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2017年2月9日
技術・研究開発 / プレスリリース
世界初※1、同一画素内でのフレーム単位の撮像波長域切り替えを実現
パナソニック株式会社は、イメージセンサーの同一画素内で、近赤外線域の感度を電気的に変えることが可能な電子制御技術を開発しました。この技術は独自の積層型構造を有する有機薄膜(以下、積層型有機薄膜)を用い、この積層型有機薄膜へ加える電圧を変えることにより、イメージセンサーの感度波長域を全画素同時に電子制御できるものです※2。これにより、可視光/近赤外線域での撮像をフレーム単位で切り替えることができるようになります。
本技術により、これまで可視光域と近赤外線域の撮像を切り替える際に用いていた、赤外線カットフィルターと、フィルターの挿抜を行う可動部が不要となります。これにより、イメージセンサーをモジュール化した際の小型化や堅牢性向上が可能となります。加えて、有機CMOSセンサーの特長であるグローバルシャッター[1]の機能※3も有しているため、マシンビジョンやITS監視など高速かつ高解像度な可視光/近赤外線域撮像が求められる分野への活用が期待されます。
本開発は、以下の特長を有しています。
本開発は、以下の技術により実現しています。
従来は、1台のカメラで可視域撮像と近赤外線域撮像を行う場合、可動式の赤外線カットフィルターをセンサー前面に設け、可視光域での撮像時にはこの赤外線カットフィルターを挿入して、センサーへ入る赤外線を遮断する必要がありました。しかし、可動部品による撮像波長の変更はカメラの大型化を招き、耐久性や切り替え速度にも課題がありました。
国内94件、外国68件(出願中含む)
本技術の一部は、2017年2月5日~2月9日に米国サンフランシスコで開催される国際学会ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)2017にて発表します。
当社の有機CMOSイメージセンサーは、光を電気信号に変換する機能を有機薄膜で、信号電荷の蓄積と読み出しを行う機能を下層の回路部で、それぞれ完全独立に行う構成となっています。こうした独自構造により、高感度、ワイドダイナミックレンジ[2]、グローバルシャッター機能といった特長を有しています。今回、このような有機CMOSイメージセンサーの特長を維持したまま、撮像波長を可視光域から近赤外線域まで拡げるとともに、近赤外線域の感度を電気的に制御する機能を新たに付加する技術を開発しました。
可視光域に感度を有する有機薄膜と、近赤外線域に感度を有する有機薄膜を積層させることで、可視光域から近赤外線域までの光を捉えられるイメージセンサーを実現することができます。しかし、単純に2つの感度波長の異なる有機薄膜を積層した場合、各々の有機薄膜へ電圧を加えるための電極と信号を読み出すための回路がそれぞれ一組ずつ必要となります。そのため、素子構造が複雑になり、画素サイズを小さくすることが難しいという課題がありました。
この課題に対し、可視光域と近赤外線域に感度を有するそれぞれの有機薄膜に抵抗比を設けて直接積層しました。そして、この積層型有機薄膜に電圧を加えることで、波長感度の異なる各々の有機薄膜に加わる電圧を、抵抗比に応じて変化させる独自構造としました。この構造により積層型有機薄膜に加えた電圧は、積層した各々の有機薄膜に、抵抗比に応じて分配されることになります。特定の閾値以上の電圧を加えないと感度が発現しないという有機薄膜の特性に着目して、各々の有機薄膜に加えられる電圧が抵抗比に応じて所望の値になるように有機薄膜を設計しました。このような独自設計に基づく構造により、可視光域のみに感度を有する状態(図1の左図)と、可視光域から近赤外線域に感度を有する状態(図1の右図)とを一組の電極で電気的に切り替えることができるようになります。
図1 積層型有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサーの画素構成と、
加える電圧により撮像波長域を切り替えた時の信号電荷をイメージした図
人の目では暗くて見えないようなシーンでも、近赤外線域での撮像によって鮮明に画像を取得することが可能になります。このため、例えば監視カメラでは夜間の視認性が向上します。一方、明るい環境ではイメージセンサーの近赤外線域感度をなくして可視光域のみでの撮像をすることで色情報を取得することも可能です※4。同一画素内でセンサーの近赤外線域感度を制御できるという特徴により、赤外線カットフィルターを用いることなく撮像波長域を切り替えることができます。
図2 暗い場所と明るい場所があるシーンを撮像した事例
可視光域のみで撮像した画面(左)、可視光域と近赤外線域で撮像した画面(右)
赤外カットフィルターを用いない可視光/近赤外線域撮像が可能なイメージセンサーには、一般に用いられるベイヤー配列[3]のカラーフィルターの一画素を近赤外線域用の画素として割り当てる特殊なカラーフィルター配列を用いた方式があります。これに対して、本技術は近赤外線域の感度を全画素で同時に制御することで、近赤外線域の撮像時には4倍の画素数を実現できるため、画素欠落のない近赤外線域の撮像が可能になります。物質を透過する近赤外線の特徴を利用することで、例えば、肉眼では見えない物質内部の情報を非破壊で高精細に取得することができます。
図3 可視光域のみで撮像した画面(左)、可視光域と近赤外線域で撮像した画面(右)
近赤外線域撮像では水槽の醤油が透けて、奥にある瓶のラベルが認識できる
イメージセンサーの近赤外線域感度を高速に電子制御することで、フレームごとに感度波長域を切り換えた撮像が実現できます。このような特長を利用すると、可視光域撮像による目で見たままの画像と、近赤外線域撮像による人の目では捉えることのできない埋もれた画像情報とを、わずか1フレームの差で交互に取得することが可能になります。ひとつのイメージセンサーで高速に動く被写体の色情報と近赤外線を用いた不可視情報を取得できることから、産業・監視用途のカメラへの応用が期待されます。
図4 回転するボトルをフレーム単位で撮像波長域を切り換えて撮像した画像事例
可視光域と近赤外線域とで見え方の異なるインクを用いてQRコードを印刷しているため、
近赤外線域の撮像時にのみQRコード認識が可能になる
以上
記事の内容は発表時のものです。
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