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災害発生の「第一報」 AIで瞬時に検知し配信

2019年4月18日

特集

災害発生の「第一報」 AIで瞬時に検知し配信

災害(地震・洪水・事故など)などの一次情報ソースとして、今や無視できない存在となったSNSの情報発信。しかし、本質ではない"ノイズ情報"が多く含まれ、その真贋判定に悩んでいるのも事実だ。今回紹介する「FASTALERT」はAI技術を駆使して適切な情報だけをリアルタイムで配信する緊急情報サービス。名だたる報道機関に軒並み導入されているその実力を探るとともに、販売パートナーとして幅広い展開に協力するパナソニックの思いを聞いた。

誰もが情報発信者になる時代、しかし課題は「情報の精度」

「平成29年通信利用動向調査」(総務省)によれば、2017年の日本におけるスマートフォン(スマホ)の個人保有率は60.9%に達した。言うまでもなくスマホは、カメラとレコーダー、テキスト入力機能を備えたデバイスだ。さらにそのスマホの使われ方を見ても約半数以上がSNSのために使っている。つまり、自然災害や事故・事件に遭遇した"現場にいる人たち"が、SNSで一次情報を発信できるようになった1億総カメラマン社会ともいえるだろう。端緒の1つとなったのは8年前の東日本大震災だが、以降の爆発的なスマホの普及も相まって、その後に起きた災害でも欠かせない一次情報ソースとなっている。

図:スマートフォンの保有状況は増加傾向にある一方、携帯電話・PHS(スマートフォンを除く)の保有状況は減少傾向にある

スマートフォンの保有状況は増加傾向にある一方、携帯電話・PHS(スマートフォンを除く)の保有状況は減少傾向にある

図:スマホユーザーの過半数がSNSを利用している

スマホユーザーの過半数がSNSを利用している

事実、報道機関も緊急時にはSNSから一次情報を収集し、一刻も早い情報公開に努めている。ただし信頼性の担保には大きな課題がある。SNS情報には断片的であったり、事の本質を間違えていたりする"ノイズ"が多数含まれるからだ。選別と整理に多くの手間がかかれば、1分1秒を争うリスク情報伝達の遅れにつながってしまう。

こうしたリスク情報をいち早くスクリーニングし、確度の高い緊急情報だけをリアルタイムで届けるのが報道ベンチャーのJX通信社が手がける「FASTALERT」だ。本サービスはSNS上の情報から「いつ・どこで・どんなことが起きたのか」を的確に判断し、超速報としてプロ向けに提供する。その超速報をもとに報道機関が取捨選択を行い、ニュース速報として公開する仕組みである。

2016年9月の有償ベータ版提供以降、大手通信社、大手新聞社のほか、NHK、すべての民放キー局といったテレビ局にわずか半年ほどで普及し、今では「なくてはならないもの」として機能する。昨今、テレビニュースの素材で「視聴者提供」のクレジットが入ることも増えたが、そうした映像の発見や情報収集にもFASTALERTが活用されている。

図:SNSを中心に災害、事故、事件等の情報を検知し、どこで、何が起きたかを瞬時に配信ができる

SNSを中心に災害、事故、事件等の情報を検知し、どこで、何が起きたかを瞬時に配信ができる

徹頭徹尾テクノロジーで振り切る、賢いAIが速報を自動化

JX通信社は「報道の機械化」をミッションに掲げ、人手に頼りがちな報道産業の課題をテクノロジーで解決することを目指す。それだけにJX通信社の立ち位置はユニークだ。通信社を名乗ってはいるが記者は1人もおらず、全社員の3分の2をエンジニアが占める。JX通信社の永見 佳子氏は、FASTALERT が生まれたきっかけを次のように語る。

「以前から報道各社がSNSでの情報収集の必要性を認識してはいたものの、現実は記者が手動で数分に1回検索したり、多くのアルバイトを雇って人海戦術でつぶさに情報をピックアップしたりと労働集約的な作業が一般的でした。こうした煩雑な業務を自動化し、空いたリソースを人にしかできない取材に集中させるべきだ――そんな働き方が実現できるのではないかとの思いでFASTALERTを開発しました」

