「PX」 Panasonic Transformation~ITも企業カルチャーも今こそ変革の時

2022年8月18日

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「PX」 Panasonic Transformation~ITも企業カルチャーも今こそ変革の時

パナソニックグループでは、DXへの取り組みを「Panasonic Transformation(PX)」とし、ITシステム面の変革に留まらない、経営基盤強化のための重要戦略として推進している。このプロジェクトをリードするパナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)の玉置 肇(たまおき はじめ)が、グループ全体の情報システムの見直しからIT部門におけるカルチャーの変革にまで及ぶ、改革の全体像について語った。

パナソニックグループ 情報システムの変遷

パナソニックグループの情報システム部門の歴史は古い。早くも1959年には電子計算機を導入、1984年には社内内線電話の全国網開通など、産業界でも当時先進の取り組みを進めてきた。2015年には、当時のパナソニック(株)のコーポレート情報システム社と松下電工(株)の情報システム会社が統合し、現在のパナソニック インフォメーションシステムズ株式会社(以下、パナソニックIS)が発足、グループの全事業領域をカバーするグローバルなIT中核会社となり、業務を支えてきた。
多様な事業を抱えるパナソニックグループの情報システム部門は、長年にわたりシステム基盤を独自に構築・運用してきた。玉置は2021年5月、社外からの入社と同時に、そのトップに就任したのだ。玉置自身はこの経緯について次のように分析する。

「現在、パナソニックグループの情報システム部門は約2,700人。優秀な社員が大勢いる中、なぜ外部から招へいされてきた私が率いることになったのか。一つには、『歴史と伝統の呪縛』によって、ITが複雑になりすぎてしまったということがあります。長い歴史と伝統があるだけに、様々な重力が組織の内外から働いている。特に内向きの重力が強くなってしまっており、内部にいる人間がこの状況を変えようとしても限界があると判断されたのでしょう。
規模が大きい分、IT部門が単独である種の“王国”を形成してしまっていた。結果、本来経営と一体であるべきIT部門なのに、互いに距離を置いて口出ししない関係になっていた。各事業部門から個別に出てくる要望に応え続け、部分最適を積み上げてきた結果、グループ全体でのマスターデータの標準化やクラウド化に後れを取るようになっていました。
創業者 松下幸之助は亡くなる前、『松下の社員は幸せに働いているか』と聞いたというエピソードがあります。私の使命は、情報システム部門で働く社員を幸せにすること。この強い思いと共に、いま改革を進めています」。

玉置はグループのCIOを担うとともに、前述したパナソニックISの社長も兼務している。その理由も明快だ。「パナソニックISはグループの情報システムの推進力となる重要な組織。情報システム部門が輝くためには、ここを盤石にしないといけません」。

写真:パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCIO 玉置 肇(たまおき はじめ)

パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCIO 玉置 肇(たまおき はじめ)

新たなMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の策定

2021年5月のCIO就任後、玉置がまず取りかかったのは、30年近く前に制定された「情報システム部門の使命」の刷新だ。全世界の情報システム部門の社員の声を集めた上で、新たなMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を策定した。打ち出したのは「デジタルと人の力で『くらし』と『しごと』を幸せにする。」というメッセージ。「幸せにする」対象には、B2CとB2B、すべての領域のお客様はもちろん、グループで働くすべての社員も含まれている。

図版:Panasonic Transformation(PX)のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)

さらに玉置は「変革の主役は自分たち」ということを改めて情報システムを担うメンバーの共通認識とすべく、実際に社員に登場してもらう形での動画も制作、情報システム部門の決意を知らしめるため社内外へ発信した。

パナソニックのDXを推進する力 - 情報システム部門 【新たな部門使命】

PXの変革のフレームワーク

パナソニックグループは「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現を目指し、中期戦略の重要なポイントの一つとして「オペレーション力の徹底強化」を掲げている。まさに、ここが「PX」に期待されている部分だ。

玉置は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)ではなく、わざわざPX(パナソニックトランスフォーメーション)と呼ぶ理由――それはITだけに留まらず、文字通り『パナソニックグループ全体を変えていく』という意味を込めているからです」と語る。
そして変革は、3階層のフレームワークにより推進することを明示した。

図版:変革のフレームワーク

1階層目は「ITの変革」だ。
「システムだけを刷新しても3年で陳腐化する。もっと土台から変えていかないと変革にはならない。そのために、IT改革を推進しながら、より根本的な『オペレーティング・モデルの変革』と『カルチャーの変革』も進めていきます」。

「ITの変革」ポイントは4つ。一つ目として挙げるのが「レガシーからの脱却(モダナイゼーション)」だ。パナソニックグループには大きなものだけでも1,200、すべてを入れると2,000に近いITシステムが稼働している。これは部分最適を長年繰り返してきた結果ともいえる。「プロセスから見直して簡素化し、早急にシステムを近代化していっているところです」。
二つ目は「クラウド活用(ベストハイブリッド)」。オンプレミスも効果的に使いながら、パブリッククラウドの最大限活用を目指す。
三つ目は「データドリブン基盤の構築」。グループ横断でのデータ活用基盤を整備し、リアルタイムデータによる未来予測型経営を目指す。
そして四つ目が「SCM(サプライチェーンマネジメント)の最適化」。ビジネスモデルごとにプロセスを見直し、SCM最適化に必要最低限のマスターデータ統合を行う。
「2022年度~2024年度の3年間で1,240億円の投資をしていく。事業会社ごとの競争力強化を実現しながら、グループ共通でスケールメリットのある150テーマをピックアップして推進していきます」。

