2023年11月10日

スポーツ | 特集

企業・経営

【Aim Higher】元プロ野球選手・鳥谷敬さん~自分自身と向き合い「頑張ることをやめる」

元バレーボール日本代表の福澤 達哉が、挑戦を続ける人にインタビューを行うシリーズ「Aim Higher(エイム・ハイヤー)」。今回は、プロ野球選手として日本野球機構(NPB)の一軍公式戦1,939試合連続出場(歴代2位)、プロ通算2,099安打など、数々の輝かしい成績を残した鳥谷 敬さんにインタビュー。現役引退後は野球のみならず、ドラマやバラエティなどにも活動の場を広げ、マルチに活躍している。2022年からパナソニック野球部のコーチに就任。数ある選択肢の中からなぜ社会人野球のコーチを選んだのか。挑戦の背景にある信念や思いとは。トップアスリートのマインドセット、その源泉に迫る。

Profile

写真: 鳥谷 敬(とりたに たかし)

鳥谷 敬(とりたに たかし)
1981年生まれ。東京都出身。早稲田大学を経て、2003年ドラフト自由枠で阪神タイガースに入団。2020年に千葉ロッテマリーンズに移籍。2021年シーズンをもって引退。日本野球機構(NPB)の一軍公式戦1,939試合連続出場、13シーズン連続全試合出場(いずれも歴代2位)、史上50人目の公式戦2,000本安打および、史上15人目の1,000四球を達成。2011年セ・リーグ最高出塁率。ベストナイン6度、ゴールデン・グラブ賞5度。オールスターゲーム出場は7度。2013年WBC日本代表。内野手、右投左打。現在、野球解説者、野球評論家、パナソニック野球部のコーチとしても活躍している。

指導に正解はない 選手が求める形を一緒に考える

福澤:2022年にパナソニック野球部のコーチに就任し、2年目のシーズンを迎えられています。もともと指導者に興味はあったのでしょうか。

鳥谷:指導者は全く興味なくて、実は今もそんなに興味はないです(笑)。

福澤:意外ですね。何か理由はあるのでしょうか。

鳥谷:自分自身が指導者に求めていたことや、受けた影響はそんなに大きくなかったというのが一つですね。プロの世界は、たとえチームが優勝しても自分が成績を残さなければクビになるという環境でやっています。私は成績が出なかったとき、自分の責任とするために、周りに依存せずにやってきました。コーチに精神面や技術面で頼るという感覚があまりなく、その仕事を自分がするのかと考えたときに、そこまで興味は湧かなかったですね。

写真: 福澤 達哉(写真左)、鳥谷 敬

福澤:では、なぜ社会人野球というフィールドでコーチを引き受けたのでしょうか。

鳥谷:引退してこれから何をやっていこうかというときに、自分がこれまでできなかったことに挑戦したいなという思いがあって。野球に関して言えば、唯一自分が経験していないのが社会人野球でした。指導者という立場も新しいチャレンジだなと思って引き受けました。

福澤:指導者として見た社会人野球の印象はいかがでしょうか。

鳥谷:チーム内にプロを目指している選手もいれば、何年か野球をやって社業に戻る人もいます。チームが勝つためだったり、自分がプロに行くためだったり、選手によってモチベーションが違う中で、そこのバランスを取る難しさは社会人野球特有のものと感じています。

福澤:選手時代は、パフォーマンスを維持・向上させるための試行錯誤や努力はもちろん、独自の調整法などを確立されていた印象がありますが、指導においての「鳥谷流」というのはあるのでしょうか。

鳥谷:指導に正解はないと思っています。必ず正解があるならみんな同じ打ち方、投げ方、守り方をしているはず。野球は個性が強く出る競技です。それぞれが試行錯誤しながら、個性を生かして、自分に合う形を見つけてほしいというのが私の考え方。最終的に形を作り上げるのは選手です。また、戦術や試合勘というのは、練習だけではなかなか身に付きません。実戦で起きるさまざまなシチュエーションに対し、自分がどの選択をするかで結果は変わってきます。技術的なことよりも、私自身の経験や物事の捉え方・考え方を積極的に伝えながら、選手が求める正解、ベストな選択を一緒に作り上げるという感覚を持って接しています。

