プレスリリース

2012年9月18日

パナソニック エコシステムズ株式会社

ヒートパイプ方式の2.3倍に相当する発熱密度390 W/cm²の冷却性能を実現

高発熱密度対応JEST型ループヒートパイプ冷却システムを開発

自然循環型のため、省エネに貢献

【要旨】

パナソニック エコシステムズ株式会社は、冷媒の急激な体積膨張により生じる高速ジェット流[1]を利用して冷却性能を大幅に高める独自技術(Jet Explosion Stream Technology:以下JEST[2])を搭載したループヒートパイプ冷却システム(以下、JEST型LHP方式)を開発しました。本冷却システムは、ヒートパイプ [3]を搭載した既存の冷却システム(以下、ヒートパイプ方式)の2.3倍に相当する発熱密度[4]390W/cm²(当社実験結果[5])に対応する冷却性能を実現しています。本冷却システムは、電力変換装置に用いられるパワー半導体やスーパーコンピュータの演算処理装置など、発熱密度の増加が予測される分野の冷却システムへの展開が可能です。

【効果】

本開発では冷媒の体積膨張による高速ジェット流生成技術により、390W/cm²の発熱密度まで冷却可能な高性能を達成しました。これはヒートパイプ方式で対応可能な発熱密度の2.3倍に相当し、より小型で熱処理能力の高い冷却システムを実現できます。また、冷媒循環用の駆動部が不要なため搭載機器の省エネルギーにも貢献します。

【特長】

本開発の冷却システムは以下の特長を有しています。

  1. ヒートパイプ方式の2.3倍の高発熱密度に対応可能なため、受熱部の小型化が可能
  2. ポンプなどの冷媒循環用の駆動部を用いずに長距離の熱輸送を実現し省エネ[8]に貢献

【内容】

本開発のJEST型LHP方式は以下の技術によって実現しました。

  1. 冷媒の急激な体積膨張を利用した高速ジェット流生成技術
    発熱体から熱を受ける受熱面の形状と冷媒供給部を最適化し、冷媒の体積膨張により発生する高速ジェット流を利用して受熱面から効率よく熱を奪う技術を確立しました。
  2. 受熱部に冷媒を自動供給できる冷媒供給技術
    冷却システムの管路抵抗と冷媒封入量から決定される逆止弁前後の圧力差と水頭圧[6]を発熱量に応じて最適化することで、受熱部に冷媒を自動供給する技術を確立しました。

【従来例】

小型の電子機器などの冷却にはヒートパイプが採用されてきましたが、1本あたりの熱輸送量に限界があり、発熱量増加に対応するには搭載機器の大型化が避けられませんでした。また、ポンプで冷媒を強制的に循環させる方式の冷却システムは、発熱部に循環させる冷媒の循環量を増やすことで発熱量の増加に対応できますが、ポンプの消費電力も増大することが課題でした。今後、ますます電子機器の高発熱化が予測されており、機器を大型化せずに発熱量の増加に対応可能な省エネ型の冷却システムの要望が高まっていました。

【備考】

本開発成果は2012年9月19日〜21日 東京ビッグサイトで開催されるN+(エヌプラス)展示会に出展予定

【特許】

国内 32件(内、登録1件)、外国 4件 出願中


【特長の詳細説明】

1. ヒートパイプ方式の2.3倍の高発熱密度に対応可能なため、受熱部の小型化が可能


図1.JEST型LHP方式の構成図


図2.発熱密度と発熱体表面の温度上昇の関係

図1にJEST型LHP方式の基本構成を示します。内部を真空にした環状の配管内に冷媒を封入し、上方に放熱部、下方に受熱部を配置しています。また、管路の一部に搭載した逆止弁は、冷媒の流れを放熱部から受熱部の一方向に規制しています。JEST型LHP方式の動作は以下(1)〜(3)の繰り返しになります。
(1)冷媒が発熱体からの熱により気化
(2)気化した冷媒は放熱部にて液化凝縮
(3)液化した冷媒は逆止弁上部に溜まり、逆止弁前後の圧力差と水頭圧の関係に応じて受熱部内に供給

