親子で学ぶ「パナソニックの学校」~元オリンピアンと考える、創造性を伸ばす教育とは

2023年6月1日

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技術・研究開発

親子で学ぶ「パナソニックの学校」~元オリンピアンと考える、創造性を伸ばす教育とは

パナソニック ホールディングス株式会社は、親子で創造性を育むことをコンセプトに「Scratch Home School~パナソニックの学校~」(以下、パナソニックの学校)を4月に開校し、第1期生として12組の親子を迎えた。くらしを題材としたミッションを提示し、親子で試行錯誤しながらクリアを目指してもらうことで、子どもの創造性を育むカリキュラムを提供している。いつ、いかなる分野でも必要とされる創造性。学習も実践も難しいこのテーマを、Scratch Home School校長で、同社テクノロジー本部の主幹研究員でもある高田 和豊と、元バレーボール日本代表で、現在パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社で広報を担う福澤 達哉が語り合う。元オリンピアンが考える創造性とは、子どもの創造性を引き出すために必要な親子の関わり方とは――。

Profile

高田 和豊(たかた かずとよ)
パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門 テクノロジー本部 主幹研究員
2002年入社。人工知能分野における人の認知機能のモデル化や認知状態の推定、創造性教育に関する研究に従事。2016年、米国マサチューセッツ工科大学のMITメディアラボ(※)に留学、2019年まで教育事業についての研究を深める。帰国後、現職となり、親子の創造性教育に関わる新規事業創出を担当。

※米国マサチューセッツ工科大学に設立された、主に表現とコミュニケーションに利用されるデジタル技術の教育、研究を専門とする研究所。

福澤 達哉(ふくざわ たつや)
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コーポレート広報センター
元バレーボール日本代表。2008年には北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団し、国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。2015~2016年にブラジル、2019~2021年にフランスリーグでプレーするなど海外でも活躍した。2021年8月、現役引退。現在パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株)で広報を担当。

パナソニックの学校が目指す、「試行錯誤を楽しむ」

写真:パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門 テクノロジー本部 主幹研究員 高田 和豊(たかた かずとよ)

――はじめに、パナソニックの学校について教えてください。

高田:パナソニックの学校では、「くらしの中で子どもの創造性を伸ばす」をテーマに、日常生活とサイエンスを組み合わせた3カ月・全12回のカリキュラムを用意しています。IoT家電やプログラミングの活用が特徴で、くらしの中で誰もが触れる食・光・自然などのテーマを通して、子どもと親が一緒に課題に取り組み、「発明的家族」になってもらうことが目標です。

現在はパナソニックグループの社員の家族を対象としていますが、2023年度中に社外へも展開するつもりです。また、新たなカリキュラムの開発を同時に進めており、将来的にはパナソニックの学校での学びの期間を1、2、3年と伸ばし、家族それぞれの教育方針に合わせて柔軟にサポートできるようにしたいと思っています。

福澤:「パナソニックの学校」というワードを聞くだけでワクワクしますね。なぜパナソニックで教育事業を始めようと考えたのですか?

高田:MITメディアラボへの留学時代に、子どもの創造性を育成する研究をしていました。創造性教育は「知識と五感をフル活用し、試行錯誤すること」が大事です。そのためには、子どもが自由な発想で試行錯誤する場が必要。家電がIoT化されると、今よりもっと自由に自分の生活をアレンジすることができます。このような環境は、子どもたちにとって新しい「砂場」になるのではないか、家電に向き合ってきたパナソニックだからこそ可能な創造性教育を提供できるかもしれない、と教育事業の検討を始めました。

写真:親子参加型のプログラム

親子参加型のプログラム。IoT家電を使いながら子どもの創造性を育む

写真:プログラミングで動くLED照明

「Lighting Art」のカリキュラムでは、プログラミングで動くLED照明を使用。光を使った世界に一つだけのアート作品を創る

福澤:お話を聞いていると、従来の学校とは違う印象を受けます。私が子どもの頃は、授業では先生、部活動では監督やコーチが教えてくれたことを「覚える」のが主流でした。

高田:ここでは、日々のくらしの中で、答えのない問題に対して、子どもが恐れずに主体的に取り組む能力を育んでいきたいと考えています。インターネットの普及で、誰もが簡単に必要な情報を手に入れることができ、さらにはAIが何でも答えてくれる世の中になりました。こうした時代に人間に求められるのは、既にある答えを「覚える力」ではなく、未知の問題について「考える力」だと思っています。

福澤:既にある答えを覚える「詰め込み型」から、新しい答えを自分で見つけていく「探索型」に変わってきているということですね。自分で考える姿勢を子どもの頃から身に付けることで、大人になったときに大きな差になって表れてくると。

高田:試行錯誤という点では、スポーツは最も優れたカリキュラムですので、創造性を伸ばすツールとして教育コンテンツに加えたいと考えています。福澤さんは、学生時代から練習方法を自分自身で考え、試行錯誤を繰り返したことがオリンピック出場にもつながったと伺いましたが、このような考え方に通じるところはありますか?

