オドロキが常識を変えていく。~Wonder Solutions~

急拡大するサイクルシェア 都心の日常利用でも浸透

2018年5月31日

特集

急拡大するサイクルシェア 都心の日常利用でも浸透

2020年まであと2年余り。自動運転やドローン、BRTなどへの注目が高まっているが、鉄道、バスに次ぐ第3の公共交通手段として浸透しつつある「サイクルシェア」をご存じであろうか。2016年の5月に「未来コトハジメ」でも注目し取り上げたテーマだが、そこから2年。エリアも東京だけでなく、大阪にまで広がっているほどニーズは急上昇しているようだ。そこで今回はニーズの変化と普及状況についてステークホルダーに改めて取材した。

2020年はサイクルシェア拡大の好機

2014年に東京都が示した「東京都長期ビジョン」では、東京都における2020年にあるべき交通の姿の1つとして「サイクルシェアの広域展開」を明記している。もちろんこれは、国内外から数多くの人が詰めかける2020年の東京の街を意識したもの。事実、ロンドン市では2012年を機にサイクルシェアが爆発的に普及し、今では市民にとって欠かせない"足"にまで成長した。

こうした動きを受け、2016年の春にNTTドコモ、ドコモ・バイクシェアとパナソニックがタッグを組み、東京臨海地区で「サイクルシェア」及び「バッテリーシェア」の実証実験をスタートさせた。簡単な登録を済ませれば、任意の駐輪ポートから乗車し、目的地に近い駐輪ポートで乗り捨てられるその利便性が市場に受け入れられ規模感は拡大し続けているという。

図:シェアサイクルのイメージ図 東京都長期ビジョン第3章・都市戦略2より

東京都長期ビジョン第3章・都市戦略2より

目指すは「ポスト」のような存在

下記に掲載した"赤い電動アシスト自転車"を街中で見たことがある方は多いのではないだろうか。この自転車こそが、ドコモ・バイクシェアが手掛けるサイクルシェア用の自転車である。2011年4月、NTTドコモが神奈川県横浜市で開始したシェアリング事業を源流とし、2015年2月に専業事業者として発足。2018年3月末時点、全国25拠点で約7300台、駐輪ポート約700カ所を構えるまでに成長した。利用回数は前年度比200%以上のスピードで伸びており、2017年度は470万回を数える。これは実に、2011年度の約120倍の実績となる。

写真:ドコモ・バイクシェアが展開する

ドコモ・バイクシェア代表取締役社長の堀 清敬氏は、好調のおもな理由を「東京都区内での広域連携が実現し、駐輪ポート数が順調に増えたため」と語る。現在、東京都内9区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区)で相互乗り入れを実施しており、飛躍的に利便性が向上。都心だけではなく住宅地にまで駐輪ポートが広がったことで、利用者にとって接点が増えたことも大きい。

それまでどちらかといえば観光目的と見られることが多かったサイクルシェアだが、都心・商業地・住宅地をまたぐ「日常利用」が加速しているという。

「江東区のようにオフィス、ショッピングセンター、住宅が隣接・混在するエリアでは、朝は通勤・通学、昼は買い物、夕方以降は帰宅と時間帯によって上手く用途が循環しています。湾岸エリアは目的地同士の距離が"歩くには遠く、電車では近い"ケースが多いため、日常的に我々のサービスが根付いている。おかげで近隣住民の方々は赤い自転車に慣れ親しんでいるようです」(堀氏)

写真:株式会社ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長 堀 清敬氏

株式会社ドコモ・バイクシェア 代表取締役社長 堀 清敬氏

ドコモ・バイクシェアが展開する電動アシスト自転車。女性でも乗りやすい重心が低いフレーム

女性でも乗りやすい重心が低いフレーム

自転車の楽しさや魅力を伝えていきたい

2020年については「確かに大きなターゲットの1つ」としながらも、「サイクルシェアが日常に溶け込む存在になることが最も望ましい姿。2020年を契機にロンドンやニューヨークのような1万台以上の規模に早く育てていきたいですね」(堀氏)と意欲を燃やす。