図2は、JEST型LHP方式とヒートパイプ方式に関して、発熱密度と発熱体表面の温度上昇ΔTの関係を比較した当社実験結果です。例えば、外気温度50℃で半導体素子の動作保証温度150℃(温度上昇ΔT=100℃)と想定して、2つの冷却システムの対応可能な発熱密度を比較すると、ヒートパイプ方式は170W/cm²、JEST型LHP方式は、390W/cm²となります。したがって、受熱面積が同じならば、相対的な性能比率としてはヒートパイプ方式に対し、JEST型LHP方式は2.3倍に相当する冷却性能が得られることになります。
ただし、ヒートパイプ方式では130W/cm²近傍から急激な温度上昇があり、明らかなドライアウト[7]状態であることが想定されるため、実質的に対応可能な発熱密度は130W/cm²以下になりますが、JEST型LHP方式にはドライアウトの兆候が全く現れていません。
このようにJEST型LHP方式は、既存の冷却システムより高い発熱密度に対応でき、電子機器の発熱量の増加にも機器を大型化することなく対応することが可能です。
また、ヒートパイプ方式は、1本当りの熱輸送量に限界があるため、発熱量の増加はヒートパイプの本数を増やして対応する必要があり、受熱部の大型化が避けられませんでした。これに対して、JEST型LHP方式は、対応可能な発熱密度が既存の冷却方式に比べて大きいため、他方式よりも小型の受熱部で同等の冷却を行うことができます。

2. ポンプなどの冷媒循環用の駆動部を用いずに長距離の熱輸送を実現し省エネ[8]に貢献

ポンプなどで冷媒を強制的に循環させる冷却システム(以下、強制循環方式)は、冷媒をポンプで循環する必要があるため、発熱量が増えれば、冷媒の循環量も増やす必要がありポンプ動力が増加します。また受熱部と放熱部の距離が離れた場合も熱輸送距離が伸びるため、ポンプ動力が増加します。
JEST型LHP方式は、重力を利用して冷媒を循環させる自然循環型の冷却システムのため、冷媒循環にポンプなどの外部動力を必要としません。高速ジェット流により熱輸送距離として3m(当社実験結果[9])まで対応可能なため、強制循環方式に対して省エネルギーで長距離の熱輸送を実現できます。

【内容の詳細説明】

1. 冷媒の急激な体積膨張を利用した高速ジェット流生成技術

発熱体から熱を受ける受熱面の形状と冷媒供給部を最適化し、冷媒の体積膨張により発生する高速ジェット流を利用して受熱面から効率よく熱を奪う技術を確立しました。
図3にJEST型LHP方式の詳細構造を示します。受熱面は、広い気化面積を確保するため放射状のスリット構造を採用しています。給液管から受熱面の中心部に供給された液化冷媒は、その一部が受熱面から熱を奪って気化します。気化して体積が急激に膨張した冷媒は、給液管と受熱面の間の僅かな隙間を通過する際に高速ジェット流となって周囲に拡散します。この高速ジェット流が残りの未沸騰冷媒を巻き込む形で受熱面のスリット構造表面に沿って高速で流れることにより、冷媒の気化が促進されて発熱体から効率よく熱を奪うことが可能になります。

