未来のオフィスビルの手本となる「ハウス2019」
ベルリン中心部から車で30分ほどの緑深い郊外の一角、マリーエンフェルデにこのドイツ連邦環境庁の支部はあります。入り口には「EMAS」のロゴが。これは、EUの厳しい省エネ基準の認証を受けていることを示すものです。 ドイツ連邦環境庁の本庁舎のオフィスが手狭になり、2009年に新たに計画されたのがこの「ハウス2019」でした。ちょうどこの頃、2019年から施行される、EUの政府公的機関の新建築の省エネルギー基準が決定されました。そこで、この建物を、未来のオフィスビルの手本として建てよう!というアイデアが生まれたそうです。
限られた屋根面積から、オフィスの全エネルギーを生み出す技術力
「ハウス2019ではまず、使うエネルギーを極力抑えるように設計しました。気密性や断熱性を高め、窓の大きさや角度などにも工夫があります。しかしそこで人が生活し、働いているかぎり使用エネルギー自体を抑えることはできても、ゼロにするのは不可能です。そこで、太陽光発電の導入を考えました」と案内してくれた担当のゲルド・シャブリツキさんは言います。連邦環境庁の建築技術内部業務部長を務める彼は、当初から「ハウス2019」のプロジェクトに関わってきた人物です。31名の職員が働くオフィスが収まるコンパクトな建物。限られた広さの中で、最大限の発電量を効率よく得られる太陽光発電システムを探すため、公募が行われました。数ある会社の製品を様々な点から厳密に比較し、選ばれたのが、パナソニックの太陽電池モジュール「HIT」です。ハイブリット構造によって電荷のロスを抑え、また表面の反射を減らすことで効率よく光を吸収し、トップクラスの発電量を引き出せることが決め手になったそうです。
- 屋根を前面にせり出し、南向きの窓も日よけになるなど、設計段階から使用する電力が少なくて済むような、あらゆる工夫が施されている
- 当初の設計プランだと屋根面積が小さすぎたが、省スペース・高効率で発電できるパナソニックの「HIT」がゼロエネルギーハウスを実現可能にした
年間46,000kw、最小の面積で最大のエネルギーを創出
- 設置された太陽光発電システムにより年間46,000kw発電することが可能
- 屋上で太陽電池モジュールのパフォーマンスについて説明するパナソニック・エコソリューションズ・エナジー・マネージメント・ヨーロッパのコメスさん
早速「ハウス2019」の屋根にのぼらせてもらいました。技術説明の担当はパナソニック・エコソリューションズ・エナジー・マネージメント・ヨーロッパのソーラーセールス部長クリスティアン・コメスさん。「この屋根には、281枚のモジュールが設置されています。このモジュールは年間46,000kwhを発電します。ドイツでは4人家族の1戸当たりの電気消費量が4,600kwhですから、約10家族分に当たります。今までの技術ではこの小さな面積の中では実現することの出来ない数字でした。面積当たりでも、システム容量当たりでも素晴らしい発電量を実現します。最小の面積で最大のエネルギーを作り出すハイパフォーマンス、高効率の太陽電池モジュールで、ゼロエネルギーハウスを実現しているのです」。
日照量が少ないベルリンでも効率よく太陽の力を取り入れる
- 「ハウス2019」に設置された太陽光発電システムの現在の発電量が分かる表示モニター
取材に行った日はあいにくの空模様。南ドイツに比べて日照量が少ないベルリンらしいどんよりとした日でした。例えば太陽発電システムが街中に設置され、「環境都市」として知られるフライブルクは、国内最大の日照量1,740時間を誇りますが、ベルリンは1,623時間。しかも冬は日光を見る機会がとても少なくなります。そんなベルリンでも発電はできるのでしょうか?クリスティアン・コメスさんにうかがいました。
「もちろん、1年実際にモニタリングをしてみないと具体的な発電量はわかりません。しかし、太陽光をたっぷり取り込む技術が盛り込まれているので、同じ光量でも他のものとは発電量が違います!」
また、温暖化の影響か、今年は最高気温39度というドイツらしくない真夏日が続いたベルリンですが、その状況にも「HIT」は適しているそう。従来はモジュールの温度が上がると出力が落ちがちだったそうですが、高温、暑さへの強さがデータで実証されているそうです。
省エネでも、快適さを追求。仕事しやすいオフィスを目指して
モニタリングにはもちろん発電量などの数値も含まれていますが、連邦環境庁ではそこで仕事をする全職員への満足度テストも定期的に行っていくそうです。これから徐々に職員たちが入って来る予定のオフィス。広々とした空間には大きめの採光が取られ、明るい印象です。ビルの中心部は吹き抜けになっており、天窓から太陽光が差し込むつくり。また、建物の内部にはヒートポンプシステムが設置され、暖房と温水のエネルギーを生み出しています。
「このゼロエネルギーハウスを手本に、さらに進んだ省エネ、ゼロエネルギーの公的建築が建てられることでしょう。早くも見学ツアーなどの問い合わせもあり、市民からの注目度の高さも感じています」とゲルド・シャブリツキさん。今後ドイツ連邦の施設として、25件の省エネハウスの建築が計画されているそうです。
限られた屋根面積から大きなオフィスのエネルギーをまかなう、ゼロエネルギーハウス「ハウス2019」には、未来へと続く確かな手応えが感じられました。まだ続々と計画されているという新たなプロジェクトと、それを支えるパナソニックの太陽電池モジュールHITをはじめとした確かな技術に明るい未来が見える取材となりました。
- 気密性や断熱性を考え、オフィススペースの窓は自由に開閉できない仕組み
- 建物内にある大きな吹き抜けは太陽の光をたっぷり取り入れられるので、閉塞感は感じられない
- 建物内で使用される暖房と温水を作り出すためのヒートポンプ
(Reported by Asami)