そのために肝となる電動アシスト自転車は、信頼性の高い国産モデルを選択。その1社としてパナソニック サイクルテックと2年前から協業を開始した。しかしスタートして2年、様々な課題も出てきたという。まず想定を上回る稼働率でバッテリー切れが生じてしまうこと。また比較的小柄な女性の利用者もいれば体の大きな外国人観光客の利用も多く、万人が使いやすいよう車体を合わせなければならない。さらに返却されるポートが特定の場所に集中することから移動作業が多く、作業員の負担も想定以上であった。これら課題を解決するため、今夏には第2号となる新型モデルを投入予定。開発にあたり、ドコモ・バイクシェアはつぶさにユーザーニーズを拾い上げながら車両への反映を依頼した。

「サイクルシェアならではの要件として、まずは万人が乗りやすい車体が挙げられます。そのため、女性でも乗りやすい重心が低いフレームを採用しました。そのほかに重視したのは耐久性とメンテナンスのしやすさ、そしてなるべく長く持つバッテリーです。これらを軸に、さまざまな観点から検討していただいています」(堀氏)

写真:ドコモ・バイクシェアが展開する電動アシスト自転車。コンパクトでも大容量のバッテリーを採用

コンパクトでも大容量のバッテリーを採用

技術の進歩で自転車+ITの可能性は無限大

結果、それら必須要件をクリアしたモデルが完成。堀氏は協業がもたらした意義を次のように話してくれた。

「今回の取り組みは、パナソニックグループとNTTドコモグループの協業としても実りが多いものだと感じています。我々が扱う電動アシスト自転車には、通信モジュール、GPS、加速度センサーといったIoT機能が搭載されています。これらをパナソニックグループが持つ豊富なアセットやテクノロジーと組み合わせて、今後も大きく発展させていける自信があるからです。超高速・多接続通信の5G時代になれば、コネクテッド・バイクの需要はさらに高まっていくはずです」(堀氏)

2018年5月には、大阪市でサービスの本格展開を開始した。これまで地元事業者の「HUBchari(ハブチャリ)」にシステム提供を行ってきたが、HUBchariと相互乗り入れする形でドコモ・バイクシェアを広めていく構えだ。堀氏は「同じ都会でも東京と大阪では環境やニーズが異なりますから、新しいチャレンジだと捉えています」と身を引き締める。

そして自身もサイクリストだという堀氏は"ミライの自転車"が持つパワーについて、このような思いを寄せる。

「自転車はちょっと寄り道して面白いお店やエリアを発見できますし、昨今の健康増進の面から見てもプラスになることが多い。これからはただの乗り物ではなく、ITと連携してクーポン情報やエリア情報などを簡単に取得できるようになります。自転車+αの楽しさや魅力をお客さまに発信していくことで、既存の交通機関の代替以上の価値を提供できるのではないでしょうか」(堀氏)

万人に受け入れられるデザインと使い勝手を目指して

ドコモ・バイクシェアの要望を受け、パナソニック サイクルテックはどのような姿勢で開発に臨んだのか。同社専務取締役 中駄 義信氏は「ユーザビリティの点では、ユニバーサル性の高いデザインが必須。デザインをかなり工夫し、ユニセックスかつ幅広い年齢層に使いやすい構造を目標に様々なアイデアを出し、ドコモ・バイクシェアと1つ1つ詰めていきました」と語る。

写真:パナソニック サイクルテック株式会社 専務取締役 中駄 義信氏

パナソニック サイクルテック株式会社 専務取締役 中駄 義信氏

新型モデルでは2年前の初代モデルを全面的に見直した。乗りやすさについては初代と比較してサドルからハンドルまでの距離が約8cm長くなり、大柄な外国人観光客の方でも余裕を持って運転できるように配慮。インバウンド需要の伸びを意識した開発である。

写真:パナソニック サイクルテック開発の電動アシスト自転車 新型モデル。ドコモ・バイクシェアに2018年夏投入予定

今夏投入予定の新型モデル

電動アシスト自転車の肝となるバッテリーは、12Ahからサイズを変更することなく大容量の16Ahへとパワーアップを図った。その結果、約3割も走行可能距離が伸びたという。

コストを抑制するため、市販車のパーツを用いた点も特徴だ。頑丈なバスケット、サドル、タイヤ、スポーク、モーター、手元スイッチなどを同社の子乗せモデルを中心に共用化した。これら共用化は「市場実績があり、信頼性が確認できていること」(中駄氏)も大きな理由となった。電動ユニットには電源供給機能を搭載、新たな電子機器も活用できる付加価値もある。

