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乳牛の分娩をカメラで「見守り」 酪農現場の働き方改革

2018年9月18日

特集

乳牛の分娩をカメラで「見守り」 酪農現場の働き方改革

毎日の搾乳や飼料の給与など酪農従事者の労働条件は、とりわけ過酷だ。労働人口の高齢化や人手不足が問題となる中、行政も酪農における働き方改善や、生産性の向上に向けた支援を進めている。一方で緊急性を伴うこうした課題に、開拓の精神と最新のテクノロジーで挑み続けている牧場がある。最低気温が-30℃に近い厳しい寒さにもなる北海道で、乳牛の分娩監視カメラシステムを取材した。

過酷な北の大地でも機能するカメラで酪農従事者の働き方改革を

長時間労働の是正など働き方の改革が注目される中、酪農従事者の1人あたりの平均労働時間は年間2259時間と、製造業の2050時間と比べても長い。

こうした労働環境を背景に人手不足や高齢化などの問題を抱えながらも、離農した牛舎を買い取るなどして規模を拡大し、積極的な機械化を進める牧場も少なくない。搾乳ロボットや自動給餌機などを輸入して、少人数で対応できる作業体系を整えるのだ。農林水産省の資料によると酪農家の労働時間の内訳は搾乳作業が5割、飼料の給与作業が2割を占めていることから、近年の機械化による作業軽減の効果は大きい。

(参考資料1:農林水産省 畜産・酪農をめぐる情勢・P9-12)
(参考資料2:農林水産省 楽酪事業及び楽酪GO事業概要説明資料・P7)

製造業以上の長時間労働を必要とする酪農の現場

製造業以上の長時間労働を必要とする酪農の現場

そんな中でも酪農家が特に神経を注ぐのが、乳牛の分娩だ。通常、子牛が正常に生まれてくる場合であれば、特別な処置は必要ない。しかし逆子や凍死、キツネに襲われることで発生する分娩ロスは、牛個体の販売価格が高騰していることによる経済損失だけでなく、生乳を生産するはずの乳牛が生まれなかったことで収益も下がり、牧場の大きな損害につながる。

だからこそ深夜におよぶこともある分娩のたびに、何度も牛舎に行って状況を確認するのだが、これは酪農家の大きな負担の一つである。冬の北海道となれば、なおさらだ。

「乳牛を見守るカメラが欲しい」という顧客の相談が、パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社に届いたのは、今から約2年前。これまで取り引きがなかった一次産業の顧客の要望から、新システムの構築に至るまでの経緯を同社の北村 雄一氏は次のように話す。

「必要とされていたのは、屋外の環境性能の良さが前提条件の高品質カメラです。世界的にも評価が高いパナソニックのカメラは極寒、チリやホコリといった環境下に対応し、平昌の冬季オリンピックでも採用されています。また乳牛の鳴き声だけでも分娩の進捗状況が分かる酪農家にとって必須であるマイクが搭載され、さらに赤外線照明(IRLED)なら昼夜を問わず使用できることもあり、お客様の期待に応えられると直感しました。ところが糞尿なども伴う牛舎という環境での設置だけは唯一、前例がありませんでした」(北村氏)

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 北海道社 エンジニアリング部 部長 北村 雄一氏

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 北海道社 エンジニアリング部 部長 北村 雄一氏

高品質カメラと保守という安心をセットにしたサービス提供

そこでカメラは高い防塵・防水と、-40℃の寒冷地に対応し湿気にも強い「i-PRO」シリーズを使用。北村氏は当時をこう振り返る。

「お客様はまさに待ったなしの状態。そこでカメラを特に厳しい環境に設置し、事業部と共に耐久性に問題がないことを確認する作業と並行して、お客様には即日サポートや点検など、メンテナンスが充実した保守契約プランをご提案することで早急な対応が実現しました」(北村氏)

もちろん牛舎にカメラを設置して監視する方法は、以前から存在していた。しかしそれは、牧場の経営者が独自にカメラを設置したものなどで故障も多く、品質も納得できるものではなかったという。高性能の監視カメラによる分娩ロスの軽減は、差し迫った課題だったのだ。

現場に通いつめ牛舎の配電状態や使用方法などの現状を分析し、最適なプロダクツの選定や一元管理システムの構築を行ったのが、システム担当の山本 富美夫氏だ。

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 システムプロダクツセンター 北海道SE課 主事 山本 富美夫氏

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 システムプロダクツセンター 北海道SE課 主事 山本 富美夫氏

「ズームして子牛が寝ているワラの一本一本まではっきりと映る画像の鮮明さは、一目瞭然です。お客様には、回転機能で広いエリアも効率よく見渡せる画像をお見せするなどの実演で、抜群の性能に満足いただけました。また簡単に自宅のテレビやスマートフォンで遠隔監視ができるという提案で、仕事の効率化のイメージをお伝えできました」(山本氏)

実は一般家庭において家電製品のイメージが強いパナソニックにとって、家族経営が中心の一次産業向けビジネスにおける道筋は、まったくなかった。それでも設置のための現場の下見依頼が殺到した経緯は、牧場に出入りのある販売会社を通じたプロモーションのほかに、すでに導入した酪農家のクチコミがあったからだ。

