オドロキが常識を変えていく。~Wonder Solutions~

トマト収穫ソリューション~AIで農業の人手不足解消へ~トマトを自動で収穫するロボットが活躍

2018年5月23日

特集

トマト収穫ソリューション~AIで農業の人手不足解消へ~トマトを自動で収穫するロボットが活躍

農業人口の減少、高齢化が急速に進む日本。その解決策の一つとして農業のハイテク化が進んでいる。中でも注目を集めるのがAIやロボティクス技術を駆使した「ロボット収穫機」だ。農作業全体の20%を占める収穫作業をロボットに任せ、効率化をはかろうというのである。既にロボットを稼働させ、技術やノウハウの発展をめざす先進的な農園も現れた。この農園を訪ね、現状や展望を取材した。

労働の20%を占める収穫労働を自動化

日本の農業が直面する最大の課題は、農業就業人口の減少や高齢化である。2005年に335.3万人だった農業就業人口は、2010年に260.6万人に、2016年には192.2万人に落ち込んだ。一方、高齢者比率は高くなり、2005年に農業従事者全体の58.2%だった65歳以上の農業就業者は、2010年には61.6%に、2016年には65.2%に達した。

グラフ:農業就業人口と高齢者比率の推移

農業就業人口と高齢者比率の推移

このことは農作物生産の縮小、耕作放棄地の増大、ひいては食糧自給率の低下につながると考えられる。この問題を解決するために、官民問わず、今、さまざまな挑戦が行われている。技術面からは、植物工場、農作業の自動化、生産性の高い品種の開発などである。

そうした中で、挑戦の事例として、ある先進的取り組みを進める農園で稼働している収穫ロボットがある。

トマトを自動で収穫するロボット

トマトを自動で収穫するロボット

この農園では3棟、計5ヘクタールほどのガラス製ハウスを有し、数種類のトマトを栽培している。この一部において収穫ロボットの実証を行い、生産性を高めるとともに、その機能の改善を目指している。

このハウスはもともと外部環境の変化に左右されない安定的な農業生産の確立を目的として設立された。そのため、ハウス内の温度、湿度、光、灌水、肥料、炭酸ガス濃度などをコンピュータ制御して生産性向上をめざしている。そうした発想から、最新の収穫ロボットの導入にも積極的に取り組んだ。

農園長である中村氏は「労働力不足を解消しなければ日本の農業に明るい未来は開けません。そのときロボットで収穫作業を軽減できることは大きな利点でした。収穫に費やす労働時間は、最小限に見積もっても全体の20%におよびます。ハウスでの作業全体は年間約16万時間、その内、収穫作業には3万5000~6000時間を費やします。収穫ロボットを使えばこの時間を自動化できるわけです」と語る。

写真:収穫ロボット導入の中村農園長

収穫ロボットを導入した農園の農園長 中村征尊氏

農園の試算によれば、植物の手入れ作業に40%、収穫物の傷の有無や柔らかさなどを確認して包装するパッキング作業に40%の時間を要するが、これらの作業は複雑なのでまだロボット化は困難である。

それらに比べ、収穫作業はロボットの導入がしやすい。しかも夜間、人間が寝ている間に稼働できることは大きな利点だ。農園で仕事をする人たちは、朝、収穫の終わったトマトをパッキングするだけで済む。「ハウスという限られた空間ですから、そこでどれだけ生産性を高めるかを重視しています。生産性を高め、かつ従業員の負担を減らせることは大きなメリットです」(中村農園長)

ロボットと言えば、「人が不要になる」イメージがあるかもしれない。しかし農園長は収穫ロボットの活用が、雇用創出につながることにも期待を寄せる。

「農業はいわゆる3K労働のように言われ、敬遠されがちですが、その最もきつい部分をロボットが肩代わりしてくれると思います。まだ研究を続け、理想をめざし課題をひとつひとつ解消している段階ですが、この農園で磨かれたロボット技術が他の農園でも利用され、日本の農業がより働きやすい場になり、結果として農業従事者が増えていくきっかけになればと思います」(中村農園長)