写真:株式会社JX通信社 事業統括部 広報 永見 佳子氏

株式会社JX通信社 事業統括部 広報 永見 佳子氏

特筆すべきは、人手を介さないシステムであるFASTALERTがきちんとしたニュース記事の体裁で速報を届ける点にある。しかも「●●県●●市で地震被害」といったタイトルも自動で付与し、編集には人の知恵が一切入らない。徹頭徹尾テクノロジーに振り切った姿には爽快さすら感じられる。

これは同社が2008年の創設以来、ニュース記事やその元となる文章などの情報を解析するニュースエンジンや、編集作業を効率化するシステムの開発を手がけてきたからこその強みだ。そこに蓄積してきた膨大なデータが加わり、同社のかけがえのない財産となっている。その技術を集約したニュースエンジンの「XWire」(クロスワイヤ)は、FASTALERTの基盤となっており、産経新聞グループの旗艦ニュースアプリ「産経プラス」のバックボーンとして採用されている。

図:AI(人工知能)でニュースを自動編集・配信する、BaaS型ニュースエンジン

AI(人工知能)でニュースを自動編集・配信する、BaaS型ニュースエンジン

切り札は文章や映像、画像を解析するAIだ。自然言語処理の高さもさることながら、災害や事故現場から上がってくる情報では映像や画像のノイズをいかに効率よく選り分けるかが鍵を握る。「教師データを最初に設定して合致させています。例えば同じ火の画像でも、それが火災によるものなのか、焼肉店で肉を焼いている画像なのか。多種多様なパターンを読み込んで認識させているのです」(永見氏)

写真:FASTALERTの実際の画面。SNS上の投稿を言語解析・画像解析し緊急情報と思われる投稿のみ瞬時に収集し、提供している

FASTALERTの実際の画面。SNS上の投稿を言語解析・画像解析し緊急情報と思われる投稿のみ瞬時に収集し、提供している

実際に導入した報道機関からは、速報性と網羅性に関してとくに高い評価を得ている。ここ数年の実例だけでも、九州豪雨久大線鉄橋崩落、北海道胆振東部地震、糸魚川大規模火災など、国内報道に先行した速報の配信実績は枚挙にいとまがない。網羅性で言えば、JR常磐線車内出産、阪神高速の豚逃走劇など、これまでの報道機関では到底カバーしきれないケースもある。

いずれにせよ1秒でも速く情報を覚知(火災や事件などを認知すること)できれば、そのぶん初動が早くなり、二次被害の広がりを抑えられる。「実際に報道各社ではFASTALERTで得た情報を元に、取材クルーを現場に派遣したり、報道ヘリを飛ばしたりと、報道現場に不可欠な存在になっています」と永見氏。これぞまさに、テクノロジーが限りある人的資源の有効活用に寄与した好例と言えるだろう。

自然災害の多い日本に安心・安全をいち早く届けたい

迅速かつ正確なリスク情報を必要とするのは何も報道機関だけではない。FASTALERTは防災対策や危機管理を求める公共機関や社会インフラ企業、そして一般企業からも熱視線を浴びており、災害の多い日本の社会課題解決の一助となる可能性も秘める。

その可能性にパナソニック システムソリューションズ ジャパン(以下パナソニック)が着目し、販売代理店としてタッグを組んだ。同社はB2B市場において全国各地の公共団体や社会インフラ企業などに防災無線システムをはじめとした安心・安全ソリューションを提供しており、FASTALERTとの組み合わせによるシナジー効果を創出したい構えだ。

同社の東 稔大氏は「公共・社会インフラ系のお客様の業務を熟知していることがパナソニックの強み。公共系はおもに自治体、警察、消防、官公庁など、社会インフラ系は通信、交通、エネルギー、放送などですが、FASTALERTとの組み合わせによってより付加価値の高いソリューションが実現できると考えています」と話す。

写真:パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 システムプロダクツセンター セキュリティシステム部 ソリューション1課 東 稔大氏

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 システムプロダクツセンター セキュリティシステム部 ソリューション1課 東 稔大氏

