【要旨】 | 松下電器産業(株)は、ナノサイズの細孔が多数存在した多孔性カーボン素材[1]をスピーカキャビネット内部に配置し、超小型/薄型スピーカでより原音に忠実に低音を再現する低音再生方式「ナノベースエキサイター」を開発しました。これにより、ホームAV用スピーカから携帯端末用スピーカまで、超小型/薄型でありながら豊かな低音再生を実現しました。 | ||||||
【効果】 | 「ナノベースエキサイター」では、細孔をナノサイズで最適化した多孔性カーボン素材を用いており、スピーカキャビネット内部の空気分子密度をコントロールすることができます。低音再生では振動板の大きな振動によって、スピーカキャビネット内部の空気圧が一時的に高まりますが、多孔性カーボン素材が、空気分子を吸着することにより圧力を下げることができ、大きなスピーカキャビネットを用いたときと同じ振動板の運動を実現します。その結果、形状に制限がある小型・薄型の機器でも、より原音に忠実な低音再生が可能です。 | ||||||
【特長】 | 今回開発した低音再生方式の特長は以下の通りです。
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【内容】 | 本開発は、以下の技術により実現しました。
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【従来例】 | 低音ではスピーカ振動板の動きが、キャビネット内部の空気圧によって制限されるため、原音に忠実な再生が困難でした。これに対し、これまでもカーボン素材をスピーカキャビネット内部に配置し、原音に忠実な低音再生を実現する技術が試みられましたが、高い周波数では空気分子を吸着しにくいため、携帯端末用の超小型スピーカでは十分な効果を得られず、ホームAV向けスピーカの一部の機種のみにしか採用されていませんでした。 | ||||||
【実用化】 | ホームAV機器や携帯端末機器などに展開を検討中 | ||||||
【特許】 | 国内:14件 海外:10件(出願中) |
【お問い合わせ先】
コーポレートR&D戦略室 戦略企画第二グループ 千葉 龍一 TEL:06-6900-9652
【特長の詳細説明】
1.スピーカの低音の音量を最大2倍(当社、従来比)に増加し、より原音に忠実な豊かな低音再生を実現
低音再生ではスピーカ振動板の大きな振動が必要になりますが、超小型/薄型スピーカは容積が小さく、振動が制限され、原音に忠実な低音再生が困難でした。開発した低音再生方式「ナノベースエキサイター」では、多孔性カーボン素材をスピーカキャビネット内部に設け、内部圧力の変化を低減することで、低音での大きな振動が可能となり、より原音に忠実な再生を実現しました。
2.より大きなキャビネット容積のスピーカと同じ音量の低音を再生
従来のスピーカで低音の音量を2倍にする場合、スピーカキャビネットの容積を大きくすることが必要です。「ナノベースエキサイター」では、キャビネットの容積が同じでも、より大きなキャビネット容積のスピーカと同じ音量(最大2倍)の低音が再生できますので、さらなる超小型/薄型スピーカが実現できます。
3.ホームAV用のみでなく、これまで効果が得られなかった携帯端末用の超小型スピーカでもホームAV用と同等の効果を実現
携帯端末の超小型スピーカは、ホームAV用スピーカに比べて再生可能な低音が高くなります(ホームAV用スピーカの低音は80Hz程度、携帯端末の低音は800Hz程度)。従来のカーボン素材は800Hz程度の周波数では効果が殆どなく、携帯端末用の超小型スピーカで豊かな低音再生は困難でした。本開発方式では、800Hz程度の周波数でも効果があるカーボンの素材や形態などを見出すことにより、業界で初めて携帯端末用の超小型スピーカでも豊かな低音再生を可能としました。
【内容の詳細説明】
(1)原音に忠実な低音再生に必要な材料の物理条件(素材、形態など)を決定する音響材料解析・設計技術
多孔性カーボン素材の材料、形状を変えて音響特性を解析した結果、素材の細孔の大きさ・数が低音域の音量増加に有効であることを見出しました。また、素材の形態を最適に加工することで、より高い音でも音量増加を可能としました。これらの結果を利用し、ホームAV、携帯端末それぞれの用途に応じて、最も低音再生効果があり、原音を忠実に再現する超小型/薄型スピーカ向け素材を設計しました。
(2)多孔性カーボン素材をスピーカに組み込み、その構造を最適化して低音の忠実再生を実現するスピーカシステム構築技術
多孔性カーボン素材の低音の増加効果を最大限に活かすため、本開発方式では、スピーカキャビネットに音の共鳴現象を利用したパッシブラジエータ方式[2]を用いました。この方式により、パッシブラジエータに多孔性カーボン素材によって増加された低音振動が伝達し、スピーカユニットとパッシブラジエータの両方から低音が再生され、低音域の音量増加を2倍にすることを可能としました。
【用語の説明】
[1] 多孔性カーボン素材
炭素材料で、直径が数nm〜数10nm(1nmは1mmの百万分の1の長さ)の細孔が多数存在する構造を有します。
[2] パッシブラジエータ方式
電気信号を入力するスピーカユニットに加え、スピーカのキャビネットに振動板(パッシブラジエータ)を取り付け、キャビネット内部の空間との共振を利用して振動板の振動を増幅させて低音の音量を増加させるスピーカ方式のことです。比較的小さなキャビネットでも低音の再生が可能であることから、AV機器やスピーカの小型化・薄型化に伴い、普及している方式です。