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神戸大学大学院 経営学研究科教授 鈴木 竜太さん
社外の有識者は、パナソニックグループが掲げる「社員稼業」や、その実践の行動指針としてのPLPをどう捉えているのか。組織と個人の関係の在り方を研究されてきた経営組織論・組織行動論の第一人者である鈴木教授に聞きました。
個人が働きがいを自らつくっていく、それが社員稼業につながる
社員稼業の実践には、それを許容する豊かな組織が必要です。大企業ではそれを実感しにくい社員も多いかもしれません。ただ、共に過ごす職場の仲間といった身近なコミュニティであれば、自分らしさや自分の工夫が発揮しやすいでしょう。価値観や規範が固定化された閉ざされたものではなく、常に新しい行動や考え方に、「そんな考えもある」と立ち返れるコミュニティが大切。そして「私はそうは思わない」と議論が生まれるような、開かれたものであることがすごく大事です。
パナソニックの方々には、協調や助け合う風土がある一方で、「着実に仕事をする人」が評価されやすいカルチャーがあると感じます。着実にやるなら前例に従うのが良いとなりがち。そこに自分のアイデアを織り込むことを、いかに促進するかがポイントです。
一例として紹介したいのが、大阪に本社を置くタマノイ酢株式会社。同社が大事にする行動に「協力をする」「自分の限界を考えない」があります。例えば、人材育成で若手社員に大きな仕事を任せます。取引先との交渉もなかなかうまくいかず弱音を吐いても「自分のやりたいことを全部やってこい」とやらせるんです。失敗もあるけど、「もう自分にはできない」と思ったところから、アイデアは絞り出てくる。こういう経験を積むことで、次第にできるようになる。「社員稼業」を実践するにはリスクを取ることも必要ですから、後ろで見守ってくれたり、相談できる人、「コミュニティ」はすごく大事です。励みやよりどころになり、思い切ってやれるからです。
私の好きな言葉に、イギリスの小説家であるキップリングが書いた『ジャングル・ブック』の中の、「狼の強さは群にあり、群の強さは狼にある」があります。個々のオオカミが強くなる土台は群れにあり、強い群れは強いオオカミの集まり。これは個人と組織の関係をよく示しています。言い換えれば、個と組織が相互に作用し合うことで、会社は強くなるということです。
そのためにもう一つ重要な点は、コミュニティの中で思いやりをどう育むか。周りへの思いやりがないと強いコミュニティは生まれにくく、思いやりが生まれれば「会社のために自分ができることは何か」という発想につながります。結局「社員稼業」は一人ではできなくて、会社のために自分ができることを仲間と共に精いっぱいやることだと思います。
一方で、組織に愛着を持ってもらうためには、組織が社員を大事にしなければなりません。私たちは「あなたじゃなければ」と言ってくれる人と、結婚したりパートナーになるわけです。それと同じで、組織が「社員稼業」という限りは、一人ひとりをきちんと大事にするということがすごく重要です。そうあることで、社員は組織や職場に愛着を持つし、その安心できる場で、もっともっと社員稼業をやっていこうと思う――。組織と個人は対等な関係です。
理念や方針をいかに実践するかを示す、行動指針はとても大切です。ただしそれを見て「こういう行動をしなくてはダメ」と、思考が停止してはいけないと感じます。例えばPLPにある「お客さま起点で考える」について、ある人は「お客様の要望に少しでも早くお応えすること」と捉えるかもしれないし、別の人は「時間をかけてでもお客様が納得するものを作ること」と考えるかもしれない。すなわち一人ひとりが、多様な価値観の下、自ら考えて「社員稼業」を実践するだけに、具体的な行動も多様と認識することが大事です。そういう意味でPLPはマニュアルやルールではなく、リファレンス(参照先)として捉える性質のものと感じます。
PLPで掲げる項目・内容は、自分たちの宣言のように書かれていますが、「こういう風に働いていこうよ」という仲間からの手紙のようなものと考えればいいと思います。社員の皆さんはこの手紙にどう答えようかと自分なりに考える……そんな作業が必要なのではという気がします。すなわち自分にとって「パナソニック(会社)とは」「仕事とは」「幸せとは」を、手紙(PLP)と折り合わせながら考えるのです。多様にある個人の働きがいや生きがいを自ら考え、つくっていってほしいと思います。
そう考えれば自然に社員稼業と呼ぶものに近づくと思いますし、その時は職場や仲間たちとのコミュニティがすごく大事になる。社員稼業を、心細くなく思い切ってやれると思います。
鈴木 竜太さん
神戸大学大学院 経営学研究科教授
すずき りゅうた●1994年神戸大学経営学部卒業。1999年神戸大学経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)取得。ノースカロライナ大客員研究員、静岡県立大学経営情報学部専任講師を経て、現在、神戸大学大学院 経営学研究科 教授。主な著作に『組織と個人』(白桃書房)、『自律する組織人』(生産性出版)、『関わりあう職場のマネジメント』(有斐閣)で第56回日経・経済図書文化賞受賞、第30回組織学会・高宮賞受賞、など。
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