【要旨】
松下電器産業(株)は、携帯電話用UMTS/GSM/EDGE[1]対応の送信・受信の無線回路と、送信DAコンバータ[2]と受信ADコンバータ[3]などからなるアナログベースバンド回路を集積したデュアルモード 1チップRF-LSI(品番:AN26267)を開発し、2008年2月中旬よりサンプル出荷を開始します。
【効果】
本製品を使用することにより、世界各国での通話を可能にするUMTS/GSM/EDGE通信方式に1チップで対応しているため、小型かつ低消費電力な携帯電話を実現できます。
【特長】
本製品は以下の特長を有しております。(*:当社従来比)
- UMTS(3バンド)+GSM/EDGE(4バンド)の計7バンドに対応
UMTS/GSM/EDGE 計7バンドの送信・受信用アナログRF回路、アナログベースバンド回路を集積することにより、世界各国で通話可能な携帯端末を実現
- 受信時消費電力を10%削減*ADコンバータ回路の低消費電力化により、携帯端末待ち受け時間の より長時間化が可能
- 実装面積を56%削減*SiGeCプロセス[4]採用による、より優れた高周波特性デバイスと、0.18μmへの微細化(従来は0.25μm)を活かし、高性能1チップRF-LSIを開発することにより、セット設計の容易さと小型化に寄与
【内容】
本製品は以下の技術によって実現しました。(*:当社従来比)
- UMTSやGSM/EDGEの個別RF-ICとアナログベースバンドLSIを開発・商品化することで培った携帯電話無線部の回路設計技術およびシステム設計技術
- ADコンバータの消費電力を40%削減*(LSIの受信時消費電力は10%削減*)などを実現した、高周波対応のアナログ回路設計技術
(ADコンバータの開発は、東京工業大学 松澤研究室の協力を得ています) - 材料の変更と微細化で低電流高周波特性を実現するプロセス技術と、最適な高周波回路設計を可能にする高精度設計ツール(PDK[5]:Process Design Kit)の開発や高周波信号の相互干渉を大幅に軽減する回路ブロック間の素子分離などの高周波設計基盤技術
【従来例】
従来のRF-ICでは、世界の主流であるUMTS/GSMデュアルモードを実現するためには、UMTS送信/受信/GSM送受信/UMTSおよびGSMアナログベースバンドといった4個のICが必要でした。したがって、携帯電話における送受信の多方式対応化や多バンド化、サービス多様化のためには、無線部の小型化・低消費電力化が可能な1チップ化が求められていました。
【実用化】
サンプル出荷開始 : 2008年 2月中旬 サンプル価格 :(数量応談)
【照会先】
半導体社 企画グループ 広報チーム 中小路 陽紀 TEL:075-951-8151 E-mail: semiconpress@ml.jp.panasonic.com
【特長の説明】
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UMTS(3バンド)+GSM/EDGE(4バンド)の計7バンドに対応
UMTS/GSM/EDGE 計7バンドの送信・受信用アナログRF回路、アナログベースバンド回路を集積することにより、世界各国で通話可能な携帯端末を実現
本RF-LSIは、従来4チップで構成していたUMTS受信部、UMTS送信部、GSM送受信部、アナログベースバンド部を統合して1チップ化しました。UMTSの3バンドとGSM/EDGEの4バンドの計7バンドに対応することにより、欧州や中国をはじめ世界の多くの地域で使用されているGSM/EDGEや世界の共通仕様である第3世代通信方式UMTSで送受信が可能となり、世界各国で使用可能な携帯端末が実現できます。 -
受信時消費電力を10%削減(当社従来比)
ADコンバータ回路の低消費電力化により、携帯端末待ち受け時間の より長時間化が可能
低消費電力を実現する受信用ADコンバータを、東京工業大学の協力を得て新たに開発しました。このことにより、受信時における回路の消費電力を当社従来比10%削減し、携帯端末の待ち受け時間の長時間化が可能になります。 -
実装面積を56%削減(当社従来比)
SiGeCプロセス採用による、より優れた高周波特性デバイスと、0.18μmへの微細化(従来は0.25μm)を活かし、高性能1チップRF-LSIを開発することにより、セット設計の容易さと小型化に寄与
従来は0.25μm SiGe BiCMOS[6]プロセスを採用していましたが、高周波特性と集積度をさらに向上するために0.18μm SiGeC BiCMOSプロセスを新たに開発しました。優れた高周波特性とデザインルールの微細化を活かすことにより、高性能化と1チップ化が可能になりました。
1チップ化によりセット設計が容易になり、実装面積が当社従来比56%削減できることから、セットの小型化、薄型化が可能になります。
【内容の説明】
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UMTSやGSM/EDGEの個別RF-ICとアナログベースバンドLSIを開発・商品化することで培った携帯電話無線部の回路設計技術およびシステム設計技術
当社は従来、UMTS受信RF-IC、UMTS送信RF-IC、GSM/EDGE送受信RF-ICと、それぞれのRF-ICにつながるアナログベースバンドLSIを開発し商品化しました。これらの開発で培った携帯電話無線部の回路設計技術とシステム設計技術を結集し、1チップ化を実現しました。 -
ADコンバータの消費電力を40%削減(当社従来比)(LSIの受信時消費電力は10%削減(当社従来比))などを実現した、高周波対応のアナログ回路設計技術
(ADコンバータの開発は、東京工業大学 松澤研究室の協力を得ています)
