【要旨】
パナソニック(株)セミコンダクター社は、モバイル機器等の電源に最適な、高速応答で、幅広い出力電圧に対応でき、かつ高効率な高速応答ヒステレティック制御方式[1]DC-DCコンバータ[2]LSIシリーズ(品番:AN30181 他)を開発しました。2011年1月よりサンプル出荷を開始します。【効果】
本製品を使用することにより、モバイル機器を中心としたメモリやCPUのプロセスの微細化、低電圧化に対して、高速スイッチング動作の技術を確立することで、出力負荷急変時にも高速に応答し、かつ従来LSI外付け部品点数削減と部品定数低減で、搭載機器の小型化を実現できます。【特長】
本製品は以下の特長を有しております。
- 出力負荷急変時に高速応答性の高いDC-DCコンバータを実現し、出力電圧変動幅を大幅に抑制
・アンダーシュート : 20mV 当社従来比 51%減
・オーバーシュート : 20mV 当社従来比 44%減
これにより、CPU等の動作電源電圧範囲に大きなマージンをとることができ、セットの安定動作を可能にします。 - 出力設定電圧まで電池からの入力電圧が低下しても、安定動作を実現
これにより、電池容量の有効活用を可能にしました。 - 外付け部品点数の削減、部品定数の低減、および小型パッケージの採用で、セットの省スペース設計に貢献
・実装面積 : 従来比 約33%削減
【内容】
本製品は以下の技術によって実現しました。
- ヒステレティック制御方式の実用化と、出力負荷急変時に高速応答が可能な、PWM[3]の所定オン時間・オフ時間制御技術
- 従来、出力電圧範囲が入力電圧の80%以下であったのに対し、出力トランジスタが常にオン状態(100%Duty[4])にする制御を可能にした、オン時間延長回路技術
- DC-DCコンバータLSIで使用するコイル、およびコンデンサなどの外付け定数の低減を可能にした、高速スイッチング動作(3MHz)技術
【従来例】
近年、プロセスの微細化、低電圧化したメモリやCPUの電源には、負荷変動への高速応答が求められてきました。従来の制御方式である電圧モード制御[5]や電流モード制御[6]では、それらの要望に対応することが困難でした。このような用途の電源回路として、高速応答で、高効率を実現することが可能なDC-DCコンバータが求められていました。
【実用化】
サンプル出荷開始 : 2011年1月 サンプル価格 : 100〜200円
【照会先】
- セミコンダクター社 企画グループ 広報チーム
- TEL:075-951-8151
- E-mail:semiconpress@ml.jp.panasonic.com
【特長の説明】
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出力負荷急変時に高速応答性の高いDC-DCコンバータを実現し、出力電圧変動幅を大幅に抑制
従来は、エラーアンプ(積分回路)[7]により出力電圧の制御を行っているため、応答性が遅くなる課題がありましたが、高速応答性を高めるための出力電圧と基準電圧を、直接コンパレータ(回路)[8]で比較することを特長とするヒステレティック制御方式を採用しました。これにより、DC-DCコンバータの出力負荷電流が急変した際に、内部回路が高速に応答し出力電圧の変動を最小限に抑えることが可能となりました。CPU等の動作電源電圧範囲に大きなマージンをとることができ、セットの安定動作を可能にします。 -
出力設定電圧まで電池からの入力電圧が低下しても、安定動作を実現
電池電圧が低下し、DC-DCコンバータの入力電圧が下がる場合でも、DC-DCコンバータの出力制御のパワーMOSFETを常時ONさせることで、安定動作可能な入力電圧下限値を、出力設定電圧値まで拡大しました。これにより、電池容量の有効活用を可能にしました。 -
外付け部品点数の削減、部品定数の低減、および小型パッケージの採用で、セットの省スペース設計に貢献
DC-DCコンバータの主要な外付け構成部品として、コイルとコンデンサがあります。本LSIは、PWMスイッチングの高周波化により、コイルのインダクタ値を2.2μHから1μHに、コンデンサの容量値を22μFから4.7μFに定数低減し、外付け構成部品(受動部品)の小型化を実現しました。また、WLCSPパッケージを採用することで、製品の小型化を実現しました。
【内容の説明】
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出力負荷急変時に高速応答が可能な、PWMの所定オン時間・オフ時間制御技術
