プレスリリース

2006年10月11日

受験生で高濃度酸素の新たな効果を確認

高濃度酸素の吸引による記憶の向上効果を検証

代々木ゼミナール・名古屋工業大学と共同検証


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【要旨】

松下電器産業(株)ホームアプライアンスグループは、代々木ゼミナール及び名古屋工業大学と共同で、約30%の高濃度酸素の吸引による新たな効果として、記憶の向上に関連する効果を検証し、(1)記憶力の向上 (2)学習時の疲労感の軽減 (3)ラットにおける記憶力の向上および遺伝子解析による学習・記憶関連遺伝子の発現増強を確認しました。

【内容】

松下電器産業(株)ホームアプライアンスグループは、酸素エアチャージャーなどの酸素効果の研究を進めておりますが、今回、高濃度酸素の吸引が脳機能に及ぼす効果に着目し、学校法人「代々木ゼミナール」及び名古屋工業大学 藤墳規明教授と共同で高濃度酸素の吸引による学習・記憶の向上に関連する効果を検証しました。

1. 代々木ゼミナールの協力を得て、学習・記憶の実証実験を行った結果、空気の酸素濃度(約21%)で英単語を学習した場合と比較し、約30%の高濃度酸素を吸引しながら英単語を学習することで、英単語の記憶力が向上することを確認しました。さらに、高濃度酸素を吸引しながら学習を行うことで、高濃度酸素を吸引せずに学習を行った場合よりも学習後の疲労感が軽減されることを確認しました。また当社中高年従業員を被験者に行った「単語記憶試験」においても、同様の結果が得られました。
2. 名古屋工業大学と共同で、ラットを用いた水迷路試験※1を行った結果、高濃度酸素を吸引させたラットは高濃度酸素を吸引しなかったラットよりも記憶力が向上していることを確認しました。
さらに、継続的に高濃度酸素を吸引させたラットの脳(海馬体)を網羅的に遺伝子解析した結果、神経細胞ネットワークの形成に関係する遺伝子群、神経細胞間で伝達物質などのやり取りを円滑にする遺伝子群、記憶タンパク質形成に関与する遺伝子群など学習・記憶に関連する26個の遺伝子の発現増強※2を確認しました。
※1: 水迷路試験とは、見えない足場を設けたプールでラットを泳がせ、足場の位置を記憶させる記憶力評価方法の一種
※2: 遺伝子の発現増強とは、遺伝子であるDNA(デオキシリボ核酸)上に刻まれた遺伝情報がmRNA(メッセンジャー・リボ核酸)に転写され、さらにその情報を元にタンパク質の合成が開始されたことを意味します。

【応用分野と実用化】

約30%の高濃度酸素が「リフレッシュ」「集中力のキープ」に寄与するという過去の検証結果に加えて、今回新たに「記憶の向上」が検証され、受験生の記憶力の向上や学習による疲れの軽減、及び中高年の記憶力向上等、幅広い学習分野で高濃度酸素の応用が期待できます。

【学会発表】

本検証内容は「平成18年度室内環境学会総会・研究発表会(2006年12月)」、「平成19年度日本神経科学大会(2007年9月)」で発表予定です。


【内容の詳細説明】

1.学校法人「代々木ゼミナール」における学習・記憶力向上の確認

1.1 検証方法
代々木ゼミナールの生徒77名を対象とし、77名を2つの群に分け、英単語の記憶試験を行いました。まず1つの群に対して、1日目に英単語の意味を問う100問の試験を20分間実施し、その後、約30%の高濃度酸素を吸引しながら試験に出題された英単語の学習を20分間行いました。2日目は、1日目と同様に100問の英単語試験を行い、1日目の試験結果と比べ、新たに覚える事ができた英単語の数を、学習による記憶数として評価しました。さらに1日目の試験開始前と学習後に、「気分」、「疲労度」についての主観をVAS※3にて評価しました。もう一方の群では、高濃度酸素を吸引せずに同様の試験を行い、2つの群の結果比較を行いました。

