【要旨】
松下電器産業株式会社は、業界で初めてGaN基板を採用した青色LED素子を開発いたしました。本素子を搭載した白色パワーLEDシリーズを本年 3月中旬より量産いたします。
【効果】
本製品では、熱伝導度が非常に高く、導電性の高いGaN基板上にLEDを作製することで大電流域での特性を大幅に改善し、業界トップレベルの高出力化を達成しました。 また、結晶性に優れているために高信頼性であり、基板と発光層の屈折率が同じであることからサファイア対比 1.5倍以上(当社比)の高い光取出し効率[1] を達成しました。 この様な青色LED素子に蛍光体層を均一形成することで、小型で色むらの少ない白色パワーLEDを実現しました。本製品の実現により今後拡大するLEDの照明応用やカメラ用フラッシュへの展開が加速されます。
【特長】
本製品は以下の特長を有しております。
- 大電流域での特性に優れたGaN基板採用で青色LEDとして業界最高水準の高出力
- ワイヤーボンドをなくしたことで高信頼性を実現
- 蛍光体層を均一に形成することで発光時の色むらを軽減
- 照明用 3W級で業界最小のケースタイプ : LNJ090W3GRA
- フラッシュ用途等に最適なリフレクタータイプ : LNJ0H0V8KRA
- 超小型光源として幅広い用途に対応する点光源タイプ : LNJ0Y0F9KRA
【内容】
今回開発した製品は以下の技術により実現しています。
- GaN基板への良好な結晶成長技術と、光取出しに優れた素子形成技術
- フリップチップ実装[4]と蛍光体立体形成による独自の白色LED製造技術
- 超小型白色パッケージ技術
【従来例】
現在主流であるサファイア基板上に作製したLEDでは、基板と発光層との屈折率差により、光の有効な取出しが困難でした。また、放熱性が悪く大電流域で出力が飽和し易い特性上 の問題がありました。 蛍光体の塗布形態に関しても、従来の方法では、白色の色むらが大きい、白色発光部の体積が大きくレンズによる光学設計が難しい等の課題がありました。
【実用化】
サンプル出荷 : 3月上旬 サンプル価格 : 500円/個
【特許】
国内・海外特許 160 件 (出願中を含む)
【照会先】
半導体社 企画グループ 広報チーム 中小路 陽紀 TEL:075-951-8151 E-mail: semiconpress@ml.jp.panasonic.com
【特長の説明】
- 大電流域での特性に優れたGaN基板採用で青色LEDとして業界最高水準の高出力
- 高信頼性・色むらの少ない白色パワーLED
- 大電流高出力から超小型まで多様なニーズに対応するパッケージラインアップ
今回開発したLEDでは、GaN基板と発光層が同じ窒化物半導体で屈折率が等しいので基板と発光層の界面での光の反射がなく、 基板側から容易に光を取り出すことができるので、高出力が得られます。さらにGaN基板は熱伝導度がサファイア比 5倍と高く、且つ 高導電性のため、大電流域での効率の低下を抑えられます。 今回開発した素子をフリップチップ実装して透明樹脂封止した青色LEDの積分球による測定では、順方向電流 350mAにおいて発光波長 460nm、全放射束 355mW、外部量子効率 38%が得られています。
白色LEDは青色LED素子に蛍光体を塗布して作製します。本開発のLED素子を独自実装技術により Auバンプを介してサブマウント上にフリップチップ実装し、 ワイヤー接続をなくすことで高信頼化を図り、さらにフリップチップ実装したLED素子に蛍光体層を均一の厚みで形成することで、色むらの低減とデザイン上課題であった蛍光体の黄色部を縮小しました。
用途に応じたパワーLED のシリーズ展開を図ります。車載・照明用 3W級で厚みが1.5mm以下の業界最小・最薄のケースタイプ、照明器具設計の自由度を高め高出力フラッシュ用途等にも 最適なリフレクタータイプ、実装エリアの縮小を可能にし、単位面積当たりの出力を高められる小型の点光源タイプをパワーLEDシリーズとしてラインアップしました。
【パッケージ毎の特性例】 照度測定条件:光源から測定装置までの距離 1m
品番 | LNJ090W3GRA | LNJ0H0V8KRA | LNJ0Y0F9KRA |
---|---|---|---|
全光束[5] @1A | 100 lm | 80 lm | 90 lm |
照度[6] @1A | 35 lx | 60 lx | 35 lx |
パッケージ(mm) | 7.7×4.2×1.5 | 4.0×4.0×1.4 | 2.04×1.64×0.7 |
【内容の説明】
- GaN基板への良好な結晶成長技術と、光取出しに優れた素子形成技術
- フリップチップ実装と蛍光体立体形成による独自の白色LED製造技術
- 超小型白色パッケージ技術