写真: パナソニック野球部でコーチとして指導をする鳥谷 敬

福澤:「選手と一緒に考える」というのは大きなポイントですね。コミュニケーションを取る上で意識していることはありますか。

鳥谷:グラウンドで選手のそばにいる時間をできるだけ長く取っています。例えば、3,000m一緒に走ってみたり、守備の自主練習では、ただノックを打つだけでなく、自分も一緒に守ってみたり。まだ自分の体が動くうちは、アップや練習を選手と一緒にやりながら、近況やチームの雰囲気を聞くなど、指導者としてだけでなく、できるだけ選手の気持ちに寄り添う身近な存在になれるように心掛けています。チームを作る過程で、監督・コーチが目指していることと選手が感じていることのギャップは必ず生まれるので、立場を超えてその間に自分が立てればと。逆にコーチとして話すときは、選手と距離を置くなど、うまくバランスを取るようにしています。

福澤:今日の練習でも、想像していた以上に選手との距離が近く、積極的にコミュニケーションを取っているのが印象的でした。私も鳥谷さんを一ファンとして応援していたのでうらやましいです(笑)。

写真: パナソニック野球部の選手たちと談笑する鳥谷 敬

失敗を受け入れ さらなる成長につなげる

福澤:組織やチームを引っ張るには、周りの人を動かしていかないといけません。非常に難しいと思うのですが、コーチとして意識して実践されていることはありますか。

鳥谷:「こういう形が正解」と一方的に提示して人を動かすことはしないようにしています。同じ技術を教えるにしても、選手によってアプローチを変えることはすごく大事。野球の動きだけでなく、体の使い方や骨格の話、幼少期に他のスポーツをしていたなら、サッカーだとこういう動きじゃないの?とか。1つの物事に対し、多角的なアプローチでコミュニケーションを図るように心掛けています。

福澤:それをするためには、常日頃から知識や情報をインプットしていかないといけないですよね。

鳥谷:もちろん。一番簡単でお勧めなのは本を読むこと。極端に言えば、人が10年かけて体験したものを30分でインプットできるので(笑)。また、自分が知らない世界に積極的にチャレンジするのも有益ですね。私も野球の活動だけでなく、バラエティやドラマにも挑戦したりしていますが、常に自分にないものを求めています。情報や価値観は日々変化していきます。例えば、分かりやすいのは健康で、小さいときに身体にいいものだと言われていたものが、今になってふたを開けてみたら、実は悪い面もあることが分かってきたなんていうこともある。年齢や経験を重ねると難しくなってくる「変化を受け入れる」姿勢を常に持ち、いろいろな物事を見るようにしています。

写真:福澤 達哉(写真左)、鳥谷 敬

福澤:現役時代に大事にしていた考え方や野球への向き合い方で、指導者になった今も共通する部分、選手育成に生きている部分はありますか。

鳥谷:野球ってめちゃくちゃ確率の悪いスポーツなんです。超一流でもたった3割しか打てない。だから、「失敗の受け入れ方」は常に意識していました。私も2,000本打つまでに、数え切れないほどのアウトを重ねています。でも、そのミスを受け入れて、マイナスをどうプラスに変えていくかを考えることで、成長につなげてきました。この習慣は指導にも生きていると思います。

福澤:失敗を受け入れることで、自然と次に取るべきアクションに目が向くということですね。スポーツ界でもいまだに問題になっていますが、ミスだけにフォーカスして叱責する指導者も多いですよね。

鳥谷:ミスしたことを責めても意味がない。選手が受け身になり、次に「ミスをしない」ための選択をしてしまうことが一番怖いです。教える側も失敗と向き合い、次に結果を残すための選択をしていくことが大事ですね。

福澤:指導の中で特に気を付けている点はありますか。

鳥谷:指導をしていると、自分ができたことと選手ができないことのギャップがどうしても出てくるわけですね。例えば、バランスボールに最初から立てる人もいれば、立つために1週間、2週間とかかる、もしくは立てない人だっています。でも、自分はできたという感覚で接してしまうと、それが時に選手にとってマイナス要因になる。自分の経験は当然選手に伝えるんですが、誰でもできるというような、自分の感覚と照らし合わせての判断はなるべくしないようにしています。