福澤:共通する部分は多いですね。スポーツは結果のサイクルが非常に速い。できなかったことができるようになったという小さいものから、勝敗という大きいものまで、成功体験や失敗体験を何回も繰り返しながら、選手として成長していきます。特に結果が求められる競技スポーツにおいては、自身の強み・弱みを理解し、他者との差別化を図るなどして、激しい競争を勝ち抜いていかなければいけません。掲げる目標が高くなればなるほど、自ら考えて試行錯誤する力は必須になってくるんです。

高田:面白いですね。テクノロジーの進化のおかげで、スポーツの世界でも情報にアクセスしやすくなった分、昔と今では試行錯誤の質が違うような気がします。

福澤:今の子どもたちは、昔よりも圧倒的に高い技術力を持っています。われわれの時代は、技術を習得するためには、チームに所属してコーチからの指導を受けるしかありませんでした。それに比べて、今の子どもたちは小さい頃からYouTubeなどで気軽にトップ選手の技を見て、試行錯誤ができます。この違いは大きいと思いますね。

自分にとって新しいと思えるものをカタチに

写真:パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コーポレート広報センター 福澤 達哉(ふくざわ たつや)

――自分で試行錯誤を繰り返し、創造性を発揮できる子どもになるためには、何が重要だと思いますか?

高田:創造性は2つに分類されます。一つは「Big-C」と呼ばれ、偉大なアーティストの作品やノーベル賞級の研究に代表される、数十年に一度の、全ての人にとって新しいもの。もう一つは「little-c」と呼ばれ、周りにとってではなく、自分にとって新しいと思えるもの。私は、高校までの創造性教育においては、後者の方が重要だと考えています。子どもが新しくて面白いと思ったことは、たとえ世の中の一般常識からかけ離れていたり、既に誰かがやっていたりしても、まずは自分なりに「形」にしてみる。そのために試行錯誤することが創造性を発揮する第一歩だと思っています。

福澤:今の話を聞いて、同じチームに所属していたブラジル代表の選手が頭に浮かびました。彼のレシーブフォームは基本からかけ離れていたのですが、周りの基準や評価に惑わされず、自分にとってベストな「形」を突き詰めていくことで、世界トップレベルの選手になったんです。コツを聞いたときに「私の真似はしない方がいい」とハッキリ言われたのを覚えています(笑)。

高田:自分の中に評価基準を持って取り組むのは、簡単そうで難しいから、本当に尊敬します。一方で、教育する立場の人間が、まだまだ伝統的な価値基準や手法から抜け出せていない課題があることも感じています。分かりやすいところだと、大学入学に必要な受験科目以外がないがしろにされているとか。

福澤:スポーツの現場でも同じようなことが起こっています。例えば、全国大会の常連校が、2、3年勝てなくなったときに、過去に成功した方法を捨ててまで新しい方法をトライできるかというと、なかなかその勇気を持てません。成功してきた監督ほど変化を恐れ、指導方法をアップデートしないまま続けてしまう。これが、今なお問題視される体罰などの行き過ぎた指導につながっていると感じています。指導・教育する側の意識を変えていくことがスポーツ界においても大きな課題になっていますね。

高田:教育もスポーツも、指導者の世代が入れ替わって新たな指導スタイルが浸透するには、相当な時間がかかりますよね。そういった中で突破口となり得るのは、子どもにとって最も身近な親なのではないかと思っています。

子どもの「Want to」に寄り添う

写真:パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コーポレート広報センター 福澤 達哉(ふくざわ たつや)

――これまでの話を踏まえ、創造性を育むために、子どもとの向き合い方ではどのようなことが重要だと思いますか?

高田:創造性教育の現場では、「あなたのプロジェクトは何?」という問い掛けをよくします。プロジェクトと言っても「ホットケーキを上手に焼けるようになる」みたいなレベルでいい。子どもがどんな目標を持って取り組んでいるのかを聞き、それを実現するために伴走することが子どもとの向き合い方として重要だと思います。

福澤:私が大事だと思うのは、「相手がどうしたいのか」をコミュニケーションのスタートにすることです。子どもが「私はこうしたい」と言ったときに初めて、自分が持っているノウハウや知識を提案するようにしています。親や指導者が最初から「こうやりなさい」と指示すると、子どもは「大人に従わなければならない(Have to)」というマインドに陥ってしまいます。そして7割達成できたとしても、「残り3割もできていない」とプレッシャーを感じてしまう。一方、子ども自身の「やりたい(Want to)」を尊重すると、できた方の7割に喜びを感じ、残りの3割は「もっと伸ばせる!」というワクワク感になります。指導者の本来の役割は、子どもの「Want to」、つまり自主性を育てることではないでしょうか。

