オドロキが常識を変えていく。~Wonder Solutions~

チケットも支払いもすべて電子化、新時代のスタジアムソリューションが動き出す

2018年12月 5日

特集

チケットも支払いもすべて電子化、新時代のスタジアムソリューションが動き出す

ラグビーワールドカップ2019、東京2020オリンピック・パラリンピックなどメガスポーツイベントが続く日本。スポーツインフラの中核となるスタジアムやアリーナを舞台に、パナソニックとぴあが共同で"チケッティングの電子化による体験価値向上"への取り組みに着手した。そこには、テクノロジーがもたらす新たな世界観が凝縮されている。

スポーツ産業の成長には価値の最大化が不可欠

いま日本では、これまでになく「スポーツ」が注目を浴びている。内閣府による「日本再興戦略2016」ではスポーツ産業を成長市場と位置づけ、2025年の市場規模目標を15兆円と定めた。これは2015年のおよそ3倍強の数字である。弾みをつけるかのように、2019年からはラグビーワールドカップ2019、東京2020オリンピック・パラリンピック、ワールドマスターズゲームズ2021関西と国際的なメガイベントが続く。

参考:内閣官房日本経済再生総合事務局「日本再興戦略2016 これまでの成果と今後の取組」2016年6月

参考:内閣官房日本経済再生総合事務局「日本再興戦略2016 これまでの成果と今後の取組」2016年6月

市場が成長するということは、これまで以上に多くの人がスポーツに触れることを意味する。国の方針にもあるが、そのためには「スポーツの価値の最大化」が鍵を握る。価値を最大化する上で最も親しみやすい接点の1つはスポーツ観戦だろう。伝統ある野球を筆頭に、サッカー、バスケットボール、ゴルフ、ボクシングなど日本にはプロスポーツが数多く存在し、シーズンを通して本格的な競技を楽しめる環境が整っているからだ。

あとはどのようにして"数段のステップアップ"を実現していくか。プロモーション強化や幼少期からの啓蒙といった従来の方法を地道に行うことも重要だが、最近では会場であるスタジアムやアリーナの時代に即したスマート化も取り沙汰されている。効率化を支援するデジタルテクノロジーを採用することにより、来場者はアナログでは不可能だった新世界を体験することができるようになる。

そこで生まれた取り組みが、今回紹介するサービスだ。パナソニックがチケッティングサービスの雄であるぴあとパートナーシップを組み、ガンバ大阪の協力を得て "チケッティングの電子化を通じたスタジアムでの体験価値向上"に向けた大規模な実証実験を行う。

舞台は2018年11月24日、パナソニック スタジアム 吹田で開催されるガンバ大阪vs V・ファーレン長崎の一戦。この取り組みが生まれた背景とソリューションの概要、その先に目指す未来について担当者に話を聞いた。

図:2018年11月24日に行われる実証実験の目的

2018年11月24日に行われる実証実験の目的

チケッティングの電子化を軸にした壮大な「スタジアムサービスプラットフォーム」

場合によっては数万人も集まるスポーツイベント。その中でスタジアムが抱える課題は共通する。来場者にとってはスムーズな入退場、場内でのグッズや飲食物購入の混雑緩和などが挙げられる。スタジアム運営者・主催者にとっては、新規設備投資の難しさ、集客のための企画力向上、スポンサー拡大に向けたマーケティング・営業力強化などが悩みの種だ。

こうした課題解決に向け、パナソニックとぴあは最初のアクセスポイントとなる"チケット"に着目した。ぴあの大下本 直人氏は、プロジェクトのきっかけをこのように語る。

「もともと我々は、パナソニックの端末を利用して、Jリーグのクラブ向けに非接触ICカードを用いた『ワンタッチパス』という入場認証と観戦履歴管理のデジタルソリューションを提供しています。そのスキームを発展させ、スタジアムが抱える課題に対して新しい提案をしていきたいとの思いから始まりました」(大下本氏)

写真:ぴあ株式会社 ライブ・エンタテインメント本部 スポーツ・ソリューション推進局 ファンマーケティング部 部長 大下本 直人氏

ぴあ株式会社 ライブ・エンタテインメント本部 スポーツ・ソリューション推進局 ファンマーケティング部 部長 大下本 直人氏

続いてパナソニックの多田羅 浩昌氏は、発想の原点をこう振り返る。

「今回はすべてのチケットを電子化する試みです。チケット販売の起点からスタジアム内でのタッチポイントまでの情報を上手く組み合わせることで、これからのスタジアムをどう変えていけばいいのか、来場者にどんなサービスを提供すればいいのかといったヒントを探っていきます。その結果をフィードバックすれば、顧客価値を最大化できると考えたのです」(多田羅氏)

写真:パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 主幹 多田羅 浩昌氏

パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 主幹 多田羅 浩昌氏

この取り組みを「スタジアムサービスプラットフォーム」と名付けた。具体的に実証実験当日の流れを見ていこう。まず紙チケットの来場者が、チケットを入場ゲート付近の特設コーナーで非接触型のウエアラブル型の電子チケットと交換する。それ以外はICカード年間パス、QRコード対応の紙チケット年間パス、スマホチケット(QR)で入場するため、ここで全員が電子化されることになる。