今、働き方改革が日本社会の大きなテーマとなっているが、収穫ロボットの導入は、技術面から、農業での働き方を変える一つのきっかけになるかもしれない。

トマトの適収穫度を画像認識で判断

収穫ロボットは実際にどのような流れで作業を行うのだろうか。
トマトの苗の畝と畝の間に敷かれたレールの上を収穫ロボットは移動して実を収穫する。収穫ロボットには画像を認識するカメラが搭載されており、これによって実を見つけ、収穫すべき実なのかどうかを判断すると、動作する経路を決め、収穫作業用の先端部分(エンドエフェクタ)を近づけていく。狙ったトマトをリングに通し、実を引っ張り、主枝(果梗)を押すことで、手でもいだように実を取り、下に取り付けられたポケットに落とす。

収穫ロボットが実際にトマトを収穫する様子

収穫ロボットが実際にトマトを収穫する様子

現在6秒に1個のペースで収穫可能である。人は2、3秒で1個を収穫できるので人の方が速いが、人が作業できるのは3、4時間程度。一方収穫ロボットは10時間以上連続稼働でき、夜間にも働けるので、農園ではこの速度で十分と考えている。

収穫ロボットの開発における課題の一つは、トマトが熟し、収穫に適した頃合いである「適収穫度」に取れるようにすることだった。

そこで注目したのが色の変化である。トマトの実は緑色から熟すにつれて徐々に赤くなる。そこで実の画像を撮影し、その色を農園が作成した色見本と照合し、判断するシステムを開発した。「人間だと判断に個人差が出ますが、収穫ロボットではそれがなく、安定的に同じ熟度の実を取ることができます。試してみると、取る実の選別にはまったく問題がなく、満足しています」(中村農園長)

色見本の範囲は自由に設定できる。生産量を確保するために少し熟度が低い実まで取りたいといった場合は、通常より緑色に近い範囲に設定を変えるだけで可能だ。

また収穫ロボットが夜間でも、実の色などを識別・収穫できるのは、フラッシュ発光して撮影するからだ。夜の無人のハウス内ではピカピカと光が明滅しながら収穫ロボットによる作業が進む。

人とロボットが助け合う社会をめざす

この収穫ロボットを開発しているのがパナソニックである。担当の戸島亮氏は、定期的にこの農園に足を運び、農園と意見を交わしながら、現状分析やさらなる機能向上に努めている。

「最初は農業や収穫について人間の作業を模倣することから始めました。刃物を使わずにリングを使い、直接、実に触れないように収穫する方法も、手作業と同じようにしようとしたからです」(戸島氏)

写真:パナソニック ロボティクス推進室  戸島 亮氏

パナソニック株式会社 生産技術本部 ロボティクス推進室 開発一課 課長 戸島 亮氏

収穫ロボットの性能は、最近、AIを導入したことによって格段に向上した。戸島氏は、「収穫ロボットは以前、トマトが葉や茎の陰にあって一部しか見えていないとき、トマトだと認識できませんでしたが、トマトがほんの一部見えている写真を学習させることで認識できるようになりました」と語る。今後は葉や枝など実以外の部分の認識性能を高めることで、さらにロボットの収穫率を上げようとしている。

パナソニックではこれまで医療福祉、家電、社会インフラなど様々な分野でロボティクス開発を進めてきた。こうしたロボット技術が次々に生まれているのは、家電メーカーとして人と触れ合い研究し蓄積した技術力がある。パナソニックでは「人に寄り添うロボティクス」をキーワードとし、人がロボットと共に安心して活動でき、人の役に立つロボットを作ることを目指し開発に取り組んでいる。

その際にパナソニックが大切にしていることは大きく二つある。一つは安全性だ。人にぶつかったり、人を傷つけたりしないように、きめ細かな配慮をしている。もう一つは、人間がロボット技術を利用して、自分らしく活動できること。これにはロボットが人間に代わって働く場合と、人間の能力自体を高める場合がある。人生100年時代と言われる今、パナソニックは、ロボットと共存することで、あらゆる人がより幸福に過ごせる社会を目指している。

「農業に限らず、広く世の中と人の役に立ち、人を幸せにするロボットを開発していきたい。この収穫ロボットで培われた要素技術が、他の様々な分野のロボットに応用されることにも期待しています」と戸島氏は語る。

AIの導入により大きく進歩している収穫ロボット。今後の研究でより大きな進歩を遂げ、農業はもちろん、様々な課題を解決する一手になることだろう。人と共生し、人の役に立つようなロボティクス社会の実現に、今後も期待していきたい。

写真:パナソニック ロボティクス推進室  戸島 亮氏

(ライター:織田 孝一)

「未来コトハジメ」 - 日経ビジネスオンラインSpecialにて、2018年5月22日(火)公開

発表年月
発表年月