ヒステレティック制御方式は、出力電圧と基準電圧を直接コンパレータで比較することを特長とする方式のため、従来のエラーアンプ(積分回路)より応答遅延時間が短く、出力の負荷変動に対しても高速に応答できることが知られています。さらに従来、ヒステレティック制御方式の課題であったスイッチング周波数の変動に対しても、出力トランジスタの動作オン時間と、入力電圧と出力電圧の設定条件に応じて、動作オン時間を制御する方式を開発することにより周波数の変動を抑制します。これにより、搭載機器の電源を安定に供給し、CPUなどのプロセスの微細化に対応できます。 -
従来、出力電圧範囲が入力電圧の80%に対し、100%(入力電圧)まで制御を可能にした、オン時間延長回路技術
従来のDC-DCコンバータ技術では、入力電源電圧が低下した場合に出力トランジスタを常時オン動作させることが困難であったため、出力トランジスタの動作オン時間は約80%が限界でした。このため、入力電圧低下の場合に、出力電圧の設定範囲が狭まるという課題がありました。
本LSIは、入出力電圧差が狭まった場合(入力電圧が低下した場合)、オン時間を延長する機能と、出力トランジスタの動作オン時間を100%オン制御する技術により、出力電圧の動作範囲を拡大しました。この技術により、低電圧で使用範囲の広い電源を提供できます。 -
DC-DCコンバータで使用するコイル、およびコンデンサなどの外付け定数の低減を可能にした、高速スイッチング動作(3MHz)技術
本LSIは、ヒステレティック制御方式 DC-DCコンバータの主要構成回路ブロックである出力電圧と、基準電圧を比較するコンパレータと、出力トランジスタを制御するオン時間・オフ時間制御回路の高速動作化を実現することにより、スイッチング動作周波数の3MHz化を実現しました。これにより、外付け定数の低減を可能にしました。
【暫定仕様】
品番 | AN30180 | AN30181 | AN30182 |
---|---|---|---|
機能 | 高速応答ヒステレテック DC-DCコンバータLSIシリーズ | ||
動作電源電圧範囲 | 2.5V〜5.5V | 2.9V〜5.5V | 2.5V〜5.5V |
降圧DCDC | 1ch | 2ch | 2ch |
LDO | 0ch | 0ch | 6ch |
降圧DCDC 出力電圧 |
1.2V/1.35V 1.85V/3.3V |
1.2V/1.8V | 0.8V〜2.4V (16段階可変可能) |
降圧DCDC 出力電流 |
1200mA | 800mA | 600mA |
スイッチング周波数 | 3MHz | 1.5MHz | 3MHz |
保護機能 | 過電流、短絡、UVLO、過熱保護 | ||
パッケージ | ウェハーレベルCSP 9ピン |
HQFNタイプ 24ピン |
ウェハーレベルCSP 25ピン |
【用語の説明】
- [1] ヒステレティック制御方式
- 出力電圧が上限値にあたるとスイッチングトランジスタをターンオフし、下限値にあたるとターンオンする、出力電圧の変化に対して瞬間に近い応答が実現できるリップルレギュレータの制御技術を一般化したもので、ヒステリシス制御やヒステリティック制御とも呼ばれることが多いです。当社では原音に近い「ヒステレティック」を用いています。通常の帰還制御に用いられる誤差増幅器がコンパレータ動作するために位相補償の必要が無く、入出力条件の変動に対して理論上最も高速に応答して出力を制御できる方式です。
- [2] DC-DCコンバータ (the DC to DC Converter)
- DC(Direct Current=直流)の入力電圧から、必要とされる「直流」の出力電圧を生成する変換器のことです。
- [3] PWM (Pulse Width Modulation : パルス幅変調)
- パルスとは、ある一定時間のみ動作することを意味します。ここでは、その“ある一定時間”(パルス幅)で、DC-DCコンバータの出力制御トランジスタをオン・オフ動作させる出力タイミング(周波数)を一定とし、その周波数内でのオン・オフのパルス幅を可変する事で、出力電圧を安定させることができます。
- [4] 100%Duty (100%デューティー)
- ある周波数のオン・オフ動作のうち、オン時間が100%、つまりオフ時間がなく、常にオン時間状態を保ち続けている現象を言います。
- [5] 電圧モード制御
- 出力電圧をエラーアンプで基準電圧と比較し、その差に相当する電圧を三角波と比べてPWM信号のパルス幅を決定して、出力電圧を制御する方式です。
- [6] 電流モード制御
- 電圧モード制御での電圧帰還ループに加えて電流の帰還ループを併せ持ち、出力インダクタ電流も制御信号として帰還される方式です。
- [7] エラーアンプ(積分回路)
- DC-DCコンバータの出力電圧値と、基準電圧値の誤差を増幅する回路、DC-DCコンバータの主要回路ブロックです。
- [8] コンパレータ(回路)
- 二つの電圧の大きさを比較し、比較結果を信号として出力する回路です。「比較器」とも呼ばれています。
以上