【要旨】
パナソニック株式会社は、高速・大容量化に適した、多層構造のクロスポイント型ReRAM[1]を開発しました。2層のクロスポイント構造を0.18μmプロセスで試作し、記憶容量8Mbit、書込み転送速度443MB/sの超高速動作を実現しました。本開発は、次世代の不揮発性メモリーとして期待されるReRAMの高速化と、飛躍的な大容量化を可能とするものです。
【効果】
ReRAMは低電圧で高速書換えや読出しが特長の不揮発性メモリです。 LSIやシステムへの様々な応用が考えられますが、機器の低消費電力化を進めていくためには、待機電力ゼロのシステムの実現が重要になり、電源オフでも記憶内容を保持できる不揮発性メモリの重要性が増大します。また機器の電源オン・オフ時の起動・待機情報などの高速アクセスも必要になります。本開発は、高速大容量の不揮発性メモリであるReRAMを実現するもので、待機電力ゼロのシステムの実現を前進させるものです。
【特長】
本開発は以下の特長を有します。
- クロスポイント型ReRAMでは、従来の1T1R型ReRAM[2]に比べ、メモリセルを10倍以上の高密度化を実現。
- クロスポイント型のメモリセルの多層構造を実現し、大容量化に最適。
- データの高速書込み転送速度443MB/sを実現。
【内容】
本開発は以下の技術により実現しました。
(1)大容量化に適した多層クロスポイントReRAM技術
(2)クロスポイント動作を実現した、新規開発の双方向ダイオード技術[3]
(3)メモリアクセス時のリーク電流を1万分の1以下に低減し、かつ高速動作との両立を実現するメモリアクセス回路技術
【従来例】
現在、不揮発性メモリの主力であるNANDフラッシュは大容量ですが、書込み転送速度は10MB/s程度と遅く、待機電力ゼロが要求されるシステムには適しません。一方、従来の1T1R型ReRAMでは200MB/s程度と高速転送を実現した報告がありますが、大容量化には適していません。
【備考】
本成果は、2012年2月22日に米国 サンフランシスコで開催のISSCC2012で発表いたしました。
【特許】
国内 241件、海外 121件(出願中含む)
【お問い合わせ先】
- コーポレートR&D戦略室 広報担当
- E-mail:crdpress@ml.jp.panasonic.com
【内容の詳細説明】
(1)大容量化に適した多層クロスポイント型ReRAM技術
クロスポイント型ReRAMは、交差する配線間の交点(クロスポイント)にReRAM素子を配置して1ビットを構成するメモリセル方式です。一般的に知られているトランジスタとReRAM素子を組み合わせて1ビットを構成する1T1R方式に比べ、トランジスタを用いないため、メモリセルサイズを約1/4程度に縮小化ができます。さらにメモリセルを上層に積層する3次元化も可能で、本開発の2層積層の場合1層構成に比べ2倍に、4層積層の場合は4倍に高密度化が可能となります。従って1T1R型に比べ例えば4層積層では16倍にメモリセル高密度化が可能です。従来メモリの大容量化は微細化を前提としてメモリセルを縮小し大容量化が行われてきましたが、多層クロスポイント技術は微細化技術だけに依存することなくメモリの大容量化が可能な技術です。
(2)クロスポイント動作を実現した、新規開発の双方向ダイオード技術
クロスポイント型メモリは、メモリセルにトランジスタを有していないため書込み対象のメモリセル以外で流れるリーク電流(回り込み電流)が生じ、これが安定な書込みや高速動作を阻害する大きな要因となります。このリーク電流を抑えるため、一定以下の電圧で電流制限できるダイオード素子がメモリセルには必要です。一方、タンタル酸化物(TaOx)などに代表される双方向型のReRAMでは、+方向及び−方向の双方向の電圧で書換えを行います。従って一定電圧以上で双方向に抵抗変化に必要な電流が流せて、且つ一定以下の電圧では双方向に電流制限できる双方向ダイオードがメモリセルに必要になります。しかしそのようなダイオード素子は従来報告がなく双方向型ReRAMでクロスポイント型ReRAMを構成することは困難とされていました。 今回、タンタル酸化物(TaOx)の抵抗変化を双方向で制御できる双方向ダイオードを、半導体製造プロセスでは一般的なSiN系材料を用いて新たに開発しました。 オン電流密度105/cm2、オン/オフ比 140と高性能な双方向ダイオード特性を有し、双方向型ReRAMでクロスポイント型の動作が可能になりました。この双方向ダイオードの開発によりリーク電流を1/80に低減しました。
