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二人三脚で開発、深夜の東京ミッドタウン日比谷で活躍する「お掃除ロボット」

2019年4月 4日

特集

二人三脚で開発、深夜の東京ミッドタウン日比谷で活躍する「お掃除ロボット」

家庭用清掃ロボットは、家事の省力化を支える有能な家電として普及しつつある。このノウハウを産業用途に応用し、ビル清掃の効率化を図るべくパナソニックと三井不動産が業務用清掃ロボット「RULO Pro」を共同開発。「東京ミッドタウン日比谷」を初めとして、複数の施設で導入を開始した。導入者とRULO Pro開発者の双方に話を聞き、およそ2年に及んだ開発秘話を紐解いていく。

完全自動化ではない、人と協業できるロボットをリクエスト

日本全体で労働力人口の減少が叫ばれる中、ビル管理業務の人手不足は大きな課題となっている。とりわけ人的負荷が高い清掃業務は深刻で、以前から人材確保の難しさに直面してきた。さらに2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に都心部では大型ビルやホテルの建設ラッシュが進み、いま以上の清掃スタッフ不足が懸念される。

"人材が定着し、働きやすい環境を整えるためにビルのフロア清掃業務を改善したい"
都心に数多くのオフィスビルを展開する三井不動産では、この問題を解決する方法を探していた。以下に紹介するのは、三井不動産のオファーを受けてパナソニックが業務用清掃ロボット「RULO Pro」を開発した物語だ。

三井不動産の伊藤 真司氏は、パナソニックとの共同開発に至った経緯をこう語る。

「昨今の状況を踏まえると、今後、どれだけビルのオペレーションを省人化できるかが鍵を握ります。これまでも一部のビルで試験的に清掃ロボットを採用してきましたが、実稼働になるとコスト面・品質面に見合わないことが見えてきました。そんな中パナソニックと知り合い、タイミングよく業務用ロボットを手がけるとのビジョンを持たれていたため、『ぜひ一緒にやりませんか?』とお声がけしたのがきっかけです」

写真:三井不動産株式会社 ビルディング本部 運営企画部 企画グループ 上席統括 伊藤 真司氏

三井不動産株式会社 ビルディング本部 運営企画部 企画グループ 上席統括 伊藤 真司氏

スタートしたのは2016年。その時点で、ゴールを2018年3月に開業予定の「東京ミッドタウン日比谷」への導入に定めた。商業フロアとオフィスフロアから成る地上35階の複合施設である。誤解のないように説明すると、すべてのエリアの清掃をロボットが担当するわけではない。RULO Proが担うのはオフィス共用部の廊下のみだ。機能を特化したのには確固たる理由がある。

「ロボットと聞くと何から何まで自律的に動く完全な自動化を想像するかもしれません。しかし我々が求めたのは、お客様に対する安全・安心、良質な清掃品質、そして事業継続を可能にするトータルコストです。ロボットが廊下を清掃している間、清掃スタッフはオフィス内部やトイレ、給湯室などの専用部を清掃できます。人間とロボットがそれぞれ協働しながら効率よく作業することを目的としたのです。それゆえ、シンプルなロボットが理想でした」(伊藤氏)

「ほかの清掃ロボットの検証で得た問題点を吸収して、開発の礎としました」と話すのは三井不動産の江崎 正東氏だ。より現場に近い立場で関わってきた三井不動産ファシリティーズの三石 英一氏は「それまでのロボットは壁際の清掃まではカバーできず、後から手動で掃除しなくてはなりませんでした。またゴミの回収に手間がかかるなど"ロボットの世話"の付帯時間が多かった。それらの課題を解消したいと考えていました」と続ける。

  • 写真:三井不動産株式会社 ビルディング本部 運営企画部 企画グループ 主事 江崎 正東氏

    三井不動産株式会社 ビルディング本部 運営企画部 企画グループ 主事 江崎 正東氏

  • 写真:三井不動産ファシリティーズ株式会社 品質管理部 品質管理課 課長 三石 英一氏

    三井不動産ファシリティーズ株式会社 品質管理部 品質管理課 課長 三石 英一氏

稼働中のビルを提供し、徹底的に課題を解決しながら開発

そもそもパナソニックの清掃用ロボット開発の歴史は古く、今から34年前の1985年にまで遡る。1993年には東京の羽田空港に業務用清掃ロボットを納入、その後も2002年の技術発表会で世界初となる家庭用清掃ロボット試作機を発表するなどしてきた。その知見を活かした「RULO」が2015年に発売され、部屋の隅々まできれいにする"三角形"の家庭用清掃ロボットとして高い評価を得ている。

写真:2015年に発売されたMC-RS1-W(ホワイト)とMC-RS1-K(ブラック)

2015年に発売されたMC-RS1-W(ホワイト)とMC-RS1-K(ブラック)

つまりRULO Pro開発の話を持ちかけられたのは、RULOの発売からさほど経っていない頃になる。開発を担当したパナソニックの鯛 多聞氏は「もともと業務用ロボットを開発する計画はあったものの、まずはビル清掃を行うのにどのような要件が必要なのかを探る必要がありました。そこで三井不動産の協力のもと、ビルの清掃ノウハウを吸収しながら商品化に向けて動いてきたのです」と話す。

写真:パナソニック株式会社 アプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー事業 クリーナーマーケティング課 課長 鯛 多聞氏

パナソニック株式会社 アプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー事業 クリーナーマーケティング課 課長 鯛 多聞氏

