富士フイルム株式会社(社長:中嶋 成博)とパナソニック株式会社(社長:津賀 一宏)は、イメージセンサーの受光部に、光を電気信号に変換する機能を持つ有機薄膜を用いることで、従来のイメージセンサー(※2)を超える性能を実現する有機CMOSイメージセンサー技術を開発しました。本技術をデジタルカメラなどのイメージセンサーに使用することで、さらなるダイナミックレンジ(※3)の拡大や感度(※4)アップなどを実現し、明るいところで白トビなく、暗い被写体でも鮮明で質感豊かな映像を可能にします。
近年、イメージセンサーでは、画素数を増やす継続的な技術開発が進められています。これにより、イメージセンサーの解像度は大きく向上していますが、さらに画質を高めるためには、ダイナミックレンジの拡大、感度の向上、各画素間の混色の低減なども合わせて求められます。これに対して、パナソニックは、半導体デバイス技術を駆使して、イメージセンサーの高画質化技術を磨き、高性能イメージセンサーを提供してきました。また、富士フイルムは、受光部にシリコンフォトダイオード(※5)ではなく、光の吸収係数が大きい高信頼性の有機薄膜を開発し、新しいイメージセンサーの技術構築を進めてきました。
そして今回、富士フイルムとパナソニックは、富士フイルムの有機薄膜技術とパナソニックの半導体デバイス技術を融合し、従来のイメージセンサーを超える性能を実現する有機CMOSイメージセンサー技術を共同開発。新開発の有機CMOSイメージセンサー技術は、業界最高の88dBの高ダイナミックレンジ、従来(※2)比約1.2倍の感度、広い入射光線範囲(※6)を実現し、カメラのさらなる高感度化・高画質化・小型化を可能にします。
今後、両社は、この有機CMOSイメージセンサー技術を、監視・車載カメラ、モバイル端末、デジタルカメラなど幅広い用途に提案していきます。
富士フイルム、パナソニックは、6月11日に京都で開催される「2013 Symposium on VLSI Technology (VLSI2013)」、ならびに6月15日に米国ユタ州で開催される「2013 International Image Sensor Workshop」にて本研究成果を発表します。
(※2) パナソニック製イメージセンサーからの推定値。
(※3) 撮影できる明るさの範囲(最も明るい部分と最も暗い部分の比)。
(※4) イメージセンサーとしての感度とは、光を電気信号に変える割合。大きいほど暗いシーンをクリアに撮像できる。
(※5) 入射した光を感知する受光素子の一種。イメージセンサーの画素毎に設けられ、光を電気信号に変換する。
(※6) 入射した光を効率良く電気信号に変換できる角度の範囲。
<新開発の有機CMOSイメージセンサー技術の概要>
従来のイメージセンサーは、受光部のシリコンフォトダイオード、金属配線、カラーフィルター、オンチップマイクロレンズで構成されています。新開発の有機CMOSイメージセンサー技術では、シリコンフォトダイオードに代えて、光吸収係数が大きい有機薄膜を採用。シリコンフォトダイオードの数分の1である0.5ミクロンまで受光部の薄膜化を可能にしました。これらの構造により、以下の特長を実現しています。
(1)業界最高の88dBのダイナミックレンジにより、白トビなく、暗い被写体も鮮明で階調豊かな映像が取得可能
- パナソニックの半導体デバイス技術により、信号の飽和値(※7)を従来のイメージセンサーよりも4倍に向上し、さらにノイズを抑える回路を新開発することで、業界最高の88dBのダイナミックレンジを実現しました。これにより明るいところで白トビなく、暗い被写体も鮮明で階調豊かな映像を取得できます。
有機CMOSイメージセンサー撮像例 | 低ダイナミックレンジ撮像例 |
(2)従来の約1.2倍の感度を実現し、暗いところでもクリアな映像が撮像可能
- パナソニックの半導体デバイス技術で形成した、画素内のトランジスタや金属配線などの上に、富士フイルムの有機材料技術により開発した有機薄膜を積層。従来のイメージセンサーでは、各画素に金属配線や、フォトダイオード以外の部分に光が入射するのを防止する遮光膜を形成する必要があったため、受光部分の面積が制限されていましたが、有機CMOSイメージセンサー技術では、全面に有機薄膜を形成することが可能なため、センサー面上で受ける光を全て有機薄膜で受光することができます。これにより、従来の約1.2倍の感度を実現し、暗いところでもクリアな映像を撮ることができます。
(3)入射光線範囲を60度へ拡大し、忠実な色再現性を実現(*イメージセンサーの模式図を参照)
- 富士フイルムが開発した、光吸収係数が大きい有機薄膜により、受光部の有機薄膜の厚さをシリコンフォトダイオードの数分の1である0.5ミクロンまで薄膜化しました。従来のシリコンフォトダイオードでは、深さ方向に3ミクロン程度必要なため、30〜40度程度に光線入射角が制限されていましたが、有機CMOSイメージセンサー技術では、薄膜化により60度の広い入射光線範囲を実現。斜めから入射する光を効率良く利用することができ、混色のない忠実な色再現性を可能にします。またレンズの設計自由度が増し、カメラの小型化にも繋がります。
(4)高信頼性を実現し、幅広い用途で利用が可能
- 富士フイルムは、有機薄膜を保護する無機薄膜を成膜するプロセス技術を開発し、有機薄膜への水分および酸素の浸入を阻止することで、性能劣化を防ぐことを可能にしました。温度、湿度、電圧、光などのストレス印加による信頼性試験をクリアし、幅広い用途で有機CMOSイメージセンサーの利用が可能です。
【技術に関する問い合わせ】
- 富士フイルム株式会社 R&D統括本部 先端コア技術研究所
- TEL 0465-85-6533
- パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 広報グループ
- TEL 06-6904-4732