さらに農林水産省やホクレン農業協同組合連合会の補助金制度も追い風となり、1年間で60カ所の牧場にパナソニックの分娩監視カメラシステムが導入された。

フロンティア精神で挑む酪農

キーマンとなった牧場経営者の一人が、約250頭の乳牛を成育するフロンティア牧場株式会社の山下 和洋氏だ。北海道中南部に位置し、先人たちが戦後に原野を切り開いた足寄町で、最先端の酪農を先導する山下氏は、カメラの設置について次のように語る。

「大切な子牛を一頭、失うことを考えたらパナソニックのカメラは安い。講習会などでこの監視カメラを勧めるのは、映像でも乳牛のタグ(耳標)の10桁の番号が分かるほど画質がいいから。2日間で3頭ほどのペースで生まれてくる子牛を、今では映像と鳴き声だけでまず状態をチェックできるようになりました。分娩がはじまり、介助を要する適切なタイミングで駆けつけられることは大幅な効率化につながっています」(山下氏)

  • フロンティア牧場株式会社

    フロンティア牧場株式会社

  • フロンティア牧場株式会社 代表取締役 山下 和洋氏

    フロンティア牧場株式会社 代表取締役 山下 和洋氏

約1年前に完成したフリーストール牛舎は、ロボット搾乳機や自動給餌機、巨大な餌寄せロボットなどが稼働する近代的で美しい巨大空間だ。牛舎全体を見渡せるカメラが1台と、分娩が近い乳牛たちを見守る分娩監視カメラが2台、設置されている。

牛舎全体を3台のカメラで常に見守っている

牛舎全体を3台のカメラで常に見守っている

事務所のパソコンの分割画面の中から、マウスを使って生まれたばかりの子牛がいる分娩舎を選択し、回転させてズームアップすると、子牛が鮮明に映し出される。操作のシンプルさも、酪農におけるIT化を推し進める条件の一つだ。

ワラ1本まで鮮明に写るカメラで乳牛の様子を事務所から確認することが可能に

ワラ1本まで鮮明に写るカメラで乳牛の様子を事務所から確認することが可能に

(1)システムから聞こえる鳴声(うめき声)で分娩を事務所で察知 (2)どの牛で分娩がはじまったのかをカメラでPTZ(パン・チルト・ズーム)操作で確認 (3)分娩の牛を特定し、従業員へ分娩介助の指示。無事分娩完了

(1) システムから聞こえる鳴声(うめき声)で分娩を事務所で察知
(2) どの牛で分娩がはじまったのかをカメラでPTZ(パン・チルト・ズーム)操作で確認
(3) 分娩の牛を特定し、従業員へ分娩介助の指示。無事分娩完了

実はパナソニックでは、酪農という新しい現場に入った担当者全員が、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証であるJGAPの指導員資格を取得した。これまで酪農の仕事と全く無縁だったという北村氏はこう話す。

「より現場を理解した上での新しいご提案や、逆にお客様からこれからの酪農のご相談を受けたとき、少しでもお役に立てたらと思っています。今後は気象観測装置と連動し、また一つの画面に気温や室温、モニタリングセンサーなどでさまざまな情報を集め、人が見ていなくてもアラームで分娩をお知らせするなどのシステムも進めたい。IoT化とその先にあるAI化を見据えて、酪農の後継者不足という問題に私たちも使命感を持って取り組んでいきます」(北村氏)

最先端の技術を導入しているフリーストール牛舎

最先端の技術を導入しているフリーストール牛舎

企業型の経営で広がる可能性

酪農の未来のカタチには、パナソニックが酪農業とともに進む技術革新のほかに、もう一つの柱がある。山下氏が描くのは、家族経営が中心の酪農を法人経営に変えていくことだ。自らも、これまでのノウハウを発展させ経営を法人化することで、新しい酪農にチャレンジする山下氏は、次のように語る。

「10年前、離農した牧場を継承したり、離農された方々を雇用して規模を拡大したりするなかで前身である会社を設立しました。大規模化が進むこれからは、家族経営で子どもが後継者となり農地を守るスタイルではなく、組織力や対外的な信用を得るためにも法人化が必要だと思っています。私は次世代を担う意欲ある酪農家に会社を継いでもらい、組織として地域との大きなプロジェクトに関わって利益を出すことで、これからの酪農業の可能性を広げていきたいと思っています」(山下氏)

北海道の自然豊かな土地を有するフロンティア牧場

北海道の自然豊かな土地を有するフロンティア牧場

山下牧場から山下牧場株式会社、そしてフロンティア牧場株式会社へ。山下氏の開拓者としての強い思いは、人材と最新のテクノロジーを武器に日本の酪農の未来を切り開いていくはずだ。

フロンティア牧場では優秀な人材が日々活躍している

フロンティア牧場では優秀な人材が日々活躍している

(ライター:三宮 千賀子)

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2018年9月4日(火)公開

発表年月
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