非接触型のウエアラブル型の電子チケット 使用イメージ

次にスタジアム設備に頼らない対策として、可搬性の高い小型端末でチケット情報読み取りを一元化。堅牢性に優れたパナソニック製「タフブックFZ-N1」を採用し、ゲート認証、チケットチェック、クーポン配布やプレゼント抽選会などの各種アクティビティ、座席へのルート案内などの読み取りを来場者のデバイスを選ばずに集約する。この機動力の高さにより、施設側は電子化に向けてぐんと導入のハードルが下がることになる。

ヤマ場となるのが、マルチなキャッシュレスサービスの提供である。2016年に開場したばかりのパナソニック スタジアム 吹田はスタジアム内の店舗がすべての電子マネーをサポートしていることもあり、もともとキャッシュレス化が進んでいる。しかし、今回配布するウエアラブル型の電子チケットは国内ではまだ事例が少ないクレジットカードのタッチ決済(NFC決済)の仕組みを採用しており、まるでスマートウォッチでタッチするようにスタジアム内の店舗で購入ができる。多田羅氏は、こうした斬新なユーザーエクスペリエンスもキャッシュレス行動を後押しすると見ている。

図:パナソニックとぴあが実現する『新たなスタジアムサービス』

パナソニックとぴあが実現する『新たなスタジアムサービス』

未来を見据えた世界観の提示で意識を変えていく

電子化によって得られる恩恵は大きい。来場者は入場時や購入時の混雑をスマート化でき、スタジアム内行動の利便性が向上する。運営者・主催者は来場者の属性をはじめ、その人たちがスタジアム内でどのような行動を取っているのかを把握した上で、観客への新たなサービス提供や、スポンサー獲得の営業活動につなげられる。スポンサーは提供された情報をもとに攻めのマーケティングができるようになる。さらに本プラットフォームでは収集データを活用した地域連携ソリューションも想定しており、スタジアム周辺の活性化までをも視野に入れる。

当日の入場予定者数は3万人。実証実験としてはかなりの規模となるが、多田羅氏は本番を意識することが重要だったと話す。

「ぴあとの話し合いを重ねる中で、100人単位の小さな取り組みでは本来目指すべき世界観を提示しきれないとの結論に至りました。その結果、 "電子化によってスタジアムはここまで進化できるのではないか"とのアイデアが次々と生まれました。先ほどのアクティビティ情報などはその好例ですし、国際的に流通しているクレジットカードのタッチ決済を導入したのも今後増えるだろうインバウンドを見据えたものです」(多田羅氏)

議論の中では、ぴあが蓄積した現場ならではのノウハウも役立った。大下本氏によれば、会場が大きくなればなるほど「オンラインとともにオフラインでのオペレーションを意識しなくてはならない」という。「我々の観点では、すべてをオンラインで処理すれば劇的な効率化が図れると考えがちですが、3万人が入場したら通信は不安定になることが想定されます。そのときにも対処できるソフトウエアを作るべきだと教えてもらいました」(多田羅氏)

一方、パナソニックは総合力によってソリューションをカバーした。大下本氏は「スタジアムサービスプラットフォームの利点は、チケットの購入・入場とスタジアム内での行動・購買履歴がワンストップで収集できること。分断的なソリューションはほかにもありますが、ここまで横断的にできるサービスはありません」と大きな信頼を寄せる。

写真:ICやQRコード、リストバンドなどで発行されたチケットの情報を 「タフブック」1台で読み取り可能

ICやQRコード、リストバンドなどで発行されたチケットの情報を 「タフブック」1台で読み取り可能

ベースが完成すれば可能性は拡大する。多田羅氏は「リアルタイムでの座席アップグレードも夢ではない」とし、大下本氏は「キリ番で入場されたお客様にプレゼントを渡すことなどが簡単にできるようになり、入場時のサービスオプションが増えます」と具体的な体験価値向上を挙げる。当初は2020年の本格提供を目指していたが、今回の実証実験が成功すれば前倒しして進めたい構えだ。そして両者は、チケッティングの電子化がもたらす未来にこのような思いを馳せる。

「来場者のみなさんも、すべて電子チケットで入場すれば何となくメリットがあることは想像がつくはずです。電車の改札が紙の切符からICカードに変わったように、主催者側が"こういう世界観を提供したい"というビジョンと運用をセットで提供していくことが大事だと思います。例えば入場ゲートを徐々にデジタル専用にしていけば、意識も変わってくるでしょう。

電子化の比率を向上することで、来場者の満足度が高まり、運営者・主催者の負担が軽減され、スポンサーはこれまでにはなかった貴重なデータを入手できます。この3者の関係がWin-Winで回っていくような仕組みを完成させることが理想です」(多田羅氏)

「このプラットフォームを活用して、1人でも多くのお客様が会場に足を運んでくれたり、場内でアクションを起こしてくれたりすれば、スポーツ業界が活性化します。ただし、電子化そのものがゴールではなく、重要なのはここから先のデータの活用法。これを効果的に活かすことで新たな事業が生まれてくると信じています」(大下本氏)

(ライター:小口正貴(スプール))

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2018年11月6日(火)公開

※本記事は、実証実験が実施された2018年11月24日(土)以前に掲載された記事の転載です。

発表年月
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