【要旨】
パナソニック株式会社は、重量物の重さを軽減し、あらゆる方向への移動と正確な組み付けが可能となる新しいパワーアシスト技術を開発しました。空圧人工筋[1]を用いることでパワーアシストする機構部を大幅に軽量化し、動きを予測するリアルタイムな制御により、搬送時のスムーズな操作感を実現できます。今後、重量物の搬送が行われる工場、建設現場、福祉分野などへの展開が期待されます。
【効果】
重量物を搬送することの多い作業現場では、吊り下げ式など対象物の重量をキャンセルする方法がよく利用されてきました。この方法では、重量物の重さにより搬送時にその重量による振られが発生したり、正確な組み付けがしづらい点がありました。本技術を適用することにより、操作する人の意図を先読みし、重量物へ最適にアシストする力を加える事ができます。これによりスムーズな操作感と、搬送・組み付け作業が容易となります。
【特長】
本開発は、以下の特長を有しています。
1.空圧人工筋を用いることにより、モータ利用のパワーアシスト方式に比べ3倍のパワーウェイトレシオ[2]を実現すると同時に、大幅な軽量化が可能。
2.空圧人工筋の柔軟性により重量物のはめ込み作業など正確な組み付け作業が可能。
3.あらゆる方向へ重量物を動かすことができ、必要な力を1/3に低減した操作感を実現。
【内容】
本開発は、以下の新規技術により実現しました。
(1)独自の人工筋モデルにより空圧人工筋を精密に駆動する非線形ヒステリシス制御技術
(2)動きをリアルタイムに予測し、不要振動を適切に除去するダイナミクス補償技術
(3)操作する人がスムーズなアシスト感を体感できるインピーダンス[3]補償技術
【従来例】
パワーアシスト技術の例として、重量物を正確に位置決めするモータ駆動を利用し、手元操作盤により操作する方法がありました。しかし、重量物の組み付けには制約があるため熟練した作業が求められ、しかも装置本体が重量化してしまう問題がありました。
【特許】
国内:43件、海外:30件(出願中を含む)
【備考】
本開発の技術成果は、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2012(5月27日〜29日、アクトシティ浜松)で発表します。
【お問い合わせ先】
- コーポレートR&D戦略室 広報担当
- E-mail:crdpress@ml.jp.panasonic.com
【内容の詳細説明】
(1)空圧人工筋の非線形ヒステリシス制御技術
- 空圧人工筋はゴム材料の大きな収縮変位を利用するため、入力(圧力)と出力(張力)の関係が非線形で定式化が困難です。これを実験データにより3次元曲面に効率的に表現する独自の数値表現モデルを開発しました。
- 空圧人工筋内の繊維構造は、内部摩擦により出力にヒステリシスが発生します。これを独自のヒステリシス計算モデルを用いてリアルタイムに推定し、効率よく補正します。
(2)ダイナミクス補償技術
複数の関節からなるパワーアシスト駆動部の運動方程式をあらかじめ内部モデルとして持ち、これをリアルタイムで解くことにより、予想される重量物の振動の発生を事前に推定します。これを打ち消す力をあらかじめ与えることで、やわらかいアシストアームに特有の不要振動を防止します。
(3)インピーダンス補償技術
操作者が重量物にあたえる力を6軸力覚センサにより測定します。この測定値を基に、実現すべきインピーダンス特性を満足する重量物軌跡をリアルタイムで計算します。この軌跡に従いパワーアシスト駆動部を動かすことで、任意のインピーダンス特性が実現できます。
【用語の説明】
- [1]空圧人工筋
- ゴムチューブを繊維でくるむことにより空気圧による膨張を一方向に拘束し、生体筋肉と似た特性をもつ人工筋肉アクチュエータを実現するもの。
- [2]パワーウェイトレシオ
- 出力と質量の比率。比率が大きいほど軽い構造でありながら、大きな出力がとれる。
- [3]インピーダンス
- 物体が力学的な作用に対して抵抗しようとする性質のことで、質量や粘性といった特性で表される。