【要旨】
パナソニック株式会社は、世界で初めてパワーデバイス[1]の駆動回路[2]を半導体チップ上に実現する新しい駆動方式を開発しました。半導体基板上で5.8GHzのマイクロ波を使った非接触電力伝送[3]を行なうことで、駆動部の半導体化を実現し、高速化、小型化を達成しました。これによりパワーデバイスと駆動部の一体集積化が可能となり、大幅な小型化が可能となります。
【効果】
現状のパワーデバイスの駆動回路に使用されている「絶縁電源[4]」や「フォトカプラ[5]」を、非接触電力伝送技術を使うことで、不要とし、駆動回路を1/10以下に小型化できます。さらに、半導体チップ上への一体集積化により大幅なコスト削減も可能となります。
【特長】
本駆動方式は、以下の特長を有しています。
- パワーデバイスの駆動部を大幅に小形化(チップサイズ:5.0mm×2.5mm)。
- 「トランス」や「フォトカプラ」と同等の電気的絶縁性の実現により、絶縁電源が不要。
【内容】
本駆動方式は、以下の技術により実現しています。
(3)2系統の信号を一つの電磁界共鳴結合器で伝送し分離可能とする信号分離技術。
【従来例】
従来は「絶縁電源」と「フォトカプラ」などの個別部品を組み合わせて使用していました。個別部品で構成していたため、半導体チップ上への集積化は不可能でした。
【特許】
国内 31件、外国 14件(出願中含む)
【備考】
本開発の一部は、2012年2月22日にサンフランシスコで開催のISSCC2012で発表いたしました。また、本開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成をうけて実施しました。
【お問い合わせ先】
- コーポレートR&D戦略室 広報担当
- E-mail:crdpress@ml.jp.panasonic.com
【内容の詳細説明】
1. パワーデバイスのスイッチング信号をマイクロ波で変調し、非接触電力伝送した後に元のスイッチング信号に復元する絶縁駆動技術
非接触で電力を伝送する電磁界共鳴結合器は、周波数が高くなるほど小さくなります。従来の電力伝送周波数(1MHz)に対して、マイクロ波(5.8GHz)を用いることで、電磁界共鳴結合器の直径は1mから3mmに小さくなりました。従来に比べて電磁界共鳴結合器の上下の電極の間隔を広くできるため、信号のみならず電力まで絶縁を保持したまま伝送できます。9.6kV以上の電圧に耐えることから、パワーエレクトロニクスデバイスのスイッチング駆動にも使用でき、従来異なる技術分野であったマイクロ波エレクトロニクスとパワーエレクトロニクスが融合(Drive-by-microwave)した新しいデバイスが実現されました。
2. 新開発のバタフライ型構造により、電磁界を集中させ小型化を実現する電磁界共鳴結合技術
一部が切断された周回形状の共鳴器構造(バタフライ型電磁界共鳴結合器)とすることで、電磁界集中領域を形成して、小型化を実現しました。マイクロ波を用いて電磁界共鳴結合器を小さくすると共に、半導体一貫プロセスで作製可能なデバイスのみでゲートドライバ回路を構成しました。その結果、ゲートドライバを半導体チップ上に通常の半導体プロセスを用いて集積化することを可能としました。
3. 2系統の信号を一つの電磁界共鳴結合器で伝送し分離可能とする信号分離技術
分離配線をポート間に設置することで、1つの電磁界共鳴結合器で2系統の信号の非接触電力伝送を可能にしました。従来、立上りと立下りそれぞれに電磁界共鳴結合器が必要でしたが、本構造を用いることで電磁界共鳴結合器の面積が1/2になりました。
【用語の説明】
- [1] パワーデバイス
- 電力の変換や制御を行う半導体デバイスです。ひとつの半導体デバイスで、600V程度の高い電圧に耐えると共に、10A以上の大きな電流を制御することができます。最近では、GaNやSiCといった、高性能のパワーデバイスが登場し、エアコンなどの家電機器の省エネルギー化が注目されています。
- [2] 駆動回路
- 半導体デバイスを駆動する回路です。半導体デバイスは、半導体デバイスを流れる電流をコントロールするゲート端子を有しています。この、ゲート端子に電圧を印加して半導体デバイスを制御する回路を駆動回路(ゲート駆動回路)と呼びます。
- [3] 非接触電力伝送
- 金属接点やコネクタなどを介さずに電力を伝送することです。本開発では、電磁界共鳴方式を採用しました。コイルに発生する磁力線のみで結合していた従来の電磁誘導方式に対して、電磁界共鳴方式はコイルとコンデンサを組み合わせることで2つの対向したループ状の電極間に結合状態を作り出します。電磁誘導方式に比べて、アンテナ間隔が離れても高い効率で電力を伝送できる特徴があります。
- [4] 絶縁電源
- 絶縁電源は、1次側(入力)と2次側(出力)が絶縁されている電源です。電源には、絶縁電源と非絶縁電源があります。絶縁電源は、内部にトランスなどの構造体を有するために、非絶縁電源に比べて大きくなると共に、高価になります。電圧が異なる場合には個別に必要となるため、例えばインバータの場合には、3つの絶縁電源と1つの非絶縁電源が必要となります。
- [5] フォトカプラ
- フォトカプラとは、入力側から入った信号を、出力側から出すときに、電気的に絶縁を取ることができるデバイスです。絶縁を取るために、内部では電気信号をいったん光に変え、その光信号を再度電気信号に戻すことを行っています。発光素子と受光素子を対向させて使用するため、フォトカプラと呼ばれます。
【図】 Drive by Microwave 素子の外観写真