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2020年に向けて進む無電柱化 新たな街づくりの姿とは

2018年7月31日

特集

2020年に向けて進む無電柱化 新たな街づくりの姿とは

東京都は2018年3月、都市の防災力を高め、安全・安心に暮らせる「セーフ シティ」を実現するために「東京都無電柱化計画」を策定した。そして現在、この計画と並行して、無電柱化後の配電インフラを活用した街路空間の多機能利用を目的とする「スマートストリート・ソリューション」の実用化が、パナソニックと東京電力によって進められている。両社が挑む新たなまちづくりのカタチに迫った。

街路空間の多機能利用を目指す

東京都の無電柱化推進計画の柱となるのは、2019年までに、都市機能が集中するセンター・コア・エリア内(首都高速中央環状線の内側)において、都道の無電柱化を完了させ、さらに重点整備エリアを環状7号線の内側エリアに拡大させるというものだ。

計画の推進に伴って無電柱化、具体的には配電線の地中化が進むが、その際には電柱に替わる地上機器が必要となる。この"新たな配電設備"に着目したのがパナソニックと東京電力だ。

両社は2016年、この配電設備(地上機器)を活用して道路空間の多機能化を図り、安心・安全で便利なまちづくりを目指す「スマートストリート・プロジェクト」を立ち上げた。地上機器の上部にサイネージ機器を設置して、災害時の避難誘導や訪日外国人向けの情報提供、自治体などからの情報発信の場として活用しようというものだ。同時にスマートフォンや電気自動車の充電器としての役割なども持たせるよう検討を進める。

図:無電柱化によって設置される地上機器を活用

無電柱化によって設置される地上機器を活用

プロジェクト立ち上げの経緯について、パナソニック株式会社の渋谷 哲氏は、次のように説明する。

写真:パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 プロジェクト推進課 主幹 渋谷 哲氏

パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 プロジェクト推進課 主幹 渋谷 哲氏

「以前から我々は屋外のサイネージ事業に取り組んできましたが、特に道路上の情報化が遅れていると感じていました。その大きな理由が"必要な設備を置く場所"が確保しにくいことです。ちょうどそんな時、懇意にしている東京電力の担当者の方から、自分たちも電気の売買だけでなく、配電設備そのものを有効活用したいと考えているという話を聞きました。特に東京都では2020年を1つのターゲットに無電柱化推進計画が動き出しており、今後地上機器も増えていく。これは強い追い風です。今両社がタッグを組めば、色々と面白いことができるのではないか。そうして始めたのが、スマートストリート・プロジェクトです」(渋谷氏)

無電柱化の推進には地域住民の理解が不可欠

スマートストリート・プロジェクトでは、"街路空間をどう活用していくか"というアイデアについては、共同企画開発の協定を結び、お互いに知恵を出し合って検討を行うという形で進めている。プロジェクトの中から生まれたアイデアを特許申請する際も両社の連名だ。

そしてソリューションの実装に当たっては、パナソニックがサイネージ機器の開発・提供とコンテンツ配信の仕組みを、東京電力が配電設備の設置における改善・改良などを担当する。

ただしこの時、ソリューション提供の基盤となるのは、何と言っても地上機器だ。東京電力パワーグリッド株式会社の田中 正博氏は「"新しい社会インフラ"となるものなので、よりきめ細かな配慮が必要でした」と強調する。

写真:東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 副室長 博士(工学) 田中 正博氏

東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 副室長 博士(工学) 田中 正博氏

「地上機器は電柱を代替する設備なので、中には当然、これまで柱上にあった変圧器が入っています。万一故障でもすれば、その地域一帯の大停電に繋がる恐れがあり、また上部に設置されるサイネージ機器への電磁波の影響や地面の震動なども十分に考慮しなければなりません。海が近い場所なら塩害対策も必要ですし、今後の普及も見据えた時には、施工やメンテナンスのしやすさも重要です。新たな社会インフラとしての仕様を、いかにして担保するか。まさに社内一丸となって取り組んだテーマです」(田中氏)

現在都内では、既に約3万台の地上機器が20~40m間隔で設置されている。主な設置場所は都道や国道、鉄道の駅前広場や公園などだが、それらの場所は必ずしも電柱が立てられていた場所とは限らない。今後無電柱化が進めば、今まで何も無かった住宅地の真ん中に地上機器を設置する必要性も当然出てくる。

「その時、地域住民の皆様にとっては、突然家の前に見たことのない機器が置かれることになります。理解を得ることができなければ、無電柱化の計画そのものが進みません。サイネージでは様々な情報をご提供することができる。東電はそうしたスマートストリート・ソリューションの価値を地元の皆様にきちんとご説明し、合意形成を取るという役割も担っています」(田中氏)

写真:様々な情報を提供することができるストリートサイネージ(地上機器+サイネージ)

様々な情報を提供することができるストリートサイネージ(地上機器+サイネージ)