(3)メモリアクセス時のリーク電流を1万分の1以下に低減し、かつ高速動作との両立を実現するメモリアクセス回路技術
クロスポイント動作には、リーク電流(回り込み電流)をさらに一段と低減する必要があります。今回さらに2つの取組みを行っています。
一つはレイアウト構造面からリーク電流を低減する取組みで、今回新たに開発した階層ビット線方式とよぶクロスポイント構造です。クロスポイントの場合メモリセルアレイ下のシリコン基板上は空き領域となります。この領域を有効に活用してチップ面積の増加を極力抑えつつ、メモリセルアレイの構成単位を出来るだけ小さく区切る構成を考案し、リーク電流発生領域を小さく絞ることで、リーク電流を低減しました。このことは高速動作にも有効です。この取り組みによりリーク電流を1/30に低減しました。
もう一つは多ビット同時書込み方式とよぶ新たな動作方式です。交差するビット線とワード線で構成されるメモリセルアレイにおいて、選択する1本のワード線に対し、選択する複数のビット線から多ビットを同時書込みするもので、リーク電流は分散され、その結果ビット線1本当たりからみたリークが低減されることを見出しました。多ビットを同時に書込むため高速転送にも有利で、この取り組みによりリーク電流を1/5に低減しました
これらの取り組みによりリーク電流を1万分の1以下に低減し、双方向型ReRAMのクロスポイントにおいて周辺回路の動作限界である書込みパルス幅8.2nsでも書込み動作が出来ることを確認しました。チップ内部は64ビット(8バイト)の並列動作する構成ですので、所定の制御時間を合わせて書込み転送速度は443MB/sに相当します。 読み出し速度は1メモリセル当たり25nsのアクセスタイムで、転送速度としては300MB/sに相当します。今回のクロスポイント型ReRAMは64ビットにつき1ビットのエラー訂正回路(ECC)を備えており、不規則な書込みエラーに対してベリファイ書込みを行わず1サイクルで高速に書込むことが出来ます。
なお今回のクロスポイント型ReRAMは0.18μm CMOSプロセスをベースに8メガビット2層クロスポイントプロセスで構成しています。
【用語の説明】
- [1] ReRAM(Resistive Random Access Memory)
- 金属酸化物薄膜に短いパルス電圧を加えることで大きな抵抗変化を示す不揮発性メモリ。
金属酸化物を電極ではさんだシンプルな構造で、製造プロセスが簡単であることから、微細化に適し大容量メモリとして有望視されている。低消費電力特性や高速書換え特性などの優れた特徴を有し、現在主流のNANDフラッシュメモリの物理限界を見据えた、ポストNANDフラッシュとして、活発に研究開発が行われている。 - [2] 1T1R型ReRAM
- ReRAM素子とトランジスタを接続してメモリセル1ビットを構成するメモリセル方式。
- [3] 双方向ダイオード
- 一般にダイオードは順方向に電圧を印加すると所定の電圧以上で大きな電流が駆動され、逆方向では電流が遮断される特性(ここでは単方向ダイオードとよんでいる)のもので、数多くの種類が知られている。これに対し、どちらの方向に電圧を印加しても所定の電圧以上で大きな電流が駆動される非線形な電圧−電流特性をもつ電流制御素子を双方向ダイオードとよんでいる。双方向型ReRAMでクロスポイントセルを構成する場合、双方向に電圧を印加して高抵抗化または低抵抗化電流を流し抵抗値制御する必要がある。従って双方向に電流を流すことができる双方向ダイオードがクロスポイントを構成する場合必要となる。ReRAMの抵抗変化には140μA程度(電流密度換算:105A/cm2)の電流を所定電圧以上で駆動する必要があるが、この様な電流密度有する双方向ダイオードの報告は従来無く、今回新たにTaN//SiNx/TaNなる材料を用いて新規に開発を行った。