図3.JEST型LHP方式の詳細構造図

2. 受熱部に冷媒を自動供給できる冷媒供給技術

冷却システムの管路抵抗と冷媒封入量から決定される逆止弁前後の圧力差と水頭圧を発熱量に応じて最適化することで、受熱部に冷媒を自動供給する技術を確立しました。
図4はJEST型LHP方式の受熱部への冷媒供給プロセスを示しています。逆止弁前後の圧力差(図中、ΔP)が弁を閉じる方向に作用し、逆止弁上部に滞留した液化冷媒の水頭圧(図中、Ph)が弁を開く方向に作用しています。
以下の(a)〜(c)のプロセスの繰り返しにより受熱部へ冷媒供給が行われます。
(a)冷媒供給(ΔP<Ph):水頭圧Phにより逆止弁が開き冷媒が受熱部内へ供給されます。
(b)初期沸騰(ΔP>Ph):冷媒の一部が気化して受熱部内圧力が上昇し逆止弁が閉鎖します。このとき高速ジェット流が発生します。
(c)冷媒滞留(ΔP≧Ph):閉鎖状態の逆止弁上部の液化冷媒滞留量の増加に伴い水頭圧Phが上昇します。同時に受熱部内で気化した冷媒の放熱部への移動に伴い受熱部内圧力が低下するため、逆止弁前後の圧力差ΔPが小さくなり水頭圧Phとの差が縮まります。
この状態が進行して圧力差ΔPと水頭圧Phが逆転した時点で(a)の状態に戻り、再び冷媒供給が行われます。このように、発熱量に応じて生じる逆止弁前後の圧力差ΔPと、滞留液化冷媒の水頭圧Phのバランスにより逆止弁が動作するため、冷却システムの管路抵抗と冷媒封入量を最適化することで、受熱部に自動的に冷媒を供給することができます。

図4.JEST型LHP方式の受熱部への冷媒供給プロセス図

【用語および注釈の説明】

[1] 高速ジェット流
[5]の試験条件にて、JEST型LHP方式の発熱密度390 W/cm²時に発生する高速ジェット流の平均流速68.8m/sを確認。
[2] JEST:Jet Explosion Stream Technologyの略
冷媒の急激な体積膨張により発生する高速ジェット流を利用して受熱面での冷媒の気化を促進し発熱体から効率よく熱を奪う技術で当社独自の名称。
[3] ヒートパイプ(Heat Pipe)
ヒートパイプは密閉容器内部に冷媒を封入して、冷媒の蒸発・凝縮により熱移動を行う冷却デバイス。
[4] 発熱密度
単位面積あたりの発熱量(W/cm²)。
[5] 当社実験結果
ヒートパイプ方式とJEST型LHP方式は、約8畳の実験室の中央に同等サイズの実験装置を配置し、外気温度(Ta)25℃、サイズ12mm×12mmの発熱体を受熱部に接触させた場合の単位面積あたりの冷却性能(発熱密度)を比較。温度上昇ΔT=100℃の時の発熱密度は、ヒートパイプ方式で170W/cm²、JEST型LHP方式で390W/cm²。
ここで、発熱密度は、次式より算出。
発熱密度(W/cm²)=熱通過量(W)/発熱体が受熱部と接触している面積(cm²)
また、熱通過量は下図を参照し次式より算出。
熱通過量(W)=発熱体の温度勾配((T2-T1)/L)(K/m)×材料の熱伝導率(W/mK)×発熱体の断面積(cm²)
発熱体表面の温度上昇ΔTは、次式より算出
ΔT=発熱体の表面温度Ts−外気温度Ta
[6] 水頭圧
ある高さの静水が底面におよぼす圧力。
[7] ドライアウト
発熱量が増加し、受熱部内の冷媒気化量が冷媒供給量を上まわると、除々に受熱部内の絶対冷媒量が減少し、最後は空焚き状態となって温度が急上昇する状態。
[8] 省エネ
800Wの発熱量を3m熱輸送(配管は外径9.5mm・内径7.5mm)する場合に、強制循環方式は放熱部の冷却ファン電力5W(風量4m³/minで120mm角のDCファンを使用した場合)と冷媒循環用のポンプ動力が36W(流量3.7リットル/minでウォーターポンプを使用した場合)が必要ですが、JEST型LHP方式は放熱部の冷却ファン電力5Wだけで、冷媒循環用のポンプ動力が不要なため、88%省エネ。
[9] 当社実験結果
外気温度25℃、サイズ20mm×20mmの発熱体を受熱部に接触させ、JEST型LHP方式の発熱量を800 Wとし、受熱部に対して放熱部を水平方向に2.6m、垂直方向に1.5m離して配置(配管は外径9.5mm・内径7.5mm)し、対角線距離で3mの熱輸送距離を確認。