2階層目は「オペレーティング・モデルの変革」。IT部門は、協力会社の方まで含めると9,000人規模が関わっており、商流も複雑になっている。このITのサプライチェーン自体を改革しようというものだ。
いくつかのプランのうち、玉置はパナソニックISの価値の最大化とアジャイル(システム開発用語としては、大きな単位でシステムを区切ることなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進めること)変革について述べた。
「IT中核会社のパナソニックISでは、外部の企業に対してもお役立ちできる割合を増やしていこうとしています。また、働き方そのものをアジャイル型に変え、経営やビジネスの高速化を牽引することを狙っています。一例として、パナソニック ホールディングス(株)の本社がある門真地区では総務、法務、人事などの間接部門に向けて『PXデジタルラボ』を作りました。社員間のコミュニケーションを促進し共創を促すと同時に、アジャイル型での業務推進を実践してもらっています。自律化したチームが、顧客起点で柔軟・俊敏に成果を出し続ける、そんな働き方がグループ全体に定着している状態を目指します」。

3階層目は「カルチャーの変革」。玉置は「ITで一番大事なのは人です」と語る。
DEI(Diversity, Equity, Inclusion)の推進に取り組み、オープンでフラットな職場環境を作り上げることで、風通しのよい組織文化をITに関わるすべてのメンバーに浸透させることが目標です」。

そのためには、組織のリーダー自らが進んで変革に取り組むことが不可欠だと述べる。
「私は変革者として呼ばれてきたわけですが、私自身や、私が外から連れてきた仲間が上から変革を押し付けようとしても意味がない。もともといる『中の人』の気持ちに火をつけないと変革は成功しない、と思っています。
まず第一歩として、幹部層の皆さんに私と同じベクトルに向いてもらうことが必要でした。いろいろな働きかけを試みてきましたが、いま、その良い影響が出てき始めていると感じています」。

図版:カルチャーの変革

玉置が部門メンバーに繰り返し示しているのが以下の4つだ。

  • 「One Panasonic IT」 ・・・IT部門全員の力を結集
  • 「オープンでフラットなカルチャー」 ・・・DEI、多様性を重んじる職場
  • 「ゼロ・トレランス」 ・・・誰もが尊厳を持ち、心理的に安心して働ける環境
  • 「内向きの仕事のやり方からの脱却」 ・・・無駄な仕事は徹底的に排除

「今後は、若い人にもっともっと発言してほしい。また、役員などに対する報告も大げさなものにすることをやめたり、会議の席順をなくしたりするなど、組織の重力を軽くしていこうとしています。

私がCIO、PXのプロジェクトリーダーとして気をつけていることは3つ。
一つ目は服装です。役員がネクタイを締めているとやはり少し話しかけづらいもの。外見で与える印象については気を配っています。
二つ目は情報発信。社内SNSなどで2日に1回はなにかしら発信しています。真面目な話のほか、プライベートについて触れることもあります。個人のTwitterも公開しています。幹部の顔を知ってもらい、身近に感じてもらうことは大切だからです。
三つ目は、しつこく言い続けること。カルチャーの変革にあたって必要な(上図の)4点について、何度も何度も繰り返して発言し続けています。そうすることで、組織に徐々に浸透していくようになります」。

写真:パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCIO 玉置 肇(たまおき はじめ)

またPXに関しては、ROI(投資利益率)を問わずに取り組む姿勢を強調した。
「ITは今や経営の基盤。PXの取り組みが是か非かは、ROIを基に判断する次元のものではないと考えています。PXの成功を測る究極のサクセスファクターは、グループ各社の株価であり、企業価値そのものです。もう一つの指標はNPS(ネットプロモータースコア)。各事業会社の社長にPXの役立ち・貢献度に関するアンケートを取り、これも評価基準にしていきます。この数値を上げていくことも私の使命です」。

PXの目指す世界

PXの取り組みは、玉置がパナソニックグループの一員となった2021年5月の時点からスタートした。2021年5〜9月の「PX ZERO」のフェーズを経て、2021年10月からは「PX1.0」に移行し、現在に至る。
「パナソニックグループが真のDXを実現できるよう、取り組みを加速していきます。次に目指すは『PX2.0』ですが、現時点でもすでに取りかかっている部分もある。今後も着実に進めていき、2024年後半にはほぼフェーズ2.0に移行できている状況にしていきたい」。

将来的には、PXの推進によってグループ内に蓄積したノウハウについて、特に製造業のお客様に対して提供できるようにしていき、産業界全体のDXにも貢献していく。

図版:PXの目指す全体像

急速に変化する時代、そしてお客様のニーズに対応するべく、パナソニックグループは迅速かつ的確に動ける姿、そして新しい価値提供ができる姿を目指してPXを展開していく。グループのパーパスである、お客様にとっての「幸せの、チカラに。」なること――PXの推進は、その実現に向け間違いなく重要な一翼を担っている。

記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

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