GSM用ADコンバータは方式[7]を採用し、UMTS受信ADコンバータはパイプライン方式[8]を採用し、いずれの方式にも共通するオペアンプ回路を低電圧電源で最適設計し、従来比40%の消費電力削減を実現しました。これには東京工業大学 松澤研究室の協力を得ました。 -
材料の変更と微細化で低電流高周波特性を実現するプロセス技術と、最適な高周波回路設計を可能にする高精度設計ツール(PDK:Process Design Kit)の開発や高周波信号の相互干渉を大幅に軽減する回路ブロック間の素子分離などの高周波設計基盤技術
プロセス開発では、デバイス材料をSiGeからSiGeCに変更しデザインルールを0.25μmから0.18μmへ微細化することで高周波特性を大幅に向上しました。PDK開発では、新プロセスに適したデバイスモデルとそのパラメータを抽出し、より実製品に近いシミュレーションが可能になりました。素子分離技術開発ではアナログブロックとデジタルブロックの信号が相互干渉なくレイアウトできる技術を開発しました。これらの高周波設計基盤技術により、設計完成度を向上し業界に先駆けた1チップRF-LSIの実現が可能になりました。
【暫定仕様】
品番 | AN26267 | |
---|---|---|
機能 | モード | UMTS/GSM/EDGE |
バンド | UMTS:Band I/III/V | |
GSM:850/EGSM900/DCS1800/PCS1900 | ||
仕様 | UMTS:HSDPA CAT6[9] | |
GPRS/EDGE Class12[10] | ||
集積素子数 | バイポーラ:6000トランジスタ、CMOS:15万ゲート(60万トランジスタ相当) | |
動作周波数 | 4GHz | |
電源電圧 | 2.85V/1.85V | |
パッケージ | 185ピン 0.4mmピッチ WLCSP(6.0×6.0×1.0mm) |
【携帯電話無線部のシステム構成と 1チップRF-LSIの概略ブロック図】
【用語の説明】
- [1]UMTS (Universal Mobile Telecommunications System) / GSM (Global System for Mobile Communication) / EDGE (Enhanced Data GSM Environment)
- UMTSは、第3世代移動体通信システムの1方式で、NTTドコモと欧州の通信事業者が採用しています。GSMは、第2世代移動体通信システムの1方式で、採用している国は多く、特に欧州やアジア、アフリカなどでは主流で世界シェアは、77%に達します。EDGEはデータ伝送速度を384kビット/秒に高速化したものです。
- [2]送信DAコンバータ
- デジタル信号をアナログ信号に変換する回路。
- [3]受信ADコンバータ
- アナログ信号をデジタル信号に変換する回路。
- [4]SiGeCプロセス
- 元素の周期がともにIV族半導体であるSi(シリコン)とGe(ゲルマニウム)混晶半導体。
GeはSiに比べてバンドギャップが狭いため、Geの混晶比率を増やしていくとSiGeのバンドギャップは徐々に狭くなります。SiGeをHBTのベース領域に用いGeの濃度を高くするほど高周波特性は向上します。また、SiGeCの利点は、C(炭素)を加えることによってベース中の不純物であるホウ素の拡散を抑制することが可能で、薄いベース層を実現でき、さらに高周波特性の向上が図れます。 - [5]PDK(Process Design Kit)
- プロセス・デザイン・キットは、アナログ回路、高周波回路、ロジック回路を設計するためのデバイスモデル、モデルパラメータ、デザインマニュアル、ルール検証等、完成品の諸特性を予測(シミュレーション)するための、データやルールの総称です。
- [6]BiCMOS
- CMOSとバイポーラトランジスタの長所を組合せた半導体デバイス。デジタル信号処理を行う大規模な論理回路にCMOS技術を、高速または大出力が必要な部分にバイポーラ技術を使ったIC。
- [7](デルタ・シグマ)方式(ADコンバータ)
- アナログ−デジタル変換方式のひとつで、オーバーサンプリングADコンバータとも呼ばれています。量子化ノイズを高周波領域に押しやる変調器のノイズシェーピング特性と後段のデジタルフィルタで帯域外の不要ノイズを減衰させることにより、高精度なADコンバータを実現できます。近年、プロセスの微細化による回路の動作速度向上により、高速・広帯域なADコンバータにも用いられるようになっています。
- [8]パイプライン方式(ADコンバータ)
- アナログ−デジタル変換方式のひとつです。
アナログ入力信号をデジタル値に確定するための単位変換器を従属接続し、それぞれの単位変換器をサンプリングクロックに同期して順送り動作(パイプライン動作)させて上位ビットからデジタル値を確定させます。また、各単位変換器のデジタル出力値は最下位ビットのデジタル出力値と同期するよう遅延させて出力することにより、最終的なアナログ−デジタル変換値として出力します。高速・高精度なADコンバータによく用いられる変換方式のことです。 - [9]HSDPA(High-Speed Downlink Packet Access) CAT6
- 第3世代移動体通信システムをより高速化させるために開発されたパケット通信技術で最高14.4Mbpsの下り通信速度を実現します。HSDPAは3.5世代と呼ばれています。
- [10]GPRS (General Packet Radio Service) / EDGE Class12
- 従来GSM方式の伝送速度を高速した方式で、GSMは最大9.6kbpsに対して、GPRSは115kbps、EDGEは384kbps。
以上