1.2 記憶力の検証結果
<高濃度酸素の吸引によって、学習・記憶力が向上することを確認>

高濃度酸素を吸引しながら英単語の学習を行った生徒の群では、英単語試験の平均正解数が1日目の24.3個から2日目は57.4個に増加し、20分間の学習により新たに平均33.1個の単語を覚える事ができていました。一方、同様の試験を、高濃度酸素を吸引せずに実施した生徒の群では、平均正解数は1日目の22.9個から2日目は51.6個となり、学習により新たに覚える事ができた単語数は平均28.7個に留まりました。(図1)
このことは、通常空気(酸素濃度約21%)を吸引しながら学習を行った場合と比較し、高濃度酸素を吸引しながら学習を行うことで、記憶量が15%上昇したことを示しています。

図1 英単語正解数の変化

1.3 疲労感の検証結果
<高濃度酸素の吸引によって、学習による疲労感が軽減することを確認>
英単語試験開始前と英単語学習後に、気分と疲労度についての主観をVAS※3にて評価した結果、高濃度酸素を吸引せずに学習を行った生徒の群では、学習後の気分および疲労度が学習前に比べて悪化しており、学習に伴う疲労を感じていました。けれども高濃度酸素を吸引しながら学習を行った生徒の群は、気分および疲労度ともに学習前よりも良化していました。(図2) このことは、高濃度酸素を吸引しながら学習を行うことで、学習に伴う疲労感を軽減することができたことを示しています。


図2 英単語学習前後の主観申告変化
※3:VAS(Visual analogue scale)とは、紙に両端に指標を提示した長さ10cmの線を印刷し、被験者が感じた主観の程度を線の上に「しるし」をつけさせ、主観を数値化する手法です。

1.4 中高年の被験者による記憶力向上の確認
当社中高年の被験者12名(平均年齢46歳)に、意味を持たないカタカナや漢字からなる単語12個を5分間で記憶させ、24時間後に覚えている単語を書き出す「単語記憶試験」を行いました。その結果、受験生に対して行った、英単語記憶試験と同じように高濃度酸素を吸引した群は、通常空気を吸引した群に比べて記憶量が17%向上している、という結果を得ました。

1.5 脳波計測の結果
 30代男性被験者が漢字を記憶しているときの脳波分布を計測しました。(脳波計EEG-9100:日本光電) 高濃度酸素を吸引しながら漢字を記憶している時は、高濃度酸素を供給せずに漢字を記憶しているときに比べて、前頭葉で電位が増加していることが確認されました。(図3)このことは、高濃度酸素を吸引することで、脳の活性が高まっていたことを示唆しています。

図3 漢字記憶中の脳波の分布

2.名古屋工業大学との共同研究によるラットによる記憶力向上の確認

2.1 ラットによる水迷路試験(Morris's water maze test)
 1日に1時間、飼育箱内の酸素濃度を約23%※4に調整し、成熟雄ラット10匹に約23%高濃度酸素を21日間吸引させました。その後、1日に1回、ラットを水面下に足場を設け乳白色の水を満たしたプールで泳がせ、足場の位置を5回記憶させました。始めのうちラットは足場の位置がわからず、迷いながら泳いでいますが、何度も泳ぐうちに足場の位置を学習し、足場まで迷わずに到達できるようになっていきます。(図4)5日後に足場を取り払ったプールを泳がせると、あるはずの足場を探して足場があった位置付近に留まります。そこで、足場付近(足場を含む1/4円領域)に留まる時間を計測し、記憶力の評価を行いました。同様の試験を通常空気を吸引させた成熟雄ラット10匹でも行い比較しました。


図4 水迷路試験概要
※4:飼育箱内の酸素濃度を約23%(23〜24%)に調整した理由は、通常、ヒトが約30%、3L/minの高濃度酸素を吸入する場合、肺に入っていく空気の酸素濃度が、ほぼ23%程度であるためです。