JX通信社との出会いは災害関連の展示会だった。ほぼリアルタイムで速報が上がってくるシステム画面を目の当たりにし、東氏は「この速さと正確性は我々のソリューションと非常に相性がいい。災害時の判断・検討材料として活用してもらえる貴重な情報になる」と感じたという。これまでも公共機関の災害担当者にはSNSを活用したいとの思いはあったが、住民のリスクを左右するだけに確信を持てないと公開できない事情があるからだ。

「やはり気にされるのは信頼性がどれだけ担保されているのかということ。そのため、JX通信社とパナソニックでは1カ月間のトライアルで実際に利用してもらっています。体験すると"これは素晴らしい"との声が多く、公共機関に限らず民間企業の方々からもたくさんのお問い合わせをいただいている状況です」(東氏)

その一方でパナソニックはお客様から新たな要望を引き出し、JX通信社にフィードバックしている。報道機関とはまた違った現場の声を反映することは、FASTALERTのさらなる進化につながる。「JX通信社の魅力はスピード感。過去には迅速に機能を実装していただいたこともあります」(東氏)。これを受け永見氏は「JX通信社は新しい開発言語や技術に積極的にトライする自由な社風。求められるものが多いとモチベーションが高まるエンジニアが多いのです」と言う。これら共創関係においても確実にシナジー効果が現れつつある。

将来的には「SNS以外を含むさまざまな情報源のAI解析ができるようになってほしい。我々のソリューションとの融合によって、日本の災害時には手放せないサービスとして成長させていきたいですね」と東氏は期待を寄せる。JX通信社でも「目指すは一般の人からの幅広い情報収集による"集合知"。これにより社会や地域全体での被害や損失を最小化できる未来を実現したい」(永見氏)と話す。

事例紹介コラム

FASTALERTは国の災害対応でも検討されている。2018年9月の北海道胆振東部地震では実際に活用されたという。今後、どのようなビジョンでSNSを災害情報収集に役立てていくのか。内閣府のコメントを紹介しよう。

――FASTALERTを北海道胆振東部地震で試験的に活用されたとお聞きしました。その背景・狙いを教えてください。

内閣府:内閣府では、ICTを活用した災害対応関係機関の迅速かつ体系的な状況把握のための方策を検討しています。これを「災害情報ハブ」と呼んでいますが、この取り組みの一環で、今年度は被災現場で情報を集約・地図化して提供する現地派遣チーム「ISUT(アイサット)<Information Support Team>」が試行的に活動しています。その情報収集の1つの手段として、SNSの活用を考えました。

――FASTALERTを使ってみての感想は?

内閣府:SNSは膨大で雑多な情報が多く、人手を介したキーワード検索は現実的ではありません。そこで、AIによる解析が効果的だと思います。

北海道胆振東部地震では、北海道庁でFASTALERTを確認していたところ、札幌市清田区での液状化に関する情報が写真付きで上がってきましたが、その後、液状化が周囲の地域へ徐々に広がっている旨の投稿がありました。この様な情報から実際に足を運ばずとも、状況が悪化している可能性が推察できます。

ほかにも小売り店舗の販売状況が投稿されれば、現地調査をせずとも、物資の流通状況が推察できることは良い点だと思います。

このようにSNS情報では確証を持つことは難しいですが、限られた情報の中で状況を先読みし、戦略を練っていくという観点では有効な情報収集手段の1つだと思います。FASTALERTは情報の絞り込みや画像情報が付加されていることなど機能もよく、使いやすいサービスではないでしょうか。

――SNS情報活用の今後についてどう思われますか。

内閣府:関係機関へSNS情報を共有するという点では難しさを感じました。今回はISUTが把握するという観点で使いましたが、関係機関に共有しようとした場合、例えば確証情報ではないため誰まで情報を入れるべきかという共有範囲の点や、SNS情報をどのように幅広い関係者にうまく共有するかという点が課題になると思います。

また、使い方としては、関係者がSNS情報は確証情報ではないという留意点を理解しておくことも重要だと思います。

内閣府 政策統括官(防災担当)付 参事官(防災計画担当)付
松田 慧吾 参事官補佐

(ライター:小口 正貴(スプール))

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2019年3月26日(火)公開

発表年月
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