GaN基板には c面[7] を主面とするGaN基板を用い、この基板の上に MOCVD法[8] により n型層[9] 、活性層[10]、p型層[11] からなる 多層構造の発光層をエピタキシャル成長[12] させています。GaN基板の低欠陥密度[13] を反映して、発光層内における欠陥密度も従来のサファイア基板上に成長した発光層に比較して1/100以下に低減されています。 素子構造は、p側 および n側 電極が発光層形成面側に形成された片面電極構造であり、p型層表面に高反射率の p側電極をエッチング[14] で露出させた n型層表面に n側電極を、それぞれ形成しています。 光取出し側となるGaN基板裏面には全反射防止のための凹凸を形成しています。
独自の実装技術、および 実装機の開発により、劈開性[15] を有するGaN基板素子のフリップチップ 実装を高歩留りで実現しました。また、蛍光体を立体的に形成する技術、 および 色度コントロール技術の開発により、色度のねらい目を自由に設定することができ、色むらを軽減できます。
フリップチップ実装技術と蛍光体立体形成技術の組み合わせで、青色素子と蛍光体からなる白色発光部の小型化を可能とし、チップサイズの白色素子を実現しました。 このチップサイズ白色素子をパワーLEDにも採用し、2.04×1.64×0.7mm の小型パッケージを実現しています。パッケージ構成部品の改良により、更なる小型化も可能です。
【用語の説明】
- [1] 光取出し効率
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発光ダイオード(チップ)の中で発生した光のうち、発光ダイオード(チップ)の外に取出される光の割合のことです。
- [2] 全放射束
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発光ダイオードから放射される光の放射エネルギーの総和のことです。
- [3] 外部量子効率
-
電流として発光ダイオードに注入されたキャリア(電子および正孔)の粒子数のうち、光として発光ダイオードの外に取出されるフォトン(光子)の粒子数の割合のことです。
- [4] フリップチップ実装
-
LSIや半導体の入力端子に微小径の金ボール(バンプ)を設け、プリント基板側の入力端子に一括して結合する実装方式のことです。
- [5] 光束
-
光源から放射される光の量で、単位は、lm (ルーメン)です。
- [6] 照度
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平面状の物体に照射された光の明るさを表す心理的な物理量であり、単位面積あたりに照射された光束と等しく、単位は、lx (ルクス)です。
- [7] c面
-
結晶構造が六方晶であるGaNにおいて面方位が (0001) で表される面のことです。
- [8] MOCVD法
-
MOCVD法(有機金属気相成長法)は、原料である有機金属化合物を水素等のキャリアガス中に気化させて反応管に供給し、 基板の上に化合物半導体薄膜等を成長させる方法のことです。
- [9] n型層
-
結晶に特定の不純物を添加することで負電荷を持つ電子を過剰にして、導電性を持たせた層のことです。GaN系においては不純物としてSi を添加することで n型層を得ることができます。
- [10] 活性層
-
n型層から注入した電子と p型層から注入した正孔を再結合させて、特定のエネルギー(波長)を持つ光を発生させる層のことです。GaN系においては InGaNを活性層に用い、In組成と層厚を調整することで 所望の波長を得ることができます。
- [11] p型層
-
結晶に特定の不純物を添加することで正電荷を持つ正孔を過剰にして、導電性を持たせた層のことです。GaN系においては不純物としてMg を添加することで p型層を得ることができます。
- [12] エピタキシャル成長
-
単結晶基板の結晶格子に揃えて元素を配列して、薄膜結晶を成長する方法のことです。
- [13] 欠陥密度
-
単結晶基板やこの上に形成される薄膜結晶の格子の乱れ(欠陥)の密度のことです。欠陥は、非発光点となり素子の発光効率低下の要因となります。GaN系においては貫通転位(線欠陥)が主要な欠陥です。
- [14] エッチング
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化学薬品などの腐食作用を応用して半導体や金属等の表面の不要部分を加工除去する技法のことです。
- [15] 劈(へき)開性
-
結晶が原子間の結合が弱い面に沿って割れる性質のことです。GaNは劈開性を持ちますが、サファイアは劈開性を持ちません。