プレスリリース

2014年2月10日

新しい制御方式で電力変換システムを半導体チップに集積

世界初* マイクロ波で制御する超小型電力変換システムを開発

*2014年2月10日、当社調べ


試作モジュールの外観写真

【要旨】

パナソニック株式会社は、マイクロ波を用いてパワーデバイス [1] を制御する電力変換システムを世界で初めて開発し、半導体チップに集積化することに成功しました。入力する交流電力を振幅や周波数が異なる交流電力に変換して出力するマトリクスコンバータ [2] 部と、マイクロ波で制御する駆動回路部から成る、2つの半導体チップで本システムを実現しました。この結果、従来の電力変換システムに比べ大きさを1/100以下とし、電力損失も低減しました。

【効果】

モータで駆動する機器は、省エネのためにインバータ [3] を用いた電力変換システムが広く利用されています。しかし、この電力変換システムは大きな部品で構成されるため、その設置場所が限られていました。今回、窒化ガリウム(GaN)を用いた新しい回路構成により、電力変換システムそのものを大幅に小型化し、モータとの一体化も可能となります。また、システムの寿命を制限する電解コンデンサなどの部品も不要となるためメンテナンスフリーを実現できます。

【特長】

本開発は、以下の特長を有しています。

  1. 高電圧で動作する双方向型GaNパワーデバイス [4] と、マイクロ波による非接触電力伝送 [5] を用いた絶縁ゲート駆動回路 [6] を、それぞれ半導体チップに集積化し、従来の電力変換システムに比べ1/100と超小型な電力変換システムを実現。
  2. インバータを用いたシステムに比べて、電力損失を低減できると共に、電解コンデンサが不要となるため長寿命な動作が可能(動作10年以上)。

【内容】

本開発は、以下の技術により実現しています。

  1. (1) 双方向型GaNパワーデバイスを用いたマトリクスコンバータ技術
  2. (2) マイクロ波の非接触電力伝送で双方向型GaNパワーデバイスをON-OFFするマイクロ波駆動(Drive-by-microwave®)技術
    なお、Drive-by-microwave®は当社の登録商標です。
  3. (3) GaNパワーデバイスとマイクロ波駆動回路の集積化技術

【従来例】

従来の電力変換システムであるインバータを用いたシステムは、“交流から直流”、“直流から交流”への変換回路などで構成されているため、10%近い大きな電力損失がありました。また、パワーデバイスの絶縁ゲート駆動には、絶縁電源 [7]フォトカプラ [8] という外付け部品を使用していたため半導体チップへの集積化が不可能でした。

【特許】

国内 144件、外国119件(出願中含む)

【備考】

本開発の一部は、2014年2月9日から米国サンフランシスコで開催されている2014 IEEE international Solid-State Circuits Conference(ISSCC2014)にて発表いたします。