写真: 福澤 達哉(写真左)、鳥谷 敬

自分自身をもっと知るために 挑戦を続ける

福澤:現役を引退してからも、ドラマに出演するなど非常にマルチに活躍されていますが、いろいろなことに挑戦する上でのモチベーションや大事にしている考え方はありますか。

鳥谷:これまで野球しかやってこなかった中で、いざ何かに挑戦して一歩を踏み出してみると、意外と自分自身を良く知らないことに気付いて。その経験から今は「自分の得意・不得意を知る」ことをモチベーションにしているので、どんな挑戦も前向きに捉えることができています。私は生涯を通して挑戦と勉強を続けたいと思っています。それができれば、一番幸せですね。

福澤:単に挑戦するだけでなく、どう向き合っていくかで成長の度合いは変わってきますが、成長するために一番大切なことは何だと思いますか。

鳥谷:「頑張ることをやめること」です。選手時代は、朝早くからトレーニングしたり、ナイターの試合でも11時半ぐらいから準備したりしていました。たぶん周りからは、すごく頑張っているように見えたと思います。でも、私は頑張っているという感覚はなく、必要だからやっていただけ。頑張らなくても続けられるものを見つけたときに、人は勝手に成長すると思っています。

福澤:その考え方は新鮮で面白いですね。一般的に、頑張ることはポジティブなアクションだと捉えている人の方が多い気がします。

鳥谷:頑張って何とかしようとするものって、成長しづらい。例えば、めちゃくちゃ球が速いけど、コントロールが悪い選手がいたとします。何とかコントロールを良くしようとすると、どうしてもスピードが落ちて、打たれてしまう。頑張ったことで自分の武器や長所が消えてしまうのを野球の世界でたくさん見てきました。頑張らなくてもできるものは、言い換えれば、自分に合っているということ。そこの見極めは大事にしています。

写真: パナソニック野球部でコーチを務める鳥谷 敬

福澤:確かに、私も自分に合う形、つまり自分がやりたいことを追い求めているときは、頑張っているという意識はありませんでした。積極的にいろいろなチャレンジをすることで、自分に合うものが見つかるという考え方もできますね。

鳥谷:そうですね。私も今までできなかったことを片っ端からやって、その中で自分に向いている仕事を見極めたいと思っています。60歳までしっかり働き、そのあとは何もしないというのが、今私が掲げているビジョンです。そのために40、50代で何をしないといけないかを常に考えています。スポーツの世界はある種、特殊な環境。選手時代は、自分のためにやったことで、結果的に多くの人が喜んでくれました。1点取るだけで喜んでもらえる、結果に一喜一憂するような刺激的な生活は日常にそう転がっていません(笑)。これからの人生は、応援してくれた人や周りの人のために何かをする、自分から周りを喜ばせる、幸せにすることにやりがいを感じるようになってくるのではないかなと。あなたにしかできないです、って言われる数が多ければ多いほど生きがいは増えてくるし、周りから頼りにされることがモチベーションになると思っています。

福澤:最後に、さらなる高みを目指して挑戦しようとしている皆さんに向けてメッセージをお願いします。

鳥谷:「生涯を通じて挑戦や勉強をしていく」という思いで生活をしていると、「幸せだなぁ」と感じる瞬間って、たぶん2割ぐらいしかないですね。でも、嫌なこともたくさんある中で、常に挑戦と失敗を繰り返していくために人は生まれてきたと思っています。モチベーションは挑戦すれば勝手に上がっていくし、しなければ下がってくる。だからこそ、目先の挑戦を大事にしていってほしい。必ずしも大きな挑戦である必要はありません。いつもより5分早く起きるとか、毎日5分だけ歩くとかでもいい。日常の中でちょっとした挑戦を重ねていくことが、より豊かな生活につながっていくと信じています。

写真:福澤 達哉(写真左)、鳥谷 敬

Interviewer & Writer

福澤 達哉(ふくざわ たつや)
元バレーボール日本代表。2008年に北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団。国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。2015~2016年にブラジル、2019~2021年にフランスリーグでプレーするなど海外にも活躍の場を広げる。2021年8月、現役引退。現在、パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株)で広報を担当している。

Related Articles

記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

シリーズ:
スポーツ
カテゴリ:

注目ニュース

同シリーズの記事