プレスリリース

2015年9月30日

スイッチング損失を低減、機器の省エネルギー化・小型化に貢献

大電流動作と低立上り電圧を実現するGaNダイオードを開発

【要旨】

パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、従来の4倍※1となる大電流動作ができ、低立上り電圧[1]のため低電圧での動作にも対応するGaN[2]ダイオード[3]を開発しました。これは新たに低電圧で電気を流す部分と、高電圧に伴い大電流化された場合に電気が通る部分をそれぞれ別に備えたハイブリッド構造にすることで実現しました。

【効果】

大電流動作と低立上り電圧を実現したため、小さいチップ面積で大電流を取り扱えます。そのため、チップの容量を小さくし、スイッチング損失[4]を低減できるので、より高周波での動作が可能となります。この結果、大電力を扱う機器の省エネルギー化・小型化を加速することができます。

【特長】

本開発品は以下の特長を有しています。

  1. 大電流動作 7.6kA/cm²(約4倍※1)、低立ち上がり電圧 0.8V
  2. オン抵抗[5] (RonA) 1.3 mΩcm²(約50%減※1

【内容】

本開発品は以下の技術によって実現しました。

(1) トレンチ構造[6]を有するハイブリッド型GaNダイオード加工技術
溝部が形成されたP型層を有するハイブリッド型GaNダイオードを提案し、N型層上のP型層を選択的に除去する加工技術の開発を行い、大電流動作、低立上り電圧に加え、耐圧[7]として1.6kVを実現しました。

(2)低抵抗GaN基板上へのダイオード形成技術
本開発においては、LED・半導体レーザで実用化され、将来的にパワーデバイス[8]での採用が期待される低抵抗な導電性GaN基板を用いており、GaN基板上の結晶成長[9]および加工技術を確立し、ダイオードを形成しました。電流を縦方向に流す構造とすることで、より小さなチップ面積と低抵抗が可能となりました。

【従来例】

従来のシリコン(Si)ではスイッチング損失の低減に限界がありました。また、GaNに加え次世代パワー半導体として期待される炭化ケイ素(SiC)[10]を用いたダイオードでは、大電流動作を実現するためにチップ面積を増大する必要があり、スイッチング損失の低減、動作周波数の増加による小型化に限界がありました。

【用途例】

大電力を必要とする車載・産業機器の電圧変換回路やインバータ[11]回路に使用することで変換効率の向上が実現でき、省エネルギー化・小型化に大きく貢献します。

【備考】

本開発は環境省からの委託業務「未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業」の一環として実施したものです。なお、本開発成果は、2015年9月27日~30日に日本で開催のSSDM(国際固体素子・材料コンファレンス)2015で発表しました。

  1. ※1 定格1200Vに対応したSiCダイオードとの比較

【特長の説明】

1. 大電流動作 7.6kA/cm² (従来比約4倍)、低立上り電圧 0.8V
開発したダイオードは、PN接合ダイオード部分において電圧を高くするとともに電流が大きく増大することを利用することで、同じ耐圧のSiCショットキーダイオードの約4倍となる7.6kA/cm²という高電流密度を実現しました。そのため、同じ電流動作を実現するために必要なチップ面積を、従来と比較して1/4にすることができるとともに、高周波動作の制約となっているチップの容量もおよそ1/4に低減することができます。この結果、機器をより高周波で動作させることが可能となり、高周波化によりコイルやコンデンサなどの受動素子を小さくできるので、機器の小型化が可能となります。また本開発のダイオードを適用することで、PFC(力率改善回路)においては、低い電圧で大電流を流すことができるため、損失を低減することが可能になります。

2. 低オン抵抗 (RonA) 1.3 mΩcm² (従来比約50%減)
開発したダイオードは、PN接合ダイオードとショットキーダイオードの配置や層構造を適切に設計するとともに、低抵抗な導電性GaN基板上に形成し、基板全体に縦方向の電流を流す構造を採用することでオン抵抗の低減を図りました。これにより従来のSiCショットキーダイオードと比較してオン抵抗を約50%低減することに成功しました。ダイオードを流れる電流による通電損失を低減することができるため、機器の省エネルギー化が可能となります。