機器に搭載された様々なICT技術が多様なサービス提供を可能にする

それではスマートストリート・ソリューションが提供する価値とは、具体的にどのようなものなのか。

まず挙げられるのが、地上機器上部に設置されるサイネージ機器による情報提供だ。パナソニックがコンテンツ配信システム(CMS)を提供し、例えば自治体が作った観光案内や防災情報などのコンテンツを同社のクラウドセンターに集約、対象のサイネージ機器に配信する。災害発生時には、避難経路を表示して帰宅困難者を誘導するというシーンでの活用も想定される。

図:ストリートサイネージの活用例:災害時の避難誘導

ストリートサイネージの活用例:災害時の避難誘導

またスマートストリート・ソリューションでは、Bluetoothやパナソニック独自の光ID技術(LinkRay)などを搭載することで、見守りサービスやクーポンの配信なども可能にしており、さらに地上機器の電力を使えば、街行く人々やドライバーに対して、スマートフォンや電気自動車の充電サービスを提供することもできる。

「今後ストリートサイネージ(地上機器+サイネージ機器)の認知が広がれば、街中でこうしたサービスを利用することも当たり前になる時が来ると考えています」(渋谷氏)

写真:街中で電気自動車やスマートフォンの充電が可能になる

街中で電気自動車やスマートフォンの充電が可能になる

今後はカメラやIoTセンサーを活用したサービス提供も視野に

スマートストリート・ソリューションの提供に当たって、両社は港区と連携し、JR田町駅東口付近にストリートサイネージを設置して、2018年4月4日~2019年3月の期間を設けて実証実験を開始した。

サイネージに流すコンテンツは、平常時は港区の区政情報や広報用の動画など、また光化学スモッグ注意報が発令されるなどの非常時には、日本語・英語・中国語・ハングルの計4か国語で緊急情報を流す。放映時間は午前5時から翌午前0時まで、非常時には24時間いつでも割込配信ができるようになっている。

図:港区田町駅前で国内で初めてとなる歩道上での実証実験を実施中

港区田町駅前で国内で初めてとなる歩道上での実証実験を実施中

写真:天候の非常時には、日本語・英語・中国語・ハングルの計4か国語に対応している

天候の非常時には、日本語・英語・中国語・ハングルの計4か国語に対応している

「他の自治体の街づくり協議会や不動産ディベロッパーの方々にも見学に来ていただき、"こういうことをやりたかったんだ"というお声を数多くいただきました。今回のような仕組みを、例えば自治体様だけで構築しようとすれば、場所の確保から機器の設置など全てを自分たちで行う必要があります。しかしストリートサイネージをご利用いただけば、そうした手間やコストを削減できます」(渋谷氏)

サイネージを利用したいと考える自治体や企業は、配信するコンテンツの企画制作に集中できるということだ。しかしサイネージでより多様なコンテンツを配信するためにはまだ1つ、乗り越えなければならないハードルがあるという。それが東京都の屋外広告物条例だ。この点について、田中氏は次のように説明する。

「現在都の条例では、路上で商用広告を行うことが許されておらず、公共的な情報しか流すことができません。毎日同じものばかりでは見る人に飽きられてしまうので、例えばニュースや天気予報、電車の運行情報などを掲示したいのですが、その情報の信用性を保証するためには情報提供元の企業名を載せる必要があり、今はそれが広告と見なされているのです。2020年には国内外から多くの人たちが東京にやってきます。これから街頭アンケートも行い、港区様と一緒に"これだけニーズがあるので商用広告の掲示を是非認めてください"という働きかけを都にしていく予定です」(田中氏)

図:設置した地域の花粉情報や天気も表示することが可能

設置した地域の花粉情報や天気も表示することが可能

またストリートサイネージ自体にも、またまだ多くの可能性が秘められている。今後様々な場面での活用が期待されているのだ。

「現在のストリートサイネージにはセンサーとしてカメラを搭載しており、閲覧者の人数、顔認識により閲覧者の年齢・性別も推定できます。災害時の避難誘導計画に役立てたり、商用広告が解禁されれば、エリアマーケティングに活用することも可能でしょう。実証実験を通して、例えば月初は見ている人が非常に多かったが、同じ情報を流し続けていると数日後には見る人が減ってくるという傾向も分かってきました。さらに、様々なIoTセンサー、例えば震動や騒音センサーを付けてそのエリアのデータを収集し、不動産価値を算出するなどの利用方法も考えられます。温度や湿度、花粉などのセンサーを組み込めば、住民の皆様に安心・安全で快適な生活を送っていただくための情報を提供することが可能です。まずは2020年までに、ストリートサイネージが"新たなレガシー"となるように商用広告の規制を外してもらう働きかけを続け、2020年以降には、色々なIoTセンサーを載せて新しいビジネスを作っていきたいと考えています」(渋谷氏)

写真:画面下にある人感センサー。顔認識により年齢・性別も測定することも可能

画面下にある人感センサー。顔認識により年齢・性別も測定することも可能

「加えて街づくり協議会や商店街の皆さんなど、このストリートサイネージを使って街を盛り上げていきたいという方がいらっしゃるなら、是非企画の段階からお話をさせていただき、その街に見合ったサイネージを一緒にデザインさせていただきたいと考えています。我々の取り組みは、まだまだゴールではありません」(田中氏)

(ライター:西山 毅)

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2018年7月24日(火)公開

発表年月
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