

※「公共善のために」を意味するラテン語の「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かしたボランティア活動

画像:週休2日制(当時は「週五日制」と表現)をスタートした1965年当時の社内報

週休2日制(当時は「週五日制」と表現)をスタートした1965年当時の社内報

かつて、グループの創業者 松下幸之助は、国内においていち早く1965年に週休2日制を導入(構想の発表は1960年)しました。日本の大企業での導入例がまだ無い中での先進的な発想だったため、当初は社内外で疑問視する声も多かったと聞きます。創業者の真意は、「今後、世界のメ-カ-と互角に競争していくには、能率を飛躍的に向上させなければならない。それには休日を週2日にし、十分な休養をとる一方で、文化生活を楽しむことが必要になる」というものでした。
この度、他社雇用型の社外副業をグループの一部から解禁しますが、これは電機業界の中でも先駆けた取り組みだと思っています。一方で、人的資本経営に基づいた施策の実行は、必ずしも他社に先駆けるということに重きがあるのではありません。重要なのは、全ての社員が活きる土壌をつくる、そのために一人ひとりが自律性・自発性・選択肢を持てる仕組みをきめ細やかに整えること。あるべき姿を描き、その実現に向けて改善を重ねていくパナソニックグループの基本姿勢として、社員のさまざまな立場や思いに寄り添い、仕組みを進化させていく。社会環境の変化が加速している今こそ、既存の枠組みにとらわれず現況に則した施策を考え続け、スピーディに判断・実行し、社員の「幸せの、チカラに。」なっていきたい――これが、私の思いであり、グループCHROとしての決意です。

記事の内容は発表時のものです。
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