【内容の説明】

(1) トレンチ構造を有するハイブリッド型GaNダイオード
金属をN型半導体上に形成するショットキーダイオードは、立上り電圧は低くできますが、電圧増加に伴う電流が飽和する傾向にあり、大電流化が困難です。一方、P型半導体をN型半導体上に形成したPN接合ダイオードでは、立上り電圧は高いものの、比較的高い電圧まで電圧増加に伴い電流を増加することができるため、大電流動作が可能という特長があります。今回、ショットキーダイオードの低立上り電圧と、PN接合ダイオードの大電流動作の両方の特徴を活かすため、ショットキーダイオードとPN接合ダイオードの部分が混在する、新たなハイブリッド型GaNダイオードを提案しました。この構造は、N型GaN層上のP型GaN層を選択的に除去したトレンチ構造とすることにより実現しました。

(2) 低抵抗GaN基板上へのダイオード形成
従来のGaNダイオードは、サファイアやSiといった異種基板上に形成していたため、絶縁下地層を介してデバイスを形成する必要がありました。そのため、GaNダイオードを形成する場合は、横方向に電流を流す構造とする必要があります。この場合、電流経路が長くなることでデバイスの直列抵抗が大きくなる傾向があり、特に大電流を流す用途のデバイスにおいて、電流密度増大とオン抵抗低減を両立させることに限界がありました。本開発では、低抵抗な導電性GaN基板上にダイオードを形成するとともに、基板全体に縦方向に電流を流す構成とすることで電流密度を大幅に増大できました。

【用語の説明】

[1]立上り電圧
ダイオードの2端子間に電圧を印加した際、特定の電圧を越えるとダイオードに電流が流れ始めます。電流が流れ始める電圧を立上り電圧といいます。
[2]GaN
周期表の3族に属するガリウム(Ga)と窒素(N)の化合物で、電気的にはバンドギャップ(半導体中で電子の存在し得ないエネルギー範囲)の大きい半導体です。一般にこのバンドギャップが大きな材料ほど電気的な耐圧は高いといわれています。
[3]ダイオード
ダイオードとは2つの端子を持つ半導体デバイスのことで、電流を一方向にしか流さない作用(整流作用)を有しています。半導体と金属の接合を用いたものをショットキー接合ダイオード、P型半導体とN型半導体の接合を用いたものをPN接合ダイオードといいます。
[4]スイッチング損失
パワーデバイスをオン状態(導通状態)と、オフ状態(遮断状態)を切り替えるときに発生する損失をスイッチング損失といいます。スイッチング損失が小さいデバイスは、より高周波での動作が可能になります。
[5]オン抵抗
パワーデバイスをオン状態にした場合の抵抗のことで、パワーデバイスの損失特性を決定付ける重要な特性の一つで、オン抵抗が低いほど損失が小さくなります。
[6]トレンチ構造
トレンチは溝を意味します。N型GaN層上に形成されたP型GaN層を選択的に除去することでダイオードの表面にトレンチ部を形成しています。
[7]耐圧
材料に電圧を印加した場合に、素子が破壊される最大電圧のことです。GaN系材料はバンドギャップが大きいことからSi材料と比較して、耐圧が高いという特長があります。
[8]パワーデバイス
オン状態(導通状態)とオフ状態(遮断状態)を利用して大電力を制御するためのトランジスタやダイオードのことで、オン状態では大電流が流れるため、低いオン抵抗が必要となります。一方、オフ状態では、高電圧が印加されるため高い耐圧が必要となります。
[9]結晶成長
半導体材料は、高温に加熱された基板上に原料ガスが流れることにより、基板の結晶構造を引き継ぎながら成長します。この結晶成長の工程は、作製した素子の電気特性を大きく左右するため、極めて重要です。
[10]SiC
周期表の4族に属するシリコン(Si)と炭素(C)の化合物で、窒化ガリウムと同じく電気的にはバンドギャップ(半導体中で電子の存在し得ないエネルギー範囲)の大きな半導体に属します。GaNともに次世代パワー半導体材料として期待されています。
[11]インバータ
直流の電圧や電流を交流に変換する電気回路で、モータ出力の可変用途などに用いられており機器の省エネルギー化を実現するコア技術の一つです。トランジスタをスイッチングすることでモータを駆動させることができます。インバータへの入力電力に対する損失電力(入力電力と出力電力の差)の割合が変換損失であり、これが低いほど高効率動作になります。

以上