高田:本当に理想的な先生ですね(笑)。共働きや核家族がマジョリティとなった昨今は、親が子どもの学ぶ様子をしっかり見られていないのが現状です。出張授業を行ったときも、「こんなにしゃべる子だったっけ」「子どもってこんなに考えているんだ」と驚く親御さんが多くいました。でも、自分が小さかった頃を思い出すと、子どもなりにいろいろ考えていましたよね。パナソニックの学校で、子どもが何に挑戦しようとしているか、何を創造しているかを見るだけでも、子どもへの接し方は大きく変わると思います。

福澤:パナソニックの学校が親子で一緒に受講することには、そんな狙いがあったんですね。

写真:パナソニックの学校

子どもの創造性と自主性を高めるには、挑戦を見守り、伴走する親の存在は大きい。「パナソニックの学校が、子どもとの向き合い方を模索するきっかけになれば」と高田は語る

高田:ちなみに、もしパナソニックの学校で体育の授業をするなら、福澤さんはどんな授業をしたいですか?

福澤:考えもしませんでした(笑)。たとえば50m走だったら、まず普通にタイムを計り、「もっとタイムを縮めるにはどうしたらいいと思う?」と問い掛け、YouTubeなどで走るコツを調べてもらうのはどうでしょうか。トップアスリートの動画を見る子もいれば、子ども向けの解説動画を見る子もいるでしょうし、別に陸上の動画でなくてもいい。速く走るコツでも、腿を上げる、重心を低くするなど、さまざまなことを学べます。どの情報をキャッチして何を取り入れるかを子どもに委ねる試みは、面白いと思いますね。トライすることで成功体験も生まれ、スポーツがますます楽しくなりそうです。

高田:自分なりにいろんなトレーニングを組み合わせてトライするのは、音楽にみられる「リミックス」ですね。100万人の子どもたちがそれぞれのリミックスを出すと、新しいトレーニング法も生まれそうです。

福澤:そのために、まずは「こうあるべき」という先入観を取り払うことが大事だと思います。バレーボール界でも、一人の選手の遊び心がきっかけで、新たなプレーが生まれることがあります。バレーボールは「レシーブ、トス、スパイク」の3回でボールを返すのが基本です。ところが、「3回でボールを返すなんて誰が決めたの?」と疑問を持った選手が、本来トスを上げる2本目でスパイクを打ち始めたんです。すると、それを見た他の選手たちが真似をして一気に広まり、今やトレンドの一つに。でも、新たなスタイルを生み出すには、指導者が「それもアリだね」と認めることが大前提だと思います。

高田:トライできる空気感は、学校や職場においても大事ですよね。トライがトラウマにならないよう、パナソニックの学校は「安心して挑戦できる場」でありたいと思っています。

「逸脱」を認め、挑戦の原動力に

写真:パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門 テクノロジー本部 主幹研究員 高田 和豊(たかた かずとよ)

――パナソニックの学校では、どのように子どもの創造性の評価を行うのでしょうか?

高田:バレーボールの2本目で打つスパイクのように、これまでの常識とは異なる発想を、パナソニックの学校では「創造的逸脱」と呼びます。そして普通の学校では怒られるであろう「逸脱」をプラスに評価します。例えば、均一な大きさで焼くことが常識とされるクッキーを、「サイズが違う方が、小さい弟は喜ぶかもしれない」と意図してバラバラな大きさで作ったとしたら、その常識から逸脱した試行をプラスに評価します。自分で考えて作ったもの、すなわち、自分自身が作り出した評価軸が認められると自信がつき、「次はもっとできるぞ」と挑戦する強い原動力になります。

福澤:確かに子どもが一番喜びを感じるのは、与えられた成功ではなく、つかみ取った成功です。「子どもに最短距離で成功体験を味わってもらいたい」というのは指導側の思いでしかありません。でも、評価する側は難しそうですね。

高田:キーワードは、「プロセス」と「逸脱」。完成までのプロセスを評価するために、楽しくImagine(想像)できたか、形にしてシェアしたか、他の人の意見を聞いて反映できたか、といったチェックポイントを用意しています。3カ月間のカリキュラムは、「逸脱とは何か」を子どもと大人が共に考える場にもなるでしょう。

誰もが持っている創造性を引き出す

――最後に、パナソニックの学校に対する思いを聞かせてください。

高田:創造する力は、本来、誰もが必ず持っています。一人ひとりの中に眠っている創造性を、共に試行錯誤しながら引き出していけたらと思います。いずれは他の業界でもパナソニックの学校のような場がどんどんできてほしいですね。テクノロジーで便利になりつつ、一人ひとりが創造力を持って生きる社会は、もっとワクワクする世界になるのではないかと思っています。

福澤:「パナソニックの学校って、どんなことを教えてくれるのだろう」という期待感は間違いなくあると思います。子ども同士、そして子どもと親が対等な立場で共創できる場。そこで学んだ親子がどのように成長していくのか。これからが楽しみです。

記事の内容は発表時のものです。
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