【内容の詳細説明】

  1. 1) 双方向型GaNパワーデバイスを用いたマトリクスコンバータ技術
    効率良く、交流モータの回転速度やトルクを変えるには、交流電源の周波数や振幅を任意に変換(電力変換)する必要があります。従来は、交流を直流に変換し、さらに直流から交流に変換するインバータシステムを用いて、本システムを実現していました。しかし、多段の変換による大きな電力損失、大型の電解コンデンサによるシステム寿命の制限、DCリアクトルや力率改善回路によるシステムの大型化が課題でした。
    今回、交流から所望の交流に、直接電力変換できるマトリックスコンバータとすることで、半導体デバイスのみの構成とし、電力損失の低減と共にシステムの簡易化を実現しました。
    今回用いた双方向型GaNパワーデバイスは、デバイス自体の損失も少ないため、システムの電力損失を低減できます。
  2. 2) マイクロ波の非接触電力伝送で双方向型GaNパワーデバイスをON-OFFするマイクロ波駆動(Drive-by-microwave®)技術
    非接触で電力を伝送する電磁界共鳴結合器は、共鳴周波数を高くするほど小さくすることができます。本技術では、マイクロ波(5GHz)を用いることで、電磁界共鳴結合器のサイズを2mm角と小さくしました。この電磁界共鳴結合方式は、送信側共鳴器と受信側共鳴器よりなり、両共鳴器間の間隔を広くしても、低損失で非接触電力伝送ができるため、大きな絶縁耐圧が実現できます。マイクロ波駆動技術は、制御信号と制御電力をマイクロ波で絶縁して伝送することでパワーデバイスを絶縁駆動するという、マイクロ波エレクトロニクスとパワーエレクトロニクスが融合した独自の駆動方法です。
    さらに、今回、1つの送信側共鳴器を挟むように、2つの受信側共鳴器を上下に設けることで、1つの信号を2系統の信号に分割して非接触電力伝送できる構造としました。これにより、パワーデバイスのゲート制御配線を半分に削減することができ、システムの大幅な簡易化、実装面積の大幅な縮小ができました。また、必要であった18個のゲート駆動回路(各絶縁電源)を、GaNを用いた高周波デバイスで構成される1つのチップとして実現したことで、制御信号電力を共有でき、駆動回路の電力を1/3程度に小さくできました。
  3. 3) GaNパワーデバイスとマイクロ波駆動回路の集積化技術
    これまでのシリコン系半導体のパワーデバイスは、半導体基板の表面から裏面に電流が流れる縦型構造のため、半導体基板の表面と裏面の間を分離できず、複数のパワーデバイスを絶縁分離することができませんでした。一方、GaNパワーデバイスは、半導体基板の表面側のみを平面的に電流が流れる横型構造のため、パワーデバイスを横方向に絶縁分離でき、半導体基板表面側のみで配線することで集積化が可能となります。また、制御用ゲート端子を2本形成することで、従来4つのデバイスで構成されていた双方向スイッチを1つのデバイスで構成できます。これにより、3相マトリクスコンバータに必要な36個の半導体デバイスを、1つの半導体チップに集積化することができ、大幅な小型化を実現しました。さらに、こうしたGaNパワーデバイスを駆動するマイクロ波駆動回路の一部をGaNパワーデバイスと集積化しています。

【内容の詳細説明】

[1] パワーデバイス
高電圧・高電流の制御(ON、OFF)を行う半導体デバイスです。600V程度の高い電圧に耐えると共に、10A以上の大きな電流を制御することができます。最近では、GaNやSiCといった、損失が少なく高性能のパワーデバイスが登場し、家電や産業機器などの省エネルギー化が注目されています。
[2] マトリクスコンバータ
9個の双方向スイッチを3×3のマトリクス状に配置し、三相交流電源の3端子と三相モータのコイルの3端子との全ての組み合わせの接続を切り替えるものです。交流電源とモータコイルの接続経路上には2個のスイッチしか存在しないため、従来のインバータ方式と比較して、スイッチ素子で発生する損失を低減できます。また、電解コンデンサなどの受動部品を含むインバータに対して、半導体だけでモータ駆動回路を実現できます。
[3] インバータ
直流電力から交流電力を電気的に生成する電力変換装置です。スイッチとダイオードで構成される12個のパワーデバイスで実現できます。
[4] 双方向型窒化ガリウム(GaN)パワーデバイス
GaNパワーデバイスを用いた双方向の電流をON-OFFできるデバイスです。双方向型パワーデバイスは順方向電流と逆方向電流を流すことが可能で、GaNを用いることで1つの素子として集積化できます。
[5] 非接触電力伝送
金属接点やコネクタなどを介さずに電力を空間伝送するもの。伝送方式としては電磁誘導を用いたものや電磁界共鳴を用いたものなどがあります。
[6] 絶縁ゲート駆動回路
パワースイッチングデバイスをON-OFFするための絶縁ゲート信号を生成するゲート駆動回路の入力と出力のグランドが電気的に分離できる回路。5V駆動の低電圧の制御回路を240V程度の高電圧から守るために用います。
[7] 絶縁電源
電源には、絶縁電源と非絶縁電源があります。絶縁電源は、一次側(入力)と二次側(出力)が絶縁されている電源です。絶縁電源は、内部にトランスなどの構造体を有するために、非絶縁電源に比べて大きくなると共に、高価になります。電圧が異なる場合には個別に必要となるため、例えばインバータの場合には、3つの絶縁電源と1つの非絶縁電源が必要となります。
[8] フォトカプラ
入力側から入った信号を、出力側から出すときに、電気的に絶縁を取ることができるデバイスです。絶縁を取るために、内部では電気信号をいったん光に変え、その光信号を再度電気信号に戻すことを行っています。


 開発した技術を用いた電力変換システムの試作モジュール(大きさ18mm×25mm)
[Drive-by-microwave®技術を用いた3×3GaNマトリクスコンバータ]