写真:パナソニック サイクルテック開発の電動アシスト自転車。アシストモードを簡単に切替えられる小型スイッチ

アシストモードを簡単に切替えられる小型スイッチ

幸之助の想いのもと安全・安心を提供し続ける

中駄氏は完成した第2号モデルについて「お客さまが最も心地よく乗車できるポイントはどこだろう?と突き詰めた自信作」と胸を張る。そこには、パナソニックが培ってきたモノづくりに対する歴史と矜持がある。

「我々には、長年自転車を作り続けてきた豊富な知見があり、加えてテクノロジーの要である電動ユニットを開発、内製しています。ドコモ・バイクシェアの様々な要望に対して、ワンストップオペレーションで対応できたことが最大の強みと言えるでしょう」。(中駄氏)

2017年には電動アシスト自転車の国内出荷が60万台を超え、全体の1割強まで普及した。徐々に市場が形成される中で、これまでのように買い物や子乗せモデルばかりではなくスポーツやタウンバイク、ビジネスモデルなどニーズも多様化してきた。電動アシスト自転車、ひいては自転車を取り巻く環境が変わり続けていく中で、中駄氏はどんな未来を見つめているのか。

「もちろん進化を求めていきますが、乗り物として、安全・安心の土台は不変。自転車の持つ価値が何なのか――その本質は外さないようにしたいと考えています。

我々の前身であるナショナル自転車工業株式会社が誕生してから今年で66年経ちました。松下幸之助創業者が作った会社で、1つの事業部として商品が大きく変化していないのは恐らくこの領域ぐらいでしょう。松下幸之助創業者が、家の中だけではなく、外でも人びとの生活が豊かになるようにとの思いを込めて立ち上げた事業。その思いはこれからも大切にしていきたいと思います」(中駄氏)

「未来コトハジメ」で取材して2年経過した本事業。たった2年で加速度的に成長したことを考えると次の2年後、つまり2020年の本丸の時点で、どこまで公共交通機関として受け入れられているだろうか。大いに期待できる本事業にこれからも注目していきたい。

写真:年齢、性別問わず幅広く利用されているドコモ・バイクシェア

年齢、性別問わず幅広く利用されている

2020年のさらなる先に向かって挑戦を続ける

オリンピックでのTOPスポンサー、パラリンピックでのワールドワイド公式パートナーを務めるパナソニックは、2014年に「東京オリンピック・パラリンピック推進本部」を設置。2020年東京の街づくりに貢献する新しい技術・サービスの開発を行うとともに、新規ビジネス開拓に注力している。

ビジネス創出のヒントになるのは社会課題解決である。推進本部では数多くの社会課題を探り、 "5スマート+ネクスト3"を柱とした。

図:パナソニックが取り組む5スマート+ネクスト3

パナソニックが取り組む5スマート+ネクスト3

このうち、スマートトランスポーテーション実現に向けた一環として、今回のサイクルシェアの協業に取り組んでいる。東京大会において、オリンピック・パラリンピック両大会での最高位のスポンサーとして電動アシスト自転車を提供する経緯もあり、市場開拓に向けた意味でも期待は大きい。

東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 プロジェクト推進課 課長の井上 英紀氏は「サイクルシェアは地元住民だけではなく、観光客や外国人の方が試し乗りできる機会。まずは乗ってもらって、電動アシスト自転車はこんなに便利なんだということを感じてほしい」と語る。

写真:パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 プロジェクト推進課 課長 井上 英紀氏

パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 戦略企画部 プロジェクト推進課 課長 井上 英紀氏

新型モデルのバッテリーに搭載された電源供給機能とドコモならではの通信機能を活かし、"次世代の自転車"に向けたサービス展開も構想中だ。オープンイノベーションがもたらす未来の可能性について、井上氏はこのように展望を語った。

「2020年は1つのマイルストーンですが、そこでビジネスが終わるわけではありません。挑戦を続けながら新しい価値を生み出す――こうした活動は2020年以降もずっと続けていきたい。そこから事業の柱となるビジネスが育っていくことが理想です」(井上氏)

(ライター:小口 正貴(スプール))

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2018年5月29日(火)公開

発表年月
発表年月