2.2 水迷路試験の結果
<約23%高濃度酸素の吸引によって、ラットの短期(場所)記憶力が向上することを確認>

高濃度酸素吸引群は通常空気吸引群よりも足場付近に留まる時間が長くなっており、酸素吸引群は通常空気吸引群と比較して足場の位置をよく憶えていたことが確認されました。
また、通常空気吸引群は高濃度酸素吸引群に比べ、日数が経過するに伴って足場付近に留まる時間が速く短縮するため、日数の経過に伴い足場付近に留まる時間の差、すなわち記憶量の差が大きくなっていることが確認されました。(図5)

図5 ラットによる水迷路試験結果

2.3 海馬体で発現増強された学習・記憶関連遺伝子
 1日1時間、高濃度酸素を21日間吸引させたラットの脳(海馬体)の遺伝子解析を行いました。約3万個の遺伝子を網羅的に解析した結果、高濃度酸素の吸引により193個の遺伝子が発現増強されることを確認しました。その内26個は学習・記憶に関連する遺伝子であり、これら26個の遺伝子は学習・記憶形成を支える基盤的遺伝子群(表1のCategory I)と学習・記憶に直接関与する遺伝子群(表1のCategory II)に大別できました。基盤的遺伝子群(Category I)には、神経細胞の生存や発達、シナプスの新生や成熟、細胞の退化防止に関与する遺伝子が含まれていました。また、学習や記憶に直接関与する遺伝子群(Category II)には、LTP※5や記憶タンパク質の形成、イオンチャネル※6の密度増大や学習速度を速めることに関与する遺伝子が含まれていました。

表1 高濃度酸素の吸引により、ラットの脳(海馬体)で発現増強された学習・記憶関連遺伝子

※5: LTPとは、long term potentiationの略で、シナプス伝達の持続的促進のことです。
※6: イオンチャネルとは、細胞が細胞外と無機イオン(Naイオン、Kイオン)の交換をするための輸送路の役割を果たす膜タンパク質のことです。

3.高濃度酸素の吸引による記憶力向上のメカニズム

「水迷路試験」により、高濃度酸素を1日に1時間吸引させたラットは記憶力が向上することが確認されました。この結果は、学習・記憶に関与する海馬体※7機能の向上を示すものと考えられます。このことから、高濃度酸素の吸引は、海馬体での神経活動を支える神経細胞群の構造と機能が良化することが推察されます。
 さらに、1日1時間、高濃度酸素を21日間吸引させたラットの脳(海馬体)の遺伝子解析を行い、約3万個の遺伝子を網羅的に解析した結果、高濃度酸素の吸引により193個の遺伝子が発現増強され、その中で学習・記憶形成を支える基盤的遺伝子群(表1のCategory I)と学習・記憶に直接関与する遺伝子群(表1のCategory II)に属する26個の学習・記憶に関連する遺伝子が発現増強することが確認されました。
 この結果は、高濃度酸素の吸引により、

(1) 学習・記憶を支える神経細胞ネットワークの形成に関する遺伝子群
(2) 神経細胞ネットワーク機能を高めるイオンチャネルやシナプス※9での情報伝達効率の促進に関する遺伝子群
(3) 記憶タンパク質形成に関与する遺伝子群

 の発現増強が誘導されたことを示しています。これら遺伝子の発現増強が、高濃度酸素の吸引による記憶力の向上に関与するものと推察されます。
 なお、この動物実験の結果は、受験生および中高年被験者で行った、高濃度酸素の吸引による記憶力向上効果を説明する一助になるものと考えられます。

※7: 海馬体とは、記憶の形成に関与する脳の部位のことです。
※8: グリア細胞とは、神経細胞を囲んでその役割をサポートする役目を果たしている細胞のことです。
※9: シナプスとは、神経細胞同士をつなぐ役割を果たすものです。

以上