幸運なことに、実証テストは三井不動産が管理する稼働中のビルを利用することができた。「想定していたよりも、かなり難しいと感じました。初めての経験ということもあり、何がうまく行かない原因なのかを1つずつ検証することに苦労しました」と鯛氏。これを受け江崎氏は「本物のビルを試走させることで、きちんと壁際まで清掃できているのか、廊下の突き当たりもくまなくきれいになっているのかなどを逐次確認して、課題があればフィードバックして解決する――そのフローを繰り返してきました」と、開発の舞台裏を明かした。

その結果、プロの清掃ニーズに合致したRULO Proが2018年に完成した。レーザーセンサー、赤外線センサー、超音波センサー、バンパーセンサーと4種類のセンサーを搭載し、独自のSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を組み合わせた。SLAMとは各種センサー情報をもとに自己位置推定と地図作成を同時に行うもので、自律的に動くロボットには欠かせない要素だ。

写真:4種のセンサーと独自のSLAM技術で壁際まで接近し、効率的な床面清掃を実現

4種のセンサーと独自のSLAM技術で壁際まで接近し、効率的な床面清掃を実現

これにより、壁際の部分までをきちんと清掃することを1つのコンセプトとしている。SLAMには詳細なビルの地図データが必要となるが、ここでも三井不動産が全面協力。導入前にあらかじめ東京ミッドタウン日比谷の地図データを提供し、パナソニックが緻密なマッピングを行った。こうした前段階の準備が奏功し、壁際まで汚れを吸い取ることに成功した。

動き以外の特長はどうか。鯛氏は「集塵機能については、パナソニックの掃除機事業で培ったノウハウを活かしました」と言う。とくにブラシやノズルの回転部分などに家庭用の技術を応用。一方でブラシの材質や形状は業務用に強化し、タイルにもじゅうたんにもオールインワンで対応できるように幅をもたせた。

「RULO Proは紙パックによる簡単なゴミ捨て、カートリッジ式によるバッテリー交換のしやすさ、付属ハンドルによる持ち運びやすさなど、"使い勝手"にもこだわっています」と話すのはパナソニックの大島 一哉氏。これは、実際に利用する現場の清掃スタッフに配慮して工夫したものだ。そのほかひと目でわかる操作部分にも、消費者向け家電で培ったパナソニックの良心が反映されている。

写真:パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 マーケティング本部 開発営業部 都市開発法人営業推進部 担当課長 大島 一哉氏

パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 マーケティング本部 開発営業部 都市開発法人営業推進部 担当課長 大島 一哉氏

もはや「手放せない存在」に

導入以来、東京ミッドタウン日比谷のオフィスフロア24階分の共用廊下を計6台のRULO Proが担当。1フロアあたりの面積は250平米で、約75分で清掃する。稼働時間はほとんどの利用者がいなくなった深夜23時から朝7時までだが、残業などによりオフィスフロアは無人のわけではない。そのためRULO Proは「お掃除をしています。ご注意ください」の音声と警告灯によって注意を促しながら作業を進める。万が一のためにドライブレコーダーも搭載するなど、"安全・安心"に注力した。

写真:東京ミッドタウン日比谷で稼働するRULO Pro

東京ミッドタウン日比谷で稼働するRULO Pro

「清掃スタッフは『もう手放したくない』と絶賛しています。実際に利用してみてその便利さや正確さを肌で感じているようです」(三石氏)、「これだけ自律的に清掃してくれるのは非常に助かっています」(同課の舎利弗 辰雄氏)と、現場からの声は上々だ。LTE通信機能を搭載しているため、清掃が済んだらスタッフの携帯メールに終了通知が届く。それまでの間スタッフは専用部の清掃に専念できることから、当初の目標であった人間とロボットによる効率的な協働が見事にクリアされている。

写真:三井不動産ファシリティーズ株式会社 舎利弗 辰雄氏

三井不動産ファシリティーズ株式会社 舎利弗 辰雄氏

「お客様もすんなりと受け入れてくれました。何より苦情がないのはロボットがきちんと清掃をこなしてくれている証です」(伊藤氏)。この成功を足がかりに、「日本橋高島屋三井ビルディング」(2018年6月竣工)、「日本橋室町三井タワー」(2019年3月末竣工)と、東京都心の新たなランドマークに次々と導入が決まった。

江崎氏は今回のプロジェクトを「RULO Proに凝縮されたセンサー技術、集塵技術などはパナソニックがすでに持っている技術の集合体。その総合力はやはり素晴らしいと感じました」と語る。そして伊藤氏は、次のように振り返った。

「最初に『2年でお願いします』とリクエストしたときは、かなり難しいミッションだと思っていました。しかし鯛さんは滋賀県(東近江市)にいるというのに、定期的な打ち合わせのたびに確実に課題を解決してきてくれた。そのスピード感には驚きました。

清掃はアナログな部分が多い業務であり、すべてを機械化することが正解ではありません。やはり人間が対応すべきシーンも数多い。我々は今後も、人間とロボットの融合で使いやすいオフィスを提供していきたいと考えています」(伊藤氏)

二人三脚で生まれたRULO Proは2018年7月からBtoBの販売がスタートした。鯛氏によれば現在、数多くの問い合わせを受けているという。RULO Proが業務用清掃ロボットの革命的存在となるか、今後が楽しみなところである。

(ライター:小口 正貴(スプール))

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2019年3月19日(火)公開

発表年月
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