【要旨】
松下電器産業(株)は、携帯電話をはじめとするポータブル電子機器用の新型 MEMSマイクロホンを開発し、2007年5月末よりサンプル出荷を開始します。この新型マイクロホンは、MEMS[1] 技術を用いた音響トランスデューサー[2] (MEMSチップ)と CMOSアンプにより構成されており、薄型でありながら、鉛フリーはんだリフロー実装の対応が可能な高耐熱性との両立を実現しています。
【効果】
本製品を使用することにより、ポータブル電子機器などの薄型化に貢献するとともに、260℃程度の高温が必要な鉛フリーはんだによるプリント基板の表面自動実装が可能なため、 ポータブル電子機器製造工程での実装コストの削減および環境配慮型商品の実現に寄与します。
【特長】
本製品は以下の特長を有しております。
- 薄型で高さ1.05mmのMEMSマイクロホンを実現することにより、ポータブル電子機器の薄型化に貢献
- 安定した耐熱性により、鉛フリーはんだリフロー実装(260℃、3回)時でも、ほとんど感度変化なし
- 新開発のCMOSアンプにより、ポータブル電子機器の低消費電流化、耐ノイズ設計に寄与
【内容】
本製品は、以下の技術により実現しました。
- 高さ1.05mmを実現する一体型シールド構造及びその実装技術
- 新開発の高耐熱無機多層膜 エレクトレット[3] 形成技術
- 低消費電流、低ノイズ、低出力インピーダンスを実現するCMOSアンプ設計技術
【従来例】
従来の ECM[4] は有機材料のエレクトレットを使用しているため高温に弱く、鉛フリーはんだ高温リフロー実装への対応が課題でした。また、現在量産供給されているMEMSマイクロホンは、 無機材料の使用により高温対応を可能としてきましたが、260℃の高耐熱対応のものは薄型化が不十分、薄型のものは耐熱性が不十分などの課題がありました。したがって、安定した高耐熱性と薄型化の両立が、ポータブル電子機器の 小型薄型化への対応のために求められていました。
【実用化】
サンプル出荷 : 5月 サンプル価格 : (数量応談)
【特許】
国内・海外特許 37件 (出願中を含む)
【照会先】
半導体社 企画グループ 広報チーム 中小路 陽紀 TEL:075-951-8151 E-mail: semiconpress@ml.jp.panasonic.com
パナソニック半導体デバイスソリューションズ株式会社 企画グループ 大矢 理子 TEL:045-939-1831
【特長の説明】
- 薄型で高さ1.05mmのMEMSマイクロホンを実現することにより、ポータブル電子機器の薄型化に貢献
- 安定した耐熱性により、鉛フリーはんだリフロー実装(260度、3回)時でも、ほとんど感度変化なし
- 新開発のCMOSアンプにより、ポータブル電子機器の低消費電流化、耐ノイズ設計に寄与
高さ1.05mmの薄型を実現したことにより、ポータブル電子機器の薄型化に貢献します。また、音孔位置が基板面にある下音孔タイプのため、ポータブル電子機器の基板裏側に実装できます。 そのためポータブル電子機器の表側の厚みに影響を与えません。
コンデンサマイクロホンに 成極電圧[5] を与える方式として、永久電荷を与えるエレクトレット方式と、成極電圧を外部から加えるチャージポンプ方式の2方式があります。 これまでのMEMSマイクロホンの多くはチャージポンプ方式が採用されています。当社は、半導体シリコンプロセスを用いた本製品においても、ECM のサプライヤーとして30年以上、技術を培ってきたエレクトレット方式を採用し、 新開発の無機高耐熱エレクトレット材料を用いることにより、薄型で性能を保ちつつ安定した耐熱性を確保し、260℃の鉛フリーはんだリフローに3回耐えられる実装が可能となりました。
本MEMSマイクロホンに適した低消費電流、低ノイズ、低出力インピーダンスのCMOSアンプを社内で開発、ポータブル電子機器に適した特性を実現しました。 このことによりポータブル電子機器の低消費電流化、耐ノイズ設計に寄与します。本MEMSマイクロホンは、性能を左右する主要部品のMEMSチップとCMOSアンプを内製化、また、これらをマイクロホンに組み立てる パッケージング工程も一貫して社内で行うことにより、トータルでの管理が可能となり、高品質を実現しています。
【内容の説明】
- 高さ1.05mmを実現する一体型シールド構造及びその実装技術
- 新開発の高耐熱無機多層膜エレクトレット形成技術
- 低消費電流、低ノイズ、低出力インピーダンスを実現するCMOSアンプ設計技術
金属キャップでの一体型シールド構造を採用、MEMSチップ、CMOSアンプと共にプリント基板に表面実装することにより薄型の高さ1.05mmマイクロホンを実現しました。
有機のエレクトレット材料の課題を克服するため、無機エレクトレット材料の開発が各方面でされてきましたが、鉛フリーはんだリフロー実装工程で求められる、260℃以上の耐熱性を有することが課題でした。 今回、最大350℃の耐熱温度を有する無機エレクトレット材料を新たに開発し、この課題を克服しました。SiO2膜を絶縁膜にて完全に覆うことで、SiO2膜と絶縁膜の間にバリア層が形成され、そのバリア層への電荷の深いトラップが実現できる結果、 耐熱性を大幅に向上させることが可能となりました。
アナログ特性に特化した拡散プロセスを採用し、高トランスコンダクタンス[6] のトランジスタで最適設計をすることで低消費電流化、低ノイズ化、小入力容量化、低出力インピーダンス化を実現したCMOSアンプを開発しました。 このことによりポータブル電子機器に適した低消費電流・低ノイズ・小入力容量・低出力インピーダンスのMEMSマイクロホンを実現できました。 本MEMSマイクロホンは、これまでに培った半導体技術とマイクロホン技術の融合により、成り立っています。
【暫定仕様】
品番 | WM-A10BY |
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感度 | −42+/-3 dBV/Pa |
S/N 比 | 55 dB 以上 (A-weighted) |
周波数帯域 | 100 Hz 〜 10 kHz |
供給電圧 | DC 2.0V |
消費電流 | 250 μA 以下 |
出力インピーダンス | 100 Ω 以下 |
サイズ | 6.15 × 3.76 × 1.05mm |
音孔位置 | 下音孔(基板面) |
【用語の説明】
- [1] MEMS (Micro Electro Mechanical Systemsの略)
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半導体に用いるシリコンプロセス技術により製作される微小電気機械システムに関する技術の総称です。マイクロマシンとも呼ばれています。
- [2] 音響トランスデューサー
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トランスデューサーは、変換器と訳されます。本開発では、音(音圧)を電気信号に変える変換器を意味しています。
- [3] エレクトレット
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外部電界によらず半永久的に帯電(電荷保持)している物質。エレクトレットに従来は有機系の材料が用いられていました。
- [4] ECM (Electret Condenser Microphone:エレクトレット・コンデンサ・マイクロホン)
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コンデンサの一方の電極に電荷を蓄えるエレクトレットを配置し、音圧によって変動する静電容量の変化を電圧変化に変換するマイクロホンです。本開発のMEMSマイクロホンは、無機の材料を用いたECMです。
- [5] 成極電圧
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コンデンサマイクロホンの両電極に加える直流電圧のことです。
- [6] トランスコンダクタンス
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トランジスタにおいて、ドレイン電圧を一定に保ち、ゲート電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示す性能指標です。